表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/221

182 女子高生も帰郷祭に参加する(1)

 時間の流れは早くてもう年末。そして私は今日から長い旅に出かける。旅行鞄一杯に荷物を詰め込んだ。お父さんとお母さんには友達と一緒に年を越すって言ってある。異世界の友達だから間違ってないよね。


「ぴー!」


「瑠璃も来る?」


「ぴ!」


 瑠璃を連れて異世界の街にやってきた。こっちは年末になると騎士の人が街を警備し出すそう。街を出た人が帰省して騒いだりするからだとか。

 そんな私は街を出て行く側。なにせ今日は。


「ノノムラさーん!」


 遠くからフランちゃんの声がした。街の外に停まってる馬車の前で私を手招きしてくれたからそっちに行った。馬車の前にはフランちゃんのほかにレティちゃん、シャムちゃん、シロちゃん、フブちゃん、ミコッちゃん、ミコトちゃんというまさにケモミミズが大集結してる。


「ノノムラ、本当に来やがったですか。本当物好きなのです」


 シャムちゃんに言われる。当然来るよ、なんたって年に一度しかないお祭りがあるんだから。しかも沢山のケモミミさんを拝めると聞いては行かざるを得ないね。


「今回はよろしくね。今更だけど部外者の私が行っても大丈夫だよね?」


「もちろん大丈夫ですよ。昔はそうしたしきたりもあったそうですが最近では緩いんです」


 レティちゃんが教えてくれる。それはよかった。万が一に備えて持ってきたケモミミのカチューシャは必要なさそうだね。


「そんな大事な日に帰って来ない人もいるけどね」


 ミコッちゃんがよそ目に言ってる。


「また姉さんが何か言ってるよ」


「全くだね。そんな日に帰らない人は余程の薄情者だろうね」


 ミコトちゃんとフブちゃんが他人事みたいに言ってる。そんな2人に呆れてミコッちゃんが溜息を吐いてる。


「ではでは出発しましょうなのです」


 シロちゃんが言う。


「あれもしかして待たせちゃった?」


 これでも早起きしたんだけどなぁ。


「大丈夫なのです。フブキは寝坊してそのままの恰好なのです」


「ちょっとシロ!? 身内の恥を堂々と言わないでくれる!?」


 寧ろそのままでも可愛いんだからちょっとうらやましくもある。


「大丈夫ですよ、馬車が到着したのもついさっきですから。先着組は先に出ました」


 レティちゃんに言われてホッとする。考えてみれば他にも帰る人もいるから当然だよね。

 それで馬車に荷物を乗せようと思って近づく。そしたら馬車の運転手がまさかの酒屋の狼の大将さんだ! 考えてみたら狼さんもそうだもんね。


「今回はよろしくお願いします。しばらくお世話になります~」


 口元を緩めてくれて、黙って手を上げてくれた。料理だけじゃなくて馬車も操縦できるなんて芸達者だなぁ。


 全員が馬車に乗ったら狼の大将さんが鞭を動かして馬車が動き出した。馬車の中にはケモミミさんが箱詰め状態で私にとっては幸せ状態。瑠璃はなんでか狼さんの隣に座って動きを見てる。


「皆の故郷って馬車でどれくらいかかるんだっけ?」


「2~3日くらいじゃねーですか?」


 シャムちゃんがぶっきらぼうに答えてくる。思ったより遠い所みたい。

 これは長旅になりそう。


「そんなに遠い所にあるんだ?」


 5大都市と言われる所も馬車で半日もあれば到着するし数日ってなったらそれこそ外国にまで行けそう。


「そもそも5大都市と呼ばれる各都市も国の発展の為に近くに造ったと聞きます。なので都市から離れると小さな町や村が結構あるんですよ」


 レティちゃんの豆知識。それは知らなかった。


「はぁ。なんでこんな古臭い行事が今でも残ってるんだろう。手入れも満足にできなくなるし」


 ミコトちゃんが髪をくるくるさせて不満を吐いてる。


「帰ったらその不満をあの神様に言ってあげるわ」


「姉さんはいつも私に冷たいね」


「あなたはもう少し考えてから発言するべき」


 ミコちゃん姉妹は今日も平常運転。でも実際数日も馬車で走るってことは野宿か何かになるのかな。


「よし。皆でしりとりしよう」


「しりとり、なのです?」


「そうだよー。単語の最後の文字を次の単語の頭文字に続けて行くんだよ。例えば、私がノラで始めたとしたら、次の人が「ら」で始まる単語を言うんだよ。ラビラビとかね。そしたら次の人は今度「び」で始まる単語を言うんだよ。それで「ん」で終わる単語を言ったり、答えられないと負け」


