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189 女子高生も孤児の親と会う

 今日は異世界の酒屋で朝食を食べてる。今日もセリーちゃんと狼の大将さんと鴉の店員さんが忙しそうにしてる。


「店員さーん、注文お願いしまーす」


「こっちもお願いしますー」


 異世界でも朝に食べに来る人は多いみたいであっちこっちで手が挙がってた。


「セリー、手が空かないから行ってくれカァ」


 鴉の店員さんに言われてるけどセリーちゃんは厨房で少しぼうっとしながら皿洗いをしてる。


「セリー!」


 大声を出されて我に返ったみたい。それで慌てて注文を聞きに行ってる。

 でも注文を何度も聞いてて、謝ってる。いつもはそんなのしないのに珍しい気もする。

 料理を運ぶのもどこかぎこちない。


「セリー。具合でも悪いのか?」


 ついに狼の大将さんに心配されてる。それにはセリーちゃんが首をぶんぶん横に振ってる。


「全然へいき! なにもないから!」


 その笑顔もどこか空元気な気もする。


「セリーちゃん、悩みでもあったりする?」


 カウンター越しで話しかけてみる。


「ノリャお姉ちゃん!? いつの間に来てたの!?」


 普通に案内してくれた気がするけどそれすら覚えてないって重症かもしれない。


「セリー。今日は休んだ方がいいカァ」


「で、でも!」


「お前が失敗して困るのはこっちカァ」


「うぅ……」


 鴉の店員さんが厳しい口調で言ってる。多分、セリーちゃんの為にも言ってる。もしお皿を落として大けがでもしたら大変だろうし。


「誰にだって体調が悪い時はある。暫く休むといい」


 狼の大将さんも言ってくれてる。


「それだとお店が回らないよ!」


「お前がいないくらい問題ないカァ! お前が来る前はずっと2人で回してたカァ!」


「クーロ。言い方には気を付けろ」


「うっ。すまん、カァ」


 セリーちゃんは少し泣きそうな顔をしてたから狼さんが鴉さんを咎めてる。


「ごめんなさい、たいしょー。元気になったら戻って来るから」


「ああ。戻って来るのはいつでもいい」


 それでセリーちゃんが奥の部屋へ行って服を着替えて戻って来た。


「あ。お会計お願いします」


 心配だから切り上げて私も酒屋を出た。

 街を歩いてるセリーちゃんはずっと俯いたままだった。


「セリーちゃん。そういう日もあるよ。だから気にする必要ないと思うよ」


「ううん、違うの。昨日、ノイばあちゃんに言われたのが頭から離れないの」


「ノイエンさんに?」


 ノイエンさんがセリーちゃんに厳しく言うとは思えないし、何かあったのかな。


「私でよかったら相談に乗るよ」


「実はね、近い内に私の親が孤児院にやって来るんだって」


 その衝撃の事実には思わず面喰っちゃったよ。孤児って親がいないからその境遇になったわけで、親が会いに来るってことは普通に生きてる? でもそれならどうしてセリーちゃんを孤児院に預けていたのか分からないけど。


「それはいいことなんじゃない?」


「うん。私もそれを聞いて嬉しかった。もういないって思ってたから。でもね、ノイばあちゃんはこうも言ってた。私の親は戦士の末裔だって」


「戦士って勇者物語の?」


 セリーちゃんが頷く。勇者物語は勇者、魔法使い、聖女、戦士の4人が旅をする物語。史実だと魔王と和解した後は4人とも行方知れずになって姿を消したそう。

 そんな伝説の存在の1人、戦士の血を引いてるのがセリーちゃん?


