191 女子高生も旧都へ行く(1)
央都の街をうろうろしてたら、翼の生えた子が外壁の上で布団が干されたみたいな状態で伸びてる。新しい遊び? 階段を上って近くに行ってみる。まるで気づいてないみたいで動かない。寝てる?
半分身を投げた状態だけど気持ちいいのかな。なんとなく真似してみる。
だらーんって外に腕を放り投げて伸びてみる。外壁がごつごつしてるからお腹周りが結構きつい。でも日当たりがいいからその点はいいかもしれない。
「フーカちゃん、この態勢疲れない?」
「ほわっ!? ノーちゃん!?」
さすがに声をかけたら驚かれたよ。フーカちゃんが起き上がってこっちを見てくれた。
ずっとこうしてたみたいで服の汚れを払ってる。
「飛び疲れ?」
翼があるからずっと飛んでたら疲れるからああやって羽を休めてたのかも。
「違うー。私は今退屈で死にそうなんだよー」
「そうなの?」
空都を出て自由を手にしてどこにでも飛べるようになったから退屈とは無縁になったと思ったけど。
「ノーちゃんの言いたい気持ち分かるよ。私も色んな所に行って人生を謳歌するつもりだったんだよ。輝かしい第二の人生の幕開けって! でもどこに行くにしてもお金お金お金!」
あーそっち系かー。まぁ旅行って何かと出費があるもんね。
「それでお金を稼ぎながら生きようと思ったら必然的に活動範囲が狭くなるというか」
仕事してたらその土地を離れるのは難しいもんね。休みの時に日帰りで旅行するくらい?
「はぁ。私はもっと楽しい毎日がずっと続くと思ったんだけどなぁ」
まるで高校デビューに失敗したみたいな言い方だよ。
「そんなに退屈なの?」
「そっれはもう! 死ぬくらいには退屈!」
まるでリンリンみたいな反応だなぁ。なんて呑気に考えてたらフーカちゃんが詰め寄ってくる。
「ノーちゃん、その顔は退屈になったくらいで人は死なないって思ってるね? いい? 時に退屈は人を殺すことだってあるんだよ」
真顔で力説されると何て答えていいか分からない。
「ノーちゃん、いい退屈凌ぎ知らない?」
「そうだねー。例えばこの壁かな」
「壁?」
階段を降りて外壁を見てみる。レンガみたいのが積まれてできたみたいで繋ぎ目の線が無数にある。
「この線を追いかけてたら1日なんてすぐだよ」
「ノーちゃん、上級者過ぎるよ……」
そうなの? 迷路みたいでずっと追いかけてられるけどなぁ。
「せっかくだし今日は付き合うよ」
「やったー!」
それで一緒に街を歩いてたらムツキとばったり出会った。いつもの制服と違ってかわいい私服姿になってる。ムツキがスカートを履いてるって新鮮。
「ムツキだー。かわいいー」
「ノラ。ありがとう」
「おでかけ?」
「うん。隊長から旧都行きの券をもらってせっかくだから行こうかなって」
旧都……。確か南都から行ける離島だったよね。色んな都に行ったけど旧都にだけは行けてない。
「旧都! 私も行きたいんだけど!」
フーカちゃんがここぞとばかりに元気になってる。それにはムツキもびっくりしてる。
「退屈で暇してたんだって」
「そうだったんだ。なら2人もどう? この券、3人まで乗れるから」
なんという運命! これは乗るしかないね。
「ありがとう、ムツキ!」
「ううん。私も1人だとすぐ帰るかもって思ってたから」
というわけでまずは馬車で南都を目指そう。
※南都※
南都の浜辺には多くの人が集まってる。水色の海は穏やかに波を立てて、泳いでる人も多い。そんな浜辺を脇目に通って港を目指した。南都の市場は日本の漁港みたいで沢山の魚を仕入れてるみたいで賑わってる。殆どの魚は水槽や水場に入れられて生きてる魚ばかりだった。しかもなんでか水面を跳ねてる。
漁港を更に奥へと行くと大きな灰色の鯨が空を飛んでるのが見えた。前に来た時も見たけど、間近で見るとあまりに大きくて圧巻なんだけど。普通に観光船くらいはありそう。
船乗り場に着いてホルエールの近くに制服姿の人が立ってて、ムツキが券を渡してた。そしたらその人が合図をするとホルエールが海へと降りて沈んで来た。水飛沫がザパーンって跳ねて中々豪快。背中だけが露出してホルエールの背中に別の制服姿の人が乗ってる。
前にケルちゃんが言ってた操縦士?
「足元にお気をつけてお乗りください」
ホルエールの背中に板橋をかけてくれてどうぞと手を出してくれる。これで乗るの?
グラグラしてそうだし落ちたら海面にまっさかさまなんだけど。
「これこれ! 私が求めてた刺激が待ってる!」
フーカちゃんが我先へと板を駆けてホルエールの背中に乗ろうとして見事に板に躓いて転んで海に転落しそうになった。けど自慢の羽で復帰してる。
それには制服の係員の人が慌ててる。
「ホルエールに乗るときはくれぐれも慎重にお願いします」
「ごめんなさーい」
海に落ちるは洒落にならないから慎重に乗らないと。でも板の上を歩くのは勇気いるね。
そしたらムツキが私の手を持ってくれる。
「私が先行するからノラは続いて」
ムツキが手を引いてくれたおかげで何とか乗れたー。ホルエールの背中は思ったより弾力があって柔らかい。
「それではホルエールを動かしますのでその場に座ってください」
係員さんに指示をされて座る。ぷにぷにしてて結構気持ちいい。それに思ったよりぐらぐらしない。少ししてホルエールが海面を出て空に浮かんでいく。まるで地に足が離れていくみたいでちょっとわくわく。
完全に海から離れるとゆっくりと海の上を飛んで動き出した。南都の船乗り場がどんどん離れて船旅ならぬ鯨旅!
遠くで海面を魚がアーチを作って飛んでる! 何をするのかなって思ったら急に空に大ジャンプしたんだけど。そしたら海の中から大きな魚が大きな口をあけて魚を食べてた。逃げる為に空に飛ぶとは。
「おや。あれは珍しいですね」
係員の人が頭上の指さすと翼の生えた真っ赤なトカゲが空を飛んでる。
「サラマンダー。獲物を狙ってる?」
ムツキも見ながら言ってる。
そしたら急降下して海の中に首を突っ込んだらさっき海面に出て来た大きな魚を加えて飛び去ってる。これが食物連鎖。
それから半時間もすると南都は見えなくなって完全に海の上。穏やかな風が心地いい。
「私、何気にこっちで海を渡るの初めてかも」
「私もホルエールに乗るの初めてだよ」
ムツキもそうだったんだ。手慣れてるように見えたから経験者だと思ったよ。
「はいはーい! 私も初めてー!」
「フーカちゃんなら海の上を飛べるんじゃない?」
「地に足を着いて生活する。その楽しさを教えてくれたのはノーちゃんだよ?」
地上だとあまり飛ばない方がいいって言ったからかな?
そういえばさっき海に落ちそうになった時は飛んでたけど、それ以外だとずっと地面を歩いてたね。
「地上に縛られてるって不便に思ったけど、だからこそ面白いこともある。最近そう思ったよ。あ! せっかくだし絵を描こう!」
フーカちゃんがウキウキしながら画用紙を取り出してデッサンを始めちゃった。本当に絵を描くのが大好きみたい。
この水平線の先にある旧都はどんな街なんだろう?