「ほうほう。面白そうだね、乗った!」


 せっかく時間があるんだし皆で遊べる何かをしたいよね。


「えー私は嫌だなー」


 ミコトちゃんが不服そうにしてる。もちろん強制参加。


「因みに負けた人は自分の秘密を暴露してもらいまーす。ミコトちゃん、棄権するなら暴露してもらうよ?」


「ノラは悪魔か何かなの?」


 皆を本気にさせるなら悪魔でも鬼でもなってみせるよ。


「狼さんも参加してね~」


「俺もか?」


 あまりに驚きの声。無論この場にいる全員を巻き込んでこそ。瑠璃は言葉を言えないから例外だけど。


「じゃあ始めよ~。まずはしりとりのりでリガー! あ、最後を伸ばすで終わった時は伸ばす前の単語でお願い。この時は「が」だよ! というわけでフブちゃんどうぞ」


「ふふん。ガオルパオル」


 いきなり未知の単語を言われる。多分魔物?


「魔物?」


「そうだよ。ガオーって鳴くのが特徴だね」


 フブちゃんが爪を立てて真似してくれる。へー。このしりとりの目的、実はこういう知らない言葉を知りたいのもあるんだよね。


「ル、ですか。いきなり難問ですね」


 レティちゃんが唸る。そこで私はそうっと馬車の外を指さした。それに気づいて手を叩いてる。


「瑠璃様!」


「はい次―。り、だよ~。因みに同じ単語は使えないからリガーは駄目だよ~」


「えー嘘―。り、り。略式魔道具」


「ぐ? グレンシシです」


 そんな感じでしりとりが続いて行く。人が多いから自分の番に来るのも遅め。その分使える単語も減っていくから難しい。


「ゆ? ユキガエル」


 最後の順のミコトちゃんが言って私の番に戻って来た。脱落者はなし。


「る、かぁ」


 難題にして番が戻って来るとは想定外。自分の世界ならいくつか思いつくけど、ここは異世界だから皆の知らない単語を言うのはナンセンス。

 瑠璃はもう言われてるし困ったー。


「おやおや~? ノラ君どうしたのかな~?」


 隣でフブちゃんがにやにやしてる。むむむ。


「ノノムラー。あと5数えるまでに答えるです」


 シャムちゃんが急かして来る。そんな殺生なー。


 それでみんながのりのりで数を数え始める。必死に考えたけどお手上げだね、どかーん。


「最初に負けたのはノラだったね。言ったの忘れてないよね?」


「もちろんだよー。でもせっかくだから最後の1人になるまでしよう」


 というわけでしりとりは続行。最初は何巡かしてたけど、4巡目くらいになると一気に脱落者が続出。それで最後に残ったのは狼の大将さんとミコッちゃん。

 順番はミコッちゃんから。


「ホルエール」


「ルナ」


「ナイル」


「ルーガル」


「ルルホイル」


「……完敗だ」


 接戦を繰り広げて優勝したのはミコッちゃん! ル攻めという初心者とは思えない攻撃だよ。狼さんも反撃に転じそうだったけど、ミコッちゃんが上手だったね。


「ミコッちゃん、おめでとー」


「それよりノノムラ、忘れてねーです?」


「そうそう。負けた人は秘密を言うんだよね」


「ノララの秘密気になるのです!」


 皆しっかり覚えてたー。有耶無耶にできるかなーって思ったけど駄目だったね。

 ここは腹を括るとしよう。


「仕方ないね。じゃあ私の秘密を言うよ」


 皆がごくりと固唾を飲んだ。


「実は私……異世界人なんです!」


 堂々のカミングアウト。なんだけど思ったより反応薄くない?


「やっぱりですかー。そんな気はしてたんですよね」


「だよねー」


 まさかのバレてた系。隠してるつもりはなかったけど、態度や雰囲気で分かるものなのかな。


「そっかー、知ってたんだー。まいったよー。じゃあこれくらいで」


「ダメだよ、ノラ君。敗者にはきちんと恥ずかしい罰を受けてもらわないと」


 そんなルールは身に覚えないー。


「そうそう。好きな人とかそういうの告白してもらないと」


 ミコトちゃんの追い打ち。まさかの無理難題!?


「それいいね、ミコット」


「ええ!? ノノムラさん、好きな人いるんです!?」


 これは非常にまずい展開だー。誰か助けてー。瑠璃に目配せしたけど狼さんの隣で眠ってるー。薄情者だー。


 どうしよう、皆から期待の眼差しが迫ってる。ここで好きな人はいないなんて答えたらはぐらかしてるだけと思われそう。だからといって皆が好きって言っても納得してくれないだろうし困った。


 すると馬車が急に止まった。何事?


「飯の時間だ」


 狼の大将さんが言った。そしたら皆お腹空いてたみたいで話題がそっちに向いた。もしかして助けてくれた?


 ちらっと見たら無言でうなずいてくれてる。これは……イケメン狼さんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