15 女子高生も道具屋に足を運ぶ
洋服店を後にして向かいの道具屋へと歩いた。距離にして30歩もいらない。
店の前にはプランターがいくつも置いてあって、緑色の草が変な形に伸びていた。螺旋状、W型、幹が折れたみたいに直角に垂れてる草。
壁には蔦が一杯伸びててこの一角だけ別世界みたいになってる。扉と窓だけが緑に侵食されてなくて異次元の扉みたい。そうっとドアノブに手を置いて開けた。
扉が開くと鼻の中にミントのような香りがすーっと入ってくる。
中には観葉植物みたいな見知らぬ草が沢山置いてある。棚にも園芸で育てるような小さなカップに芽が出たのも一杯置いてある。別の棚には薬品用の瓶に青や緑の液体が入ったものが沢山並んでいた。
他に客はいないみたい。
ドアを閉めると奥の方から拍手が聞こえる。
「おめでとうございます! あなたは今日100人目の来訪者です! そんなあなたに特別大セールチャンス! 当店の商品を2割引に致します!」
カウンターの方から笑顔が眩しい女の子の店員さんが叫んでる。
銀色の髪が肩までかかって、癖毛なのか頭の所が三日月みたいに跳ねて、獣の耳が生えてる。
黒いローブを羽織っていて、フランちゃんと同じ黒のロングスカートを着てる。
服が黒だから銀の髪が一層輝いて見えた。背は私よりも大分低い。
私が158cmだから140ちょっと?
その子はカウンターから出て来て私の手に小さな小切手を握らせた。そこには手書きで文字が書かれてる。読めないけど『2』という数字だけは分かった。
「いやー、お客様は運がいいです! ささ、何でも買ってください!」
ニコニコしながら手を合わせてゴマをすってる。フランちゃんの友達と聞いてたけど思った以上にしっかりしてる、気がする。
「えっと。フランちゃんに紹介されて来たの。あなたがレティちゃん?」
「そうです! 私が薬屋店長のレウィシア・ウォムシェでございまーす! 猫との混血です! 私の事は気軽にレティとお呼びください。ってもう呼んでますね!」
レティちゃんは頭に手を置いて笑っている。なんというかノリの強い子だ。
「私は野々村野良だよ。宜しくね、レティちゃん」
「ノノムラ・ノラ、様っと。素敵な名前ですね!」
レティちゃんはポケットからメモ帳を取り出して名前を記してる。すごく勤勉だよ。
「まさかフランからの紹介があるとはあの子も商売魂に燃えてくれて何よりです。そして、ノラ様は我が友人のフラン同盟。となれば! 全品更に1割引です!」
レティちゃんはポケットから小切手の紙を取り出して手書きで文字を書いて渡してくれる。
こんなに割引して大丈夫なのかな。
少ししてからレティちゃんは私の鞄に目が行って瑠璃を見て驚いてた。
「こ、これはまさかドラゴンの子供ですか!?」
「うん。瑠璃って言うんだよ」
「ぴー?」
瑠璃は欠伸をして顔を出してる。レティちゃんは口をあわあわと震わせながらも目を輝かせた。
「ノラ様はとんでもない上客と見ました。是非是非、ゆるりと見てくださいね」
「うん。ここって薬屋なの?」
「はい! 名義上は道具屋となっていますが、取り扱っている品は薬品や薬草ばかりです。薬屋にしてもいいのですが、そうすると医者という扱いになってしまい国からの呼び出しが増えて面倒くさ……ゲフゲフ! 大変なので道具屋となっています!」
店を経営するのも大変なんだね。でも私にそれを話してもいいのかな?
「薬草とか詳しくないけど具体的にどんな効果があるの?」
「多くは傷を治すのが一般的です。他にも食欲不振を和らげたり、魔力を体内に取り込むのに扱います」
そういえばスライム牧場のトカゲ頭のおじさんが魔法は魔元素を使って扱うって話してた気がする。
魔力って特殊な栄養素的な立ち位置なのかな。
「他にも子供用に美味しくしたのがこのポーションです」
レティちゃんが薬品棚の瓶を1つ手に取った。緑色の液体が入っていて、蓋を開けられると香ばしい果実の匂いがする。
「薬草って苦いイメージがあって毛嫌いされるんですけど、それをなくそうと思って作ったのがこれです」
「レティちゃんが作ったの?」
「はい! こう見えて国から栄誉賞をもらったりしてるんですよ!」
「すごい。私よりも歳が低いのに偉いね」
するとレティちゃんが首を傾げて私を見る。あれ、おかしなこと言ったかな。
「ノラ様って歳いくつですか?」
「15だよ」
「私、こう見えて17歳なんですよ……。よく見た目より幼いと言われます」
そうだったんだ。勝手に10歳くらいだって思ってた。
「ごめんなさい。悪い意味で言ったつもりじゃないの」
「いえいえ気にしてません! お詫びにこのポーションを半額で売りましょう!」
「この割引券と合わせたら殆ど無料になるけど大丈夫?」
「問題ありません! いつものことなので!」
いつものことってそれはそれで心配になるよ。商魂熱いと思ったけど、もしかしたら商売下手なんじゃ。
金貨一枚を渡す。レティちゃんがお釣りを出そうとしたけど、丁度カウンターに置いてあるカップに目が行く。小さなごぼうが生えてて、頭には白い葉を長く垂らしている。
「これは何?」
「即効性の薬草です。すごく苦いですけど効き目は保証します」
よく見るとラベルに金色の文字が小さく入っている。さっき話してた賞状ってこれかな。
これも一緒に差し出してみる。
「これも売ってもらってもいい?」
「お目が高いです! 毎度ありがとうございます!」
お釣りに銅貨3枚とまた割引券をくれた。次回用?
買った商品を紙袋に入れてもらってると扉が開けられた。するとレティちゃんはハッとなって、袋を置いて拍手をし出す。
「おめでとうございます! 当店100人目のお客……あら、フランじゃないですか」
扉の前にはブレザーを綺麗に畳んで持ってるフランちゃんが立ってた。
「ノノムラさん、ありがとう。おかげで色々分かった」
「どういたしまして」
ブレザーを受け取ってそれを羽織る。ボタンは留めなくていいや。
そのやり取りを見ていたレティちゃんが大袈裟に「ぐはっ」と声を上げてた。
「フラン……私以外に親友はいないと言ってたじゃないですか! 私の愛をお忘れで!?」
「いや、服返しただけなんだけど」
「だって私が服を直してもらいに行った時は手渡しで持って来てくれませんでした!」
「今回が特別なだけだよ」
「特別!? 特別って言いました!?」
フランちゃんは面倒そうにしていて、レティちゃんがグイグイ聞いてる。何か修羅場になって来てる。とりあえずレティちゃんの方に寄って頭を撫でてあげよう。
「レティちゃん、また来るね。今日はありがとう」
「あぁ、天使様。ノラ様ー」
耳をピコピコ動かしてる。スカートから微妙に見える尻尾もピクピクしてる。
やっぱり猫は猫なんだね。
「フランちゃんもありがとう。今度はゆっくり洋服を見に来るね」
「うん、待ってる。またね」
2人が丁寧にお辞儀をしてくれたから手を振って別れを告げた。店を出るとそこは現実。
今日も1日楽しかったなぁ。でももう真っ暗。スマホにも着信が一杯入ってる。急いで連絡して帰らないと。




