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178 女子高生も魔女と接する

 今日は南都にやって来た。前にリリ達と一緒に来たけど街の方までは行かなかったから今回は1人で探索してみよう。運送の馬車のおかげで浜辺近くの街道まですぐ来れた。ここからは歩き。街道を歩いてたら道外れの草むらに誰か人が倒れてる。水色髪でゴスロリ服を着て蝙蝠の羽がある子。


「ロゼちゃん?」


 声をかけても返事がない。寝てる? 近づいてツンツンしてみる。そしたら急に起き上がった。


「はっ! ワタクシは何を!?」


「大丈夫?」


 声をかけたら急に構えて距離を置かれちゃった。


「あなたは、いつかの人間」


「ノラだよ~」


「寝首を襲うなんてやはり侮れませんわ」


「こんな所で寝てたから心配だったんだよー。本当に大丈夫?」


「ご心配無用。人間に気にされるほどヤワではありませんので」


 ツーンってそっぽを向かれちゃった。仲良くなるにはまだまだ道のりが長そう。


 微妙に気まずい空気が流れたけどロゼちゃんのお腹が急に鳴って本人が顔を赤くしてる。


「もしかして何も食べてないの?」


「あ、あなたには関係ありません!」


 声を荒げたらまた鳴った。それで必死にお腹を抑えてる。1人で生きるって言ってたけど中々うまくいかなかったんだね。


「関係あるよ。ロゼちゃんと約束したんだから。そうだ、そこに美味しいお店があるんだ。ご飯好きなだけ奢るよ」


 この前に臨時収入があったから今の私は太っ腹なのだー。流石にキューちゃんレベルの胃袋ではないと信じたい。

 けど何でかロゼちゃんは腕を組んでそっぽ向いてる。


「人間に貸しを作るくらいなら餓死した方がマシです」


「私、異世界人だし人間じゃないから大丈夫だよ。宇宙人みたいなものだよ」


「そう、なのかしら?」


「そうそう」


 そしたらロゼちゃんが半信半疑で付いて来てくれた。正直冗談で言ったつもりだったんだけど、何も食べてないから頭が全然回ってないんだと思う。


 そんなわけで南都のレストランにやってきました。朝早くに来たおかげで人はそれなりに空いてた。海が見える窓際のテーブル席に着いた。メニューを渡そうと思ったけどロゼちゃんが机に倒れちゃう。何でもいいから何か食べさせないと。


 5分くらいすると料理が運ばれて来た。真っ黒な魚が丸ごと一匹鍋に入れられて、魚を囲むように菜、茸、菜、茸って綺麗に隔てられてる。混沌魚の鍋って書いてあったけど、これは美味しそう。黒い魚なのに出汁は真っ白なのも見た目がいい。


 ロゼちゃんは鍋を見て放心したみたいにジーっと見てる。早く食べたそうだからお椀に分けてあげよう。でもこの丸ごと入ってる魚はどうやって切り分けるの? 普通に切ったら崩れそうだし。あ、メニューに説明が書かれてる。台にある風の魔道具を使うと魚が綺麗に捌かれます。ほう。鍋を置いてる台に緑色の球体がぷかぷか浮かんでる。台にボタンがあったから押してみる。そしたら球体が浮上して鍋の上で回転すると魚が一瞬で切り身になっちゃった。頭だけは残って他は見事に真っ白な切り身。これはすごい。

 これならお椀に分けられるね。


「はい。ここの料理美味しいから食べてみて」


「人間の作った料理なんて……」


 無理して強がろうとしてるけどお腹が鳴りそうになって抑えてる。


「腹が減っては戦が出来ぬってね。今は何も考えずに一緒に楽しもう?」


「……分かりましたわ」


 それでロゼちゃんがスプーンで魚の切り身を口に運んで食べた。そしたら仏頂面の顔が一瞬で驚きに変わってる。


「……美味しい」


「でしょ?」


 私も食べてみる。本当に美味しい。魚の切り身が柔らかいお肉みたいに噛む度に出汁がぎゅーって出てくる。それに出汁も余計な調味料が入ってないみたいで、魚本来の味がすうって喉を通って行く。うん、やばいかも。いくらでも食べれる。


 ロゼちゃんの方を見てみる。丁寧な手つきでナイフで魚の切り身を細かくしてそれをフォークで刺して静かに食べてる。出汁を飲むときも両手で支えて飲む音が全然してない。何て綺麗な食べ方。


「何ですの?」


 露骨に睨まれちゃった。


「ごめん。ロゼちゃんの食べ方の所作が綺麗で見惚れちゃった」


「こんなの普通ですわ」


 普通、なのかな。それにお腹鳴るくらいペコペコだったのにゆっくり丁寧に食べてるのを見ると育ちの良さを感じざるを得ないよ。お腹空いてる時ってあまり噛まないで飲み込んじゃうし。



