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171 女子高生も司令官と死神に頼られる

 休日の朝。暇だったから異世界へ遊びに来てたけど、何でか今はゴーストタウンの街、廃都に来てる。ここに来たのは以前に幽霊騒ぎでノイエンさんとキューちゃんと来て以来。

 そんな廃墟の街にある暗いお店の中で私とキューちゃんが椅子に座ってて、カウンター近くでケルちゃんが腕を組んで立ってる。央都でぶらぶらしてたら急にケルちゃんに拉致されたのが原因。それはキューちゃんも同じ。


「魔犬よ。こんな所に連れて来て一体何のつもりじゃ?」


 それは私も聞きたい所。


「ああ。少し頼みがあってここに連れて来た」


「お前さんが頼み事とは珍しいのう。大抵は自分で解決するのにじゃ?」


 それに人気のない所に来たのは誰にも聞かれたくないから?


「私1人ではどうにもならないからな。死神、これから私が話す内容を落ち着いて聞いて欲しい」


 私じゃなくてキューちゃんだけ? とりあえず黙って聞いてよう。


「あの魔女を起こそうと思う」


 呟くように、誰に聞こえるでもないくらいの声で言った。それを聞いたキューちゃんは素っ頓狂に「は?」って言ってる。


「我の耳がおかしくなったのかのう。魔女を起こす、と聞こえたぞ?」


「おかしくない。それで間違いない」


 そしたら一瞬だけ静寂が巡ったけど、キューちゃんが大きく溜息を吐いた。


「頭がおかしくなったのか? あんな奴を起こしたらこの世がどうなるか分かったものでないのじゃ」


「分かってる。だからこうして相談しているんだ」


 2人だけで納得してるけど全然話が見えない。


「えーっと、私にも分かるように話してくれたら嬉しいんですけど」


 ケルちゃんがキューちゃんに目配せして、頷いたから話し始めてくれた。


「ノラ殿も少しは知ってるだろうが、私達は魔族だ。それも魔王様に仕える側近の幹部」


 それは何となく聞いた。キューちゃんが死神で、ケルちゃんが魔犬?


「幹部は全員で3人いたのじゃ。そして魔王様が勇者と和解して以降、それぞれが道を違えたのじゃ」


「魔王様という一本柱がなくなったから組織がバラバラになった、とでも言うべきだな」


 それは2人を見て分かった。キューちゃんは変な扉を守って、ケルちゃんは治安維持組織に入った。長い間ずっと面識がなかったみたいだし。


「私と死神、そしてもう1人魔女と呼ばれる奴が魔王様の幹部だったんだ」


「ふむふむ」


「道を違えた私達だったがあいつだけは違った。というのも、少し違うか。ただ、あいつはあの日から深い眠りについたんだ」


「眠り?」


「ああ。城の中でずっと深い眠りに落ちている」


 ずっと? 人と道を共にするって約束をしたんだから、わざわざ眠りにつくっておかしい気もする。疑問符を浮かべてたらキューちゃんが続けてくれる。


「奴は曰く付きまでの人間嫌いでのう。魔王様の近くにいたのも人間を敵として戦えるのが大きな理由だったのじゃ。じゃが、それが破られて人間と共に歩むと魔王様が言い出した時はそれはもう暴れるくらいに大反対したのじゃ」


 それはとんでもなく癖のありそうな人だ。


「魔王様は何度も彼女を説得し続けたが結局その心を変えることはできなかった。そして失望と絶望の淵に立った魔女は自らに眠りの魔法をかけてこの世界で生きるのをやめたんだ」


 魔王様のお付きさんの生い立ちが皆壮絶過ぎて言葉に出せないんだけど。

 でもようやく話の意図が見えて来た。ケルちゃんはそんな人間嫌いの魔女さんを起こそうとしてるんだね。


「魔犬よ、我は絶対に反対じゃぞ。あんな奴をこの世に解き放ったらそれこそ魔王様の約束を破ってあやつは好き勝手をするに決まっておる。そうなれば何千という人間が犠牲になるのじゃ」


 ケルちゃんが眼を瞑ってる。それくらい幹部に上りつめた人はかなりの実力者みたい。

 実際2人が本気で人の敵になったら抑えるのはきっと無理。


「私もそう思うよ。もし魔女が目を覚まして人の敵となるなら、私は迷わずあいつを殺すだろう。今の私は魔王様の魔犬ではない。治安維持組織の総司令官だからだ」


 ケルちゃんは魔王様に従って人との道を選んだ。だからかつての旧友が相手でもそんな無慈悲な選択をしちゃう? そんなのって悲しいよ。


「だが最近になって思うんだ。本当にこのままでいいのか、と。あいつを眠りにつかせたままにしたとしても、あいつが目を覚まさない保証などどこにもない。あいつとまともに戦えば犠牲が出る。ならば早めに手を打つべきだ」


「お前さんの言いたいことは分かるがのう。じゃが実際何ができるのじゃ?」


 そしたらケルちゃんが私の方を見て来た。


「私も、人など低俗な輩と思っていたが……それでも変われた。いや、変わるきっかけをくれる奴がいた。だからあいつも変われるかもしれないと、そう思ったんだ」


 私まで連れてこられたのはつまりはそういう?

 キューちゃんは腕を組んで難しい顔をしてる。


「確かにノノムラ・ノラは普通の人間と違って可能性があるがのう。我もこやつだけは特別と思ったのじゃ」


「だろう?」


「じゃがのう。あやつの前に人間を連れてみるのじゃ。それこそノノムラ・ノラが危険に晒されるのじゃ。ノノムラ・ノラが死ぬなぞ我は許さんぞ?」


 えーキューちゃん私の事そこまで思ってくれてたの? うれしいー。でもまだ死にたくないなー。


「だからこうして頼んでいる。私とお前でノラ殿を全力で守るんだ」


 そう言われるとお姫様みたいだなー、って呑気に考えてる場合じゃない!


「えっと、話が進んでてすごく言いにくいんだけど、私、別にすごい説得方法があるとか、何か秘策があるわけでもないし、できる自信も一切ないよ?」


 2人がこっち見てくる。そもそも人を嫌ってるなら話すら聞いてもらえないだろうし、望みなんてほぼないみたいじゃない?


「きっと魔王様はあやつの幸せも願っていたじゃろう。最後のあの瞬間まで、魔女を説得していたのを覚えておるのじゃ。我も、叶うならばかつての友がこのまま無残に死ぬよりは前に進んで欲しいと思うのう」


「友を連れて帰ろう。あいつは今も夢の中に囚われている。だから現実に連れ戻すんだ。そしてこの世界にも生きる価値があると、教えなくてはならない」


 魔族の皆様は人の話を聞いてくれないみたいだね~。だったらいいもん、勝手に仕切っちゃうもん!


「よーし。魔女さん救出作戦決行だね~」


 ここまで来たら私も腹を括っちゃうよ。

 それに大切な友達と離れ離れになるのは辛いって、絶対思うから。


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