16 女子高生も異世界でバイトをする
今日は祝日だからリンリンとコルちゃんも一緒に異世界に来た。夜にラインでフランちゃんやレティちゃんのことを話したら会いたいって即答されたのが発端。せっかくだから瑠璃も鞄に入れて連れて来てる。
道も覚えてきたから店のある通りまで歩いて洋服の看板を発見した。
一呼吸を置いてから扉を開ける。
「いらっしゃいませー♪」
「こんにちはー」
「ノノムラさん!」
丁度お客さんが来てないタイミングだったみたいでフランちゃんがカウンターからパタパタと飛び出してきてくれる。相変わらずウサ耳パーカーを崩して着ててかわいい。
「約束通り友達連れてきたよ」
「空井琥瑠と申します」
「如月燐だよ。宜しくね」
「は、はい。私はフラウス・クロンケルと言います」
3人仲良くお辞儀して微笑ましい光景。
顔を上げたフランちゃんだけど、私達の服をマジマジと見てる。今日は休みだったから全員私服。私はぶかぶかの白のブラウスにベージュのチノパン。コルちゃんは白のトップスにワイドパンツ。リンリンは黒のノースリーブに黒パンツ。
「す、すごいです。また知らない生地。見たいよぉ、見たいよぉ」
皆の周りをチョロチョロ回って狐耳を動かしてる。尻尾はロングスカートに隠れてるから見えないけど多分動いてる?
そうこうしてる間に客が入ってきたからフランちゃんは慌ててカウンターに戻った。
でもモジモジしながら視線はずっとこっちを見てる。
「これ見て。動物パーカーだってさ」
「まぁ可愛いですね」
フランちゃんが着てるような兎やリス、他にも死神やドラゴンといったデザインもある。耳や袖の部分が細かくて、個人的にどれも無地なのがいいと思う。
「マントとかも格好いいな」
リンリンが赤いマントを羽織ってみる。黒ベースの服だから普通に似合ってる。
「この帽子もいいですね」
帽子の先が肩まで垂れてるのを被るコルちゃん。うん、可愛い。
瑠璃は食べ物もなくて退屈そうに欠伸ばかりしてる。
「あーこれもいいなぁ。ってそういえばお金もってないんだった」
「わたしもです」
2人ががっくりと項垂れてる。買ってあげようかな、そう思ってるとお客さんが入ってくる。
女性客が続々と来てフランちゃんが大変そうになっていた。客の呼び出しや質問もされて大慌て。
「んー、手伝ってあげる?」
「バイトか」
「そうそう。それにフランちゃんは私達の服がみたそうだし一石二鳥?」
なんとなくの思いつきで口にすると一息付いたフランちゃんがこっちに来た。
「是非助けてください! 私1人だと大変ですー」
確かに1人で経営するのは大変だろうね。3人で協力しようと思った矢先。
「フランー! お水止められました! 貸してください!」
扉をバーンと開けてはレティちゃんが威勢よく叫んだ。お客さんやリンリン、コルちゃんの視線に気付いてレティちゃんが頭を下げて申し訳なさそうにしてる。
「あ、ノラ様じゃないですか。お久し振りです!」
久し振りというほどの日は経ってないと思うけど。
「こんにちは。今日は友達も一緒だよ」
3人が自己紹介をするとレティちゃんがメモ帳を取り出す。
「リン様とコル様ですねー。覚えました。これはお近付きの印です。どうぞ宜しくお願いします」
ポケットから紙を取り出して割引券を渡してる。ご丁寧にどこの店かの地図まで簡単に書いてある。レティちゃんは本当に勤勉。
「それで今日は皆さんでお買い物ですか?」
「うん。でもお金ないから手伝いしようと思って」
見ればお客さんの数がどんどん増えてる。既に会計に行列が出来あがってる。
「そうですかー。私の所はいつでもウェルカム、ですよ?」
レティちゃんが少し寂しそうに話す。んー、こう言われると断れないなぁ。
「じゃあ私がレティちゃんの所手伝ってくる」
「了解っと。くれぐれも勝手に現実に帰らないでくれよ」
「警察沙汰になってしまいます」
そうだった。でも神様も空気よんでくれると思うから多分大丈夫?
「ではではノラ様ご案内ー」
「お水は大丈夫なの?」
「忘れてました」
レティちゃんがパタパタと走ってフランちゃんに耳打ちしてから奥へと消える。
すぐにバケツ一杯に水を入れて戻って来た。扉を開けてあげて目の前の道具屋に足を運ぶ。
店内に客はいなくてカウンターの上には炊飯器くらいの釜が置いてある。周りには多様な薬草が並んでた。
「散らかっててすみません。丁度調合中だったものですから」
それでお水が必要だったのかな。
「私は何手伝ったらいい?」
「そうですねー。お客様が入ってきたら紙吹雪を散らしてください」
レティちゃんは棚の中からザルを取り出して細切れのピンクの紙を手渡してくる。
「それで100人目のお客様と言って割引券を渡してください」
何枚もの割引券を渡される。
「ずっと疑問だったんだけど、そんなにセールして大丈夫なの?」
レティちゃんは釜の中に水を入れて、薬草をボウルの中に入れて麺棒で潰していく。
「あんまり景気はよくないですねー。客足も少ないですし、水道もよく止められます」
すり潰した薬草を釜に入れると次に白い粉、紫の粉、青い粉を混ぜていく。
ドロドロの液体になるけど、最後に水色の透明の液体を入れてた。あ、それってもしかしてスライムの粘液?
