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157 女子高生も南都へ行く(1)

 夏休みも残り少なくなってきた。でもまだまだ夏を堪能するよー。異世界で、だけど。

 というわけで今日は馬車に乗ってゆらゆら揺れ中。同乗者にはリリとキューちゃん、それにリリのお屋敷のお爺さんが馬車を運転してくれてる。


「リリ、今日はありがとう。南都へ行くのすごく楽しみ」


「全然いいよ! ノノの世界だと今は休み中って聞いたし、これはどこかに出かけないとって思っただけだから! 時期的にサラマンダーが横断してきそうだけど、今日は来なくてよかったわ」


 こっちでいう晴れてよかった的な?


「たかが国の端っこに移動するだけというのに大袈裟じゃのう。そういうのは星の裏側や深海にまで潜ってから言うべきだと思うのじゃ」


 キューちゃんが腕を組んで馬車の窓から見える外の景色を見て黄昏てる。見た目は幼女だけど中身は千年生きてる死神だそう。


「とか言いながら着替えの服が欲しいだの何だの言ってきたのよ、どう思うノノ?」


「そんな発言してないわい! 勝手を言う出ないリリル!」


 こういう所を見たらまだまだ見た目通りの子供だって思って愛着が出ちゃうんだよね。

 でもその気持ちはすごく分かる。だって、


「確か南都って海があるんでしょ?」


 前にキューちゃんがいた洞窟を出た時に見た海。あれを間近で見に行けるんだから楽しみにするなという方が無理なんだよね。


「そうよ~。海水浴なら南都へ行くのが一番ね!」


 こっちは気候的に涼しいけどそういう概念も一応あるんだね。


「でも海があるっていうのが少し不思議なんだよね。こっちだと山から流れる水はまた山に戻って行くんでしょ? それに雨もそこまで降ってない気がする」


 前にリリが教えてくれたのを思い出す。海の原理って一応は山の上流の水が下流に流れていって最後に海に繋がってる、だから山の水が海へと流れていかないなら海がそもそもできないと思うんだよね。


「海には水の魔力を持った生物が多様に存在しているんです。それらの生物は生きるために水の魔力を体内から放出し、それが海を構成するための海水となるのです。そしてその水がまた山へと還り自然を循環させる役割を果たしているんですよ」


 聞こえてたみたいで馬車を操縦してるお爺さんが丁寧に教えてくれた。

 なるほどー、またまた異世界の豆知識が1つ増えたね。生物が水を出してるってなんかすごいかも。


「爺! 私が言おうとしてたんだから言わないでよー!」


「これは失礼しました」



 ※



 馬車に揺られて2時間くらい経って街道の先に真っ白な砂浜とそれに水色の海が見えて来た! 近くには大きな建造物が並んでる! それに海の向こうに見えるあの大きな影は何? んー、もしかして影じゃない? もしかして……クジラ? うん、そうだよね。灰色っぽいクジラが海の上を飛んでる。


「ほう、ホルエールを見るのは久しぶりなのじゃ」


「ほるえーる?」


「あの空を飛んでる大きな魔物よ。南都の観光名物の1つでもあって、旧都に行くための運搬役でもあるのよ。旧都は海の向こうの離島にあるからあのホルエールに乗って行くの」


「ほえー」


 旧都って確か五大都市とは別の都市だったよね。目を凝らして見たら鯨さんの背中に人が乗ってるように見える。


「爺、ここまでで大丈夫よ! ここからは歩いて行くから!」


「畏まりました。私は街の方で買い出しをしているので何かあれば使い魔でお申しつけください」


「分かってる! さぁさぁ、ノノ、ヘイム行くわよ!」


 リリが荷物を持って馬車を勢いよく飛び出して行っちゃった。これは一番楽しみにしてたのはリリだったみたいだね~。


「お爺さん、ここまで送ってくれてありがとうございました」


「いえいえ。リリアンナお嬢様をよろしくお願いします」


「はい、行ってきます。キューちゃん行くよー」


「やれやれ、子供ばかりじゃのう」


 馬車を降りて石のタイルに着地。眼前に広がる白い砂浜が今か今かと待ち望んでいるよー。

 リリが手招きしてるからキューちゃんの手を引っ張って走るー。すぐに息が切れたけど。


「ずっと馬車に座ってたから疲れたでしょ? まずはどこかでご飯でも食べない?」


「ほう。リリルにしては良い提案じゃ」


 キューちゃんは美味しいの食べるのが目的だろうしね。私も朝から何も食べてないしお腹空いたー。


「私もいいよー。この辺だとどこにあるのかな?」


「ふっふーん。私に任せなさい。この日の為にすでにリサーチ済みよ。あの砂浜の向こうに見えるあそここそが南都の名物料理が食べられるお店よ!」


 砂浜の海際に建ってるドーム状のレストランみたいな所。海の家かな?


