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147 女子高生も生誕祭を楽しむ(3)

 シロちゃんのパン屋を後にして、いよいよミコッちゃんの妹さんを本格的に探したい……と思いながらも結局手掛かりが1つもないのが現状。それに妹さんの容姿を知ってるとなると同じケモミミ社会の人達になるし。


「ミコッちゃん、レティちゃん達の所に行ってみよう?」


「ん」


 それで歩いて噴水広場に戻って来た。丁度ミツェさんの歌が終わった所みたいで、代わりに大道芸人みたいな人が手品を披露してる。杖の先から花束を出したり帽子の中からスライムを出したり。でも魔法のある世界だから本当にしてる可能性が否定できない。


「あ」


 隣でミコッちゃんがそんな声を出した。


「ミコット!」


「え?」


 思考が巡るよりも先にミコッちゃんが走り出してた。その先には茶髪の制服姿の狼みたいな尻尾を持ったケモミミさんがいる。でもその子がこっちに気づいて走り出してた。しかもすごい速さで。


「ミコッちゃん!」


 ダメだ、完全に妹さんしか見えてない。


「瑠璃! ミコッちゃんを追って!」


「ぴ!」


 私の足だと追い付かないけど瑠璃なら飛んでいけるから大丈夫なはず。

 とにかく私も後を追いかけないと!


「ふにゃ!」


 こんな時に足を捻っちゃう私の馬鹿~。しかもバランス崩して転びそうなんだけど!


 と、そんなときに手を引いてくれた人がいた。


「大丈夫?」


「ミツェさん、ありがとー」


 丁度休憩してたみたいで助けてくれたみたい。九死に一生だよー。

 ミコッちゃんは見失ったから瑠璃に任せて私はちょっと休んでいこう。

 ミツェさんが座ってたベンチの隣に座らせてもらう。


「何か、ありました?」


「うん。多分姉妹喧嘩、だと思う」


 妹さんは明らかに気付いた様子だったのに逃げてた。会いたくない理由があるのかもしれない。フブちゃんに言われても反応しなかったみたいだし。

 もしかして2人を会わせたら不味いのかな。良かれと思って動いてたけど、私間違ってた?


「不安も~孤独も~辛さも~全部大切だから~だから~あなたは~自分の道を進んで~」


 顔に出てたみたいでミツェさんに励まされちゃった。


「人は~1人では飛べない~私が飛べたのは~あなたがいたから~」


 1人では飛べない……そうだよね。どんな理由があるにしてもそれが分からないなら分からないと始まらない。


「その声が~心に響いたよ~。私は~また歩き出せる~」


 ミツェさんに勇気をもらったから探しに行こう。足もちょっと捻っただけだったみたいだし大丈夫。


 ミツェさんに手を振って別れてミコッちゃんが行った道を歩いていく。今から闇雲に探してもきっと見つからない。


 もし、私が同じ立場で誰にも会いたくない時どこを選ぶだろう?


 ……。


 あそこだ。



 ~天球塔最上階~



 階段を1段ずつゆっくり上がってようやく一番上まで来れた。バルコニーみたいにちょっと出た所にその子はいた。帽子を被った茶髪のケモミミさん。黄昏てるみたいに手摺に手を置いて遠い所を見てる。


「こんにちは」


 声をかけたら身構えてきたけど、こんな場所だから逃げるところなんてない。


「あなたは……」


「これで会うのは3回目かな?」


「悪いけど私は忙しいから」


 私の横を抜けようとしたから思わず手を握っちゃう。


「お願い。少しだけ話をさせてくれないかな。あなたがミコッちゃんの妹さんなんだよね?」


 そう言ったらその子は驚いた顔をしてた。


「あなた、姉さんの知り合いだったの」


「お願いだから話をさせて。別にあなたを突き出したりとかしないから」


 そうしたらその子はバルコニーの所に戻ってくれた。


「それで話って?」


 ぶっきらぼうに聞いてくる。こういう所は姉妹みたいで似てるなぁ。


「ちょっと何笑ってるの?」


「ごめん。似てるなって思って」


「はぁ。別にいいけど。でも先に断っておくけど私は姉さんと会わないから」


「どうして?」


「あなたに話す義理ある?」


「ないと思う。だけどミコッちゃんはあなたを探してるんだよ。帰郷祭にも帰って来ないって心配もしてた。あなたに嫌われたんじゃないかって」


 最後の一言が効いたのか分からないけど軽く溜息を吐いてた。あまり深入りしない方がいいのかもしれない。でもこのまま疎遠になるのはきっとお互いの為じゃないと思う。


「本当、姉さんは馬鹿だよ。私のことなんか早く忘れたらいいのに」


 帽子が飛ばないように抑えながら独り言みたいに呟いてる。


「どうして私を気にかけるんだろう? 神子の仕事もあるだろうにこんな所まで追いかけてくるなんて思ってもなかった。縁を切ったつもりだったのに。もう、関わらないようにしようと思ったのに、どうして……」


 縁を切りたいくらい会いたくない、か。だったらどうしてそんなに悲観してるんだろう。

 そんなに声を震わせるんだろう。何があなたを追い詰めてるの?


