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152 女子高生も生誕祭を楽しむ(8)

 魔導砲が打ちあがるとそれが生誕祭の幕引きを意味する。だから来てた人も帰っていってロケットも片づけられる準備が始まった。


「んー、今年の生誕祭も終わりねー。でも楽しかったー」


 リリが伸びをしてる。皆、本当に色々がんばってたもんね。私も楽しかった。


「私達も帰りましょ」


「ごめん。私、もう少し用事があるから残っていく」


「1人で大丈夫?」


 ムツキが心配して聞いてくれる。


「うん、大丈夫。皆は帰ってくれていいよ。たいした用事じゃないから」


「分かった。じゃあ先に失礼するね」


「ノノ、ばいばーい!」


 リリとムツキに手を振って別れた。キューちゃんもいつの間にかいなくなってて、ノイエンさんは片づけの段取りで忙しそうにしてる。


「瑠璃、少しだけ付き合ってね」


「ぴ」


 片付けの邪魔にならないように隅っこの方に移動して時間を潰そう。



 ~時間経過~



 どれくらいの時間が経っただろう。お祭りの片付けは終わってロケットもどこかに持っていかれた。さっきまであった人の賑やかな声も殆どなくなった。街のイルミネーションも消えて、代わりに建物の中の光が照らしてくれる。


「ノラ。まだいたのかい」


 ノイエンさんが私に気づいて声をかけてくれた。


「はい。少し用事があるんです」


「城の関係者かい?」


「いえ。個人的な約束です」


「そうか。だけどもう暗くなってる。1人でいるには危ないよ」


 大分心配してくれてるみたい。


「瑠璃がいますので大丈夫です」


「だといいがね。あんまり遅くまでいるんじゃないよ。あんたなら分かってるだろうから強く言わないけどね」


「はい」


「じゃああたしも行くよ。じゃあね」


「さようなら」


 ノイエンさんに手を振って別れた。これで私と瑠璃だけになっちゃった。

 それでも私は信じてる。



 ~更に時間が過ぎる~



 今が何時か、それも分からない。多分深夜かもしれない。建物の光が全部消えて星の輝きだけが街をほんのり照らしてる。現実と違って真っ暗ってわけでもないから、あんまり恐怖感はない。


 瑠璃はとっくにお休みになってお城前の石の階段の上で眠ってる。私はその隣で座って待ってる。私にできるのはそれだけ。


「馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿とは思わなかったよ」


 声がした。その方に目を向ける。黒い軍服に、ケモミミみたいな帽子。藍色の髪、赤い瞳。


「ケルちゃん。来てくれたんですね」


「こんな夜更けに1人街に屯してる娘がいると知れば来もするだろう」


 動機がなんであれ、ちゃんと約束を守ってくれた。信じて待ってた甲斐があったよ。私の願いはもう叶ったみたい。


「私、ケルちゃんが来てくれるって絶対に信じてました」


「分からないな。そこまでして一体何が得られるんだ?」


「それは私にも分かりません。でもこうしないといけないって思ったんです」


 するとケルちゃんは溜息を吐いて私の隣の石段に座った。並んでみるとケルちゃんの大きさに圧倒されちゃう。


「変わった人間だな。あれだけ突き放したというのに普通ここまでするか?」


「……普通のままだったら何も変えられないと思ったからです」


 私が本気だって伝えたいなら、その意思を見せるしかない。ケルちゃんはまた溜息を吐いた。


「変えられない、か。きっとあの方もそう思って私達にああ言ったのだろうな」


「あの方って魔王様?」


 ケルちゃんが頷く。


「これ以上争っても両者が傷付くばかり。ならば互いが変わって歩み寄らねばならない。そう仰った。そしてあの勇者と停戦し戦争を終わらせた」


 それはキューちゃんからも聞いてたから少しだけ知ってる。


「魔王様は人にとって畏怖の象徴であった。故にこの世界から姿を消した。それは勇者も同様だ。だが残された私達はこの世界で生きなくてはならない。正直私は人と共に生きるなど考えもしなかったよ。それくらいなら戦って死ぬくらいの覚悟はあった」


「それだけ魔王様を信頼してたんだね」


「ああ。あの方こそが私の生きる意味だった。だがあの方がいなくなり私は自分の生き方を自分で決めなくてはならなくなった。途方に暮れたよ。考える時間ばかり増えて、人に対する疑念が増えるばかり。そして私は結論を出した。人は絶対に過ちを犯す、とね」


 何の感情も込めずに淡々と言ってる。魔族だから人よりも長く生きてるから色んな人を見て来たんだと思う。キューちゃんも千年くらい生きてるみたいだし。

 それで私が想像もできないくらい悪い人も知ってるんだと思う。


「そう決意したら後は簡単だった。人間社会に紛れて監視すると決めた」


「でも皆ケルちゃんを知ってたんじゃないですか?」


「平和になってから長い年月が過ぎていた。だから私の顔をはっきりと覚えてる奴は殆どいなかったよ。それに魔族の証である角も隠してたからな。組織社会とは単純だ。力さえあれば上にいける。素性を隠していたが今の地位に上り詰めるのにそう時間はかからなかった」


