177 女子高生も魔法使いになる
「リリ、今日は付き合ってくれてありがとう」
異世界の街の外にあるスライムのいる街道。そこにリリと一緒に来てる。
「全然いいわよ。魔法の勉強なら私も新しく何かに気づけるかもしれないからね」
前に武器屋で買った魔法使いの杖を持って魔法の勉強をする予定。杖には勝手に魔力が充填されるらしいけど勝手に使って暴発したら大変だからね。
「旧式の魔法には必ず魔術式が必要になるわ。これを覚えないと魔法は使えないの。それでいて杖に必要な魔力が十分あるのが発動の条件ね」
「ふむふむ」
「魔術式、って聞くと複雑に聞こえるかもしれないけど、要は使いたい魔法を条件設定するわけね。ちょっと貸してみて」
リリに杖を貸したら、杖の先端部分で宙に文字を描いてた。魔力があるから魔法線が描けるんだね。その式を見てたら『ミ』を〇で囲ってた。
そしたら文字が光って杖の渦巻きになってる方からそよ風が吹いてる。
「これは風を表す記号ね。丸で囲ってるのは周囲に及ぼす範囲を意味するわ。範囲を広げたいなら『〇』を『⛭』にすれば大丈夫よ。他にも一直線に出したいなら横線を追加したり、杖を反対にすれば逆に魔法が発動できたりもするわ」
記号で魔法を管理する感じなんだね。これなら私でも覚えやすい。というわけで同じのを実践してみよう。リリに杖を返してもらって、『ミ』描いて『〇』で囲う。
けど何も起きない。
「あれ、魔法発動しないよ?」
「あー多分魔力切れね。今も魔力充填してるからその内使えるようになると思うけど」
今リリがちょっと使っただけで? これは確かに触媒魔法は効率が悪いってなるわけだね。でも大丈夫。こうなる事態を想定して便利アイテムを持ってきたのだー。
鞄の奥から筒状のカバーケースを取り出して、中には布で何重にも包んである。布はトングでそうっと外して、魔法棒を取り出した。魔法棒をトングで掴んで杖にくっつけてみる。
そしたら青い光が出て一気に魔力が注入されてる!
「これって魔道具?」
「そうだよー。前に東都に行った時にノイエンさんに買ってもらったんだ」
本来は誰でも魔法が使えるようになる代物だったんだけど、何でか私には使えなかった。それでアンセスさんに直してもらったんだけど、すごい爆発が起きるくらいになったからそれ以来封印してた。魔法棒に魔力が沢山入ってるならそれを分けられるかもって思ったけど正解だったね。
「魔力充填用の魔道具かぁ。そんなのもあるのね。だけどそれならどうして手で持たないの?」
「私が触ったら爆発するから」
「爆発!?」
二の舞にはなりたくないからトングでしか持てない。管理も厳重にしないとね。青い光が消えたから魔力が全部入ったのかな? それでもう一度魔術式の記号を描いてみる。今度は文字が光った。と同時に周囲に結構強い風が吹いてる。街道にふよふよしてたスライムさんが草原に飛ばされてるし。
「魔力量が多いから魔法も強くなったのね。これはすごいわ! 普通に中位魔法くらいはあるんじゃないかしら?」
「やった! これで私も魔法使いデビューだね」
長年の夢がこうして叶うなんて感動で涙が出そう。
魔法は1分もしないくらいで効果が切れたから魔力がなくなったんだと思う。
でも初めてにしては良いスタートだね。
「これでいつでも魔術学園に転入できるね」
「もー、冗談でしょ。流石に分かって来たわよ」
それくらい嬉しかったからついつい。
「リリ先生―、私もっと色んな魔法使いたいー。魔術式教えてー」
「もちろんよ。だけどその前にノノには覚えてもらわないといけないことがあるわ。まず魔法の使用は周囲の安全確認が絶対。視界が悪くなく、建物みたいな障害物がないこと。近くに人がいないのを確認してから扱う。今使った魔法も結構強い風が吹いたけど、もしも周囲に人がいたりしたら罪に問われたりするから。これ魔法条項、第3条ね」
そっか、魔法を使うって見た目以上に危ないからそういうルールもあるんだね。危ない危ない、危うくケルちゃんのお世話になる所だったよ。
「あれ。でもノイエンさんやケルちゃんは街中でも魔法使ってたりするよね?」
「一部の地位の人や資格を有する人は街中での使用も免除されてたりするわ。或いはそういう人が近くにいて魔法の使用を認められたら使ってもいいという条件もあるの」
なるほど。だから魔法大会みたいのでもルール違反にはならないんだね。そうなると魔法を使うのも窮屈なんだね。
「私、前にフブちゃんが使ってた服の汚れを落とす魔法が使いたいな」
そういうのなら危なくもないし大丈夫だよね。
「あー残念だけど生活魔法って新式の魔法だからこれだと無理だわ。旧式魔法って古代の人が使ってたから、その殆どは狩猟や採取目的の攻撃魔法ばかりなのよ」
なんだってー。それは辛いー。でも諦めない。私の魔法使いの夢に大きく近づいたんだから、これから少しずつ覚えていこう。




