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153 女子高生も姉妹を取り繕う

 生誕祭が終わったら異世界はいつもの日常に戻ってた。少し前までの賑やかさは遠い記憶に置き去りにされたみたいでいつもの雰囲気に戻ってる。でもそんな街を歩くのが私の日課。今日は何をしようかなー。


「だからー、あれは謝ったじゃん。許してよー」


 なんだか覚えのある声がした。見たら街の通りをミコッちゃんとミコトちゃんが仲良く歩いてるのを発見。ミコッちゃんと目が会うと愛想いい笑みを見せてくれた。ミコトちゃんも気付いて手を挙げてくれたから返してみた。


「こんー。生誕祭振りだねー」


 と呑気に挨拶をしてみたけど何だか微妙な空気が2人の間から感じる。


「のら、聞いてよー。姉さんの機嫌が直らないんだよー」


「別に怒ってない」


 ミコッちゃんが腕を組んで頬を膨らませてる。これは怒ってる奴。

 生誕祭で仲直りしたと思ってたけど違った?


「一体何があったの?」


「この子がずっと家を出で部屋を掃除しに入ったら、それはもう酷いくらい服や小物で散らかってた」


 ミコトちゃん、身だしなみは綺麗なのに掃除はできないタイプだったんだー。


「だから帰ったら掃除するってば!」


「もうとっくに片付けた。誰かさんが帰って来ないから」


 つーんとそっぽを向いちゃった。部屋を散らかしたまま家を出たって中々度胸あると思う。家族がいるならなおさら。


「姉さんは優しいなぁ。私感動したよ」


 ミコトちゃんは動じてない振りをしながら言ってるけど尻尾がそわそわしてるからバレバレ。


 それで今度はミコッちゃんがポケットからサファイア色のネックレスを取り出した。すごく綺麗だ。それを見たミコトちゃんは驚きながらも愛想笑いしてる。


「それ昔に姉さんが誕生日にくれた奴じゃん。どこに行ったんだろうって思ってたけど姉さんが持っててくれたんだ」


「部屋を掃除してたら服の下に埋まってた」


「えーっと。あははー」


 ミコトちゃん、完全に目が死んでる。


「あなたにとって私の贈り物はその程度ってこと?」


「ち、違うよ! 本当に大事にしてたの! でもある日、どこに行ったか分からなくなって、それで……。私そんなつもりじゃなかったんだよ。許してよ、姉さん」


「分かった。許す」


「ほっ」


 ミコトちゃんが胸を撫でおろしてる。なんか見てるとコルちゃんとヒカリさんとは立場が完全に逆だ。


「それと、部屋から私の下着が出て来たのだけれど、それはどう説明するの?」


 ミコトちゃんが絶句してる。


「ま、まぁまぁ。2人は体型も似てるし間違えたんじゃない?」


 仲裁してみる。


「そ、そう! 偶々間違えたの!」


「へー。偶々で5回も間違うのね」


 最早それは確信犯のような気もする。ミコトちゃんは涙目になって私の影に隠れてきた。


「姉さん、やっぱり私がずっと家を出てたから怒ってるんだね! そうなんだね!?」


 怒ってるのは確かだろうけどミコトちゃんに非があるようにも思える。


「ミコット」


「は、はい」


「当分旅は禁止。あなたは身の回りのことをできるようにならないといけない」


 禁止令を出されてミコトちゃんが口を開けたまま言葉を失ってる。こう言われても仕方ない気もするけど。


 なんというか今まで見て来たケモミミの子は皆しっかりしてたけど、ミコトちゃんに限っては……うん、これ以上考えるのは酷だね。


「姉さん、そんなの無理! 私おいしいの食べてないと生きていけない!」


 その気持ちは分からなくもない。

 ミコッちゃんは怪訝な顔をして腕を組んでる。うーん、これは仲を戻すには時間がかかりそう。というかこれが2人にとっての素かもしれないけど。


「事情は分かったよ。つまりミコトちゃんが自分の世話をできるようになればいいんだね?」


 ミコッちゃんが頷く。


「だったら適任者がいるよ。今から行ってみよう」




 ~異世界住宅市街石造4階建て前~



「のら。こんな所に来て私をどうするつもり?」


 ミコトちゃんが薄暗い道に怯えてる感じで話してくる。

 もしかしたら強面の人の所に連れていかれると思ってるのかな。


「あれ、ノラ? 珍しいね」


 そしたら目的の人に声を掛けられちゃった。騎士のムツキさんでした。丁度朝のランニングから帰ってきた所かな?


