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166 女子高生も看病する

 今日も今日とて異世界。今日は何しよっかなー。ふらふらーって歩いてる。


「おーい、そこの綺麗な嬢ちゃん」


 出店の所を歩いてたらリガーを売ってる鳥の店長さんに声をかけられちゃった。

 何か用事かな? 行ってみよう。


「店長さん、こんにちは~。今日もリガー沢山ですね」


 箱一杯に新鮮なリガーが積んである。つやつやの赤色。


「はっは! 相変わらず褒め上手だな。買ってくれたっていいんだぜ?」


「ん~、じゃあ2つ買います」


「毎度!」


 2つって言ったのにさりげなく袋に3つ入れてくれるのが店長さんのいい所。


「それで私に用事でもありました?」


 店長さんから声かけてくるって珍しいし。


「いやー、用事ってわけでもないんだけどな。ほら、最近嬢ちゃんあんまり店に来てくれてなかっただろ?」


 そういえばあんまり来てなかった気がする。つまり寂しかったと?

 ふふーん、店長さんも意外とかわいい所あるんだね。


「おはようですー。今日の荷物持ってきたですー」


 ぱたぱたって足音が聞こえて、隣にシャムちゃんがやってきた。ランドセルみたいな鞄を背中に背負って中から小さな木箱を取り出して地面に置くとそれが急に大きくなりだした。


「いつもありがとよ。代金だ」


「ありがとですー」


 シャムちゃんはお金を受け取ってすぐに振り返った。あれ、私に気づいてない?

 背中を見送ってたら妙にふらふらしてるような……。

 そしたら急に地面に倒れた! 大変!


「シャムちゃん!」


 駆け寄って抱き起したら顔が赤くなってる。額に手をおいてみる。熱い!

 これ、風邪引いてるよ!


「シャムちゃん、具合悪いのに無理しちゃダメだよ」


「何言ってやがるです。荷物を待ってくれてる人がいるです。休んでる暇なんて……」


 無理して起き上がろうとするけど手を引いて止めた。そしたら私の胸にぽとんと寄りかかって意識がなくなったみたい。かなり疲労も溜まってそう。


「店長さん、あの!」


「分かってる。運び屋のあいつとは知り合いだ。しっかり振り落とされるなよ!」


 そう言われて大きな手を広げてばさばさ飛んだ! 最近空の旅が多いなー。何て言ってる場合じゃないけど!