 元幹部ならそれだけ実力もあっただろうしね。でも本当にそれだけで今の地位までいけるものなのかな。


「今でも人には疑念を抱いている。必ずあの頃の惨劇を繰り返すと私は思っている」


「どうして私に話してくれたんですか?」


 そんな大事な秘密をそれこそ信用してない人間に話すとは思えないけど。

 ケルちゃんが鼻で笑ってこっちを見てくる。


「お前は馬鹿だからな。私の話の半分も理解できないと思っただけだ」


 もーそういう所本当素直じゃないー。なら私も言ってあげよう。


「本当はケルちゃんも気付いてるんじゃないですか? 信用しないって言いながら、本当は信用したいって思ってる」


「くだらない。私が人を信用したいだと? それこそ笑えるな」


「だって今の治安維持の一番上まで上り詰めたのって人の社会や人付き合いとかそういうの、沢山勉強したからじゃないですか? そうでないとありえないと思います」


「ばかばかしい。素性を隠す為に悟られなくするにはそうした方がいいと考えただけだ」


 必死に否定してくるあたり認めたくないみたい。ううん、認めたら自分の中のプライドが保てなくなると思ってるのかもしれない。


「だったらどうしてこんな時間にここに来たんですか? 人が寝静まってて誰もいないのにわざわざ央都に残る理由はないですよね?」


 生誕祭が終わったなら公務も終わってるはずだし、北都に帰るのが普通。こんな真夜中にまで徘徊してるのもおかしいと思う。


「生誕祭が終わっても遊んでる馬鹿がいるかもしれないだろう」


「私みたいに?」


「ああそうだ」


 ケルちゃんが鼻で笑う。


「私には魔族や人間の関係とかそういうの難しくて分かりません。でも1つ分かるのは、ケルちゃんが悪い人じゃないってことくらいです」


「子供並の感想だな。平和ボケした人間にお似合いの考えだ」


 ずっと強がってるけど無理して強がってるようにも感じる。


「ケルちゃんは私をどう思ってます?」


「馬鹿で愚鈍で馴れ馴れしくて常識知らずで無遠慮でこちらの気も考えない人間だ」


 酷い言われよう。


「だが私が今まで見て来た人間とは少し違う変な人間でもある」


「誉め言葉ですよね?」


「さぁな」


 また1人で笑ってるー。それなら勝手に褒められてるって解釈しちゃうから。

 無遠慮ですもんー。


 それから少しだけ静かな時間が流れた。共通の話題とかそういうのないから当然かもしれないけど。でもケルちゃんがどこかに行く様子はない。


「魔導砲、一緒に見れなくて残念ですね」


 それだけが唯一の心残り。


「あんな光に価値を見出すとは無駄を好む人間らしいな。あれくらい私でもできるぞ」


 そう言って空に向かって人差し指を向けたら真っ白な光が音もなく飛んでいった。その輝きは魔導砲に負けず劣らずだったけど、さすがに空高くまで行く前に消えちゃった。


「ケルちゃん、もしかして約束覚えてくれてたんですか? すごく嬉しいです」


 これは思わずハグハグしちゃうー。


「ああもう! 近寄るな、抱き付くな、馴れ馴れしくするな!」


「ケルちゃん、そんな大声出したら瑠璃が起きます。あと近所迷惑になりますよ?」


 瑠璃の耳がピクッと動いたけどスヤスヤ寝てる。


「お前、確信犯だろう?」


「好き勝手言ったお返しです」


「色んな人を見てきたがお前の考えだけは全く分からないな」


 ケルちゃんがやれやれって感じをして立ち上がった。


「行くんですか?」


「ああ。これ以上お前の相手などしてられない」


 すっごい嫌な顔をされたんだけど。これは私も退散しましょうかなー。目的の約束を果たしてくれたし、それにあんな綺麗な魔法を打ち上げてくれたんだから今日は満足して帰れる。瑠璃を起こさないようにそうっと抱きかかえる。


「1つだけ、教えて欲しいことがある」


「何ですか?」


「あの時……死神と会った後お前が一目散に駆けつけて来たのは気付いていた。なぜその選択を迷いなくできた?」


 本当に分かってなさそうに聞いてくる。


「困ってる人が目の前にいたら、そこに魔族や人間って関係なくないですか?」


 そう言ったらケルちゃん、すごくびっくりしてた。けどすぐに平静に戻った。


「私も、治安維持総司令官として……いいや、この世界を生きる者としてまだまだかもしれないな」


「ケルちゃんも困ってる人がいたら助けて来たんじゃないですか?」


「敵意を向けてる奴に手を差し伸べるほどお人好しでもない」


 独り言っぽく呟いてる。


「ケルちゃん、さっきの魔法とっても綺麗でした。また今度一緒に見れたら嬉しいです」


「残念だが今日限りだ。見たいなら来年まで我慢するんだな」


 子供みたいな悪戯な笑みでこっちを見てくる。ケルちゃんもこんな顔するんだ。

 それに来年って……。


 そっか、そうだよね。それを聞けて安心したよ。もうとっくに気持ちが晴れてるんだって、知れたから。

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