165 女子高生も占い師と仕立て屋と出かける
今日は久しぶりにフランちゃんのお店にやってきた。カランカランって音が鳴って店内に入ったらフランちゃんが誰かと話してる様子。相手は薄い黄色髪の美人なケモミミが垂れた人。狼みたいな尻尾があるから……ミコッちゃん?
「ノノムラさん、いらっしゃいませ」
「こんにちは~。ミコッちゃんも来てたんだねー」
ミコッちゃんが手をひらひらさせてくれる。
「それでこれの仕立てをお願いしたいのだけれどいいよね?」
ミコッちゃんが綺麗なひらひらしたドレスみたいなのを渡そうとしてる。半透明っぽくて妙にキラキラしてる。
「これってミコ様の踊り子の衣装です!?」
「そう。帰郷祭までにちゃんと直しておかないといけなくて」
ミコッちゃんは神様の神子がどうって聞いたから、その為の踊り手の衣装? ふむふむ。
「こういうのってお付きの祭祀様が直すと思うんですけど」
そしたらミコッちゃんがバツが悪そうに視線外してる。
「普通はね。前に帰った時に頼もうって思ったんだけど、最近村に帰ってなかったせいでやたらと引き止められたというか、なんというか。それで面倒になってあなたにお願いしたいの」
あれからちゃんと村に帰ってたんだ。またこっちに来たってことは説得して出て来た?
理由はなんとなく分かるけど。ミコトちゃんが心配なんだろうね。
「でもでも! 私何かが神子様の衣装を直すなんてしていいのかな?」
「私の知り合いで他に直せそうな人もいないし」
フランちゃんがすごく恐縮してる。フランちゃんが扱ってるのは大衆向けの一般服が殆どだし、こういう伝統衣装まではあんまり触ったことがないから委縮してるのかな。
「ミコッちゃん、でもこれって直す必要あるの?」
見た感じすごく綺麗で特にしわにもなってなさそうだし、目立った傷も汚れもなさそう。
帰郷祭で着るってことなら年に1度着るくらいだよね。これならクリーニングするだけでも大丈夫そうに見えるけど。
「ううん。ここほつれてるし、ここもちょっと傷ある」
指差して教えてくれるけど全然分かんない。
「あ、本当だ。確かにほつれてるね」
フランちゃんには分かったみたい。ケモミミさんは目がいいのかなー。
「神様の前で踊るから半端な衣装だとすぐ気づかれる。だからちゃんとしておかないといけない」
なるほど、それは大変だ。ていうか、何気に神子としての自分を自然に話してくれてるのがちょっと嬉しい。
「けどこれの素材って多分星屑綿だよね? 普通、星砕きが起きた時にしか採取できない素材だよ」
前にフランちゃんと渓流に行った時に取れた奴? すごく喜んでたのを覚えてる。
「その点は問題ない。今日は西都に行商人が来るらしくて星屑綿が目玉商品って客から聞いた。それであなたにその目利きをお願いしたい。私には品質の違いが分からないから」
「なら急がないと!」
目玉商品なら売り切れちゃうかもだからね~。
「ねぇねぇ、私も付いて行ってもいい?」
どうせ暇なんだよね。
「もちろん」
というわけで西都へレッツゴー。
※西都※
央都から西の樹海にある大樹のトンネルを抜けた先に西都がある。大自然に囲まれた森の街、そこが西都。緑豊かで空気も澄んでる~。
行商人の人はすぐに見つかった。街の入り口近くに大きな馬車を止めて風呂敷を敷いて店を構えてたから。行商人は外からの品を持ってきてくれるみたいで、結構人が集まってる。
「さぁさぁ、なんでも揃ってるよー。東都からの魔道具、南都から取れたての悪魔魚、他にも珍しい物がたくさん! 早い者勝ちだよー」
商売してるおじさんが声を出してる。皆で顔を出して風呂敷の商品を眺めて行く。確かに色んな商品が並んでるね。掘り出し物っていうだけだから私のポケットマネーではどれも手が届きそうにないお値段ばかりだけど。
「あれ、星屑綿はどこにあるの?」
フランちゃんが何度も首を振ってくまなく探してる。私も一度見たことあるから分かるけど、確かにここにはなさそう。
「あーお嬢ちゃん達、星屑綿が目当てだったのかい。けど残念だったな。入荷した分は全部もう完売しちまったよ」
店主の一言にフランちゃんが叫んでてミコッちゃんに至っては放心してる。
星砕きが起きた日にしか取れない超レア物らしいから皆欲しがるのかな。