「ムツキー。待ってたよー」


「私に用事?」


「うん。ムツキにミコトちゃんを鍛えて欲しいの」


 ミコトちゃんの背中を押してたけど2人して疑問のように首を傾げあってる。


「えーっと、この人たちは?」


「ミコッちゃんにミコトちゃんだよー」


「ど、どうも」


 ミコトちゃんが軽く会釈してムツキも頷いてる。何か微妙な雰囲気。ミコッちゃんに至っては保護者みたいに傍観してるし。


「ミコトちゃんが家事全般苦手らしいから1人暮らししてるムツキに教わったら大丈夫かなーって思って来てみたの」


「この子を鍛えてあげてください。お願いします」


 ミコッテちゃんが仰々しくお辞儀しててミコトちゃんがすっごく居心地悪そうにしてる。

 ムツキもどう反応していいか分からなくて苦笑してるし。


「大体の事情は分かったけど私なんて本当に基本的なことしかできないよ?」


「その基本ができないのが内の子です」


「姉さんそれ以上身内の恥を言わないで!」


 ミコトちゃんが顔を真っ赤にして手で隠してる。これは効果覿面。

 それでまた微妙な空気が流れる。


「あ。ムツキ、急に来たから忙しかったら別にいいよ?」


 ムツキなら無理して頷きそうだし。ちょっと考えが至ってなかったかもしれない。


「ううん。困ってるなら助ける。それが騎士の務め」


 騎士道精神恐るべし。でもこれに甘えて頼りっぱなしっていうのもあれだし、今度お礼に何かしてあげよう。


「えっと。じゃあ家に来る?」


 というわけでムツキに案内されてぞろぞろとマンションの中に入って行った。

 ムツキ宅に到着して上がらせてもらう。相変わらず物が少なくて閑散としてる。

 でもそれを見てミコッちゃんが感心してた。


「随分綺麗な部屋ね」


 確かに埃なんて殆どないし床もピカピカ。騎士の仕事で忙しいと思うのに小まめに掃除してるってのが伝わる。


「うん、毎日掃除してるから」


「毎日!?」


 ミコトちゃんが驚いてるけど私もそんな顔になってたかもしれない。私もさすがに毎日掃除はしてないんだけど。


「毎日って言っても全部じゃないよ。普段使う所だけ。そのほかの所は休みの時にしてる」


「すばらしいわ」


 ミコッちゃんがまたしても感嘆してる。まさに騎士でありながら家政婦。これは私も勉強させてもらおう。


「そんな毎日掃除とかできなくない!?」


「そうね、あなたは綺麗にしても1日で散らかすものね」


 ミコトちゃんの驚きに毒で返すミコッちゃん。それをムツキが聞いて苦笑してる。


「私も部屋は定期的に掃除してるけどそんな頻繁にはしてないな~。何かコツとかある感じ?」


「コツ……ってわけじゃないけど掃除って結局その部屋にある物の量で決まると思う。だから極力物を増やさないようにするのが大事。増えればそれだけ掃除する箇所が増えるし、床のスペースが減ったら机とか動かさないといけない」


 所謂、断捨離って奴だね。要らないものはきっぱり捨てていかないと物で溢れてどんどん掃除するのが億劫になる悪循環。ムツキの部屋は本当に必要最低限って感じだし、これなら軽く掃除するだけでもかなり綺麗になりそう。


