190 女子高生も友人を祝う
「うあぁぁぁぁ! 受かったー!」
リンリンの大学受験の合格発表で不安だから一緒に来てって言われたけど、それも杞憂に終わったみたいだね。
「よかったね、リンリン」
「うぅ、本当よかった。いやマジで。落ちたんじゃねってずっと思ってた」
「リンリンは本当頑張ってたよ」
毎日勉強してたのは知ってる。遊ぶのも我慢して努力してたのはきっと神様も見てくれてたんだね。ううん、これも実力だったんだと思う。
「これでリンさんも晴れて大学デビューですね。おめでとうございます」
「はー。まだ実感わかないけどな」
「よーし! 今日はリンリン合格祈念を祝って異世界で盛大にパーッとしよう!」
「ノラノラさいこーかよ!」
というわけで手を繋いで早速出発!
それでやって来たは異世界の街。どこに行こうかな?
「リンリン行きたい所ある?」
「いいのか?」
「今日の主役はリンリンだからね」
「って言っても殆ど知らないしなぁ。わたしゃうまいのでも食べれたらどこでもいいよ」
うまい飯……ってなったら酒屋が思いつくけどリンリンとは何度か行ってるし、ここか趣向を変えてみよう。
「分かった。任せて」
そんなわけで央都の市場にやって来た。沢山の出店が並んでて沢山の食材が売ってる。まさに商店街。人の往来もあって活気に溢れてる。
「ノラさん。何をする気ですか?」
「ふふーん。実は今小金持ちだからね。今日は奮発するんだー」
早速市場を歩いて行こう。どこも客寄せの為に店長さんが大きな声をあげてる。それで1つの店に足が止まった。店の前に大きな肉の塊を吊るしてあってインパクト大。
「どうだいどうだい! 今日仕入れたばかりのドラゴンテール! 早いもの勝ちだよー!」
トカゲの店主が大声をあげてる。ほほう、ドラゴンテールとな。これはレア物と見たよ。
「すみませーん。これください」
「はいよ! 毎度あり! 1万オンスになりますぜ!」
こんなに大きかったらこの値段でも納得。それだけ良いものの証でもあるだろうしね。
でもそれくらいなら全然平気。今のお財布は豪華に金貨まみれだからね。
お金を支払ったら大きな袋にそのまま詰めてくれた。
「ドラゴンの尻尾ってマジかよ。食べれるの?」
「前にリリが食べてたって言ってたよ」
でも問題発生。買ったのはいいけど袋が大きすぎて私だと運べない。置かれた袋を全員で注視する。
「リンリン」
「おい。主役に雑務押し付ける気か」
この場で一番の力持ちだから仕方ない。それでもリンリンは文句も言わずに両手で軽く持ち上げてくれた。農家育ちはすごい。
それから色んな店を寄って他に買い出しをすませる。もちろんリガーも買った。
「ノラさん、こんなに買って料理でもするんですか?」
「そだよー。リンリン祝いのパーティだね」
「なんでもいいが早くどこかで休ませてくれよー。これ結構重い」
これ以上長引くとリンリンが大学行く前に倒れちゃうから急がないと。
でも異世界で調理できる場所ないんだよねー。そもそもドラゴンテールの調理法も知らないし。こういう時は。
※リリル宅前※
「急に来たと思ったら何事かしら?」
リリが出て来てくれて私達の大荷物を前にして怪訝な顔をしてる。
「リンリンお祝いパーティをしたくて一杯買ったけど調理場がないの忘れてたんだー」
「ノノって時々天然よね」
「リリル。そこはいつもだぞ」
「そうだったわ」
ちょっとー。勝手に納得しないでー。
それでリリが使用人を呼んでくれて荷物を代わりに運んでくれた。
「うわ! これってドラゴンテールじゃない! これだけの量を買うなんて奮発したわね」
リリお嬢様でも驚くくらいの量だったみたい。これはある意味サプライズだったかな?
「せっかくだから派手にしたかったんだー。でも調理法が分からなくて」
そしたらリリが両手を叩いた。
「爺!」
「仰せのままに」
まだ何も言ってないのに理解したみたいで使用人の人達がぞろぞろとどこかに行っちゃった。
「料理は爺らに任せて私達は待ってましょ?」
持つべきはお嬢様だねー。これで味は保証されたね。
それでリリの部屋に来たけど珍しくキューちゃんがいなかった。
「あれ、キューちゃんは?」
「ああ。ヘイムなら何か修行にでかけたわ。なんか長年の宿敵を倒す為とか言って」
ダイちゃんにあしらわれたのを根に持ってる奴。一緒に居たらご馳走にありつけたのに、キューちゃんって絶妙に運が悪い気がする。死神だから?
