146 女子高生も生誕祭を楽しむ(2)
生誕祭が始まってまだ間もない。ミコッちゃんにエスコートを頼まれたけど行く当ても決まってない。
「それにしても本当に人が多いね~」
「そうね。これであの子を見つけられたら奇跡ね」
一応瑠璃には空から見てもらってるけど多分真面目にはやってない。
「ミコッちゃん、ゴミ捨てるよ」
「ん。ありがと」
こういう日だからか街のあちこちにゴミ箱がかなり置いてある。観光客が多いと街にゴミを捨てて帰る人もいたりするけど今の所はそんな感じはしない。やっぱり治安がいいって思う。
適当にふらふら歩いてたら旧市街に繋がる石橋のある所まで来た。向こうは催しをしてないみたいで人の往来は少ない。そのせいか休憩してる人がちらほらいる。
「はーかーせー。せっかくの祭りなのになんで拒むでやがるですかー! 今日限りなのにいつも通り過ごすなんて勿体ねーです!」
「シャム、やめてくれ。私は人の多い所が苦手なんだ」
なんか聞き覚えの声がすると思って見たら橋の上でシャムちゃんがアンセスさんの手を引っ張てた。でもアンセスさんは必死に橋の手すりに掴まって抗ってる。
「シャムちゃん、アンセスさん。おはよー」
「ノノムラ! いい所に来たです! ノノムラからも言ってやってください! 博士、家からも出ようとしなかったんです!」
シャムちゃんが手を放してアンセスさんも一息って感じ。
「……私は別に催しとかそういうのに興味ない。研究さえ出来たら」
アンセスさんは職人肌って感じだから仕方ないかもしれない。それに人の多い所が苦手っていうのはよくわかる。
「シャムちゃん、相手が嫌がってるのに無理に連れだしたらダメだよ。余計苦手意識が強くなるかもしれないし」
「う……それは、悪かったです。でもせっかくだから博士にも楽しんで欲しかったです。ボク達の所でも出し物してるんですから」
シャムちゃんがリスの尻尾と耳をシュンとさせて落ち込んでる。
もしかしてアンセスさんに自分の所の料理を食べて欲しいっていうのが一番の本音だったり?
「アンセスさん。酒屋の前でポーション味の飲み物を出してる子がいるんです。興味ないですか?」
「そう、なの? 少し興味ある」
「それとシャムちゃんの所にも行ってあげてくれたら嬉しいなぁって。それだけでもダメですか?」
「……分かった。だけど本当にそれだけだから。そこに行ったら帰る」
なんとか行ってくれるみたいだね。お祭りの楽しみ方なんて人それぞれだから、無理強いはよくないよね。
「ていうかお前様はミコ様でやがるですか!?」
シャムちゃんが今更になって驚いてる。ミコッちゃんも気付くのおそって顔してるし。
「な、なななんで央都にい、いるですか!」
私からしたら何で声が震えてるのか気になるけど。
「別に。たいした理由じゃない」
腕組んでそっぽ向いてる。やっぱり同族相手にはまだ心開いてなさそう。
「そ、そうでやがるですか。おい、ノノムラ! くれぐれもミコ様に何もないように注意するですよ!」
「うん」
「ならいいですが……。ボクはもう行くです! ほら博士! 酒屋に行くです!」
「だ、だから手を引っ張らないで」
逃げるみたいにして行っちゃった。それを見てミコッちゃんは溜息吐いてる。
「私、皆と歳もそんなに離れてないんだけどね。様、なんて仰々しいと思わない?」
昔、フランちゃんが天神の神子がどうって言ってたからきっとそのせいなんだろうけど。
私は身近にそういう人がいなかったからどんな感じかも分からない。
「次会った時は様呼び禁止って言ってあげよっか?」
「そうなるとミコ呼び? それはそれで馴れ馴れしい気もする」
ミコッちゃんも気難しいお年頃だね。
そんなわけで次に向かおう。
噴水広場に来るとそこでミツェさんが歌を披露してた。綺麗な歌声に足を止めて聞いてる人が多数。料理を食べる手すらも皆止まってる。それだけミツェさんの歌には心に響く何かがあるんだよね。
声をかけたいけど気を遣わせるだろうし今はいいかな。
「あの人はやっぱりすごい。あんな大勢の前で委縮せずに歌えるんだから」
緊張はしてるだろうし、目も瞑ってるくらい恥ずかしがり屋だけど、でも噛んだり途切れたりっていうのは絶対しないんだよね。
「ミコッちゃんも踊っていく?」
なんか舞がどうのってミツェさんが言ってたし。
「冗談でも怒るよ?」
「ごめーん」
ミコッちゃんを怒らせると怖そうだからこれ以上はやめておこう。
噴水広場を抜けて住宅街にまでやってきた。家が並んでるけどこの辺でも出し物をしてる所が結構あるみたい。生誕祭に参加する資格は必要なくて、好きな料理を出すだけ。
だから普通の家庭が料理を出すのもおっけーなんだろうね。
しかもその手当を国からしてくれるんだから皆積極的に参加するのかな?
