151 女子高生も生誕祭を楽しむ(7)
夜。生誕祭もいよいよ終わりが近づいて来た。空が少しだけ暗くなってきたから街はイルミネーションみたいな輝きで道を照らしてくれる。何もない頭上でも光ってたりするから気分はプラネタリウム。
お店は材料が尽きた所も多いみたいで店仕舞いの準備をしてる人がちらほらみかける。それでも観光の人が多いのはこれから始まるイベントを楽しみにしてるからだと思う。
北に見えるお城を目指してようやく近くまで来れた。目の前にものすごく長い石の階段がずーっと上まで続いてる。軽く千以上はありそう。その上に大きなお城があるけどここからでも圧巻。階段の天辺の方でお偉いさんみたいな人も見える。この国の王様?
そして何よりもこの広場にロケットみたいな巨大な何かがある。その長い円筒状の先を見ていったら大砲みたいになってるからきっとこれが魔導砲だ。想像の何倍も大きくてびっくり。これなら確かに遠くまで飛んでいきそう。
「おや、ノラじゃないかい。あんたも来たのかい?」
ロケットの近くに三角帽子を被ったおばあちゃん、ノイエンさんが杖を持って立ってた。生誕祭でずっと見かけなかったけどここにいたんだ。
「はい。ノイエンさんはここの警備ですか?」
「まぁね。この日は人が増えるからどうしても城の警備を強化しないといけないからね。ま、馬鹿する連中なんて殆どいないから退屈なくらいさ」
賢星って聞いたからこういう国の為の仕事も請けないといけないんだろうね。大変そう。
「にしてもあんたが1人って珍しいね。いつも誰かを連れてるのにね」
「さっきまで一緒だったんですけど色々あって。それにリリもここに来るみたいなのでその待ち合わせもしてるんです」
「そうかい。もう少し早かったらあんたの顔馴染みとも会えたのにねぇ」
えーそうだったの? これは走ってでも来るべきだったよ、無念。
「こんな大きな大砲で打ち上げるなんて本格的ですね」
「ただ光を飛ばすだけなのに大袈裟な代物だと思うだろう?」
「いえ。私の世界でもこういうの結構ありますよ」
「へぇ。どこでも人ってのは無駄な物に拘るんだろうね」
だけどこういうものがあるからこそ色褪せた日常が綺麗なものになるんだと思う。
それで見てたら人がぽつぽつやってきてロケットの前にある石碑に手をかざしていってる。
すると石碑が青白く輝いてた。
「あれで魔力を捧げてるんですか?」
「そうだよ。皆、その時の気分で魔力を注いでくれてるね。自分の魔力が空になるまで注ぐ人もいれば、少しだけって人も多い」
魔力が空っぽって筋肉痛みたいな状態だろうしそこまでする人は珍しいんだろうね。
「ノノムラ・ノラ! やっと見つけたのじゃ!」
「ぴー!」
「キューちゃん! 瑠璃!」
「全く、この我に雑務を押し付けるとはお前さんでなかったら即刻あの世送りであったぞ」
別れてからもずっと私を探してくれてたんだ。なんか悪いことしちゃったね。
でもそう言いながらも手にはちゃっかり綿菓子の食べ物を持ってるけど。
「あやつは大丈夫であったか?」
「分からない。今は信じて待つよ」
「そうか」
キューちゃんも色々あってもケルちゃんが心配なんだね。古くからの付き合いだろうし気になるんだろうね。
「そうだ、キューちゃんだったら一杯魔力持ってるんじゃない?」
「当然じゃ。我が死神の魔力は底なしよ」
「じゃああの石碑に手を触れてみてよ」
「こうじゃ?」
キューちゃんが触れたら石碑ずっと青く輝いてた。さすが死神の肩書は伊達じゃないね。
「さすがは天下の死神様だ。あたしみたいな老いぼれとは比べ物にならないね」
「かっかっか! 鬼ババァもようやく負けを認めたかのう!」
「ああ。最後の手向けにあんたの魔力の神髄を見せておくれ」
「いいじゃろう。その老いた目に焼き付けておくがよい!」
キューちゃん天狗になってるけどノイエンさんにいいようにおだてられて利用されてるって気づいてなさそう。
「ノラ。来てたんだ」
「ムツキ!」
青髪の学生騎士さんのムツキ登場。朝に酒屋の前で顔を会わせたきりだったからこれは嬉しい。
「ムツキも魔力に捧げに来たんだね」
「うん。ノラはもうしたの?」
「まだだよ。もうすぐリリが来ると思うから待ってるんだー」
「そうなんだね。じゃあ私も待つ」
