18 女子高生も散歩中に茸を焼く
なんてない早朝。今日も1日が始まって学校へ行く。でもいつもより早く起きたせいでお母さんに柴助の散歩を命じられた。朝食を後にして玄関を出たら、猫丸を除くモフモフメンバーが勢揃いしてる。猫丸は屋根の上から高みの見物をしてた。
私がちゅ~るを見せびらかすと猫丸が凄い勢いで降りてきた。分かりやすい子は好きだよー。
柴助とたぬ坊にドッグフードを上げて、こん子には食用マウス。猫丸にはちゅ~るをあげる。
「ぴーぴー!」
肩にしがみついてきて瑠璃が耳元で泣き叫ぶ。ちょっと待ってよー。すぐにあげるからー。
ちゅ~るを上げ終わるとゴミをビニール袋に入れて、瑠璃にリガーをあげた。
器用に両手で持って空中でガツガツ食べてる。最近になってようやく食べていい食べ物と駄目な食べ物の区別がついて嬉しい限り。おかげで鞄に閉じ込めなくて済むし。さすがに学校に行く時は駄目だけど。
全員を一通り撫でてから柴助にリードを繋ぐ。でも今日はこん子が傍から離れてくれなかった。
「ぴゃー!」
構って欲しいのかなぁ。潤んだ目で見られると困っちゃうよ。
「駄目だよー、外に逃がしたら怒られるんだからー」
「ぴゃー!」
うーん、分かってないなー。すると瑠璃が地面に下りた。
「ぴーぴー!」
「ぴゃー?」
「ぴー!」
「ぴゃあ」
瑠璃の必死の説得によりこん子が諦めて日陰に移動する。おぉ、もしかして会話ができる?
ドラゴンってやっぱり凄いんだ。
「瑠璃ありがと」
よしよしと頭を撫でてあげると嬉しそうに鳴く。その横に柴助も撫でて欲しそうに顔を寄せてくるので撫でてあげる。
遊んでると時間なくなるから早く行かないと。柵を開けて庭を出て散歩コースBを目指す。
歩道には早朝に出歩いてるお年寄りが結構いる。朝起きが早い人は4時くらいに起きて散歩に行くんだって。どんな訓練をしたらそんなに寝起きがよくなるのかなぁ。
「おはようございます」
「あら、野良ちゃんじゃない。おはよう」
すれ違い様に出会ったおばあちゃんに頭を下げる。肩に乗ってる瑠璃も私の真似をして頭を下げてた。
「可愛い子を連れてるわね」
「最近飼い始めたの。瑠璃って言うんだよ」
「ぴ!」
瑠璃が手を上げて挨拶する。最初の頃の傍若無人から成長したなぁ。
「あらあら、よく躾てるわね。それじゃあね」
頭をもう一度下げてからその場を後にした。田舎だから何もないけど、町の人は皆優しい。瑠璃を見てもそんなに驚かないし騒がない。
「んー?」
ぼうっと考えてたらいつの間にか景色が変わってた。広い草原に砂利道。山がないから以前に来たスライム街道?