「私も勇者物語は何度も読んだからよく知ってる。ずっと憧れてたから」


 私も最近読んでるから分かる。戦士って戦いだと勇ましくて頼りになる存在だけど、それ以上に美味しい料理を作れるのが特徴なんだよね。勇者達が空腹で倒れそうな時も、それで仲間の雰囲気が悪くなりそうになっても、戦士だけはありあわせのもので何とか食べれる物を作る努力をしてた。

 そう考えたらセリーちゃんに料理の才能があったのも、ある意味納得かもしれない。


「私、分からないよ。急に戦士の血を引いてるとか、親が生きてて会いに来るとか。どうしていいか全然分からない」


 それが悩みの原因だったんだね。


「ノリャお姉ちゃん、私どんな顔をして会ったらいいと思う?」


 孤児院に預けたのも理由があったかもしれない。けど、セリーちゃんが過ごして来た時間は不安と孤独だった。もし、できることがあるとするなら。


「セリーちゃん、料理を作ろう」


「え、え?」


「セリーちゃんはもう立派な大人だって私は思う。だからね、両親が会いに来て自信のある姿を見せてあげようよ。それで料理を振る舞って今の自分の全部を知ってもらうの」


 その結果がどうなるかは私も分からない。子供を置いてどこかへ行くくらいだから、普通じゃないかもしれない。それでも。


「どんな結果になっても、私や、それに狼さんや鴉さん、ノイエンさんは皆セリーちゃんの味方だから」


 そしたらセリーちゃんが決心したみたいで顔を上げた。


「ノリャお姉ちゃん、私やってみる!」


 不安が晴れたみたいで笑顔が戻ってよかった。


「私も協力するよ。早速孤児院に行こう!」


「うん!」



 ※孤児院※



 孤児院に行くと外の広場に子供が沢山集まってた。その奥には水色髪のゴスロリ服を来て蝙蝠の羽を持ったロゼちゃんが仁王立ちしてる。


「いいですか? 魔法とは如何に相手をぶっ飛ばすかにありますわ。小奇麗さや見た目を重要視するのは2流です。実用性があってこその魔法ですわ」


 何か派手な魔法を使って実演してる。それを聞いた子供達が皆納得してる様子。

 ロゼちゃんは私に気づくと羽を羽ばたかせて一目散にこっちに飛んで来た。


「のらぴ! 来るの遅すぎですわ!」


「ごめんねー」


「ま、ちゃんと約束を守っただけ今回は許してあげますわ」


 ロゼちゃんも当初に比べて丸くなって嬉しいよ。


「それよりも子供達に何を教えてたの?」


「魔法ですわ。魔術学園の奴よりも優秀な人材を育てて、人間共を驚かせてやりますの」


「魔法をぶっぱなせー!」


「魔法は火力がいのちー!」


 明らかに悪い影響を受けてそうだけど、こうやって魔法の勉強ができる環境も増えたのはきっといいこと。ここにいる子も成長したら大物になるかもしれない。

 それも皆魔族のおかげって言うのがまた嬉しいんだよね。


「何ですの、のらぴ? にやにやして気色悪いですわ」


「ううん。ロゼちゃんも聖女らしくなったなぁって思って」


「はぁ!? ワタクシは人間共に復讐する為だけにやってますの。この子達が育ってこの世界をワタクシ好みに変えてあげますわ!」


 その為に人の子を育てるんだから、きっと魔王様も喜んでると思うよ。


「そうだ。ロゼちゃんもセリーちゃんに協力してあげてよ。親がここに来るそうだから出迎えの賄い料理を作るつもりなんだよ」


「人間の大人に興味はありません。勝手にしてくださいまし」


 そう言ってぷいってして子供達の教育に戻っちゃった。まだ大人は信用できないみたい。


「仕方ないね、私達でしよっか」


「うん」


 孤児院の厨房に来て、まずは食材……の前に何を作るかだね。