さすが騎士さん、空気を読むのもお手の元。
「朝の大食いはどうだった?」
優勝候補のキューちゃんが辞退したから普通に勝っててもおかしくない。
「実は勝負中に子供が泣いてるのが見えたから棄権したの。結構いい勝負だったけど仕方ないかな」
優勝するかぎりぎりの所で迷いもなく棄権して子供の所に行けるなんてムツキ、なんていい子なんだよー。これは私がハグして優勝景品としてあげよう。
「ちょっ、ちょっとノラ? 急に抱き付いたら困るよ」
「私は困らないー」
照れくさそうにあたふたしてるムツキもかわいいね。このままムツキの胸の中で眠っちゃおうかなー。
「ノノー、来たわー。って公共の場であなた達は何してるのよ!」
眠りにつきそうな所でお嬢様の大声で目が覚めちゃった。
「リリー、待ってたよー」
「それが待っててくれてる人の態度なのかしら。羨ましいじゃない!」
お嬢様も年頃らしくてそういうのが欲しくなるみたい。だったらリリにもぎゅーてしてあげよう。リリも柔らかくていい匂いしてあったかーい。
「ノノ? そんな強く抱き付かれると困惑、するのだけど……」
「リリル。人のこと言えない」
「ちっ、違うってば!」
リリも困ってるみたいだしこれくらいにしてあげよう。離れたら何か残念そうにもしてたけど、まぁいっか。
「リリも来たことだし一緒に魔力注ごう?」
「ぴ!」
なんでか瑠璃が返事をして2人が笑ってる。瑠璃は本当に空気が読めない。
というわけで石碑に3人で横に並んで瑠璃がぱたぱたと上を飛んでる。
「ここに手をかざしたらいいんだよね。私、魔力ないけど大丈夫かな?」
「だったらノノに手から私が注いであげる」
「じゃあ私がリリルの上から」
「ぴ!」
それで3人手を乗せあって最後になんでか瑠璃も手を置いてくる。それでみんなが魔力を込めてくれたみたいでサラサラした何かが手の中に感じた。これが魔力?
そしたら石碑が青白く一瞬輝いて消えていった。
「ふーこんな感じでいいかしら?」
「うん。私はそんなに魔力ないから」
これが魔力かぁ。初めての感覚でちょっとドキドキしちゃった。
「そろそろ打ち上げの時間だね。もう捧げに来る人はいないだろう」
ノイエンさんが辺りを確認して言ってる。近くには私達以外の人はいなくて、ほとんどの人は離れて打ちあがるのを待ってる感じだった。
「ノイエンさん、少しだけ待ってくれませんか? あと1人だけ来てない人がいるんです」
「そうなのかい? じゃあ少しだけだよ」
約束したから。だから私はその可能性を信じたい。
キューちゃんも同じ気持ちみたいで黙って目を瞑って綿菓子食べてる。
~10分経過~
ケルちゃんが来ない。あの時の言葉が届いてなかったのかな。もっと強く言っておくべきだったのかな。
「ノラ、もういいかい? あんまり待たせるとこれを楽しみにしてる人も大勢いるからね」
ノイエンさんの言い分はもっとも。私のわがままにこれ以上他の人は巻き込めない。
「はい、お願いします」
もう一度辺りを確認したけどそれらしい人はいなかった。
「ノノ、誰か待ってたの?」
「うん。でも仕方ないかもしれない」
簡単に心を変えられるなら、とっくに変わってたはずかもしれない。
ノイエンさんが杖で地面を叩くと石碑から青い光がロケットの方に吸い込まれていって、大砲の先の方が白い粒子みたいなエネルギーが溜まっていった。
その輝きは近くで見るには眩しすぎるくらいで目を開けるのもやっと。
光がどんどん集約していて、フッと光が消えた。
次の瞬間、大砲から流れ星のように白い光が空高くに打ちあがった。光の残留を残して遠く遠く白い輝きが飛んでいく。輝きがどんどん細くなっていって、そして空のどこかで儚く消えちゃった。
一度見たのに何度見てもその景色に心を奪われちゃう。きっとこれの為に生誕祭に来てる人も多いんだろうね。
「はぁぁぁ、よかったわぁ。これ、今回も記録更新なんじゃない?」
「当然じゃ。我が注いだのだからそうでなくては困るのじゃ」
色んな人が色んな思いを乗せてあの光に夢を託す。
「ノラは願い事した?」
魔力と一緒に人の願いを乗せて神様に届けるって聞いたから。
「うん、願ったよ」
願いが叶うならどうか届いて欲しい。ただそれだけを願う。




