179 女子高生も魔物喫茶に行く
学校帰りの異世界。ここに来ると授業での疲れが嘘みたいに吹き飛ぶ。今日はどこに行こう? 時間的にあまり遠出はできないし誰かのお店でゆっくりさせてもらおうかな。
なんて考えてたら急に足元に人型の影が出てきて私の前に青緑の髪の子が着地する。カーディガンみたいな服を着崩して羽の生えた子。
「ノーちゃん、やほ~」
「フーカちゃんだ~」
軽快に飛んで来て挨拶をしてくれる。相変わらず自由を満喫してる様子。
手にはマイコニドの串焼きを持ってて食べてる。
「地上での生活も大分慣れて来たみたいだね」
「もち。ずっと憧れてた世界だからどこにだって飛んで行くよ」
今も飛んで来たもんね。高壁からでも平気に飛び降りられる人は異世界でもかなり珍しいと思う。
「でも人前ではあんまり飛んだらダメだよ?」
「ノーちゃんは心配性だなー。平気平気。ちゃんと飛ぶ時は人がいないのを確認してるよ」
だったらいいんだけどこういう軽い返事をされると逆に心配になる。
「ささ、行こ行こ。人生で飛び止まってる暇はないよ!」
立ち止まるじゃなくて、飛び止まるか~。
それでフーカちゃんと一緒に街を歩いて回る。時間的に遅いのもあって学園の生徒や騎士の生徒さんをちらほらみかける。
そんな中を見てたら青い髪の騎士さんを見つけた。
「ムツキ~、こんばんは~」
「ノラ。こんな時間に奇遇だね。そちらは?」
「フーカちゃんだよ~」
そしたら2人がぺこって頭を下げてる。
「フーカ・リッケ。よろしく」
「騎士見習いのムツキ・レインティ。こちらこそよろしくね」
握手までしてこれでもう友達だね。
「それにしてもまさか騎士さんとはね~。こんな若くて可愛い子を戦地に送るなんて国もちょっと酷いんじゃない?」
フーカちゃんが顎に手を置いて首を傾げてる。そんな話、ムツキから聞いたことない。
「ムツキ、今の本当?」
「騎士を徴兵にさせるのは今は禁止されてるよ。騎士の役割は民を守るにあるから、戦いの為に戦地に赴く行為は駄目なんだよ。自国が攻撃された場合に限り武装しての自衛が認められてる」
その辺の規律も厳しいんだね。この国は平和そのものだし争いなんてなさそうだけど。
「フーカちゃん、今のはどこの情報?」
「あーうん。なんでもない、なんでもない」
目を逸らして手を振り続けてる。これは物語の中での騎士しか知らなかったパターン。多分、勇者物語に登場した騎士の成り立ちがそうだったから勘違いしたんだね。
「それよりも私行きたい所あるんだよね。ムーちゃんも一緒にどう?」
「どうしようかな。これから自主練あるんだよね」
それはストイックすぎるよ。だって今騎士学校が終わった所だよね?
「毎日続けてるの?」
「うん。いざという時に動こうと思ったら結局最後に大事になるのは日頃からの訓練だから」
「ダメダメ! そんな規律重視に生きてたら人生損するよ! 世界はこんなにも自由に溢れてるんだからそれを堪能しないと!」
フーカちゃんがムツキに詰め寄って力説してる。本人的にはムツキの生活が自分の過去の暮らしに似てて説得してるつもりだろうけど、ムツキは騎士に憧れてるからこれはちょっと考えが真逆かも。
「フーカちゃんダメだよ。そんな無理に誘ったら。ムツキが困ってるよ」
そう言ったら渋々離れてくれた。
「また時間がある時に一緒に出掛けよう?」
「ううん、私も行く」
「自主練はいいの?」
「うん。ノラと一緒にいる時間は貴重」
そんな国を離れた親友みたいに言ってくれるのは嬉しいね~。
それでムツキも一緒になって夜の街を歩いて行く。フーカちゃんに道案内を任せて着いて行くと、ハイカラな建物とカラフルなライトが混ざり合った不思議な所に出てきた。まるで西洋の街みたい。まだこんな所があったなんて。
「フーカちゃんって夜の女って感じだよね」
「えーそう?」
「うん。サングラスかけてる時すごく大人っぽいし」
そしたらポケットからグラサン取り出して付けてる。いつも持ち歩いてるの?