「何を作ろっか?」


「うーん。お父さんとお母さんが喜ぶものって何だろう?」


「好みは分からない?」


「うん……。顔もよく覚えてないから何も分からないんだよ」


 それもそうだよね。だったら趣向を変えよう。


「じゃあセリーちゃんが好きなのを振る舞うっていうのは?」


「私のかぁ。私、好きな食べ物ってないの」


 それは意外って思ったけど、そもそも食べる物に困ってた孤児だからこそ好き嫌い言ってる場合じゃなかったからかもしれない。

 そうなったらどうしよう。戦士の血を引いた両親。戦士さんが好きなもの……。あ。


「だったら勇者物語で戦士が作ってた料理を再現してみない?」


「えぇ!?」


「戦士が十八番にしてた火炎袋を作った火炙り料理。あれを再現しよう」


「で、できるかなぁ」


 きっとできる。セリーちゃんは誰よりも料理熱心だったのはずっと見て来たから。

 そうと決まったら材料を調達しないとね。火炎袋って確かサラマンダーが火を吹く為の内臓だった気がするけど、央都の市場で売ってるのかな。とにかく探さないとね。



 ※1時間後※



 央都で材料を買いそろえて孤児院に戻って来た。いよいよ料理開始。

 基本的にフライパンに火炎袋の体液を流し込んで色んな食材を火炙りにする。


 口にしたらそれだけだけど、戦士さんは野菜や果物、肉と何でもこの調理法で美味しく作ってたそう。つまり火加減の調整が命になると思う。


「私、料理の火加減は基本一定だからできる気しないよぉ」


 狼さんはこういうのも得意そうだけど、今回はセリーちゃんの為の舞台だから助けは借りられないね。


「大丈夫大丈夫。今日は試食の段階だから失敗しても平気」


 セリーちゃんなら炙りすぎて黒焦げなんてしないと思うから最低限は食べれるようにはなるはず。作ったのは皆で食べよう。


 それで早速調理が始まる。まず手始めにリガーをフライパンに落とします。そしたらぱちぱちと火の粉が上がった。まるで揚げ物みたいだ。


 10秒くらい炙ると少しずつ焼き目が付いて来てセリーちゃんがリガーを皿に移した。


「食べれるのかなぁ」


「私が味見するよ」


 ナイフを借りて切れ目をいれるとサクッと切れた。それで中からドロッと汁が零れ落ちる。フォークで一口サイズを刺して食べてみる。皮の触感が固めになっていい感じだけど、果汁が絶妙にドロドロなせいで微妙。試しにスラースを付けて食べてみるけど、あんまり変わらない。


「中の果汁をうまく炙れたら美味しくなりそうだけど」


「うーん。そうだ! 先にリガーを茹でて炙ったらどうかな?」


 セリーちゃんが鍋に水を一杯いれて火を点けた。なるほど、茹でなら中身をじっくり煮込めるもんね。


 それで茹で上がったリガーをもう一度火炎袋で火炙りの刑じゃー。

 音もバチバチーってなって気持ちいい。見た目の焼き目が同じくらいになって皿に移してくれた。

 ナイフで切ったら果汁がいい感じに皮に張り付いてドロッとしたのがなくなってる!

 それで一口食べるとさっきよりもカリカリ感が増して、それにまるで皮に甘いソースを付けたみたいで美味しくなってる!


「いいね! これならいけそうじゃない?」


「うーん。まだ改良できると思う。そうだ、リガーに切れ目を入れて炙ってみようかな」


 セリーちゃんにも火が付いたみたいでどんどん独自のアレンジを加えて行く。もう私がアドバイスすることはないかな。


 それで何か視線を感じて振り返ったら、厨房の窓の外でロゼちゃんがこっちをジーっと見てた。


「ロゼちゃん?」


「ひゃい!?」


 そこまで驚く?


