163 女子高生も漫才をする
夏休みもいよいよ最終日になっちゃった。空都の存在が公になって、ノイエンさんやケルちゃんに説明してバタバタしてたのが原因。ノイエンさんは私の説明聞いてももう驚きもしてなかったけど、ちゃんと動いてくれて感謝しかないよ。
これでフーカちゃんは本当に自由になれるはず。
「しかしノラノラと異世界来るのって結構久しぶりだなー」
「だねー」
今日はリンリンを誘って異世界の街を探索中。最後の休みだからゆっくり過ごしたい。
ぶらぶら適当に歩いてたら噴水広場の所まで来ちゃった。そしたら綺麗な歌声が聞こえてくる。目を向けたら白く水っぽい狐の耳がある子が歌を披露してる。フブちゃんだね。
その歌はどこか儚く悲しげで暗い感じ。いつものフブちゃんとは似ても似つかないけど、きっと本人が本当に歌いたいものだと思う。それに歌を聞き入って足を止めてる人もぽつぽついるし、投げ銭してる人もいる。
「最後まで聞いてくれてありがとう~。お腹が空いた方はここから先に行ったら美味しいパン屋があるからぜひよろしくね~」
歌い終わってぺこりってお辞儀してる。しっかりシロちゃんのお店も宣伝してて抜け目ない。
「フブちゃんおつかれ~」
「おー、ノラ君じゃないか。そちらは友人さん?」
「そうだよー、リンリンだよー」
「如月燐。よろしく」
「フブキ・クローニャと申す。よろしくたのもう!」
なんか背筋伸ばして敬礼してくる。これでもう友達同士だね。
「歌の調子よさそうだね」
「そうでもないよ。短いのしか歌えないからまだまだ克服中って所」
2番もある歌詞の1番だけって感じだったね。声が続かないって言ってたけど、でも前向きそうでよかった。
「さて、私はお腹空いてシロの所に帰るんだけど、君達もどう?」
「リンリン、パン食べていかない?」
「せっかくのお誘いだしな。それにしてもいつも思うが耳と尻尾あるって不思議だよな」
そう言ってリンリンがフブちゃんの真っ白な尻尾を触ってる。そしたらフブちゃんが飛び跳ねてた。
「のわー! ちょっとリン君! 急に触るなんて聞いてないよ!」
「そうだよ、リンリン。こういうのは許可を取ってから触るものなんだよ。じゃあ触るねー」
「ほわー! 私の尻尾は感度高いから本当やめて!」
はぁ、もふもふ気持ちい。幸せー。
と思ったけどフブちゃんが走って逃げて行っちゃった。
そんなこんなでシロちゃんのパン屋さんに到着!
「キタキタキツネー! ノララなのですー!」
「ノララだよー。それとリリーンもいるんだよー」
「私はリンだが」
「ノララのお友達なのです! 初めましてなのです! モコ・シロイロです!」
シロちゃんが100度近いお辞儀をしてる。
「よろしくー。リンでいいから」
「はい! リリーン!」
「まじかよ、ノラのせいだろ」
多分私が言わなくてもそうなってたと思うから問題ない。店内は今日も焼き立てのパンの香ばしい匂いがしてお腹が空いちゃう。見回してたら奥の席でベージュのコートを着たピンク髪のミツェさん。別名歌姫さん。
「ミツェさんだ~。こんにちは~」
そしたらにこにこして手をひらひらしてくれる。大人の女性って感じがしていつ見ても優雅だね。
「シロちゃん、今日のおすすめのパンは何かな?」
「よく聞いてくれたのです! 今日は飛び切りの自信作があるのです!」
そう言って出されたのは紫色のジャムみたいなのが中に少しだけ見えてるパン。モイモイのパンだ。これが自信作? よく作ってるよね。
首を傾げてたらシロちゃんがすごくにこにこしてる。これは裏があるね。
「じゃあいただきまーす。ん、んん! つめたい!」
パンはふっくらしてホットだけど、モイモイのソースはすごく冷たくて甘い! ホットとアイスが混ざりあって、今までシロちゃんの所で食べて来たモイモイのパンとは全く別物になってる!
