164 女子高生も央都大図書館へ行く
夏休みが終わって今日から学校が始まった。長い休みだったからまだ気が抜けてない人もたくさん。私もその1人。でも今日は午前中までだから問題なし。
だから異世界へゴー。
無事転移もできていつもの街並み。うん、やっぱりここが落ち着くね。
「ノーちゃん!」
どこからか覚えのある声がする。辺りを見回してもいない。
「うえうえ!」
そう言われて見上げたら黒い影が目の前に迫ってて空から青緑の髪の子にハグの奇襲をくらっちゃった。
「ノーちゃん、会いたかったー」
「久しぶり、っていうほどでもないかな。フーカちゃん」
「私は早く会いたくて仕方なかったよー」
人目を気にせずぎゅーってしてくるのがちょっと恥ずかしい。
「よく私が央都にいるって分かったね」
「この前来たすごい魔法使いのおばあさんから聞いたんだ」
ノイエンさんのことかな。なるー。
「ということは本当に自由になれたんだね、おめでとう」
「これからはこの空を好きなだけ飛び回れる。だからね、すごく気分がよくて、それを伝えたかったからノーちゃんに会いたかったの」
それは嬉しい限りだよー。こんなに愛情深い子とは思ってなかった。
「じゃあ一緒に街を見て回る? 央都は初めてだよね」
「回る!」
これで今日の予定はもう埋まったね。フーカちゃんはテンションあげあげみたいで、飛びながら来てる。人目を気にしていないのがちょっと心配なんだけど。
「フーカちゃん、さすがに街では降りた方がいいと思うけど」
「どうして?」
首を傾げて本気で分かってなさそう。
「えっと、ほら下からだと服の中が見えるし」
スカートをはいてるから今も見上げたら下着が見えそうになってる。
そう警告したんだけど今も首を傾げてる。
「別に服の中には何もないよ?」
そういって服の袖を掴んであげようとするから慌てて止めたよ。この子に羞恥心はないのですかー。
空都だと皆空を飛び回ってるからそういう感覚が分からないのかな。うーん。
「とにかく、女の子が人前で飛ぶのは禁止。分かった?」
「はーい。それも地上ならではの感覚なんだね」
そう言って地面に降りてくれた。
「ま、でもこうやってノーちゃんの隣を歩くのも悪くないね」
にこにこしてるけど、これは当面面倒を見てあげないと大変なことになりそうだね。
「あれー、もしかしてノノ?」
「リリだー、こんー」
街中で金髪美少女とばったり遭遇。
「そちらは知らない人ね。新しい友達?」
「そうだよー、フーカちゃんだよ」
「フーカ・リッケ。よろしくねー」
「リリアンナ・リリルよ。よろし……え? フーカ・リッケ?」
リリがきょとんとしたかと思うとすごい勢いでフーカちゃんに詰め寄ってた。
「フーカ・リッケってあのフーカ・リッケ!?」
「どのフーカ・リッケかは知らないけど、私はフーカ・リッケ」
「あのあの! 勇者物語新訳出版しましたよね!?」
「そんなこともしたね」
「やっぱり! 私、大ファンなんです! サインください!」
いつになく目をきらきらさせてる。こんなリリは珍しい。そういえば最近ハマってるって言ってたような。
リリがノート差し出してたからフーカちゃんはそこにすらすらー小さな絵を描いてた。スライム? デフォルメされててなんかかわいい。
「ほわぁ! これはもう家宝になるわ!」
「それは嬉しいね。うん」
フーカちゃんは若干苦笑いしてるけど、これは多分リリの反応にじゃなくて、自分の書いた本に対してだと思う。自暴自棄になった時に書いたって言ってた気がする。
「まだ若い人だとは思ってたけど、まさか私とそんなに歳が変わらなそうなのは驚きね。それであんな面白い本を出せるなんて益々ファンになりそう。ていうか、ノノは何でいつもこんな有名人ばかりと知り合いになってるのよ! 前に海に行った時も総司令官の人と仲良くしてたし、フェルラ先生とも仲いいし!」
そう言われましても半分成り行きとしか言えないんだよね。
「あなたが思ってるほど、私はすごい人じゃないけどね。あの本を書いたのも、自分に戦う勇気が欲しかっただけだったから。結局、その勇気は現実では得られなかった。まぁでも、本物の勇者は現れてくれたけど」
フーカちゃんは私の方を見てくる。私のこと?
リリは何も分からなそうに首を傾げてる。
「リリ、今日は学園お休み?」
「そうね。丁度実技試験が終わって一息終わった所よ。だからノノと遊ぶ!」
「だったら、おすすめの場所教えて~。フーカちゃんも央都が初めてなんだ~」
「もー。ノノは初めてじゃないでしょ」
それでもまだまだ知らない所が沢山あるから異世界はいつ来ても飽きない。
「それなら央都大図書館に行かない?」
「へー、図書館があるんだ」
「そうよ、色んな物語から論文や研究資料まで何でも揃ってるの。リッケさんもきっと気に入ってくれると思う!」
「それは気になるかも」
というわけで早速大図書館に向かって出発。
噴水広場を北に進んで天球塔のある所の十字路を右に曲がる。ちょっと高級そうな住宅街の所をまっすぐ進んで、そこを抜けたらまた大通りに来る。更に北へと進んだらコンサートホールみたいな大きな建物が見えて来た。
「あそこが央都大図書館よ」
橙色のレンガで出来たような建物に近付いて巨人が使うのかってくらい大きな扉があって、それが開いたままになってた。足を踏み入れた先にはなんとも驚きの光景。
本、本、本!
