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188 女子高生も央都で神様と会う

 央都の街を歩いてたら偶然ミコちゃん姉妹と出会った。でも何だか忙しそうに木材を組み立てて何か作ってる。


「はぁ。何で私がこんな面倒なことしないといけないの?」


「騎士ならつべこべ言わずにしなさい」


「出た。騎士なら雑用なんでもしてくれるって考え古いから」


「あなたは新米じゃない」


「新人に雑務押し付けるって最悪じゃない?」


 会話内容はいつもの2人って感じで仲の良さを伺える。というわけで近くに来てみた。2人が作ってるのは……小屋? でも犬小屋にしては小さい。それこそ両手で持てそうなサイズだし。


「あ、ノラじゃん。いい所に来たよ。私を助けて」


「ミコット、逃げないの」


「だってこれは元はと言えばノラの為みたいなものじゃん」


「それはそうだけど」


 話が見えなくて首を傾げるしかない。私の為?


「一体何を作ってるの?」


「分社」


 分社って神様を祀る小さなあれ? 私の地元でも色んな所にぽつぽつ置かれてたりする。

 ということはダイちゃんの計らい?


「オオクニヌシ様があなたと会って以来おかしくなった」


 ミコッちゃんが無表情に言ってくる。


「うん」


「妾も央都に行きたいのだって言って毎日うるさかった」


 ミコッちゃんって一応はダイちゃんを信仰してるんだよね?

