156 女子高生も怪談話をする(2)
「まだかなー?」
家の庭の縁側でもふもふ達と戯れながら時間潰し。そしたらミー美が顔を上げて道路に視線を送ってる。これは来たかな? 白い車が家の前で停まった。
よし立とう、と思ったんだけどこん子と猫丸が膝の上を占拠してるせいで動けない。
庭のチャイムが鳴ったから2匹まとめて抱っこして出迎えよう。
「コルちゃん、ヒカリさん。来てくれてありがとう~」
「おはようございます。今日はお邪魔しますね」
「ノラちゃん、両親ってまだいる? これ渡そうと思ったんだけど」
ヒカリさんが大きめの袋を見せてくる。
「もう出て行っちゃっていないんだよ~」
今日はお爺ちゃんの所に泊まり込みで朝から出て行っちゃったからね。
「そっか。挨拶しておきたかったけど仕方ないわね。後で渡してもらえる?」
「わかった~。ありがとうヒカリさん、コルちゃん」
もふを抱っこしてるから受け取れないけど。少ししたら柴助やミー美、瑠璃も寄って来て出迎えてくれた。
「相変わらずの動物園ねぇ。あー柴犬かわいいわぁ」
ヒカリさんが柴助をなでなでしてる。
「狸さんもこっちですよ~」
コルちゃんが縁側の廊下の下に隠れてるたぬ坊を手招きしてる。そしたらゆっくり出てきてくれた。人見知りで警戒心強いけどコルちゃんの顔も覚えてきてくれたみたいで嬉しい。
「ノラノラー、来たぞー。ってコルコとヒカリさん、もう来てたの」
「リンリンだー、いらっしゃいませー」
「ふいー。1名でよろー」
「1名様ご案内―」
リンリン様を招いて全員揃ったね。
「ミー美、久しぶりだなー。元気してたかー?」
「ミー!」
リンリンがミー美撫でてる。我が家の皆が友人達に親しくなって親心の涙が……なんてね。
「それじゃあ中に入ってー」
というわけで全員を家に招いて庭の見える居間にまで案内。部屋でもいいんだけど狭いからね。この部屋は冷房ないけど朝はまだ涼しいから多分大丈夫、なはず。暑くなってきたら避難しよう。
「まずは近況報告からだ」
急にリンリンが鞄からノートやらプリントを一杯出してくる。多分夏休みの課題の話。
もう夏休みも半分以上過ぎてるからそろそろ終わらせておきたい所。私も用意する。
「もう終わってますよ?」
コルちゃんから強者の発言が出ちゃう。これは全く勝てない。
「マジかよー! コルコ、課題見せてくれ!」
「リンさん、学年違うって何度言えば分かるんですか。それに終わってるので持ってきてるはずないじゃないですか」
「ぐはー」
リンリンがいきなり致命傷受けて机に倒れちゃった。
「因みにリンリンはどれくらい終わった?」
「まだ半分くらいあるわ」
「私もまだ残ってるんだよね」
「でしたら分からない所を教えてあげますよ」
それは助かる。実は分からなくて飛ばしてた箇所が結構ある。
「ちょっとー! 私を忘れてないでしょうね?」
「ヒカリさんも勉強教えてくれたり?」
「そんなのするわけないでしょ。私は高校の卒業式と一緒に勉強も旅立ったの」
大学生とは思えぬ発言。これにはコルちゃんも溜息。
「じゃあさ、ヒカリさんは私らが勉強してる間に怪談話してよ」
「えー、怪談? 高校生ってそういうの好きねー」
露骨に嫌そうな顔してる。そういえばヒカリさんって怖いの苦手だったよね。コルちゃんと反対。
「とか言いながらお姉ちゃんは怖い話知らないんですよ。だから話せないんです」
「上等じゃない。だったら飛び切り怖い話をしてあなた達の腰を抜かしてあげるわ。勉強所じゃなくなっても知らないから」
急にヒカリさんのスイッチが入っちゃった。さすがはコルちゃん、ヒカリさんの扱いをよく分かってる。とりあえず私も課題しよう。
「あれは私が大学生になって1人暮らしを始めた頃の話だわ」
これは都会であった怖い話だ。期待できる?
「私が住んでたのは家賃が安いぼろぼろのアパートだったわ。今は違うけどね。あの頃はお金の管理が大変で本当に苦労してたのよ。だから家賃はできるだけ安い所にしたかったのよね」
身なりがいいからお金持ちなイメージあるけどヒカリさんもお金で苦労してるんだね。
「そんな安い物件だったからアパートがボロボロで所々塗装が剝がれてても特に驚きはしなかったわ。でもね、そこで住んでて驚かざるを得ないできごとが起きたの」
急に声色を変えてきた。
「その日はいつものように朝起きて支度をして大学に行こうと思ったの。でも玄関前に来て異変を感じたわ。アパートやマンションってドアにポストがあるの。だからこう郵便物は玄関の扉の中に入ってるの。で、その郵便物に真っ赤な封筒がポツンと置いてあったのよ」
それを聞いてペンが止まっちゃう。気になる。
「普通郵便物なら差出人が書いてあったり、切手が貼られてるけどそれが1つもなくて本当に真っ赤に染まった封筒が入ってるだけだった。気味が悪かったわ。その日は急いでるのもあったからその封筒はそのまま大学のダストボックスに捨てたの。でも翌日の朝になったらまた同じのが入ってた」
これは本当に怖い奴?
「さすがに連日ずっと入ってたら不審に思って中を確認せざるを得ないと思ったわ。それでハサミを使って中身を見たの。そこには一枚の紙が入ってて、赤い文字でこう書かれてたわ。死……」
ヒカリさんが鬼気迫る表情で訴えてくる。リンリンに至っては勉強所じゃなくなって耳塞いでるし。
「これは呪われた物件だと思って急いで別の所に引っ越したわ。そしたらあの赤い封筒は来なくなったの。どう怖かったでしょ?」
自信満々に言ってくる。
「ねぇ、ヒカリさん。それ思ったんだけど」
「ノラさんもやっぱり思います?」
「うん。それってストーカーじゃない?」
毎回嫌がらせみたいに入ってて引っ越したら来なくなったって言ってたし。
「ちょっとー、それを敢えて言わずにぼかしてたのに味気ないじゃない!」
ヒカリさんが頬を膨らませてる。リンリンもオチを知って今だと何事もなかったみたいに勉強再開してるし。
「やっぱりヒカリさんは綺麗だからそういうのもあるんだね」
大学生で1人暮らしともなったら大変そう。
「本当大変よ。あんなみみっちい嫌がらせしてくるような奴とは思ってもなかったわ」
「んー? 奴?」
ヒカリさんが失言したと言わんばかりに口が開いたままになってる。
「だって仕方ないじゃない! あいつ、会うたびに見た目しか褒めなくて、それで腹が立って文句を言ってやったらこの仕打ちよ? すぐに警察に被害届出したら、引っ越しと同時くらいに捕まってたわ」
なんかもうヤケになって胸の内を吐き出してる。なんかヒカリさんが男嫌いな理由を垣間見たかもしれない。
「やっぱりこの世界で一番怖いのは幽霊でも化物でもなくて人間なんだな」
「如何にもB級ホラー映画でありそうなオチですね」
「じゃあ私がとっておきの話をしてあげるよ。この前に異世界に行った時にリリと一緒に魔術学園の七不思議を探してた時の話だよ」
丁寧にアレンジしながら話したけど呪いの絵画については誰も信じてくれずに怖がってくれなかった。無念ー。