「1つ、1つあればいいんです!」
「って言われてもな。ない物は売りようもないしよ」
「じゃあどこで採れたか教えてくれませんか!?」
「俺も仕入れただけでどこで採ったかまでは知らないんだよ」
フランちゃんががっくりうなだれちゃう。ミコッちゃんに至ってはカード占いしてる始末。結果は死神みたいで青ざめてる。
「どうしよう、ミコ様。これだと直せないよ」
「帰郷祭まで日はあるけど、次の星砕きまで待ってたら遅すぎるだろうし……。困った」
2人が唸ってる。これはなんとかしてあげたい。
「じゃあ星屑綿を探すしかないかな」
「えー、ノノムラさん無理だよー。前は偶然手に入ったけど闇雲に探しても絶対に見つからないよ」
「大丈夫大丈夫。ここに一杯人がいるでしょ? 1人くらい何か知ってる人がいるかも」
分からないなら聞く。これが鉄則だよね。
※30分経過※
西都に住んでる人に聞き込みしたけど、やっぱり星屑綿を見たって人はいなかった。そもそもそんな貴重な綿ならそのままにしておかずに採取して売っちゃうだろうから当然かも。
だからこの辺で大きな隕石が落下しなかったって聞いてみたけど、星砕きが起きたのも随分前だから覚えてる人は殆どいなかった。かなり厳しい状況。
「やっぱりこんなの無理だよ~」
「また死神……」
2人が絶望しきってる。
「まぁまぁ。でもちょっと気になる情報は手に入ったんだよ?」
「え、そうなの?」
「西都の人でもあんまり近づかない所があるんだって。森の奥深くに進んで行くと古代人が築いた文明の遺跡跡、古都があるんだって。考古学者くらいしか行かない所らしいよ」
五大都市が発展したのと同時に廃れていった都。古都はその1つって店主の人が教えてくれた。
「それと星屑綿と何の関係がある?」
「行商人が仕入れてもすぐに売り切れるくらいの貴重品だから仮に知ってても誰も教えてくれないと思うんだよね。となったら逆の視点で考えて人が誰も寄り付かない所にまだ残ってるのかなーって思って」
実際、渓流に行った時も山の頂上付近にあった。あんな所は滅多に人が来ない。
古都には考古学者しか寄らないって言うなら、仮に星屑綿を見つけてもそんな気にしないと思いたい。
「でも、可能性の話でしょ? それでなかったら?」
ミコッちゃんに言われる。それが問題。森の奥ってなったら往復するだけでも時間かかりそうだし。
「帰りに西都でぱーっとご飯食べて全部忘れる」
「どの道、どこかで可能性に賭けないとダメ、か。分かった、私はノラに従う」
「わ、私もここまで来たら付き合うよ! それに別のいい素材が見つかるかもだし!」
そうと決まったら古都を目指して出発進行~。
※1時間経過※
西都の森深く、ずっと歩き通し。時々休憩を挟みながら進んでる。人が通ってない道っていうのは手入れされてない草木を見て一目瞭然。でも獣道にしては雑草はそこまで伸びてない。森の雑草って何年も刈られてなかったら身長より高かったりするけど、ここの雑草は普通に踵くらいまでしかなくて安心。木々の葉が日を遮ってるのが原因かな?
「いつになったら付くんだろ~。私疲れて来たよ~」
「私も……」
後ろから悲痛な声が聞こえる。かくいう私も結構辛い。西都に行くだけでも結構な距離だけど更に奥に来てるからねー。
でもそんな時、視界にこの場に不自然な石の柱が見えた。緑色の苔がこびりついてトーテムポールみたいのが何本も奥へと続いてる。
「皆、元気出して。古都だよ!」
「わーいやったー」
「ここからが始まりなのね」
全然嬉しくなさそうなのが声で分かるから笑っちゃう。
トーテムポールを抜けた先は少し陽が照らしてた。丁度森の葉で遮られてない所みたいで明るくなった。そこには石の建造物がいくつもあって、地面も石を埋め込まれてタイルみたいにして歩きやすくされてる。
ただどれも随分古い物みたいで建造物は殆ど崩れてるし、地面もデコボコしてる。
「ここが古都かぁ」
「不思議な所ね。木があるのにわざわざ石を使うなんて変」
ミコッちゃんに言われて気付く。確かに周りにこんなにたくさんの木があるんだから、木で家を建てた方が楽だったのに、そうしなかったんだ。石の方が強度は高そうだけど、そういう所が考古学者さんを刺激するのかな?
