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17 女子高生も異世界でダラダラお喋りする

 バイトが始まってから数時間は経過したと思う。客足も減ってきたからレティちゃんの提案で切り上げになった。フランちゃんが経営する洋服店も落ち着いてて、お昼にしようって話が纏まった。


 洋服店の奥の部屋に案内されて皆で仲良くテーブルを囲んでいる。昼食はフランちゃんがサンドイッチを作ってくれた。それと一緒にレティちゃんもポーションを用意してくれる。


「今日の売り上げにかんぱーい!」


 レティちゃんが上機嫌でポーションを掲げた。それに倣って私や皆も軽くコップを当てた。


 あれから宣伝効果のおかげで道具屋も大分繁盛して、リピーターも増えたみたいで本当によかった。格安で売るっていう信条はあるみたいだけど、やっぱり儲けたいっていう気持ちもあったんだと思う。


「本当にノラ様には頭が上がりません! 私だけではあそこまで客を増やせませんですし!」


「私は大したことしてないよ。レティちゃんの作る品が良かったからお客さんも喜んだじゃないのかな」


 サンドイッチを1つ貰って頬張る。軽く焼き目のある生地に変わった野菜が沢山詰まってる。赤い実、赤身の卵、黄色い葉、白い肉。透明のソースと緑のソースが混ざってる。


 うん、サクサクしてて美味しい。後味もすっきりするこれはスラースだね。流石は万能調味料。瑠璃にも一口上げようとしたけど全部食べられた。この食いしん坊さんめ。


「ノラ様は天使です!」


 レティちゃんが私にべったり寄りかかってくる。銀色の髪がふわふわしてて良い匂い。頭を撫でてあげると耳と尻尾が跳ねてる。


「ノノムラさんに商才があったとは驚き。将来は店でも出す予定なのかな?」


「んー。今の所は予定ないかなぁ。それに偶々当たっただけだから殆ど運だよ」


「例え運だったとしても凄い。私からもお礼を言わせて。ありがとう」


 フランちゃんもペコリとお辞儀をする。きっとフランちゃんもレティちゃんの経営を心配してたんだろうね。けど改めて言われると恥ずかしいなぁ。


「それとソライさんとキサラギさんも手伝ってくれてありがとう。いつもは昼時になっても客を捌けなくてゆっくり食べられないから」


「いいよいいよ。手伝いなんて慣れっこだし」


「フラウスさんの助けになれたら嬉しい限りです」


 それを聞いたフランちゃんは両手を胸においてキューッと丸くなる。


「うぅ。こんなに優しい人ばかりに囲まれて明日生きられるのかな」


 まるで一生分の運を使い果たしたと言わんばかりの発言。さすがに大丈夫だと思うけど。


「フラン。運で言ったら私の方が使い果たしてるので先に死ぬのは私ですよ」


「レティが死ぬ方が運を使ってるよ」


「この対応ですよ。接客業とは思えません」


 この2人の距離感は本当に近いと思う。なんというか本当に気を許しあってるのが傍から見ても分かる。


「2人はどうやって知り合ったの?」


「そ、それは」


 フランちゃんが言いにくそうにしているとレティちゃんが身を乗り出した。


「それはですね、フランが店を経営していてあまりにも不憫だったので色々アドバイスしてあげたんですよ。あの頃のフランは捨てられた狐みたいに全てに怯える小動物でしたよ」


「皆の前で言わないでよー!」


 フランちゃんが涙目になりながら顔を赤くする。うーん、本人には悪いけど可愛いよ。


「でも一番のキッカケは私が3日徹夜で調合してる時でしたねー。あの時のフランは本当に怖かったですよ」


「怖い?」


「駄目! 言っちゃ駄目!!」


 フランちゃんが机をポコポコ叩いて抗議してるけど届いてない。

 正直、今の性格しか知らないから怖いという感覚が全然ないけど。


「フランはこう見えて服の手入れにはうるさいんですよ。私が服をほつれたままにして、注意された時に新しいの買うので問題ないですって言うとそれはもうカンカンに怒りましたよね」