壁にびっしりと天井近くまで棚が伸びてて本が所狭しと入ってる。階層の仕切りがなくて、外周の所に足場がある感じ。つまり5階くらいまでありそうな高さが下から上まで全部見通せる。1階には通りに本棚がいくつもあって、まさに大図書館。
「ほえー、ここがこっちでの図書館なんだね」
時々本が空を飛んでるのは気のせい?
「知識を得るにはまず本から。ここには古今東西のあらゆる文献が揃ってるわ。だから魔術学園の人はもちろん、色んな職種の人が足を運んでるわ。これだけの資料があるのだからそれこそ全部読破するには一生かかっても足りないでしょうね」
パッと見ただけでも何千万冊ってありそう。
「すご……。地上の人ってこんなにも物書きがいるんだ」
フーカちゃんが近くの本棚をまじまじと眺めて言ってる。
「でもこんなに本があると目当ての本を探すのが大変そう」
現実だと機械で管理されてるから調べたらすぐに出てくるけど。
「上の階にあるのは大体論文や資料ばかりで、大衆小説みたいなのは殆ど1階にあるわ」
「リリ、詳しいね。よく通ってるの?」
「授業で分からない所や魔法でうまくいかなかったら時々来るわね。先生の説明も分かりやすいけど、文字でじっくり勉強した方が頭に入りやすいの」
これは勤勉なお嬢様だね~。
「それに息抜きに物語を読むのも楽しいし。リッケさんの本もここで見つけたのが始まりなの。確かこの本棚の……あったあった」
リリが指さしたのは本棚のすごい上の方。本棚だけど私が爪先立ちして背伸びしても全然届きそうにない。ぷるぷると手を震わせてたら、リリが指をくいってして本を落としてくれた。なるほど、風魔法で落とせば楽かー。いいなー。
本を取ったらタイトルにイラストもなくて異世界の文字で勇者物語って書いてある。下の方には訳・フーカ・リッケってなってる。
「改めて自分の本を見るとちょっと恥ずかしいね」
フーカちゃんが赤面してる。こういうのってあんまり友達に知られたくないだろうしね。
中身をぱらぱらって見てみる。異世界の文字だけど何となくだけど読めそう。前だったら一文すら読めなかったけど、今なら読めるかもしれない。
「リリ、これって借りられないかな」
「大丈夫よ。私の名義で借りれば問題ないわね」
「ありがとう」
「ノーちゃん、あんまり期待しないでね? 原文をちょっと改変しただけだし」
「フーカちゃんが書いた本が読みたいってのもあるんだけど、こっちの文字もまだ完璧じゃないの。だからその勉強もかねて読もうかなって」
分からない言葉が出てきたらメモしてリリに聞けばいいからね。
「本っ当に面白いから絶対おすすめよ! 私が保証するわ!」
らしいから期待していいのかな? ファンタジー系なら私でも手軽に読めそうだしね。
「私も何か借りよっかなー。って、あれリッケさんは?」
リリがキョロキョロしてる。ついさっきまでいたのに近くにいない。
何となく上を見てみる。そしたら本棚の上の方で飛びながら本を読んでる。
見事なまでに下着が丸見え。
「フーカちゃんー、降りてー」
注目を浴びないように小声で言ったら、すぐに降りてくれた。ほっ。
「リッケさん、浮遊魔法使えるの!?」
フーカちゃんが首を傾げてる。そういえば普通の人には羽が見えないんだっけ。それで魔法と勘違いした感じかな。
「魔法じゃないけどね。普通に空を飛べるだけ」
「それはそれですごいんだけど!」
リリがどんどんフーカちゃんのファンになっていく。
「フーカちゃん、気になった本でもあったの?」
「うん」
そう言って見せてくれたのは世界の観光名所っていうタイトルで中身は色んな名所の風景画が乗ってる本だった。これは西都にある高い木、樹塔かな?
「こっちは知らない所だらけだから、まずはこの世界を知りたい。それで気になった所はすぐに行く」
完全に自由を謳歌してる。やっぱり羽があるとどこにでも行けるんだろうなぁ。いいなぁ。
「あれ、もしかしてリッケさんってこの国の人じゃないの?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」
「うん?」
まるでなぞなぞみたいに言うからリリが疑問符浮かべてる。言いたい意味は私には分かるけどね。
「その答えはきっとすぐに分かるだろうけどね」
自分の好きな作家さんが天使って知ったら一生の推しになるかもしれないけど。




