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158 女子高生も南都へ行く(2)

 楽しいお食事が終わってムツキ達も仕事があるからってお別れ。ミコトちゃんは嫌々言ってたけどムツキに無理矢理引っ張られてたのが印象。


「さぁ! 今日は遊ぶわよ!」


 リリが海を前にしておおはしゃぎ。海に来たんだから海に入らないとね!

 レストランのお店に更衣室もあったから水着にも着替えて準備ばっちり。

 リリは白いビキニでキューちゃんは黒の……スク水? 似合ってるからよし。


「リリもキューちゃんもかわいいー」


「えへへー、今日の為に買ったの。ノノもすごくいいわ!」


 私はフリルの水着。去年に買った奴だけどまだ着れて安心安心。


「それで海で一体何をするのじゃ? 真っ二つにでも割るのかのう?」


 キューちゃんが両手に持ってる魚の串焼きを食べながら話してる。


「そんな物騒なのはヘイムしかしないでしょ。南都の海と言えばあれよ!」


 リリが海で遊んでる人達を指さして言ってくる。その人達はなんか白い板? イカダかな、に乗ってスピードを出したりして騒いでる。時には水面を跳ねて空にジャンプもしてた。新手のアトラクション?


「魔法板っていう魔道具の一種よ。魔力を帆に流すことであんな風に海の上を走り回れるのよ」


「ほほう」


「やれやれ。そんな児戯に価値を見出すとは人間とは分からんのじゃ」


 串焼きをもぐもぐして言われても説得力はゼロなんだけど。


「借りれるか聞いてくるね!」


 そう言ってリリが走って行っちゃった。5分くらいして戻ってきた。すごく落ち込みながら。結果がもう分かったよ。


「うぅ、魔法板全部貸し出し中だって~。せっかく南都まで来たのに酷いわ!」


 人も結構いるから仕方ないよね。


「私はリリと一緒なら何でも楽しいよ~。せっかくだし海に入ろうよ」


「ノノは本当に天使様ね」


 というわけで海に突撃! 足をちゃぷんと入れてみた。つめたーい! やっぱり異世界でも海の水は冷たいね。


「キューちゃん、来て来て! すごく冷たいよ!」


「水じゃから冷たくて当然じゃろう。それに我は串焼きを食べててじゃな」


「つべこべ言わないの!」


 リリがキューちゃんに向かって水をばしゃーってぶっかけてた。キューちゃんは両手をあげて串焼きを必死に守ってて面白い。


「おいリリル! 何をするのじゃ!」


「海に来て海に入らないなんて許さないわ。それともヘイム、泳げないとか言うんじゃなうわよね?」


 リリが挑発するからキューちゃんがいつもの如く頭に来たみたいで残った串焼きを一口で飲み込んで串を炎を燃やしたと思ったら空高くに飛んで奥の海にダイブしてた。バシャーンって水飛沫も飛んで来たけど当の本人が海の上にぷかーって浮いてきたんだけど。


 もしかして本当に泳げない?


「キューちゃん! 大丈夫!?」


「ちょっとヘイム! 何してんのよ!」


 泳いでキューちゃんの近くに行ったら急にひっくり返って笑い出したんだけど。


「かっかっか! 我が泳げぬはずなかろう。我は死神ぞ? なんなら深海の奥深くまで素潜りもできるのじゃ」


「何よそれー! 心配して損したじゃない!」


「我を小馬鹿にした仕返しじゃ」


 それを見てたら何かつい笑みが出ちゃった。


「む、ノノムラ・ノラよ。お前さんも我を心配してくれていたのか? それはすまぬのう」


「うん。キューちゃんが人間みたいに冗談を言えるようになってくれて嬉しいよ」


「な! ち、違うのじゃ! これは魔族流の挨拶でな? 我を人間などと同類にするでない!」


「うんうん、そうだね」


「むう。この際じゃからはっきりさせてやろう。我が死神であるとお前さんに教えてやろうではないか」


 そんな感じで楽しい時間はあっという間に過ぎていって……。



 ※2時間くらい経過※



「ちょっと私、魔法板借りられないかもう一度見てくるわ! 2人は待ってて!」


「ならば我はその間にさっきのを買って来るかのう」


 リリとキューちゃんがぱたぱたーっていなくなっちゃった。それじゃあ私はちょっと休憩でもしようかな。陸地の近くにパラソルがいくつも並んでてそこに椅子と机もあったから、そっちで休憩しよう。人も減って来てるからリリ達が来てもすぐに気付くだろうし。


「いい風~」


 やっぱり異世界は気候がいいから気持ちいいね。景色も一望できるし。

 砂浜から向こうに行ったら防波堤になってるみたい。その防波堤に誰か人がいる?

