186 女子高生も帰郷祭に参加する(5)
夜。
広場の中央に大きな焚火が点いてまさにキャンプファイアー。それで私が来た時よりも更に増えて大勢集まってる。村を出た人が戻って来るんだからまだまだ増えるかもしれない。
それで鐘の音が鳴り響くと、いつのまにか広場の向こうの屋敷に続く道に赤い絨毯を敷かれてた。それでミツェさんがハープの音色を奏で始めると、屋敷の方からダイちゃんが絨毯の上を堂々と歩いて来た。祭祀の人は絨毯の外の道を歩いてる。
「皆の者、よく集ったな。己の生き様を求めて彼の地へと赴き、自由を求める者もいれば、自分を探す者もいる。職人のように己を極める者もいれば、出会いを求める者もいるだろう。だが、いずれにせよ皆はここに戻ってくれると妾は確信しておる。ここは其方達にしかない唯一の故郷だ。さて、長い挨拶はこれくらいにしようじゃないか。もう待ちきれないと顔を見たら分かる。妾も我慢できなくてな」
そしたらダイちゃんが酒瓶みたいなのを盛大に掲げて蓋を弾き飛ばした。
「帰郷祭の始まりだ!」
村で歓声が沸き起こった。皆が料理やお酒を片手にしてわいわいと賑やかになってる。瑠璃が私の袖を引っ張って来るから、とりあえず何かもらおうかな。
と思ったんだけど人が多くて取れそうにない。困ったー。
「お嬢さん、こちらの品をどうぞ」
困ってたら隣にスーツを来た猫さんが串焼きみたいのを持って来てくれる。猫の店長さんだ。私が困ってるのに気付いて持ってきてくれたのかな。なんて紳士。
「ありがとうございます。ほら、瑠璃もお礼言って」
「ぴぐ、ぴぐ」
既に串焼き食べてて、口に含みながら言ってる。食いしん坊過ぎて困ったけど猫の店長さんは笑ってくれた。
「ノラ様―」
声がして振り返ったらレティちゃんとフランちゃんを見つけた。
「ノノムラさん! その服着てくれたんだね!」
「えへへー。どう似合ってる?」
「すっごく似合ってます!」
くるくる回って見たけど絶賛してくれて嬉しみー。
それで後ろから肩を叩かれて振り向いたらほっぺをツーンてされた。
こんなことをするのはフブちゃんしかいない。
「ノラ君は本当にこれに弱いねー」
「もうフブキ、違う人だったらどうするんです?」
「全力で謝る」
フブちゃんとシロちゃんも来たみたいで賑やかになってきたね。
「ノノムラー。もうすぐミコ様が来るでやがるですよー。こっち来いですー」
シャムちゃんが遠くで手招きしてるからそっちに行ってみた。そしたら絨毯の向こうからミコッちゃんとミコトちゃんが歩いて来てる。
ひらひらの羽衣を羽織って、水着かなって思うくらい露出が多い。なるほど、これは確かに人前に出るのは恥ずかしい。
「ちょっと姉さん! なんで私も!?」
ミコトちゃんが顔を赤くして必死に抗議してる。うん、正直私もミコッちゃんだけだと思ってた。
「あの神様を満足させるのは難しい。今回はあなたの協力も必要」
「そんなこと言われても私踊りとかできないし!」
「そこは私が何とかする」
大丈夫なのかなぁって思って見守ってたらミコッちゃんが踊り始めた。手と足をゆっくり動かして、でも顔は大胆に動かしてる。動くたびに羽衣がひらひらしてキラキラした何かが見えた。まるでフィギュアスケートのような優雅さがそこにあって思わず見惚れた。
ミコトちゃんが困ってるとミコッちゃんがミコトちゃんの手を取って一緒に踊り始める。ミコトちゃんの動きはぎこちないけどミコッちゃんがうまくリードしてフォローしてる。
おまけにミツェさんの神秘で幻想的な音楽も相まって、まるでお伽の世界に入り込んだみたいだった。
「どうだ? 彼女達の踊りは最高だろう?」
いつの間にか隣にダイちゃんが立ってて声をかけてきた。
「すごいです。とっても綺麗です」
そんな感想しか出て来ないくらい何も言えなかった。それくらい引き込まれる。
これが神様に仕える神子。初めてその片鱗を見たよ。
「妾に今も信仰が集まるのは彼女の功績も大きい。こうして宴をして騒ぐだけならばこれだけの人は帰って来なかっただろう」
確かにこんな踊りを披露されたら帰りたくもなるかもしれない。
「ノラ子よ、其方も妾と踊らぬか?」
「えぇ!?」
まさかの提案に驚き。
「今日は無礼講だ。彼女達が踊ってるから踊ってはいけないという決まりはない。何より、妾は其方と踊りたい」
「私、踊れませんよ?」
「安心するのだ。妾も踊れない」
最早不安しかないんだけど。
「いいじゃん、ノラ君行って来なよ」
「オオクニヌシ様直々の所望ですからね」
外野も盛り上がってるみたいで背中を押される。もうどうなっても知らないんだから。
「じゃあ行きます?」
「無論」
それでダイちゃんと仲良くミコちゃん姉妹の所に来た。
「私達も一緒に踊っていい?」
「ノラ! あなたは神様ね!」
ミコトちゃんは今にも泣きそうなのを我慢してる。余程恥ずかしいんだね。
「ミコットよ、神は妾ぞ? まぁよい。ノラ子よ、楽しもうぞ」
「うん!」
ダイちゃんの手を取ってぎこちない踊りをしてみる。ダイちゃんも同じみたいでやっぱりぎこちない。でもそれを笑う人は誰もいなくて、寧ろ一杯応援してくれる。
それが勇気になって、もっと頑張れそうって思える。
そんな踊りに釣られて他の人も踊り始めて、村中にそれが伝染していった。
火を囲んで皆で踊って、皆で笑い合って、一杯食べて。
時間も忘れて気が付けば日が変わって。
そういえば今日は大晦日だったのかな?
まぁいっか。だって今日は無礼講だもん。こんな風に楽しい時間がずっと続いて欲しい。
やっと……やっとここまで書けました。正直帰郷祭まで書くのはもう無理だろうと思ってました。本来なら今頃の話数くらいで完結する予定だったのですが、何故かとんでもなく伸びてます。
それでもここまで来れて自分でも感動してます。これもひとえに読者様のおかげだと自負しています。
いつも読んで頂き感謝しかありません。
さて次回からいよいよ3年目となります。ここまで来たならば最後まで書き切りたいと思います! 毎日投稿もまだまだ終わりません! よろしくお願いします!