「元々は空を見続けてたから光が眩しくてかけてるだけなんだけどね」
「確かに雰囲気変わったと思う」
「君もかけてみるかい?」
フーカちゃんがムツキに渡してる。それでムツキがグラサンしたけど、これは……。
似合うというより悪徳貴族感が出てる。悪くない。
それで流れで私もかけてって言われたんだけど2人の反応が妙に感慨にふけってる。
芸術的とか、感嘆していいって呟かれたんだけど。
そんな雑談を交えてたらフーカちゃんの足が止まった。猫のシルエットをかたどった看板が立って、窓があるけどカーテンで閉められてて中は見えない。でもほんのりと明かりが点いてる。
「ここは?」
「魔物喫茶だね」
魔物喫茶。名前的に猫カフェ的な?
「説明するよりは入った方が早いね」
そう言って木のドアを開けてくれた。それで店内に入ったら視界に入るのは大量の白いもふもふ達! これ、ラビラビだ! カフェみたいなお洒落な内装に明かりは暗めでダークな雰囲気。これはいいかもしれない。
「これはこれは。お客様、よくぞ吾輩のお店にお越しいただきました」
カウンターの奥から黒いシルクハットを被って、黒いスーツを来た紳士な猫さんが出て来た。二足歩行の猫だ。昔、猫の恩返しで似たのを見たよ。
「3人でおねがーい」
「かしこまりました。ごゆるりとお楽しみください」
シルクハットを取って一礼する姿もまさに紳士っぽそう。
開いたテーブル席に3人で座った。丁度他にお客さんが来てなかったみたいで貸し切り状態。
なにより床や机の上にらびらびがこれでもかってくらい一杯いる。目の保養~。
「そういえばラビラビって物を盗んだりする魔物だったよね? 大丈夫なのかな」
「こちらで飼育してるラビラビは比較的大人しい部類でございます。ですからそういった心配は問題ありません。万が一の場合に備えて吾輩が常に見張っていますのでごゆっくりくつろいでください」
猫の店長さんが丁寧に教えてくれた。ほう、ラビラビもそういう風に飼育できるんだ。多分、子供の頃からそういう悪さをしないように育ててきたんだろうね。
「ラビラビ触ってもいいんです?」
「もちろんでございます」
許可を得たから早速ラビラビを抱っこ~。ん~、もふもふであったかーい。幸せ~。
そしたら他のラビラビも寄ってきたから抱っこしてあげる。両手一杯になったら机に登ってきて寄ってきた~。もう持てないよ~。でも目の前が真っ白もふもふで幸せ過ぎるよ~。
ムツキの方を見たらラビラビが足元で座ってまるでお仕えしてる状態。ムツキのなでなでで一発で従者になったみたい。
「店長―。私の所ラビラビ来ないんだけどー?」
フーカちゃんが不服そうに言ってる。私が独占したせいかも。それで一匹渡そうとしたら床に降りて逃げちゃった。これは動物に避けられる体質っぽい。
猫の店長さんが紅茶とクッキーを持ってきてくれた。紅茶の香りが離れてても感じる。まるで大自然の中にいるようなそんな優しい香り。早速1口飲んでみる。味はほんのり甘い感じ。クッキーの方を食べてみる。あれ、クッキーと思ったけど柔らかい。まるでマフィンみたい。ふわふわさくさくな触感が癖になりそう。紅茶との相性もいいね。
「それにしてもここは天国みたいな所だねー。央都に来て長いけどこんな場所初めてだよ」
「私も。元々夜遊びはあんまりしないっていうのもあるけど」
「面白そうなお店を見つけたらまず入る。これが基本だね」
フーカちゃんが力説してる。その気持ちはよく分かる。
「ふわ。温かい飲み物飲んだら眠くなってきたよ」
フーカちゃんが欠伸してテーブルに突っ伏しちゃってる。ていうかもう寝ちゃってる?
夜に強いと思ったけどこれはそうでもなかったね。
逆にムツキは表情は眠そうなのに全然そんな風に見えない不思議。
「ムツキは夜更かししても平気そう?」
「そうだね。騎士の仕事の中には夜から朝にかけての仕事もあるから。断れるけど私はしてるよ」
ムツキのキャパシティがどんどん上がっていく。これはもうできないことを探す方が難しいのでは?
それにしてもこんなもふもふ天国のあるお店は何回でも通いたくなる。とりあえず私もラビラビに囲まれてお休みー。