「シロちゃん、すごくおいしいよ!」
「ソースも程よく固まってるおかげで零れなくて食べやすいしな」
「実はつい最近、新しい魔道具を仕入れたのです!」
シロちゃんが両手で見せてきたから視線を送ったら、奥の方に黒くて四角い箱みたいのが置いてあった。
「冷凍できる魔道具なのです! レティがプレゼントしてくれたのです! おかげで作れるパンの幅が大きく広がったのです!」
そういえば前にアンセスさんに協力してシロちゃんに贈るって言ってたね。早速活用してくれてレティちゃんもアンセスさんも嬉しいだろうね。
「これがあればもっと多くの種類の菓子パンを作れるのです! レティには感謝してもしきれないです!」
「ふっふっふ。どうですか、うちのパン屋は。すごいでしょう?」
フブちゃんが腕を組んでドヤ顔してるけど、まぁ気にしない。
※そんなこんなで楽しい昼食の時間が過ぎて行く※
パンを食べさせてもらってゆっくりしてる所、フブちゃんが唸ってた。
「こんなに人が来てくれてるのだから何かもてなしたいね。シロ、一発芸でもしてよ」
「無茶ぶりなのです!?」
この2人は相変わらず仲良しだなぁ。
「リンリン、これは負けてられないよ。このままだと仲良し幼馴染ズの称号が奪われちゃうよ」
「いや知らんし、別にいらんし」
「というわけだからここに幼馴染対決を開催したいと思いまーす。勝負は簡単、私とリンリン、そっちはフブちゃんとシロちゃんがペアを組んで一杯ミツェさんを笑わせた方が勝ち!」
「話聞けよ」
隣でリンリンが何か言ってるけど聞こえなーい。ミツェさんも急に巻き込まれて自分を指さして驚いてるし。
「ほほう、いいね。その勝負乗った!」
さすがフブちゃん、のりのりだね。
「もう帰りたいのです……」
「しっかりしろ、店主。ここが家だろ」
「そうだったのです」
なんかもう勝手に違うコンビで漫才してるけど例外として許す。
「はいはーい。じゃあ先に私達がやるよ!」
「おっけー」
というわけで観客になろう。
「えぇ!? ていうか何するのです?」
「まぁまぁ。シロはいつも通りでいいから」
厨房の奥でごにょごにょと作戦会議が始まってる。がんばれー。
それで少ししたら前に出て来た。
「はーい、皆さんキタキタキツネー」
「キタキタキツネなのです!」
「って、キタキタキツネってなんじゃい! 新手の魔物か!」
「えーフブキ知らないのです? なら説明するです。キタキタキツネ。別名北北狐。名前の通り北に生息する狐なのです。元々はキタキツネ、だったそうなのですがある学者が研究を進めていく内にこのキタキツネは何と北側しか向けないそうなのです。だから本来の名前にキタを足してキタキタキツネになったんです」
「ほうほう、なるほどー。ってそんな魔物いるわけないじゃん! じゃあなに南しか向けない狐はナンナンギツネとでもいう気?」
「はい! 他にもトウトウキツネにセイセイキツネもいます」
「じゃあ央都に生息する奴は?」
「ラビラビなのです」
「狐ですらないんだけど!」
即興にしてはすごく息ぴったりなんだけど、これはいきなり難易度が上げられてる。
隣でミツェさんが爆笑してるし、これは不味い。
「ふっふー。どうだい、ノラ君。私とシロは完璧でしょう?」
「まだ負けてないもん! 行くよ、リンリン!」
「マジでやるのかよ」
リンリンがすごくやる気なさそうだけど有無は言わせないよ。
というわけで開始―。
「はーい、皆さんノラノラリンリンでーす。今日は名前だけでも、ノラノラリンリンって覚えていってくださいね。因みに私がノラでこっちがリン。だからノラノラリンリンなんですよー」
「おい待て」
「何かな、リンリン」
「何でノラノラリンリンなんだ。私の方が年も上で先輩なんだぞ。だったら先輩を立てて先にするのが礼儀じゃないか」
さすがは我が親友、早速ツッコミを入れてくれたよ。
「でもリンリンノラノラって語呂悪くない? 鈴を鳴らしてる人がおらおらーってしてる気がする」
「どういうイメージだよ。大体愛称でくっつけるからおかしくなるんだよ。私が如月燐、でノラノラは野々村野良だろ。だから如月ノラみたいにすれば自然だろ」
「私、苗字変わっちゃった! リンリンと結婚しちゃった!」
「なんでそうなるんだよ! 芸名の話じゃん!」
そしたら皆笑ってくれていい感触だね。
さぁ次のネタって考えてたらフブちゃんが手を挙げて来た。
「ノラくーん。それくらいにしておいた方がいいかもね」
フブちゃんがミツェさんを指さしていってる。ミツェさんはセイセイキツネとノラノラリンリンって呟いてずっとお腹抱えて笑ってる。笑いのポイントは人それぞれ。
でも目標は達成されたね。
「モコー、届けに来てやったですー」
扉が開かれて小さなリスの子、シャムちゃんが入って来た。
「シャムシャムリンリンだー。いらっしゃいませー」
「は? ノノムラ何言ってやがるです?」
「おーい、ノラ君―、それ以上歌姫さんに追い打ちかけてあげるなよー」