「こんな所に星屑綿があるのかなぁ」
フランちゃんが不安そうに口にしてる。
「日当たりがいいってことは、草木の成長がいいってことだしきっとあるよ」
そう意気込んで言ってみたけど、実際探し回っても星屑綿は見つからなかった。
日当たりのいい所は全部見て回ったし、石の建物の中を覗いても蔦や雑草があるだけで何もない。
それで真っすぐ歩いて行った先に大きな三角形の石の建物があった。ピラミッド?
その大きさは周囲の木々よりも大きいみたいで階段もある。古い物だけどまだまだ頑丈そう。
「上から見たら何か分かるかも」
階段を上がって行ったら天辺は平たい床になってた。
「完全な緑ね」
木の上から見下ろしてる状態だからほぼ葉っぱしか見えない。これじゃあ何も見つからないかぁ。でも。
「すごく綺麗だと思わない? あそこに見えるのが樹塔だからあの辺に西都があるんだよ」
遠くに天高く伸びてる木を見つけた。時々吹く風が心地いい。2人も疲れたみたいでその場に座っちゃった。
こんなに高くしてあるのは昔の人が自分が住んでる所を見失わないようにするためだったのかな。なんて、学者っぽいかな。
「うぅ~、結局星屑綿見つからなかったよ~」
「今日はもうやけ食いする」
やっぱりそう簡単には見つからないよね。
端っこの方まで歩いてみる。柵も何もないから完全な断崖だ。昔の人はよくこんなの造ったね。って、あれ?
断崖になってる建物の石の隙間に何かキラキラしたのが見える。あれって……。
寝そべって手を伸ばしてみる。簡単に採れた。黄色い綿毛だ。ずっとここに残ってたみたいで掌に収まらないくらい大きい。
「えっ、ノラ、それって」
「うん。ここに咲いてた」
「星屑綿!?」
2人に見せたらまじまじと眺めてる。
「すごい……。これ、すごい品質がいいよ。これだけあったら十分直せるよ!」
よかった。これでここに来たのが無駄にならなかったね。
「あなたって本当にとんでもないわね」
見つけたのは偶々だけどね。とりあえずフランちゃんに渡したらバッグの中から袋を取り出してそれでしまってくれた。
「でもこれで一安心できる。そうだ、支払いがまだだった。これくらいでいい?」
ミコッちゃんが財布から金貨何枚も取り出してフランちゃんに渡そうとしてる。
そしたら首をぶんぶん横に振ってる。
「そんな! ミコ様から特別料金をいただけません!」
それを聞いてミコッちゃんが頬を膨らませてる。前にも特別扱いされて嫌って言ってたし、言った方がいい?
フランちゃんはすぐに続けた。
「ミコ様も同じお客様だから、他の人と同じ料金で請け負うよ。ミコ様だから多めにもらうなんてできない」
それを聞いてミコッちゃんが目を丸くしてた。フランちゃんも、この前言われたのをちゃんと気にしてたんだね。
「ありがとう、フラウス」
ミコッちゃんが名前で呼んだ! これはもう仲良しの証だね。
「ミコッちゃん、照れててかわいい~」
「ノラ、からかわないで。あなたにもお礼が必要ね。星屑綿見つけてくれたし」
「別にいいよ? 見つけたのも偶然だし」
「そうもいかない。帰りに西都でやけ食いするからその食事代を出してあげるのでどう?」
どの道、やけ食いする気でいたんだ。これはミコトちゃんの姉で間違いない。
「じゃあお言葉に甘えようかな?」
「決まり。フラウスも一緒にどう?」
「行く行く!」