 ※シャム宅※



「ん。あ、れ、ここはどこでやがる、です?」


 シャムちゃんがベッドから体を起こして目を覚ましてくれた。


「ここ、ボクの部屋です! なんで!?」


「運び屋の店長さんに言ったんだよ。店長さんも暫く休めって。仕事は代わりの人がしてくれるって言ってたよ」


 私が看病するって言ったら家も教えてくれた。ムツキが住んでる住宅街の別のマンションの一室。鳥の店長さんも協力してくれたからすぐだったけどね。


「そうだった、でやがるですか。わりーことさせたです」


 シャムちゃんがシュンとしてる。仕事には真面目そうだからね。


「仕方ないよ、大変な仕事だし。何か作ってあげるよ。厨房借りていい?」


 コクッて頷いてくれた。現実と違って道具の殆どは魔道具みたいだけど、気合で頑張ろう。


「ありがとーです。実は朝から何も食べてねーです」


 そんなことをしてたら倒れるのも無理ないよ。


「シャムちゃん、アンセスさんのこと言えないよ?」


「返す言葉もないです」


 今日はいつになくしおらしいね。自分でも分かってるならいいんだけどね。


「食べたいのある? 今日の私は優しいから何でも応えるよ~」


「今日も、の間違いでやがるです。でも、そうです。だったら果物のソースとスラースを混ぜたパンを挟んだ甘々な奴が食いたいです」


 こんな状況でも甘い物を求めるなんて。そんなの食べても絶対に体が回復しないってのは分かる。


「んー、分かった。少し横になっててね」


 調理開始―、なんだけど鍋はあるけど火はどうやって点けるんだっけ。あ、これシロちゃんの所で使ってたやつかな。煙突の付いた箱だからきっとそう。

 煙突部分の蓋を閉じて引っ張ったら、うん点いた。よし、次は食材を洗って切っていこう。



 ※30分後※



「できたよ~」


「ありがと、です。って、スープです!?」


 肉とか野菜を入れて煮込んだスープ。出汁はマンダースとか色々入れて作った。味見を何回もしたから多分大丈夫。


「ちゃんと食べないと回復しないよ?」


「うぅ」


「熱いし食べさせてあげよっか?」


「自分で食べれるです」


 シャムちゃんが起きてきて、ふーふーしながらスープ飲んでる。お味は大丈夫かな~。


「……悪くないです。ノノムラにしてはやるです」


 それはよかった。


「あと、こういうのも作ってみたよ~」


 さっき鳥さんの所で買ったリガーを切り分けてスラースをかけてみた。美味しいかは分からない。


「もしかしてボクが言ったのを気にして?」


「えへへー」


 パンもソースもないから完全に別物だけどね。


 シャムちゃん、食欲はちゃんとあるみたいでぱくぱく食べてくれた。これなら回復するのも早そうだね。


「ノノムラには迷惑かけたです。この借りは返すです」


「借りなんて気にしなくていいよ。私がしたくてやったんだから」


「本当お節介が好きでやがるです。でも多分もう大丈夫です。頭はぼうっとするけど、明日には回復するです」


「だめだめ。ちゃんとゆっくりして回復してからでないと認めないからね。次倒れたら本気で怒るよ?」


 今なら前に風邪で私が寝込んだ時のお母さんの気持ちがよくわかる。やっぱり無理するのはよくないね。


「うぅ、仕方ねーです」


 それで少ししたら外の方でバタバタって駆けてくる騒がしい音がして、家の扉がこんこん叩かれてる。


「シャム生きてる~?」


「シャムはしぶといから死にませんよ、きっと」


「風邪って言ってたのです」


 この騒がしさはお見舞いかなー。とりあえず出て行こう。ドアを開けたらレティちゃん、フランちゃん、シロちゃんが大きな袋を持って立ってた。


「わわ、ノラ様!」


「皆も来てくれたんだね。シャムちゃん、皆来てくれたよ~」


 ぞろぞろと家に上がって来ては様子を伺ってる。


「シャム、大丈夫なのです?」


「平気です。ちょっと疲れがたまっただけです」


「シャムは働きすぎだからねー。レティくらいのんびりしないとダメだよ」


「フラン!? 私だって最近はそこそこ頑張ってるんですけど!」


 人が増えると賑やかになるねー。


「病人が前だから静かにね~」


「す、すみません。ついつい。えっと、シャムの為に薬を持ってきました。後で飲んでくださいね」


「私はあったかくする毛布持ってきたよ」


「私はパンを焼いて来たのです!」


 皆がそれぞれのお見舞い品を机に置いていってる。シャムちゃんは布団で顔を隠しながら小声で「ありがとう」って言ってた。これは照れ隠し。


「ノノムラさんがいるみたいだし、もう行くね。レティがいるとシャムも気が休まらないよ」


「フラン、後でじっくり話をしましょう」


「ではでは失礼したのです~」


 嵐のように来て嵐のように去っちゃった。パタンってドアが閉じられて静かになっちゃう。


「大したことないのに、お節介な奴ばかりです」


「皆、心配だったんだよ」


 私含めてね。シャムちゃんは何も言わずに横になってた。私もお役御免かな。


「レティちゃんの薬もあるし、夕飯はシロちゃんのパンもあるし、もう大丈夫そうかな。ゆっくりできないと思うから私も行くよ」


 そしたら急にシャムちゃんがベッドから飛び起きて来た。


「ここまで看病して途中放棄なんて無責任で……けほけほ」


「あーほら、無理しちゃダメだってば」


 背中を支えて横にしてあげる。


「とにかく、ノノムラは帰っちゃダメです」


「少しだけだよ?」


「ん」


 本当、シャムちゃんはさみしがり屋なんだからね。


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