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159 女子高生も空都へ行きたい

 夏休みも残り1週間を切った。今年の夏は山も海にも行って一杯遊んで大満足。


 のはずなんだけど、どうしても1つ気がかりがある。南都に行って出会ったあの羽の生えた人、リッケさんのことが今でも忘れられない。何かを訴えたいような、何かを諦めたような目がずっと胸の内に残ってる。


 リッケさんは最後空へと飛んでいった。ということは空に家がある? それって噂で聞いた空都って所だよね。狼の大将さんやノイエンさんですら知らない幻の都。

 リッケさんはきっとそこに住んでるんだろうけど。


「よし決めた! 空都に行く!」


 意気込むのは簡単だけど問題はどうやって行くかだなぁ。とりあえずノートを取り出して色々と書き出してみよう。


「空都って言うのだから絶対に空にあるんだろうね」


 そうなったらノイエンさんにお願いするのが一番早いと思う。前に東都に連れてもらった時に樽に入って空の旅をしたし。


「でも知らない都探しにノイエンさんを巻き込むのはなぁ」


 ノイエンさんって普段から空を飛んで移動してそうだし、そんな人が空都の存在を知らないんだからきっと簡単には見つからないんだと思う。

 それにノイエンさんは多忙だからあんまり無理は言えない。


「うん、これはダメだね。バツ」


 赤ペンでバツ印をいれておこう。


「ほかに飛ぶ方法と言えば……」


 ちらりと部屋の床を見る。そこにはぐーたらだらしなく寝転がってる瑠璃の姿がある。

 真夏だから外でいたくないみたいで冷房の効いた私の部屋に避難中。一応は伝説のドラゴンさんなんだよね?


「瑠璃はまだ子供だから私を運んでは飛べないんだよねー。あ、でもシャムちゃんの圧縮魔法で私を小さくしてもらったら大丈夫だったんだよね」


 前にオオクサドリを追いかけるために小さくしてもらって空の冒険をしたし。

 でもシャムちゃんの魔法は時間制限があるから万が一空を飛んでる時に魔法の効果が切れちゃったら終わりだよね。うん、これもバツ。


「うーん、難しいなぁ。私にも羽があったら簡単に飛んで付いていけたのになぁ」


 無いものねだりだけど、私って何もないからなぁ。できるって言ったら……異世界へ転移できるくらい? そっかー、転移かー。


「そうだよ、転移だよ。例え空の上にあったとしても転移で空都へ行けたなら飛んで探し回る必要ないよね」


 つまりとにかく高い所に移動して転移が発動すれば、もしかすれば空都に行けるかもしれない。これだ!