「私も食べたいの一杯あるの! 行くわー!」


 そんな感じでリリが砂浜に突撃しちゃった。いつになくやる気満々で見てて微笑ましい。

 と思ったらキューちゃんもいつの間にか走り出してた。やっぱりご飯食べたいんだね。

 勢い付け過ぎて転んでるけど。


 一歩踏み出して砂浜に踏み込んでみる。想像以上に柔らかい。まるで布団の上に立ってるみたいで足がふんわり沈む感触。これは寝そべったら気持ちよさそう。


「ノノー、はやくはやくー!」


「うまい飯は待ってくれんぞ」


 2人に急かされちゃったからこれはまた後で堪能しよう。


 レストランの前まで来たら想像以上に大きくて、それでいてオープンな感じ。窓がなくて店内が一望出来て2階もあるみたい。テラスの方で食べてる人たちの賑やかな声が聞こえる。


 店に入ったら想像以上に人で混んでる。これは待たないとダメ? と思ったら急に目の前に鴉っぽい魔物がばさばさって飛んできた。足には紙が巻かれてる?


「えーと、3名、テーブルっと」


 リリが手慣れた感じで紙に書き終わったら鴉の魔物が奥の方に飛んで行って空いてる席に案内してくれた。わお、まさかのそういう感じかぁ。


「使い魔が案内してくれるってすごいわよね。昔は人を使ってたみたいだけど人が入り乱れやすいから身動きがとりずらいってなって使い魔を導入したみたいよ。中々画期的よね」


 魔物に店を案内される日が来るとは。これは来た甲斐が早速あったね。

 それで席に近づいても鴉さんは横にちょこんと座ったままだ。もしかして注文もこれでするって感じかな? あ、メニューの所に大きく書いてあるね。使い魔、注文。なるほどー。


 早速料理を眺めていくけどどれも美味しそう。


「南都と言えばやっぱり海鮮料理が名物よ」


「海が近いから?」


「そうよー。南都は漁港でもあるからね。それに魚なんて普段は滅多に食べられないから食べないといけないわ!」


 そういえば央都の方で魚を売ってるのはあまり見なかった気がする。


「魚って貴重品?」


「そういうわけじゃないけど、やっぱり鮮度を維持するのが大変らしいのよね。氷の魔法で冷凍はできるけど長時間は持たないし、輸送するのも大変って聞くわ」


 つまりこっちの人は魚があまり食べられないと。だから普段食べれないから食べたい人が沢山来てるんだね。


「リリル! 我はこれとこれとこれと、あとこれも食べたいのじゃ!」


「ヘイムー、そんなに食べれるのー?」


「余裕に決まっておる!」


「ま、いいけど。ノノは決まった?」


「じゃあこれにしようかな」


「おっけー。使い魔に書くわー」


 リリが書いた紙を巻いたら鴉さんが律儀に飛んで行った。料理を待ってる間に外を眺めてみる。丁度海沿いの席だったから綺麗な景色を満喫できる。そういえば潮の匂いは全然しない。でも海の水は本当に綺麗でかなり透き通ってる。


 今度は店内の方を見てみる。お隣さん、白い制服着てるなー。あれは確か騎士の制服だっけ? ここまで出張かなー。青い髪の人と栗色のケモミミの人? 綺麗だなー。


「ん、んんん? あれ、もしかしてムツキ? それにミコトちゃん?」


「あれ、ノラ? それにリリルにヘイム?」


「わー、ノラじゃん。奇遇だね」


 まさかの顔見知りとの遭遇するとは驚き過ぎるんだけどー。


「ミコトちゃん、騎士になったんだね」


 前の感じだとなるかどうかは分からないって雰囲気だったような気がする。


「姉さんに! 半ば無理矢理に! させられたの!」


 怒って垂れたケモミミがいつになく跳ね上がってる。


「はぁ。私は騎士になんかなるつもりなかったのに、それに白い服苦手なのに毎日着ないとダメだし。はぁ」


 なんかめっちゃ溜息吐いてる。でも騎士になったってことはそれなりに思う所があったんだろうね。ミコッちゃんも騎士になって欲しいとは言ってたけど本当に嫌ならさせなかっただろうし。


