160 女子高生も空都へ行く(1)
黄緑色の草原がどこまでも続いている。確かさっきまでずっと透明の階段をあがってたのが嘘のよう。後ろを振り返ってみる。白い霧が覆って何も見えない。
「とりあえず歩こう。歩けるよね?」
全部幻で急に地上に真っ逆さまなんて起こったら笑えない。そうっと歩いてたけど確かに土の感触がある。本物だ。
「ということはここが空都?」
勘とリッケさんの行動を頼りに動いたけど本当に来れるなんて。
感慨にふけってたら影が2つ近くにやってくる。
「お前、何者だ! ここにどうやって侵入した!」
蝶々みたいな羽が生えた人が大声で叫んでる。一応周りを見て私以外の人に言ってないか確認。うん、私みたい。
「まさか地上人か? ありえない」
「とにかく女王陛下の元へお連れするぞ!」
それで水色の輪っかを作って手錠されちゃった。うーん、前にケルちゃんの所でも似たようなことがあったなー。それでそのまま羽の生えた人達に空を飛んで連行されたんだけどー。
空を飛んで運んでくれてるおかげで街全体がよく見える。街って言うよりは村? でも建物はどれもすごく高いというか、柱が長い? 普通の民家と思う所もすごく高い高床式。
ここで住んでる人に羽があるから地面に造るより入りやすいからかな。実際、飛んでベランダに優雅に入って行ってる人をみかける。
後は畑仕事してたり、草原の所で家畜を飼育してるが見える。
更に向こうに大きなお城が建ってた。大きなって言ってもここも柱が無駄に長いからそう感じるだけで、実際はそこまでかも。
それでそのお城まで連行されてバルコニーみたいな所に降りてようやく足が着いた。
見張りみたいな人が私を見てすごく驚いた顔をしてる。
お城の中は石造りの建物って感じ。飾り気のあるものは何も置いてなくて、なんか高貴な感じはしない。お城というか砦?
真っすぐ歩いてたら目の前に大きな石の椅子に老けて皺が弛みはじめてるお婆さんが座ってた。真っ赤なドレスを着て、他の人より羽も大きいから多分偉い人。
「これは驚いたわ。まさか地上人がやってくるなんて。あれを持ってきなさい」
お婆さんが言うと近くに立ってた人が布で巻かれた何かを持ってきてる。お婆さんがその布を取ると青い水晶玉が出て来た。
「はじめに言うけれどこの水晶の前で嘘は無意味となるわ。さて質問よ、あなたの名前は?」
「野々村野良です」
そんなことしなくても嘘なんて言わないけど。
「あなたはどうやってここに来たのかしら?」
「透明の階段を上って来ました」
「透明の階段?」
「南都の海岸近くに空へ上る階段があったんです」
そう説明したけど誰もそれを理解できてなさそう。あれー、あれって空都へ入る為の階段じゃないの?
「水晶が光らないから嘘は言ってないのでしょう。けれどそもそもここには結界があります。それはどうやって突破したのですか?」
あの白い霧のこと?
「えーっとー、普通に入れましたけど?」
そしたら場内がざわざわしだしたんだけど。
「あなた……もしかして翼が見えるの?」
「背中に生えてるそれですか?」
そしたらこの場に居た全員が絶句しだしたんだけど。説明が欲しいよー。
「ありえないわ。穢れの象徴の地上人に翼が見えて結界を突破できるなんて……。水晶も光らないしどうなってるのよ」
おばあさんが頭を抱えだして私もどうしていいか分からない。これは異世界人であることを告白すべき? うーん、余計に混乱招きそう。
「私はある人を追いかけて来ただけなんです」
「それは誰ですか?」
「フーカ・リッケって言う人なんですけど……」
そしたらおばあさんが部下の人から帳簿みたいなのを受け取ってぱらぱらめくってる。
「そんな人はいないわ」
なんという無慈悲な一言。そういえばリッケさん、何かここではって言ってたような気がするし、もしかして偽名?
「えっと、緑っぽい髪の色をしてて、絵を描くのが好きな子っています?」
「……まさかシエル? ちょっと彼女を呼んできなさい」
「はっ」
それから少ししてここに新しい足音が聞こえてきた。振り返ったら南都で出会った子が来てくれてた。相変わらず服を着崩してて帽子にサングラスという。私の方を見て驚いた顔をしてる。別人じゃなくてよかったー。
「あなた……あの時の」
「シエル、まさかこの者と知り合いと言うの?」
「知り合いという程でもないよ。ただ少し会って話をしただけ」
その通りなんだけどー。もう少し釈明して欲しいといいますかー。
「あなた、また地上に行ってたのね」
「お母様には関係ありません」
「関係ありよ。あなたは将来この都を統べる女王になるのだから」
おばあさんがそういうとリッケさんは大袈裟に溜息を吐いてた。
「まぁいいわ。シエルと、それとノノムラと言ったあなたに謹慎処分を与えます。特にノノムラには暫くこの都に滞在してもらいます。あなたを地上には返せません」
しれっととんでもないこと言われたんだけど?
「どうしてですか?」
「ここは秘匿された地。それを知ったあなたを地上に帰すのはこの地を穢れさせるのと同義です」
「誰にも言いませんよ」
水晶が光ってないから本心と分かってくれるはず。
「そういう問題ではありません。知ったという事実が問題なのです。それがこの都の決まりです。いいですね? 安心しなさい、見た所、あなたに害はないというのは分かりましたから、窮屈な思いはさせませんから」
分かってくれなかったー。これは結構不味いのでは?
「あのぅ。非常に言いにくいんですけど、実は私特異体質で急に転移しちゃうかもしれないんです。多分どうやっても地上に戻ってしまうと思います」
そしたら部下の人がこっちに来て私の手錠を外して腕に銀の腕輪を巻いてきた。
「魔封じの腕輪。それがあれば転移も不可能でしょう」
そういう問題じゃないと思うけど、もう黙っておこう。
とりあえずすごく大変なことになったけど、大丈夫だよね?




