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148 女子高生も生誕祭を楽しむ(4)

 天球塔から降りて街に戻るとそこにはさっきまでの哀愁も感傷もなく、楽し気な雰囲気が漂ってた。


「姉さんを探すんだよね」


 ミコトちゃんが素っ気なく聞いてくる。本人も腹を括ったみたい。


「うん」


「はぁ。私姉さんを撒いたんだよね。今から探せる?」


 時間はもう昼を回ってるみたいで人の往来は朝よりも増えてる。このまま探しても時間だけ過ぎていくのは明白。何か方法がないかな……。


 そうだ、ミコッちゃんの近くに瑠璃がいるはず。だから瑠璃に気づいてもらえれば何とかなるかも。んー、その方法はっと。


 あれだ。昔、リリがくれた呼子笛。本来は従魔の鳥さんを呼ぶ用だけど瑠璃が気付いてくれないかな?


 というわけで吹いてみる。ピーって音が木霊して歩く人がこっち見てるけど気にしない。

 すぐには来れないだろうから、定期的に吹き続けてみよう。



 ~10分後~



「ぴー!」


「瑠璃! さすがだね!」


「ぴ!」


 私の相棒はこっちの意図を把握してくれたみたいだね。それで瑠璃の後ろにはミコッちゃんも来てた。そして待望の姉妹の再会だけど。


「ミコット」


「……姉さん」


 ミコトちゃんは会うって決めたけど、やっぱり本人を目の前にしてちょっと委縮したのかもしれない。大丈夫、その為に私がいるから。背中をそっと押してあげた。


「の、のら?」


「心配しなくても平気だよ。ミコトちゃんの気持ち、伝えてあげて」


「う、うん。分かった」


 軽く深呼吸して覚悟を決めた表情になった。それで一歩前に踏み出して頭を大きく下げた。


「姉さん! 勝手に村を出てごめんなさい!」


 ミコトちゃんのその態度にミコッちゃんは腕を組んでただジッと見てる。


「私、ずっと姉さんの重荷になってるって思ってたの。神子にもなれず、姉さんの助けにもなれなくて、いつも迷惑ばかりかけて……。私、姉さんが好きなこと我慢してるの知ってたの。だから私という重りがなくなったら姉さんが楽になるって思って村を出たの。本当にごめんなさい!」


 ミコトちゃんは顔もあげずに自分の気持ちを吐き出した。その言葉を聞いてミコッちゃんは組んでた腕をほどいて優しい顔に変わった。


「馬鹿ね。私があなたを重荷だと思ったことなんて一度もないのに」


「そんなの……建前でしょ。姉さん、舞の練習や神子としての勉強で疲れてるはずなのにいつも私の相手してくれた。本当はその時間で占いとかそういうのしたかったんでしょ?」


「……私が今日まで頑張ってこれたのはあなたがいたから。あなたがいなかったらそれこそ神様や神子というしがらみを捨ててあの村から逃げ出してた」


「嘘だ……。村の人やあの神様から褒められて嬉しそうにしてたの見たよ」


「それこそ建前に決まってる。村を治めるなら嫌われてるよりいい顔して好かれるように振る舞うのは当然」


 ミコトちゃんの言葉が詰まる。全部、自分の勘違いだったって気づけたのかもしれない。

 私は1人っ子だから姉妹の関係なんて分からない。でもコルちゃんとヒカリさんの関係を見てたら姉にとっての妹はかわいい子に映ってるのかもしれない。


 ミコッちゃんがミコトちゃんの顎に手を添えて顔をあげさせた。


「もしあなたが望むなら私はあの村と縁を切るくらいの覚悟はある。それくらいあなたが大事」


「やめてよ。私、これ以上姉さんの迷惑をかけたくない」


「だったら一緒に帰ってあの神様を説得すればいい。大丈夫、あの頃に比べたら今は自由よ」


「本当?」


「うん」


 そしたらミコトちゃんがボロボロ涙を流して抱き付いてた。よかった、これで一件落着だね。これ以上ここにいるのも無粋だろうし、私はお暇しようかな?