「でもミコットは騎士の素質あると思う。動体視力すごいし、運動神経もいい」


「それはどうも」


 ムツキは本心で言ってるだろうけどミコトちゃんは素っ気なく返事してる。これは他の人と打ち解けるにはまだまだ時間がかかりそう。


「ムツキ、その恰好ってことは騎士の仕事関係?」


 リリが聞いてる。


「うん。って言っても簡単な見回りと警備だけだよ。南都はホルエールで人を運搬するから万が一の事故に備えないといけないし、他国からの観光船も来るから警備が多いんだよ」


 本当に騎士の人は多忙だなぁ。


「はぁ。騎士って本当面倒くさい。いきなり南都に来させられて警備だし」


 ミコトちゃん本当に嫌そうな顔してる。


「ミコトちゃん、それならどうして騎士になったの?」


「ムツキから聞いたんだよ。騎士って支払い結構いいって。じゃあ少しくらいは我慢しよーって。あとは……まぁ、姉さんが……うん」


 最後口を濁しててそれを聞けて満足。やっぱり本人も満更じゃないみたいで安心だね。


「ほう。随分と楽しそうだな。私も混ぜてもらおうか」


 奥からコツコツと歩いて来て向かいの席に座ったのは軍服姿の藍色の髪のケルちゃんだ!

 ケルちゃんが来てムツキがすぐに席から立って頭を下げてる。それでミコトちゃんも続いてた。治安維持のトップだから騎士の中でも上の人って感じ?


「ケルちゃんさんだ~。いらっしゃーい」


 手を挙げて振ってみたら腕を組んで視線を逸らされた。でも左手ちょこんと上がってるのを見逃してないよ。


「えぇ!? あの人って北都の治安維持の総司令官でしょ!? ノノ、知り合いなの!?」


「めちゃくちゃ親しそうだった。ノラ、何があったの」


 2人が詰め寄ってくるんだけど。説明するには長すぎる過程があるんだよねー。


「ケルちゃんもお仕事で南都に来たんですか?」


「当たり前だ。私はそこで座ってる暇人と違って多忙でな。ホルエールの操縦要員として駆り出された」


 ケルちゃんがキューちゃんを睨んで言ってる。


「なんじゃと! 我も多忙じゃぞ! 今日はここのメニューを制覇する予定なのじゃ」


 それを聞いたケルちゃんが静かに鼻で笑ってる。それにはキューちゃんがお怒り。


「第一ホルエールの操作なぞ大したことなかろう! 総司令官ともあろう者がそんなしょぼい仕事をしてる方が余程暇人なのじゃ!」


「今、しょぼいと言ったか?」


「何度でも言ってやるわい。しょぼい、しょぼい、しょぼしょぼなのじゃ!」


「ホルエールの操作は一切の揺れを起こしてはならない。何故なら多くの人命を預かってるからだ。お前にはその責任の重さが分からないようだな?」


 ケルちゃんが無言の怒りを見せて魔力が溢れ出してテーブルがかたかた揺れ出してるんだけど。それにはリリ達が青ざめてる。ここは1つ。


「ここは食事の場所なので大事な話は外で話したらどうです?」


 キューちゃんを持ち上げて差し出してみる。


「ふっ、ノラ殿。それはいい提案だ。死神よ、この際はっきりさせてやろう」


「待つのじゃ! 我は飯を食べに来たのじゃ! こんなの横暴なのじゃ! 飯をまだ食べておらんのじゃー!」


 ケルちゃんにキューちゃんが拉致されて店を出ていってる。どんな仕事でも馬鹿にしていい道理はないからね。


「えーっとー、そうなるとヘイムが頼んだ料理どうしよう?」


「皆で食べる?」


「いいね。私は大賛成!」


 ミコトちゃんが目を輝かせてムツキはなんか申し訳なさそうに笑ってる。

 キューちゃんはいつもあんな感じだからその内慣れるよ、多分。

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