「それでリンのお祝いって今日は誕生日なの?」
「違うよー。リンリンの大学合格お祝い!」
「嘘! すごー! リンがんばったわね!」
リリが自分のように喜んでくれてる。こういう所もリリの優しさがあるよね。
「人間死ぬ気で頑張ったら案外何とかなるもんだな。正直3年から本気出しても遅いって思ってたわ」
「きっとリンリン自身が行きたいって心から思ってたから行動に現れたんじゃないかな」
「そうだったらいいな。ま、今の私は無敵だよ。何でもできる気がするわ」
「過去問もう一度やります?」
「コルコ、これ以上私を殺すな」
勉強が苦手でも目標があったら頑張れる。リンリンはきっとそうだったんだと思う。
「大学かー。ということはもう少ししたらリンリンとお別れかー」
「先に大人になって待ってるよ、ノラノラ」
何この余裕な発言。リンリンらしからぬなんだけどー。これが大学デビューって奴?
「リリー。リンリンが私と離れ離れになっても惜しんでくれないー」
「よしよし。だったらノノは私が養ってあげるわ」
「リリルさん、ノラさんを甘やかさないでください。ノラさんも来年進学するなら受験が控えてるのですから」
コルちゃんから悪夢のような発言が。耳を塞いでリリの胸にダイブするもん。
「ノラノラも逃げるなよー? これは苦しい戦いだぞー?」
「リリー! 私の友達がいつもよりつめたいー!」
「よしよし。ノノが頑張ってるのは私は知ってるわ」
リリが頭撫でてくれるー。大好きー。
そんなこんなしてたら部屋のドアがノックされてリリが返事をした。
ガチャって開くと使用人のメイドさんが入って来てご馳走をカートで押して運んで来てくれた。洋風なフルコースと言わんばかりで、全部がキラキラしてるように見える。
「やば。私こんなの押されて料理持って来られるのアニメだけだと思ってたわ」
「私も初めて見ました」
私も同じ感想。何よりカートの上のど真ん中を占拠してる巨大なエビ反りしてる肉塊が気になりすぎる。七面鳥でももっと小さいと思う。
「ふわぁ。これまた豪勢に仕上げたわね」
「こちらがドラゴンテールのシャサを加えた火炎袋焼きです。こちらはリガーとマイマイの葉を混ぜたスラース和えです。こちらはガオルパオルの骨で出汁を取ったフォンスープです。またデザートにオオクサドリの卵を使用したスライムプリンでございます」
「何を言ってるかさっぱり分からんぞ」
「でも美味しいっていうのは分かります」
激しく同意しちゃう。メイドさんがテーブルに並べていってくれて一瞬でご馳走が埋め尽くした。
「やべ。マジで食べていいの?」
「今日はリンリンのお祝いだから遠慮なくだね!」
「じゃあ食べましょ!」
というわけで早速実食。一番気になるドラゴンテールをナイフで切って食べてみよう。
もぐもぐ。
うん……。これはやばい。肉が溶けた。
あんなのグルメリポーターの虚言だと思ったけど、本当に噛まずに溶けるんだ。
それなのに肉汁はしっかり口の中に広がるし。
やばい。やばいんだけど。やばいしか言えない。
「めっちゃうま! こんなの今まで食べたことないぞ!」
「竜というわりに臭みもなく、食感も独特です」
「ドラゴンテール食べたのなんて久しぶりだけど、やっぱりおいしいわー」
皆も同じ感想みたいで本当に3つ星レストランにでも来た気分。
「はー。大学に受かってこんなうまい飯も食べれて、私は本当に幸せものだよ」
リンリンが急に泣き出したんだけど。
「ノラノラ、コルコ。私、大学に行ってもちゃんと帰って来るから。遊びに来るから。だからずっと友達でいてくれよな?」
「リンリン、大袈裟過ぎだよ。私はリンリンを忘れないよ。絶対。ラインも送るし休みの日は一緒に異世界に来ようよ」
「ノラノラが女神のように優しいわ」
「リンさん、繋がりというのは簡単には切れませんよ。ですから心配するだけ杞憂です。お姉ちゃんなんか毎日ライン送ってきてうるさいくらいですよ」
「コルコー! 私も毎日送るから!」
リンリンってお姉さん肌だけど実は一番寂しがり屋なんだよね。
「じゃあ私がリンに魔法をかけてあげるわ。皆がこれからも友達でいられますようにって」
それでリリが手を突き出して、手の先からアラビア文字が浮かぶと虹がかかってそれがリンリンへと飛んだ。綺麗な魔法だ。
「そんな魔法もあるのか。リリルありがとう!」
「ふふ。ただの七色の魔法だけどね」
願掛けって奴かな。
国も世界も違ってもこうして仲良くできるって何よりうれしいな。