 瑠璃を連れて黙って立ち去ろうとしたら後ろからミコッちゃんの声がした。


「ノラ、ありがとう。ミコットを説得してくれて。もう、このまま会えないと思ってた。言葉も交わせないと思ってた。だから……あなたにお礼がいいたい」


 振り返ったら今まで見たことないくらい優しく微笑んでるミコッちゃんがいて、つい言葉も出ず見惚れちゃった。


「せっかくだし一緒にお店巡ったら? 美味しい料理を食べたら嫌な気持ちも吹き飛ぶと思うよ」


「うん、そうする」


「あの! 私からもお礼を言わせて! 私に姉さんと話す勇気をくれてありがとう!」


 これ以上何かを言うのも野暮かな。笑顔で手を振ってあげよう。

 今日が生誕祭でよかったって思うよ。もし今日がなんでもない日だったら仲直りできなかったかもしれないからね。


 2人と別れてまた相棒との巡り旅だね。生誕祭はまだまだ始まったばかり。私も堪能しないとね!


「さぁ瑠璃行くよー!」


「ぴぴ!」


 さてさて、また出店の大通りに戻ってきちゃった。ていうのも行きたい所があったからね。


「ノラ様!」


「ノノムラさん!」


 やって来たのはレティちゃんとフランちゃんのお店の近く。シャムちゃんが言ってたからぜひとも来ようって思ってたよ。


「遊びに来たよー。って、あれシャムちゃんは?」


 てっきりアンセスさんと一緒にいると思ったけど入れ違いになったのかな。

 そしたら2人が気まずそうに苦笑いしてる。


「えっとー、実はさっき白衣を来た人と一緒に来たんだけど」


 白衣ってアンセスさんのことだね。


「シャムがその人に料理渡して美味しいって言ってくれたのが嬉しかったみたいで一杯食べてもらって、それでまーなんといいますか。限界を迎えたみたいですね」


 あーそういう。確かにアンセスさんって食細そうだしね。


「不幸中の幸いだけどレティがいたから薬を飲んでもらって、それでシャムが家まで連れて行ったんだよ」


 なるほどねー。シャムちゃんもアンセスさんが喜んでくれてテンション上がったんだろうね。2人がいないのは残念だけどせっかく来たんだからこっちはこっちで堪能しよう。


「えっと、皆が作ったのってこれ?」


 葉で包んだ丸くてホクホクしたのがせいろの上に何個も並んでる。ロールキャベツ?

 いや、小籠包?


「よく聞いてくれました! 実は今年の出し物何にしようか悩んだのですが、そこで各々の長所を活かした料理にしようと思いました! 私の薬学、フランの裁縫、そしてシャムの調達力。これらを統合して薬草がメインの料理があってもいいと思ったのです!」


 レティちゃんがここぞとばかりに熱弁してる。とりあえずすごい熱意を持って作ったというのは伝わった。


「もーレティは大げさ過ぎだよー。ポムの葉で色々詰めて蒸しただけなのにー」


 でも葉で包むのって結構難しいと思うけど、これは何も使わず綺麗に包んである。昔ロールキャベツに挑戦したことあるけど包むのに苦戦して崩れた記憶がある。


「せっかくだからもらってもいい? あと瑠璃の分も」


「もちろんです!」


「ぴ~♪」


 串をくれたからこれで刺して食べるのかな。まずは瑠璃にあげたら普通に1口で食べちゃう。ご満悦の表情から味は保証済みだね。


「頂きます。んー、これは……」


 葉を咀嚼した瞬間に口の中に沢山の……なにこれ甘い。果汁じゃないと思うけど、うん。

 ていうか甘すぎない? めちゃくちゃ甘いんだけど。


「あー多分ノノムラさん外れ引いたよ」


「当たりはずれがあるの?」


「本当は味を統一するつもりだったんだけどシャムがどうしても甘いのがいいって言って、反対にレティはピリ辛がいいって争って、それじゃあ色んな味を作ろうってなったんです」


 あーなんか色々納得したかも。ということはこの甘いのはシャムちゃんの趣味かー。確か甘党だったもんね。


「わ、私はそんな言い争いをしてません! フラン、いい加減なこと言わないでください!」


「はいはい。ノノムラさん、多分これはいける奴だよ」


 指さして教えてくれたから今度はそれを食べてみる。


 おぉ、食べた瞬間に肉汁みたいのが広がる! それに香辛料を使ってあるのか程よくスパイスも聞いてて柔らかいしすごくグッド!


「おいし~。これはいいね~」


 サイズも程よく小さいから何個でも食べれる奴だ。

 せっかくだからもう1つもらおう。


 ……甘い。

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