185 女子高生も帰郷祭に参加する(4)
ダイちゃんと出会って少しお話をしてから一緒にお屋敷に戻ることになった。神様の隣を歩くなんて不思議な気分。でも私が想像してたより畏まった存在には見えなかった。
「私、神様ってもっと大きな存在だと思ってました」
「その認識で間違いない。だが最近では仰々しいよりは多少フレンドリーな方が信仰が集まりやすいと知ってな。これ神界のトレンドぞ?」
神様の口からトレンドなんて言葉を聞く日が来るなんて思ってもなかったよ。
「それに早く気づいていれば日本でも活動できていただろう」
「SNSで拡散して信仰集めてみます?」
「今となってはもう遅い。今の其方の世界は真実と偽物が混在した社会となりつつある。そして信仰の対象が神や偶像から人へと移り変わっている」
確かにネットが普及して嘘の情報も五万とある。だからダイちゃんの存在を拡散しても誰も信じないかもしれない。
「瑠璃と一緒にアップしたら信憑性増しません?」
「その時は信仰の対象が竜に変わるだけだ。もっとも、それはある種正しい形だがな」
異世界だと竜を信仰したりするのかな。瑠璃もすごいドラゴンの子供らしいし。本人は何も分かってなさそうに欠伸してるけど。
屋敷の庭を歩いてたらミコッちゃんとミコトちゃんがこっちに歩いて来た。
「オオクニヌシ様、勝手に出歩かないでください。今日は大事な祭事なのですから予定が狂います」
ミコッちゃんが丁寧な言葉でダイちゃんに怒ってる。神様相手でも物怖じしないのはすごい。ダイちゃんは気にしてなさそうに片手をあげてる。
「すまぬすまぬ。久しぶりの友人と再会して浮かれていたのだ」
「ノラ。オオクニヌシ様と知り合いだったの?」
「知り合いってほどでもない気もするけど」
「ノラ子! そこは嘘でも親友と言っておくれ!」
「親友です」
そしたらダイちゃんが嬉しそうにハグしてくる。なんというか神様らしくない神様に思えてきた。
「オオクニヌシ様、今晩はあまり羽目を外さないでください。多くの人が見てるのですから」
「分かっている。それよりもミコット、其方も戻ったのだな。事情は全部知っておる。よく心を変えたな」
「別に。ただ色んな人に迷惑かけたから謝っておこうと思っただけだから。あなたも」
ミコトちゃんがぺこりとお辞儀してる。
「よい。そなたが元気ならば妾はそれ以上を望むまい」
そしたらミコトちゃんが小さくお礼を言った。こういう懐の広さはやっぱり神様なのかな?
「しかしミコッテよ。妾は悲しいぞ。最近は央都の方ばかりで村に中々帰って来ないではないか。妾は寂しいぞ?」
「それについては謝ります。ただ私にもやりたいことがあるんです」
「それは分かっている。だから今日は妾は満足させてもらおうぞ」
その言葉にミコッちゃんが無言で頷いてた。何の話か分からなくてぽかんとしてたらダイちゃんが耳打ちしてくれた。
「ミコッテの踊り、ノラ子も目に焼き付けておくぞ」
そういえば踊りができるって言ってたような。
「期待しないで。特に何もない」
「姉さんの踊りは完璧だよ。私も保証する」
ミコトちゃんにも言われていよいよ顔を赤くして手で隠してる。これは楽しみにせずいられないね。
※昼※
今日は帰郷祭だからそろそろあれを着ようかな。ずっと前にフランちゃんがくれた浴衣。白ベースで帯は赤くてなにより生地がふわふわしてる。サイズもピッタリ。なんだけど帯が結べない。丁度祭祀の人が通りがかってくれた。
「あのー、これ結んでくれませんか?」
そしたら快く引き受けてくれて、これで完璧。水の鏡で見たけど何か普段と違って不思議な気分。でもかわいくていいかも。
それから準備があるって言われてミコッちゃん達と一旦別れて村の方に来てみた。こっちはこっちで忙しそうにしてた。村の広場にキャンプファイヤーみたいな焚火を用意してて、周りには大きな机がいくつも置かれて料理が運ばれて来てる。
「お? 嬢ちゃんも来てたのか」
声をかけられて振り返ったら鳥の店長さんが机を運んでた。
「店長さん! こんにちは!」
「はっはっは! 央都からここまで来るのは大変だったろ?」
「友達と一緒だったので苦じゃなかったです」
「そうか。ま、今夜は楽しんでいきなよ。今日は無礼講だからな」
鳥の店長さんは作業に戻って行った。奥の方では狼の大将さんや鴉の店員さんも作業してる。別の所には魔物喫茶でいた猫の店長さんが料理を運んでた。こうして考えると央都って本当に色んな人が集まってたんだなぁ。
広場をうろうろしてたら近くで綺麗なハープの音色が聞こえてきた。それも聞きなれた音。
視線を送ったらピンク髪の綺麗なお姉さんが椅子に座って演奏を始めてる。
「ミツェさんだ!」
私に気づいてくれたみたいで手を振ってくれた。
そういえば前にミコッちゃんが帰郷祭でいつも来てくれるって言ってたね。これは嬉しい。
「歌姫さんとの~運命的な出会い~」
「愛しの友~夜更けまで語りましょう~」
「眠ってしまうその時まで~」
「ずっと一緒~」
そんな感じで両手を合わせて挨拶完了。今日は本当に楽しくなりそうでわくわくが止まらない。
「あ! 瑠璃―! まだ食べちゃだめー!」
瑠璃が机に並んでる料理を狙ってて慌てて捕まえたよ。
瑠璃が我慢できなさそうにしてるけど、まだ始まってもないんだからフライングは禁止。
そうして準備が進んで陽の光も少しずつ暗くなっていた。それでどこかで鐘の音が鳴り響いた。
帰郷祭が始まる……!