「ミコット。ちゃんと聞いてる?」


「はい、聞いてます!」


 ミコトちゃんが何度も首をぶんぶん縦に振ってて最早姉の言いなり状態。


「あとは埃の原因となる服やタオルは必ず仕舞っておくといいと思う。出しっぱなしだとそこから埃が溜まって掃除しないといけなくなる」


 それを言われてミコッちゃんが無言でミコトちゃんを睨んでる。ミコトちゃんは最早正座して縮こまってる状態。


「でも実践するってなると大変だよね」


「掃除をしようって思うんじゃなくて、何かした後にちょっとだけするって言うのがおすすめだよ。料理した後に机や料理台を拭くみたいに、少しだけするの。掃除だけするってなると大変だけど、何かと一緒にしたら案外癖になるから」


 これはもう完全にベテランの発言だね~。


「ミコット」


「な、なに。姉さん?」


 ミコトちゃんが完全にミコッちゃんの発言に怯えてる。


「あなた、ここの建物で暫く住みなさい。それでこの人に諸々を教わりなさい」


「えぇー!? 無理無理! 第一ここに住むってなったらお金とかどうするの!?」


「お金なんてどうにでもなるわ。でもあなたの性格は今から直さないとどうにもならない」


 これは家柄の良さが出てるねー。とはいえミコッちゃんもそれくらいミコトちゃんを思って言ってるのかもしれない。


「そ、それにこの前一度村に帰るって言ってたじゃん!」


「それくらい私1人で問題ない」


それを聞いてミコトちゃんの目が泳いでる。これは脱走計画を考えてそう。


「私はあなたを信じてるからもう勝手に居なくならないって思ってる」


ミコトちゃんが矢が刺さったみたいに放心してる。これはミコトちゃんの性格をよく知った発言だ。こう言われたら勝手できない。


「あ、あの。話が進んで言いにくいんだけど、私普段は騎士の仕事があるから付きっ切りってできなくて……」


 ムツキがそうっと手を挙げてる。それもそうだね。

 そしたらミコッちゃんがにっこり笑った。これは悪魔の笑みだ。


「ミコット。あなた騎士学校に入学しなさい」


「姉さん!? なんなの急に!? 無茶苦茶だよ!」


「無茶苦茶じゃない。騎士なら規律や戒律を重んじるから、ふらふら生きてるあなたに良い勉強になると思うわ。それに、あなた運動の方は得意じゃない」


「無理言わないでよ。騎士って誰かを守ったり、他の人の憧れや願望の存在でしょ? 私が守りたいものなんて、それこそ身近な存在だけだし……」


 ミコトちゃんの声が小さくなる。でも実際足は速いし騎士ってのはあってそうには思う。

 ムツキが床に崩れてるミコトちゃんの目線に合うように屈んだ。


「私も騎士だけど、世界中の人を守るってほどの気概はないよ。結局個人の力って手の届く所にしか及ばないから。大事なのは守りたい何かがあるかどうかだと思う」


 諭すみたいに言った。さっきミコトちゃんは身近な存在だけって言った。それにミコトちゃんが家を出たのも大事な姉の為だった。守る理由としては十分すぎると思う。


「少し、考える。色々ありすぎて頭の整理が追い付かない」


 それは私もそう思う。


「ダメ。全部決定事項よ。あなたに拒否する資格はない」


「姉さんの心は悪魔か何かなの!?」


「こっちに許可なく勝手に家を出たのだから、こっちも勝手にさせてもらう」


「やっぱりそれで怒ってるじゃん!」


 ここまで来ると最早コントに思えてくる不思議。本人は洒落になってなさそうだけど。


「まぁでも、騎士学校に入学するかどうかは待ってあげる」


「ほっ」


「3日以内に答えを出さなかったら勝手に編入届を出すから」


「嘘でしょ!?」


 これはミコッちゃんを怒らせたら相当怖いという教訓になったよ。まぁミコトちゃんに対してだけだと思うけど。

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