 ともかくようやく話が見えて来た。


「分社を建てたらダイちゃんがこっちに来れる?」


「そうそう。それで雑務させられてる」


 ミコトちゃんが工具を放り出して空を見上げちゃった。ここは私が手伝ってあげよう。ダイちゃんと会えるなら嬉しいし。とはいってももう殆ど完成してるように見えるけど。


「後は設置する場所を考えないといけない」


「場所かぁ」


 変な所に置いたら邪魔に思われて信仰を失いそうだし、かといって人気の少ない所は信仰を集められないだろうし。


 そうだ。


「あそこならいいかもしれない」


 それで私が来たのは央都の街中にある大きな塔、天球塔の最上階。バルコニーになったここならそんなに人は来ないと思う。


「ここは恋愛を叶える為のスポットみたいだから神様の分社があったら信仰してくれるんじゃない?」


 短絡的だけど2人はあっさり承諾してくれた。多分早くこの業務から解放されたいと思ってそう。


 それで分社を邪魔にならないように設置した。そしたら天球塔の屋根の上がパッと光った。


「妾、ここに降臨ぞ」


 ダイちゃんが腕を組んで急に現れた。何もしてないのに本当に分社だけで出て来れるんだ。


「ノラ子! これでいつでも会えるのだ!」


 出て早々抱き付いてくるこの神様をどうにかしてー。


「オオクニヌシ様、私達に言うことはないんですか?」


 ミコッちゃんが黒い表情で睨んでる。そしたらダイちゃんが冷や汗流して両手を合わして頭を下げてお礼を言ってた。これだとどっちが神様か分からない。


「終わったなら私は行くよ」


「私も」


 ミコちゃん姉妹はダイちゃんの登場に感慨もなさそうに素っ気なく帰ろうとしてる。


「其方ら妾が来たというのに薄情じゃないか」


「一番にノラに抱き付いた時点で察した」


「分かる。私らは所詮神様の目にも入らない村人だよ」


「すまんすまん! 2人もかわいい妹のようだぞ!」


 それでも2人は納得してなさそうにふてくされてる。


「よし。ならば願いを叶えてやろう」


「なんでも?」


「妾の出来る範囲に限りだ」


 そしたら2人は悩んでた。こんなあっさり願い権限使えるんだ。


「私は美味しいの食べれたらいいよ」


「私は新しい占いを知りたい」


「よかろう。ほいっと。叶ったぞ」


 ダイちゃんが2人に何かを念じたと思ったらそう言った。


「本当に叶ったの?」


 ミコトちゃんが言う。確かに一見だと叶ったようには思えない。


「神を疑うか? 必ず今日中にその願いは叶う」


 そうしたら2人は顔を見合わせてその場を後にした。本当に叶ったのかな。


「それにしても洒落た場所を選んだものだ」


 ダイちゃんが手摺にもたれて央都の街を見渡してる。


「恋愛スポットだから信仰も集まるかなぁって」


「ノラ子。妾は恋愛の神ではないぞ?」


「まぁまぁ。これも新しい神様の在り方じゃない?」


「それもそうか」


 適当に言ったんだけど納得してくれた。やっぱり懐は広いみたい。


「思ったんだけど願いを叶えるくらいの力があるのに自由に移動できないの?」


「信仰とはその地に住む人々にある。あの村では万能であっても、ここではそうもいかない」


「でも分社を建てたらすぐに来れたよね?」


「この姿は妾の霊体に過ぎない。実態ではない」


 そう言われたから触ってみる。普通に感触もあるし温もりも感じる。やっぱり神様って規格外な気がする。


 それで仲良く央都の街並みを眺めてたんだけど、急に屋根を伝って空に飛んでくる黒い影が見えた。それで目の前に黒ワンピ姿の小さな死神さんが現れた。


「異変を察知して来たがまさかお前さんがまだ存在していたとはのう」


「ほう。其方は死神か」


 まるで旧友の再会みたいに話してる。神様なら寿命もないだろうしキューちゃんを知っててもおかしくはない。


 でも2人の目はバチバチしてて今にも戦いそうな勢いなんだけど。


「こんな所で相まみえるとは想定外じゃがいつかの雪辱を晴らしてくれよう!」


 キューちゃんがどこからか鎌を取り出して紫色のオーラを纏い出した。それに対してダイちゃんは手摺に肘を置いて余裕の表情。


「舐めおって!」


 それでキューちゃんが鎌を振ったらダイちゃんが一瞬で消えた。

 キューちゃんは無言のドヤ顔を見せてるけど、すぐにダイちゃんはその場に復活してた。


 さっき霊体だって言ってたからそんな気はしてたけど。


「相変わらず血気盛んだな。そんなだから勇者にも負けるんじゃないのか?」


「う、うるさい! 全部お前さんのせいなのじゃ!」


「えーっと。とりあえずキューちゃん、武器を構えるのやめてもらっていい?」


 万が一こっちに当たったら終わりだし。


「止めるでない、ノノムラ・ノラ。これは我が雪辱を晴らすためなのじゃ」


「もしかしてダイちゃんに負けたの?」


「ち、ちがわい! 我は負けておらぬ!」


 そしたら隣でダイちゃんが大爆笑してる。これは図星?


「ノラ子、あんまり死神をいじめたらダメだ。まぁ実際私は戦ってないがな」


「だったらどうして?」


「昔、勇者に魔族と対抗する為の武器を貸してね。それで死神は見事勇者に手も足もでなくて負けたってわけ」


「負けておらぬわ!」


 うん、これは負けたんだね。案外フーカちゃんの書いた勇者物語の史実って間違ってないんじゃないかな。私もその辺読んだけど、それは見事にぼこぼこにされてたし。


「死神。妾は其方と争う気は今更ない」


「お前さんになくとも我にはあるぞ?」


「それに魔王との約束もあるであろう?」


「ぐぬ」


「妾にも勇者との制約があってな。もう戦う力などありはしない」


 それでもキューちゃんは納得してなさそうだった。

 そうだ、いいこと思い付いた。


「ダイちゃん。さっきみたいにキューちゃんの願いを叶えてあげてよ。美味しいの沢山食べれたら折れると思うよ」


「ほう? 死神、うまい飯に興味はないか?」


「なんじゃと!? げふげふ。我を飯で嵌める気じゃな!?」


「神が毒殺するとでも?」


「お前さんは狡猾じゃ! 自分で手を下さず我を陥れる気じゃ!」


 ダイちゃんは必死に笑いをこらえてる。この時点でどっちの実力が上なのか分かってしまうのが可哀そう。


「じゃあキューちゃんの代わりに私がご馳走になろっかなー」


「なんじゃと!?」


「仕方ない。死神は頑固だからな。ノラ子に叶えてあげよう」


「ま、待つのじゃ! 我も少しだけ……」


 語気が弱くなってごにょごにょ言ってる。

 そんな隙もなくダイちゃんは手を叩いて何かを念じた。私の頭上に奇妙な光の粒が落ちて来る。願いが叶った?


「わ、我の飯が……」


 キューちゃんの戦意が喪失したんだけど。かつての因縁より大事なご飯とは一体。


「キューちゃん、一緒にご飯食べに行こうよ。多分私1人だと食べきれないだろうし」


「本当か!? かっかっか! やはり信じるはノノムラ・ノラなのじゃ!」


 キューちゃんのそういう分かりやすい所大好きだよ。


「ダイちゃんもせっかくだしどうですか?」


「そうだな。央都の酒には少し興味があった。妾も同伴するとしよう」


 この機会に仲良くできたらいいけど、多分無理そう。


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