 なんかキャンパスを置いて絵を描いてる? でもそれ以上にその人に釘付けになっちゃう。

 背中から蝶々みたいな羽が生えてるのが見えたから。


「んー、まだリリ達は戻ってこないよね。少しだけ見に行っても大丈夫かな」


 異世界で獣の人や角の生えた人は見たけど羽のある人は初めてだし。

 それで防波堤の方に近づいていった。波は緩くてサーッて静かな音が響いてる。目の前にはカーディガンを着崩した人が椅子に座って絵を描いてる。背中からアゲハチョウみたいな羽が生えてる。


 青緑の髪がセピア色の帽子から見えてる。時々見える横顔から丸いサングラスをかけてるけど、顔は幼い感じがする。その人は私に気づいたみたいでこっちに振り返った。


「こんにちは」


 とりあえず挨拶してみる。その人はちょっと首を傾げたあとに、親指をあげてくれた。

 近くに行ってもいいのかな? それで寄ってみたらキャンパスには目の前に広がる海を綺麗に描いてあった。美しい水彩画。思わず見惚れちゃう。


「綺麗な絵ですね」


「そうかな?」


 その人は筆を動かす手を止めずに言った。その言い方は本人は満足してないのかな。


 静かな時間が流れる。その人が時々水の入ったバケツに筆をいれるちゃぷちゃぷって音がするくらいだけ。


 絵を描いてるのに白い服に一切汚れてないのはやっぱり描き方が上手なんだと思う。


「絵が好きなんですか?」


「好きか嫌いかで聞かれたら、好きに入るんだろう。けどこれも結局は自分が見たい世界の表現の1つに過ぎない」


 手を止めずに淡々と答えてくれる。


「世界?」


「多分、君には分からないだろうけど箱の中にいると真っ暗な物しか見えないんだよ。君はどんな一生を歩んできたのかな?」


 その人は初めて筆を置いて私の方を向いてきた。サングラスと帽子に隠れて見えなかったけどすごく整った顔立ちをしてて一瞬どこかのお姫様か何かと思っちゃう。


「私は、ただの学生だよ」


 どこにでもいる極普通の女子高生。


「そうか。けれどそれもまた君の物語。私にはない素敵な道筋」


 言い方からして何か含みがあるようにあるように聞こえる。


「名前を伺っても?」


「野々村野良だよ」


 そしたらその人は描いてる途中のキャンパスに私の名前を描いてた。なんかサインみたいで恥ずかしい。


「いい名前だね。私は……そうだね、ここではフーカ・リッケって名乗ってるよ」


 フーカ・リッケ? どこかで聞いたことあるような、えっとえっと。

 そうだ、思い出した。


「勇者物語の作者さん?」


「読んでくれたんだね。嬉しいよ」


「魔王と勇者が和解する話でしたよね」


「それは旧訳版だね。私が書いたのは新訳版の方」


 あーそうだったのかな。魔王と勇者が戦う方かー。


「ごめんなさい、実はちゃんと読んでなくて」


「構わないよ。それにあれを好きと言われても返答に困るし。だって、あの時の私は自暴自棄に苛まれていたから」


 時々儚い表情を見せるのは何か訳がありそう。


「その羽と関係してるんですか?」


 気になったから聞いてみる。この世界で羽を持ってる人が珍しいっていう理由かもしれないし。そしたら驚いた顔をしてこっち見られた。


「あなた……見えるの?」


「見える? 羽は普通に見えますよ?」


 見えないのが普通なの?


 それで少ししたら急にリリリリリンって音がどこからか鳴り出した。リッケさんが持ってた懐中時計からみたい。リッケさんは中身を確認してパタンと閉じると椅子から立ち上がった。


「時間切れみたい。だから行くね。じゃあね」


 画材を全部片づけたら荷物を持って空へと飛んで行っちゃった。どこまでもどこまでも、天高く空へと消えた。


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