「もしかして協力しに来てくれたの?」


「そんなわけありません。ただ美味しそうな匂いに釣られただけです」


 なるほどねー。それなら。


「これ食べてみてよ。ロゼちゃんの感想聞かせて欲しいな」


 ロゼちゃんがナイフとフォークを使ってリガーを丁寧に食べた。


「……美味しい。不覚にも美味しいですわ。これもっとないですの? あの子達にもあげるですわ!」


「えぇ!? まだ作ってる途中だよ~」


「つべこべ言わない!」


 そんな感じで料理研究は1日中続いた。



 ※当日※



 今日はセリーちゃんの親が来る日みたい。心配だから一応孤児院に来てみた。広場にはセリーちゃんだけがポツンと立ってる。孤児院の屋根の上でロゼちゃんが見守ってるのが気になったけど黙っておこう。


 それで少ししたら孤児院の外で明らかに身なりのいい2人の夫婦が姿を見せてきた。それにセリーちゃんが飛び出した。


「セリー!? セリーなのか?」


「お父さん、お母さん!?」


「ああ。セリー、こんなにも大きくなって」


 両親はセリーちゃんを抱きしめてた。セリーちゃんはすぐに離れて2人を見てる。


「お父さん、お母さん教えて。どうして私を捨てたの?」


 その言葉に2人は凍り付いたみたいだった。でもすぐに穏やかな表情になってる。


「すまない、セリー。戦士の末裔と知れ渡れば世界中から注目されてしまう。幼い君にそんな重圧を背負わされるのは過酷と思いフェルラ賢星に協力してもらってセリーだけは隠し通そうと思っていたんだ。本当にすまなかった」


 2人は頭を下げてたけどセリーちゃんは納得してなかった。


「セリーには苦労をかけたわ。でも大きくなった今なら一緒に……」


「行かないよ」


「え?」


「私、お父さんとお母さんと行かないから。私ね、この街でやりたいことを見つけたの。優しくていい人と一杯出会えた。だからお父さんとお母さんとは行かない」


「そんなセリー……」


 セリーちゃんの気持ちは分からなくもない。ずっと寂しくて辛かったのにずっと会いに来てくれなかったのだから。


 そしたらロゼちゃんが屋根から飛び降りてくる。


「自分達の都合で捨てたのに、自分達の都合で連れて帰る? はっ。随分と自分勝手な親ですわね。どんなに取り繕っても捨てたという事実は消えないのに。あなた達がしたのは自分達の体裁を守るだけの甘い言葉ですわ」


 あまりに辛辣な言葉で夫婦が凍り付いてる。

 この世界で子供が1人で生きるなんて限りなく難しい。だからこそ親の協力が必要。

 もし、私が幼い時に両親と別離してたら恨んでたかもしれない。


 夫婦は何も言えずに黙ったままだった。


「もう帰ったらどうです? セリーはあなた方の道具ではないですわ。彼女の生き方は彼女が決めるんです」


 そしたら夫婦は悲しそうな目をしてその場を後にした。これで、よかったのかな。

 喧嘩別れみたいになっちゃったけど……。


「セリーちゃん」


「ノリャお姉ちゃん、ごめんね。せっかく協力してくれたのにダメにしちゃった」


「ううん。あれでよかったの?」


「うん。私を大事にしてくれたのはノリャお姉ちゃんやノイばあちゃんやたいしょーだもん」


「そっか」


 家族の関係に私がこれ以上口出しできる筋はないよね。


「ちょっとワタクシは?」


「ロゼお姉ちゃんもありがとう!」


「ふん。捨てられる気持ちは痛いほど分かりますから礼に及びませんわ」


 自分と重なって見えたから口を出したのかな。それで心配でもあったと。


「そうなったら作った料理どうする?」


「皆で食べよう!」


「賛成ですわ!」


 この選択がよかったかは私にはまだ分からない。でも家族の在り方って1つじゃないかもしれない。ただ仲良くすればいいっていうじゃないって、そう思ったよ


少しビターなオチになりました。本来はハッピーな感じにする予定だったのですがセリーの境遇を考えたらそれは違うかなぁとなってこの結末になりました。人間関係って難しい。

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