「だ、だって服だって物なんだよ。作った人の思いがあるのに粗雑にされたら悲しいよ」


 フランちゃんが小声で俯いて話す。


「その気持ち分かるよー。私もおばあちゃんから物は大切にしろって言われてるからね。この巾着はもう10年近く前の奴だよ」


 異世界用の財布に使ってるピンクの巾着を見せる。古い物だし、小学生の家庭科で作った物だから見た目も不恰好だけど。


「で、ですよね! ノノムラさんとは気が合います!」


 フランちゃんが眩しい笑顔を見せてくれる。耳と尻尾も飛び跳ねてる。うん、隣に座ってたら絶対に撫でてた。


「幼馴染と言えばノラさんとリンさんもそうですよね。2人の出会いが気になります」


 コルちゃんがさり気なく聞いてくる。そういえばリンリンと友達の経緯は話してなかったね。


「確かあれは小学生の頃か。今から7年前くらい? その日、昼で授業終わって私は友達の家に遊びに出かけてさ。その道中の木陰でノラノラがいたんだよ。ランドセル背負ったまましゃがんでてさ。何してるのって聞いたら蟻さん見てるって言うんだよ。特に気にもせずにその場を後にしたんだ。で、友達と遊び終わって夕暮れになったから家に帰ろうと思ったらノラノラまだ木陰にいて蟻の観察してんの。しかも街ではノラノラ探して大人が騒いでるのなんの」


「蟻さんが懸命に餌を運んでたら気になってね。大きな虫の死骸だったからどうやって運ぶのかなーって見てたら時間を忘れちゃったんだよね」


 今でも蟻の巣を見かけたら時々観察しちゃう。見てるだけで癒されるし。


「あれからノラノラ見るといつもぼーっとしててなんつーか、放っておけないんだよね」


「リンリンは優しいんだよー。休憩時間が終わって授業始まってるのにわざわざ探しに来てくれるんだよー」


 小学生の頃はリンリンには一杯お世話になったなぁ。お弁当忘れた時も半分くれたり、遊びに誘ってくれたり。今でも大事な親友。


「ノラさんは昔からマイペースなんですね」


「んー? 今は違うよね?」


 何となく聞いてみたけど同意は得られなかった。あれー?


 それから程なくして楽しい昼食は終わった。洗い物を手伝って、帰ろうとした時。


「忘れる所だった! えっと、今日の手伝いの支払いなんですけど」


 フランちゃんがリンリンとコルちゃんに対してお金を渡そうとするけど何か手付きが不慣れだった。


「あの、私こういう相場に詳しくなくて、どれくらいが普通なんでしょう?」


 それは私も知らない事実。


「じゃあさ、お金の代わりに服譲ってもらってもいい?」


「わたしも気になってた服があるんです」


 リンリンとコルちゃんがそう話すとフランちゃんは喜んで首を縦に振った。そんな様子を微笑ましく眺めてたらレティちゃんに袖を引っ張られる。


「ノラ様、お支払いですが」


「んー。私も現物もらおうかなぁ。あの宣伝してたスキンケアのクリーム。あれ貰ってもいい?」


「そんな安上がりでいいんですか?」


 あれ安かったのかな。そういえば値段は聞いてなかった。


「うん。お昼もご馳走になったし、昨日もサービスしてくれたでしょ? だから十分だよ」


「うぅ。ノラ様にそんな笑顔を向けられたら何も言えません。もし私に出来ることがあれば何でも言ってください」


「じゃあもう一回モフモフさせてー」


「喜んで!」


 レティちゃんをぎゅーってハグする。獣人だからか人より肌も柔らかい気がする。このまま抱きしめて持ち帰りたいのを我慢してそうっと離す。


「ぴーぴー!」


 なんか瑠璃が怒ってる、ような気がする。頭を撫でてあげて落ち着かせると私達は店を後にして楽しい一日が終わった。

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