「でも、一応お礼を言っておきますわ。これで餓えは何とか凌げました」


 あまり心はこもってないけど今はその一言を聞けただけでも嬉しい。


「気になったんだけど、前にキューちゃんは何も食べなくても生きていけるって言ってたんだけどロゼちゃんは違うの?」


 何百年も生きられる体の構造ならちょっと食べないくらいで死にはしないと思う。私はてっきり魔族の皆がそういう体質だと思ってたけど。


 そしたらロゼちゃんはスプーンを置いた。


「ワタクシは、純粋な魔族ではありませんから」


「そうなの?」


「人間の血が混ざってます」


 つまり魔族と人のハーフ? 言われなかったら全然気づかなかったよ。見た目の違い何て蝙蝠の羽くらいだけだし。


「そうだったんだ。でもそれならどうして人を憎んでるの?」


 ハーフなら両親のどちらかは人間ってことになるし、理解がありそうに思えるけど。


「物心ついた時には両親はすでにいませんでした。生き倒れてる所をたまたま人間に拾われて、人間の村で育てられましたわ。最初の内はすごく可愛がってくれました。けど、大きくなって背中から羽が生えて来ると、村の態度は一遍しましたわ。ワタクシに魔族の血が流れてるって知るや否、石を投げて赤く滲む目を見たら村から出て行けと怒鳴られました。疫病神って言われた言葉は今でも忘れられません」


 そこには私が想像をはるかに超えた辛い過去があった。気の利いた言葉は何も思いつかない。


「途方に暮れていた所、魔王様に拾われましたの。魔王様は人間と違って優しかったですわ。でもワタクシに人間の血が流れてるって知ったらまた追い出されるかもしれない。それが怖くて言い出せませんでした。だから人と敵対することで魔王様に忠誠心を見せ続けましたわ」


 どうして話してくれているかは分からない。でも話してくれるなら最後まで耳を塞がずに聞こう。


「そんなある日に魔王様はワタクシを魔王軍の幹部に昇格させる話を持ち出しましたわ。でも手放しに喜べませんでした。だってワタクシには人間の血が流れてるから。だからもう隠すのはやめて本当のことを話したの。ワタクシには幹部になる資格がないって。そしたら魔王様は微笑んでこう言いましたの。最初から気づいてたよって」


 ロゼちゃんが当時を思い出しながら若干目を濁してる。


「ワタクシが人とのハーフって知りながら親身に接してくれたって気づいて、これからは一生あの方に付いて行こうって決めたの。例えこの命が尽きようとも、あの方と共になら怖くないって思ってました。なのに……どうして魔王様はあんなことを言い出したのよ……。ワタクシは、ずっと信じていたのに……」


 そこから先の話は何となく分かる。キューちゃんとケルちゃんも話してた魔王が勇者と和解した件だと思う。これからは人と道を歩む。人を恨んでたロゼちゃんからしたら、その発言は自分を裏切られた以上にショックだったのかもしれない。だから眠りについた。

 これは想像以上の過去で何て答えるべきだろう。私にはそんな壮絶な経験もないから慰めの言葉も皮肉にしかならないだろうし。


「ロゼちゃん。どうして話してくれたの?」


 人を嫌ってるのは今でも同じなはず。だったら私に話す義理もないと思う。


「ワタクシにも分かりません。人間なんて嫌い。大嫌い。なのに、あなたを見てるとあの方を思い出して仕方がないのよ。放っておけばいいのに、放っておいてくれない。ああ……どうして」


 ロゼちゃんは首を振って食事を再開してた。


「ロゼちゃん、話してくれてありがとう。辛い過去を思い出させてごめんね。でもこれだけは言わせて。私はロゼちゃんがどんな育ちだろうと、誰の血が流れてようと態度を変えるつもりはないから。それだけは約束する」


 そしたらロゼちゃんがスプーンをお椀の上に落とした。慌てて顔を見たらぽろぽろと涙を流してる。


「どうして……どうして今更そんな風に言って来るのよ。あの時にあなたが居てくれたらワタクシは人間を憎まずに済んだのに!」


「ロゼちゃん、泣かないで。辛い過去があったのは確かだと思う。でもね、それでロゼちゃんが動いたから魔王様と出会えて、それで喧嘩して眠りについてくれたから私もロゼちゃんと出会えた。だからロゼちゃんのしてきたことは全部無駄じゃないんだよ」


 慰めたつもりなんだけど余計に涙を流して泣き顔を見られたくないみたいで机に伏せちゃった。


「ばか! ばかばかばか! のらぴのばかー!」


 ばかばか言われてるけど、さりげなく名前呼んでくれたよね。私も顔を見られなくてよかった。きっと今、にやにやして笑われそうだから。


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