「誰も、聞いてないから。誰にも言わないから。話してくれない? 私はあなたの助けになりたいの」


「意味が分からない。それも姉さんに言われて?」


「違うよ。確かにミコッちゃんがあなたに会えるよう手伝いもした。でも今はあなたの助けになりたい。それだけだよ」


「心変わりしやすいのね。ますます信用できない」


「……泣き出したくなるくらい会いたくないなら、私はそれでもいいと思うよ」


 そしたらその子は手で目元を触った。自分でも気づいてなかったみたい。


「理由か。そんな大した理由じゃない。ただ姉さんの負担になりたくないだけ」


「負担?」


「あなたがどこまで知ってるか知らないけど私の家は神様に仕えてる名家なの」


 それは何となく知ってた。皆がミコ様って言ったりして委縮してたし、ミツェさんも舞がどうって言ってたし。


「あの家に生まれた人は神様に捧げる舞を覚えなくちゃいけない。姉さんはすごかった。それはもう100年に1人の逸材だのなんだの言われてもてはやされてね。それに比べて私なんか全然。舞の1つも覚えられなくて親を失望させたよ」


 自嘲気味に話してるけど少し自分に対して失望してるようにも聞こえる。


「父も母も多忙な人だった。2人とも村にいる方が珍しいくらい。後で知ったんだけど姉さんが優秀だったから既に村を治める神子としての引継ぎを済ませてたそう。だから村を姉さんに任せっきりにしてたの。ひどい話だよ」


 かける言葉が思いつかない。それくらい私と住んでる世界が違った。


「そんなだから私を育ててくれたのは家にいる司祭の人と……姉さんだけだった。小さい頃から姉さんは私に構ってくれた。時々村の外にも連れてくれた。あの頃はそれに何の疑問もなかった。でも後で知ったんだ。姉さん、自分の時間を目一杯削って私に使ってくれてたんだよ。私に舞の才能もないからそれも覚えなくちゃいけないのに。好きなこと、やりたいことも全部我慢してた!」


 その子は泣いていた。誰にも言えずにただ胸の内に秘めた感情が風に流されるみたいにして。


 私は勘違いしてた。この子が会いたくないのはミコッちゃんを嫌ってるからだと思ってた。

 逆だった。好きだからこそ、大切だからこそ会わないようにしてたんだ。


「だから決めたの。私がいるから姉さんの負担になる。だったら姉さんのいない世界で生きようって。舞の才能はないけど運動神経には自信あったから」


 そこまで言い切って口を閉じた。


 こんな特殊な環境で育った子に私が軽々しく口出ししていいのかな。

 でもここで何も言わなかったらきっと何も変わらない。ミツェさんにも言われた。

 人は、1人じゃ飛べないんだ。


「ねぇ。やっぱりミコッちゃんに会わない?」


「私の話聞いてた?」


 呆れたみたいに言われちゃう。それはごもっとも。


「聞いた。でもそれと同時に思ったの。本当はあなたもミコッちゃんに会いたいんじゃない?」


「なにそれ。そんなのあるわけないじゃん」


「そうかな? 本当に縁を切るつもりならわざわざ国内にいる必要はないんじゃないかな?」


 そう言うとその子は言葉を詰まらせた。旅をするくらい身軽なのに国を出ようとはしない。それって無意識に自分の中でも心残りがあるからだと思う。


「会ってどうするの? 謝るの? 今更話すことなんてないよ」


「ないならそれでもいいと思うよ。ミコッちゃんはただあなたに会いたいだけだと思うから」


「でも、会ったら私はきっと……」


「それにミコッちゃん央都でずっといるんだけど、それを考えたら家の束縛も昔より緩くなってるんじゃない?」


「そう、だったんだ。姉さん……」


 やっぱり心はまだお姉ちゃんを忘れられてないみたいだね。あと少し背中を押してあげられたら。


「それにミコッちゃん、占いがすごいんだよ。私が会ったのもその占いをしてもらったのがきっかけなんだよ。だから村でそんな地位のある人なんて最近まで知らなかったんだ」


「そういえば姉さん、昔よく占い師の真似ごとをよくしてた気がする」


「その占いもすごい当たるんだよー。私もあの占いに何度も助けてもらってるからね。会いたくなって来たでしょ?」


「そう言われると別にってなる」


 あれー? おかしいなぁ。


「でも少しだけ。ほんの少しだけ会ってもいいかもって思った」


「本当?」


「本当は自分でも分かってた。ずっと一緒だったんだから一番分かってたはずなんだ。なのに、知らないふりして、勝手に分かったつもりになってた。私は自分から逃げてたんだ」


 誰にだって逃げ出したい時があると思う。そういう時、誰かが傍にいてくれたらきっとまた立ち上がれるんだと、そう思う。


「話、聞いてくれてありがとう。こんな話したの初めてだった」


「ううん。そういえば名前言ってなかったよね。野々村野良だよ」


「ミコット・フィルチャー。って、姉さんから聞いてないの?」


 聞いてたけどどうせなら本人の口から聞きたいなって。


「ミコトちゃんって呼んでもいい?」


「お好きにどうぞ」


 ぶっきらぼうな返事だったけど、その表情が優しく微笑んでたのをきっと忘れないと思う。

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