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183 女子高生も帰郷祭に参加する(2)

 馬車の旅が始まって2日が経った。今日はいつもより早く目が覚めた。私が起きても馬車はまだ動いてる。狼さんが寝ずにずっと操縦してくれてる。周りを見たら瑠璃を含めて全員がすやすや眠ってた。皆を起こさないようにそうっと動いて前の方に行く。


「あの。寝てないですけど大丈夫ですか?」


「問題ない。隊長を務めていた時は殆ど不眠不休だった」


 それはそれで身体を潰しちゃいそう。でも言葉に嘘はなさそうで狼さんは特に疲れてる様子がない。でも心配。そうだ、確か飲み物を持ってきてたはず。

 鞄を開けて……あったあった。


「これ、飲んでください。目が覚めますよ」


 長旅になるって聞いてたから缶コーヒーをいくつか用意してあったんだよね。

 狼さんは驚いてたけど受け取ってくれた。


「変わった入れ物だな」


「上の栓を指で引っ張ると開くんです」


 指をさして教えてあげたけど狼さんの指が太すぎて隙間に入ってない。そしたら爪を器用に差し込んでくいってして開けてた。お見事。


 それで一口飲んでくれる。


「ほう。俺の知らない味だ。不思議と癖になる」


「眠気覚ましをする時、私の世界だとほとんどの人が飲むんです。豆を潰して作るみたいなんですけど詳しいことは知りません。それはどこでも買える市販の物です」


「こんなうまいものがどこでも買えるとは余程腕利きの料理人がいるのだな」


 ある意味そうなのかもしれない。狼さんがお礼を言ってくれて私も自分の場所に戻った。美味しいご飯も作ってくれてるからね。


 皆はまだ眠ってるし私はどうしようかな。目が覚めたから2度寝する気も起きないし。

 そうだ、この前リリに借りてもらった勇者物語でも読もう。


 やっと半分読んで魔法使いさんの過去が明らかになって敵との戦い中に新しい魔法を使って盛り上がってる所。



 ※



 本を読んでたら隣でうめき声に近い何かが聞こえた。視線だけ送るとシャムちゃんが今にも死にそうに這いつくばってる。


「おい、レティ……薬は、どこでやがる、です」


「むにゃあ。薬は食後ですよー」


「馬鹿、酔い止めです!」


 シャムちゃんが必死に訴えてるけどレティちゃんは夢現なせいで分かってない。


「シャムちゃん、これ飲んで」


 馬車の旅って聞いたから自分で薬を持ってきてあったからよかったよ。

 コップに水を入れて渡してあげる。


「ノノムラ、恩に着るです」


 それで薬を飲んで少ししたら落ち着いたみたい。前も東都に行った時大変そうだったもんね。


「ふぅ。これでもう少し寝れそうでやがるです」


 そう言って寝てた。ある意味すごい。

 じゃあ私は読書の続きでも……。


「レティ君―。薬を……私、死ぬ……」


 フブちゃんがミイラみたいな声が。被害者は1人じゃなかったみたい。



 ※



 馬車に揺られ続けてどれだけ時間が過ぎただろう。5大都市から離れて、今見える景色は黄金色の葉を持った木々。山の中だと思うけど道はしっかり舗装されてる。

 葉が落ち始めてるのを見ると落葉の時期なのかもしれない。


「もうすぐ着くぞ」


 狼さんの一言で皆が身を乗り出した。私も馬車の外に顔を出して先を見た。そしたら向こうに白い鳥居みたいのが見えて、その先には歴史で習ったみたいな竪穴式住居が並んでた。

 そして何より……。


「ケモミミさんだ!」


 白い鳥居の向こうには耳と尻尾が生えた人が一杯いる。それだけじゃない。リザードマンや鳥の人、犬の人、それにトカゲの尻尾が生えた人や角のある人も沢山いる。


 その景色がどんどん近づくと段々待ちきれなくなってきた。鞄を先に持って、いつでも出られるようにしよう。


 はやく、はやく!


 鳥居を潜って馬車が止まると誰よりも先に降りた!


「ここがケモミミ村!」


 普通の人はどこにもいなくて、種族の違う人しか住んでない夢のような場所!


「はー、この景色ずっと変わってないね」


「ですなー」


 ミコトちゃんとフブちゃんも降りて来て感傷に浸ってる。


「娯楽施設のような場所はないから退屈するかもしれないけど」


「そんなことないよ、フランちゃん! 私、今すごく楽しい!」


「え、ええ?」


「ノラ様がいつになく張り切ってますね」


 だってずっと来たかった場所だし、もう見てるだけで癒される。今ならヒカリさんの気持ちが分かりすぎる。記念にスマホで撮影していこう。


「さて。皆は先に家に行くでしょ?」


 ミコッちゃんが言った。自分のことで頭が一杯だったけど、今回は帰省が目的だから皆は両親に会いに行くんだよね。


「そうなのです。ノララと会えないのですー」


 シロちゃんが寂しそうに抱き付いてくる。嬉しいもふもふだけど今は我慢かなー。


「私はいつでも会えるけどシロちゃんのお父さんとお母さんは今日くらいしか会えないでしょ? だから会いに行ってあげてね」


「はい。また後で会いに来るのです!」


 シロちゃんがリュックを背負ってぱたぱたって走って行った。それを見て他の皆もぽつぽつと別れ始める。残ったのはミコッちゃんとミコトちゃん。瑠璃は興味深そうに空を飛び回ってる。


「ノラ。帰るまでは私の所で泊まっていって」


「ありがとー。正直何も考えてなかったから困ってたんだよね」


 持つべきはケモ友だね。


「私は帰りたくないなー」


 ミコトちゃんの深い溜息。それを他所にミコッちゃんが歩き出した。それで村を堂々と歩いてたけど、村の人はミコッちゃんを見ると必ず頭を下げてた。神子様というのは本当みたい。


「ねぇ、ミコッちゃん。私、隣歩いてるけど大丈夫?」


 普通に友達感覚で接してるからここでは直した方がいい気もしてくる。


「ノラ、これ以上私の安らぎを奪わないで」


 ミコッちゃんが両肩を掴んで来る。切実過ぎる所を見ると優雅に振る舞ってるのもかなり無理してるみたい。そう言われたら断れないよね。


 村はのどかな所で畑が多い印象。自分の住んでる所は田舎って思ってたけどそれを更に田舎にした感じかもしれない。


 田んぼに挟まれた道を歩いて奥に歩いていくと雑木林が並ぶ近くに寝殿造で京都にありそうな屋敷が建ってた。


 明らかに他と造りが違うからここがミコッちゃんの家かな。屋敷前の門前まで来るとそこに立ってる祭祀の人が2人驚いた顔をしてた。


「神子様! お帰りになったのですね!」


「それに、そちらはミコット様じゃないですか! 今までどちらに……。皆、心配してたのですよ」


 祭祀の人の言葉を他所にミコトちゃんは視線を逸らして小さな声で謝ってた。こうして顔を出したらきっと皆安心してくれるよね。


「今日は客を招いてるから屋敷で寝泊まりしてもらう。空いた部屋はあるよね?」


「もちろんでございます」


「ノラ。少しの間離れるから祭祀の人に部屋を案内してもらって」


「分かった」


「じゃあ、私もノラに付いて行こうかな~」


「ダメ。あなたも私と来る。ちゃんと説明しないといけない」


「うへぇ」


 それでミコッちゃんとミコトちゃんが屋敷の中へと消えて行っちゃった。せっかくの帰省だろうし、家族で話したいこともあると思う。今日くらいはあまりお邪魔しないように気を付けないと。


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