「行くよ、瑠璃!」


「ぴぃー」


 やる気なさそうな返事だけど有無は言わせないよー。

 庭に出たら我が家のもふは皆日陰に避難してましたとさ。今日も暑いからねー。


「ミー美―、ちょっと出かけよう?」


「ミー?」


 我が相棒を連れていざ出陣! 目指すは山の天辺だね! 国道を通らないからミー美の存在もそこまで公にならないと信じたい。



 ※1時間経過※



 ミー美に乗って山をどんどん駆け上がってもらってる。勾配も激しいし道も悪いから車で移動しても全然進まないだろうけど、ミー美ならこんな道でもへっちゃら。

 速度も落ちずにどんどん駆け上がっちゃう。


「ミー美止まって。ちょっとおじいちゃんの所に寄って行きたいの」


「ミー」


 おじいちゃんの家は山奥の方にあって、限界集落みたいになってる。それでもおじいちゃんは毎日元気に過ごしてるってお母さんから聞いてる。


 森の中に民宿みたいな家が見えて、その前にある小さな家庭菜園の所でおじいちゃんが水遣りをしてる所だった。丁度こっちに気づいたみたい。


「おじいちゃん、久しぶりー」


「おぉ、ノラか。久しぶりだな」


 おじいちゃんが穏やかに笑ってくれた。うん、本当に元気そうで安心。


「今日は1人なのか?」


「そうだよー。ミー美に乗ってきたの」


「ミー!」


 ミー美と瑠璃を見せたらおじいちゃんが不思議そうに2匹を見てる。


「この山を人を乗せて登れるとは本当に不思議な生き物だな」


 異世界の動物だからそこは仕方ないね。


「しかしノラよ。いくらこの子らがいるとはいえ1人で山を登るのは感心せんぞ。万が一というのはいつ起こるか分からんからな」


「ごめんなさい。どうしても確認したいことがあったんだよ」


「何かあったのか?」


「うん。どうしても空に浮かぶ島へ行ってみたいと思ったの」


 その一言を聞いておじいちゃんが言葉を失ってる。けど少し考える素振りを見せてくれた。


「相変わらずお前さんは突拍子がないな」


 と笑ってくれた。聞いた話だと昔から私って結構とんでもな行動をしてたそう。自分ではあんまり自覚ないんだけど。

 それでお父さんもお母さんも決まって呆れてたそうだけど、おじいちゃんはいつも私に真剣に向き合ってくれてた。


「ここで立ち話をするのもあれか。付いてきなさい」


 そう言われておじいちゃんの後に付いて行く。おじいちゃんの家の後ろに大きな階段があってそこを何段も何段も登って行ったら山の山頂手前にまで来れる。その景色は私の住んでる街が一望できるくらい絶景。今日は風も吹いてて涼しいくらい。

 丁度ベンチがあるからそこに座らせてもらった。


「それで、今回は一体何の影響を受けたんだ?」


「影響ってわけじゃないけど、どうしても確かめに行かないといけないの。そこで会いたい人がいるから。でもどうやって行ったらいいかも、どこにあるかも分からなくて」


 そう話したらおじいちゃんは真剣に考えて悩んでくれた。こんな話、普通だったら漫画かアニメの見過ぎって言われてもおかしくない。でもおじいちゃんはちゃんと考えてくれる。


「ノラはマチュピチュを知ってるか?」


「えーっと、名前くらいなら」


「マチュピチュはペルーのアンデス山脈に存在する遺跡だ。標高がとても高い所に造られてあった故、別名空中都市とも言われている」


 そういえば世界史の授業でそんな話を少し聞いた覚えがある。


「空中都市……」


「空中都市、と呼ばれているが本当に空中にあるわけではない。だがそこから見える景色は本当に空にいるかのように見えるからだ。だがノラが行きたいのはおそらくここではないだろう?」


「うん」


「どこにあるかも、どうやって行くかも分からない。だが存在はしている。そんな時、もっともしてはならないのは自分の中にある思い込みだ」


「思い込み?」


「ああ。さっきの話で例えれば空中都市という情報だけを知っていたとする。それでその場所を探そうとしたら真っ先にどこを探す?」


「そっか、空だ」


「その通り。だがマチュピチュは空にはない。そもそも空に都市を本当に作ろうとすれば、それは恐ろしいまでの技術が必要だろう。そんな技術があるなら誰の耳にも入るのが必然だ。仮に空中に浮かんでる物体に居住区を作ったならば、そんな大きな物体は人の視界に入るのが摂理だろうな」


「ありがとう、おじいちゃん。私、間違ってたかもしれない。行くね」


 ベンチから立ち上がって手を振ってすぐに別れた。やっぱり聞くべきは年長者の知恵だね。

 私はずっと前提を間違えてたんだね。



 ※南都、防波堤前※



 夜。薄暗い夜の海の前に1人でやってきた。街の方はまだ明かりが点いてるけどこっちは閑散としてる。リッケさんがいた防波堤の所には誰もいない。


 おじいちゃんは言った。自分の中にある思い込みで判断してはいけないって。


 リッケさんが飛び立った時、あの羽で空を飛んで帰って行ったんだって思ってた。実際に空へ飛んで行ったし。でもあんな大きなキャンバスや荷物を持って悠々と空高くまで飛べるのかな。瑠璃なんかちょっと重たいのを持ったらすぐに地面に落ちちゃうし。


 あの羽がすごいのかもしれないけど、普通の翼と同じかもしれない。もし同じならどうやって空まで飛んでいける?


「多分、飛んでない」


 防波堤の一番前、その先を踏み出したら海に落ちちゃう。でも試さずにはいられない。

 右足を前に出してみた。そしたら足は空中で何かを踏んだみたいに留まった。


「まさかの見えない階段かぁ」


 足場があるならそれは重い荷物を持っても飛んでいけるよね。

 とりあえず足場があるのは分かったけど目に見えないのが本当に辛いんだけど。


 ゆっくりゆっくり一段ずつ上って行こう。大丈夫大丈夫。怖くない怖くない。


 一段ずつ上って行けるけどどこまで続くんだろう。流石に地面から大分離れてきたし、恐怖を感じてきたよ。やっぱり引き返そうかなぁ。


「ううん、もう一度会わないと。そうしないといけない気がする」


 活を入れてまだ上っていく。下は見ない。上だけを見る。それで白い霧みたいになってる所まで上がってきた。何も見えないんだけど。でもまだ上れるみたい。


 それを続けていたら急に視界が一転して目の前に広がるはどこまでも続く緑の草原だった。


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