でも前と違って草原の奥に木々が並んでるのが見える。
「ぴー?」
「へっへっ」
瑠璃と柴助が暢気にキョロキョロしてる。特に驚いてる様子はない。
別に散歩コースに変わりはないから歩こう。
砂利道を歩いても景色は変わらない。今の所スライムも見当たらないし、ちょっと退屈。
でも瑠璃も柴助も楽しそうにしてる。
なるべく早く帰りたいなぁと考えてたら、先の林の近くで一瞬だけ火柱が上がった。びっくりしたけどすぐに鎮火して収まってる。
なんだか危なそう。そう思ってたんだけど、相棒の2匹が興味津々。困ったなぁ。
「ひゃあぁぁ、来ないでぇぇ!」
悩んでると奥の方から可愛い女の子の叫び声が聞こえた。もしかして何かに巻き込まれてる? それなら放っておけないね。
「瑠璃。様子見てきてもらっていい?」
「ぴー!」
瑠璃が一目散に飛んで行った。これで一安心。
「ふにゃぁぁぁ! なにこれ! ちょ、ちょっと来ないで!」
焼け石に水だったみたい。
「柴助行こう」
「わふっ!」
急いで走っていくと草原の向こうで走り回ってるローブ姿の金髪の女の子と瑠璃が鬼ごっこしてる姿があった。更にその後ろでは手足の生えた等身大の茸が歩いて追いかけてる。
なんかシュールな光景。柴助も舌を出して暢気に見てるし私も状況が分からない。
1つ分かるのは女の子の悲鳴が続いてること。
その女の子は私に気付いてこっちに走ってきた。その顔には見覚えがある。
魔術学園の生徒のリリだ。
「ノノ!? いい所に! お願い助けて!!」
リリが私の背後に回って怯えたように隠れる。
「ぴー?」
「なにこの爬虫類! あっちいきなさい!」
リリが手を払うも瑠璃は私の肩に乗って首を傾げる。
「ノノ、危ないよ!」
「瑠璃は私の家族だよ。何もしないよ」
「え、そうなの?」
「うん」
私が頭を撫でて敵意がないのを教えてあげるとリリが安堵の息を吐いた。
でもすぐにその注意は目の前の等身大の茸に映る。
「ノノ! あれ倒して! 私、魔力切れで戦えないの!」
リリが後ろから指差して言って来る。
そう言われても私も戦えないんだけどなぁ。
「瑠璃ー。なんとか出来ない?」
「ぴー」
言ったら瑠璃が等身大茸の方へと飛んで口から火を吹いた。リリが驚いてたけど私も驚いてる。火力はバーナーで出る威力くらいで等身大茸の頭を炙ってる。
すると茸さんが熱いのを嫌がって走り回ってる。それを瑠璃が追いかけてる。
また鬼ごっこしてる。
それから程なくして茸さんが倒れて動かなくなった。程よく香ばしく焼けてて良い匂いがする。柴助も興味津々で匂い嗅いでるし、瑠璃に至っては端の方を齧りついて食べてる。
「はぁ、助かった。思ったよりマイコニドの数が多くて苦戦してたの」
「マイコニド?」
首を傾げるとリリが目の前の茸さんを指差す。これがマイコニドさんなのかぁ。
「小遣い稼ぎ?」
「そんな所。食用だから売ったらそこそこの値になるし」
確かに大きい。これを解体しても一ヶ月は茸料理になりそう。
「でもどうやって運ぶの?」
「んー、連絡用の鳥に合図するのが普通かな。あ、いたいた」
リリは軽く深呼吸してから空に指差して指先を淡く光らせた。するとお空を飛んでいた白いトンビが降りて来る。脚には赤いリボンを括られてた。
リリはポケットからメモ帳を取り出して紙に何かを書くとそれを丸めてトンビの脚に括り付ける。トンビはそれを受け取るとバサバサと遠くへ飛んでいった。
「これで応援が来ると思うからそれまで待つの。それで応援の手数料を引いた差額を貰える感じ」
「へー」
鳥が連絡係をしてるってすごい。誰でも利用できるのかな。
「それより聞きたいんだけど、あれは何?」
リリが瑠璃を指差して話す。さっき言った気もするけど。
「瑠璃だよ?」
「いや名前じゃなくて。火も吹いてたし見た目からして、もしかしてドラゴン?」
「多分そう」
「えぇ!? このシバイヌだっけ? もそうだしどれだけ従魔がいるの!? というかドラゴンって従魔にできるの!?」
リリが1人で驚いてる。確か魔力を使って契約して友達になるんだっけ?
こっちだと動物を飼うのも大変なのかなぁ。
「でも魔法を使えないのよね?」
「うん」
「魔術学園に通うのも諦められないから?」
「うん」
魔法使いっていうのはちょっと憧れる。火を使えたら雨の日でも服を乾かせるし、風が使えたらドライヤー変わりになる。水が使えたら手が汚れた時にすぐに洗えるよね。
「それだったら顔を見せてよぉ! ノノがいなくて寂しいんだからぁ!」
リリが私の胸に飛び込んでハグしてくる。あれから魔術学園には行けてないからなぁ。
リリとも滅多に会えないし寂しくなるのも当然かも。
「ごめんね。いつでも会えるわけじゃないから」
「ノノの馬鹿ー。それが友達にする仕打ちなの」
「んー。じゃあ近い内に必ず学園に行くから」
「……約束よ?」
「うん」
それから応援の人が来るまでリリと雑談したり柴助や瑠璃と遊んで時間を潰した。
学校には遅刻したけど後悔はしてない。




