169 女子高生も作家の手伝いをする
学校の帰り道。今日も異世界転移~。これは神様からの買い食い許可だね、そうに違いない。出店に行こうかなー、シロちゃんのパン屋も捨てがたい。
「むむ、あれは」
城壁屋上ベンチ前に大きなキャンバス発見。これは知り合いの予感。早速階段をあがってみよう。そしたら外の景色を前にフーカちゃんが絵を描いてた。グラサンに帽子を被ってるせいでいつもより大人びて見える。
キャンバスにはスライム牧場と街道と草原の風景を空も含めてしっかりと再現してて、とっても綺麗。
「相変わらず絵が上手だね~」
「ほえ? って、ノーちゃん~。もー驚かさないでよ」
足音立てて近づいたんだけど気づかないくらい集中してたんだね。
「ずっと絵を描いてたの?」
「ん? まだ昼くらいだよね?」
「もう夕方だよ~」
「うわ、本当だ。全然気づかなかった」
懐中時計を見て驚いてる。
「絵を描くの本当に好きなんだね」
「もう描く必要もないんだけど綺麗な景色を見たらついついね」
「好きならずっと描いたらいいんじゃない?」
「ふふ、そうだね。こうして絵を描く私もまた自由だから」
フーカちゃんと会うたびに自由って言葉を言ってる気がする。余程それに憧れがあったんだね。
「そうなったらこれからは絵で稼いでいくつもり?」
こんなに絵が上手なら買ってくれる人も沢山いそう。
「あーこれは趣味みたいだからあんまりかな。人に見せたくないし」
もろ見ちゃってるんだけど。なんなら家の奴も一杯見ちゃったし。
「となると作家さん?」
勇者物語を新訳して結構売れてるって聞いた。
「そうなるのかなぁ。正直、作家は向いてないと思うんだよね」
「そうなの? リリも大ファンだよ?」
「元々題材がよかったから運よく成功しただけで、私が自分で自作したらきっとつまらない話しか書けないよ」
そう思わないけどなぁ。
「でも食い扶持も必要なんだよね。あの本を出しただけの稼ぎなんてすぐに底をつくだろうし。けどお話なんて書けないよ。絵だって風景や模写みたいに元々あるものしか描いたことないから、そういう創作が苦手なんだと思う」
「だったら身近な人を題材にしてみるのはどう?」
人の一生は一冊のおとぎ話だって有名な童話作家の名言。事実は小説よりも奇なりで、実体験の方が面白いお話になりやすいかもしれない。
「身近な人かぁ、なるほどね。じゃあ空都に突如現れた謎の女性によって、今まで閉ざされていた都の価値観が変わっていく話なんてどう?」
それ完全に私だよねー。
「私を題材にするのー?」
「ノーちゃんがそう言ったんじゃない」
それはそうだけど。
「分かった。こういうのはすごい人生を歩んでそうな人に聞くのがいいかもね」
「どゆこと?」
「付いて来て~」
というわけで突撃取材だ~。
※魔術学園学長室※
「で、今日もまた面倒ごとってわけかい、ノラ?」
椅子に座って丸い眼鏡をして三角帽子を被ったおばあちゃんこと、ノイエンさんの所にやってきた。
「今日は、普通です」
「それはあたしが判定してやろう」
いい加減ノイエンさんも私が来ると事情を察してきてるね。
「実はノーちゃんがこっちで稼ぐ為に本を出そうとしてるんですけど、いいお話が思いつかないそうなのでとんでもな実体験をしてそうな人に経験談を聞こうって魂胆です」
「やっぱり面倒じゃないかい」
えーお話聞きに来ただけなのに~。
「あんた、空都の女王の娘だろ? 別にお金なんかに困ってないんじゃないかい?」
「ええっと。あんまりお母様には頼りたくないというか、なんというか」
ごにょごにょ言ってる。あれから仲直りもしたと思うけど、やっぱり今までのこともあるからあまり頼りたくないのかもしれない。
「反抗期って奴かい。ま、気持ちは分かるけどね。あたしもあんたくらいの時は1人で生きてたからね」
「そうなんですか?」
「ああ。リガーの葉っぱを残したのが原因で親と喧嘩して家出してやったのさ」
なんてくだらない理由って思ったけど、喧嘩する時って大抵はそんなものだよね。
「ノイエンさんなら派手な冒険してそうです。道を塞ぐ岩を破壊したり、魔物を従えたり」
「岩はさすがにないねぇ。山を吹き飛ばしたことならあるけどね」
そっちの方が大変なんだけど。フーカちゃんも驚きで慌ててるし。
「大体そういうのはあたし何かよりもあんたの方が余程適任じゃないかい」
私の方に羽ペンを向けてくる。
「なんの力も持たない奴があたしと知り合いになって、総司令官ともお近づきになって、はたまた死神様とも仲良くなってたね? 東都で有名な研究家に、西都で知らぬ者はいない歌姫とも仲がいい。最近なら空都のお姫様も追加するかい? それでいて孤児や身近な揉め事にすぐ首を突っ込む。今はいないが竜も育ててるんだよ、この子は」
いやーそれほどでもーって感じなんだけどね。運がよかったっていうのもあるし。
フーカちゃんは驚いてあわあわしてる。
「しかもそれらがこの短い期間で行ったっていうんだから、さすがのあたしも参るよ。あたしですら今の地位に上り詰めるのにかなり時間を労したっていうのにねぇ」
それに関しては今も女子高生だから問題ないと思う。
「分かった! 私、ノーちゃんの話書く! もっとノーちゃんのこと教えて!」
ぐいぐい近くに寄って来る。これは創作と関係ない意味だよねー、ちょっとー、顔が近いですよー。
「失礼しまーす。フェルラ先生―、頼まれた書類まとめて持って……」
中に入って来たリリの足が止まった。
「ちょっ、ちょっと! ノノにリッケさん!? 神聖な学長室で何やってるんですか!? フェルラ先生も注意してください!」
「何もしてないじゃないか」
「こんなに顔を近づけて……キ……キス……ああもう! ノノの馬鹿―!」
リリが凄い勢いで出て行っちゃった。しかも書類持ったまま。
「フーカちゃん、少し離れようね。誤解招くから」
「どうして?」
本気で分かってなさそうな目。羞恥心もないみたいだし、この子は一度あれやこれを覚える必要があると思う。うん。