窓の外に目を向けると洋服店の前でリスのパーカーを来たコルちゃんが客寄せをしてる。
効果抜群なのか更に客が増えてる。
「それならどうしてセールするの?」
レティちゃんの薬はきっとどれも効き目がいい。国からも表彰されるくらいだし、今も開発してるし。
レティちゃんは釜の中の液体を混ぜながら遠い目をしていた。
「例えばノラ様は道端で困っている人がいたらどうしますか?」
「んー、とりあえず話しかけるかな」
「そうですね。それでその人が空腹で倒れそうだとします。でも食べ物を買うお金もありません。どうしますか?」
「食べ物を分けてあげるかな」
「そうですよね……」
レティちゃんは少し声を沈ませた。あれ、間違った答えだったのかな。
「ノラ様は私と同じ考えで少し安心しました。ですが、それって商売をする上で間違っているんですよ。例えお金がなくても格安で売る。或いは後日に請求できるようにする。勿論その人の生活の限度はあるでしょう。でも無償で提供するというのは間違っています」
レティちゃんは釜を一通り混ぜ終わるとそれをコップの中に注ぐ。野菜ジュースみたいなドロッとした液体。
「もしも自分の商品を困ってる人に無償で提供するとどうなりますか? あの人にはタダであげたのにどうして私は、という問題が発生します。だから商売というのは常に平等でなくてはなりません。でも私は自分の薬を本当に困ってる人に使って欲しい。だから格安で売ってるんです。それが経営の赤字になったとしても」
レティちゃんがコップを私に差し出してくれる。お礼を言ってから一口飲んだ。見た目より苦味は全然なくてほんのり甘い。瑠璃にも上げると表情を緩ませてゴクゴク飲んでる。
こんなに美味しい飲み物を作れて、薬も作れて、それを人の為に使う。
レティちゃんの志は立派だった。でもそれは同時に自分の生活を犠牲にしてる。
値引きなんてしなくても、薬を買ってくれる人は沢山いると思う。でもレティちゃんは僅かな貧困者の為に安くする正当性を作って割引やセールをしてる。
なんでだろう、涙が溢れてきた。
「ノ、ノラ様!?」
「ごめんね。すごく胸に響いたから」
「そんな、こちらこそすみません。これは私の身勝手さ故ですから。よくお師匠様にも怒られます。お前は甘過ぎるって」
それでも私はレティちゃんの助けになりたいと思った。鞄を置いて意を決したよ。
「ねぇ、こっちの棚にあるクリームは何かな?」
小さな丸い箱がいくつも並んでる。文字が書かれてるけど読めない。
「そちらは美容のクリームですね。他にも肌荒れ防止や皺のたるみを抑えるものもあります」
「これ、ちょっと借りてもいい?」
「いいですが、どうされるのです?」
「ライバル店の真似をする」
レティちゃんが首を傾てるけど店を出て宣伝の準備をする。
コルちゃんはも外で勧誘してるみたいで手を振ってくれたから振り返しておこう。
よしっ、頑張ろう。
ターゲットは女性。それでいて時間に余裕のありそうな人。
「あの~、少しいいですか?」
買い物帰りであろうと大人の女性さんに声をかけてみる。
「あら何かしら?」
「丁度スキンケアクリームの試作品が出来たのですが、試しに使ってみませんか?」
丸い箱を開けると透明のクリーム溜まっている。ここでもスライム粘液が使われてる。
万能素材かな?
「良い香りね。使っていいの?」
「はい。もし気に入って頂けたら製品が店内にあります」
その人は袋を一度地面に置いてからクリームを手に塗る。クリームは一瞬で溶け込みツヤを出していた。
「あら凄いわ。こんなの売ってるのね」
「今なら初回サービスで値引きいたしますよ」
ここぞとばかりにクーポン券を差し出す。そしたら喜んでくれて店の中に入っていってくれた。
よかった、上手くいったみたい。この前通販の番組で初回無料や半額にしてるのを思い出して試してみた。最初は安いけど次からは通常の価格になる。
それならレティちゃんの考えも否定しないし、儲けも両立できると思う。
「あのー、それって私でも使えますかぁ?」
目の前に化粧の濃いトカゲ頭の人が寄ってくる。んー、これって爬虫類にも使えるの?
多分、レティちゃんの薬に後遺症や副作用はない、と信じる。
「試しに使ってみますか?」
トカゲさんが爪に少しクリームを付けて鱗を塗っていく。まるで光沢がかったみたいにピカピカになった。トカゲさんが驚いてたけど私も内心驚いちゃう。
「凄いわ! これ売ってるのよね?」
「はい。初回サービスで割引もしてますよ」
笑顔を忘れずに割引券を渡すとまたまた客が入っていく。
それから地道な勧誘を続けて、時には瑠璃を使って街中に紙をばら撒いてもらって集客は順調に進んだ、と思う。