「よーし、ここに入るよー」
木の形をした家まで来たからそこの扉を開けていざ来店!
そして待ち受けてくれたのは白いもふもふ狐の2人組!
「キタキタキツネです!」
「いらっしゃいませー、っとノラ君じゃないか! それにミコッテじゃん」
熱い歓迎を受けたから入らせてもらおう。中には焼き立てのパンが一杯置いてある。
いつもは色んな種類があるけど今回は1種類みたい。生誕祭に向けて無料で出すからその為かな? 瑠璃が興味深々になって近くまで寄ってる。
「み、ミココ様なのです!?」
シロちゃんがミコッちゃんを見てあわあわしてる。それを見たミコッちゃんの反応は溜息を通り越して無表情。
「大丈夫だよ、ミコッちゃん。私もお客『様』だから」
「じゃあ私もお客様ね」
というわけでただの客2名です。
「ではお客様、私達のパンをお1ついかがですか~」
フブちゃんが私と瑠璃の為に持ってきてくれたから受け取った。シロちゃんはミコッちゃんに渡してたけど跪いて顔を落として両手で渡してる。農民が殿様に献上する図?
「わぁ。このパン、もしかしてスライム?」
丸いパンに青くて透明なソースをかけてあってパッと見はスライムにしか見えない。この透き通るくらいのソースは中々すごい。
「ふっふっふ、ご明察。前に酒屋で働いてセリー君から料理は見た目が命と聞いてね。そこでスライムパンを作ったら受けるのではないかと思ったのですよー」
なるほどー。メロンパンならぬスライムパン。これはいいね!
「ちなみに作り方は全然分からないからその辺は全部シロに任せました!」
フブちゃん、それはドヤ顔して言うこと? まぁアイディアも大事だから何とも言えないけど。
というわけで早速食べてみる。わお、このソース香ばしい! スライムパンだし見た目からして絶対にスラース使ってると思った! しかもパン生地の中からお肉も入ってる!
菓子パンと思って食べたらまさかの総菜パン!
「ふふー! 驚いた顔をしてるね。シロ説明してあげて! 私には分からない!」
「最初はスラースを使って作ろうと思ったのですが、透明感を出せなくてソースを1から作りました。ハネハネ草、シロキリ花、青陽花などなど混ぜてあるのです。ですがソースとパンだけでは味気ないと思ってドラゴンテールを入れてみました」
これはまたとんでもないのが来たよ。ソース、パン生地、そしてお肉という3段構え。これはお腹空いてなくても一杯食べれる奴。瑠璃に至ってはもう食べっちゃって満足そうにしてるし。
「……悪くない。こんな美味しいパンを作れるなんてすごいね」
「そんなそんな! 私はパンしか作れぬ能無し狐なのです!」
パンを作れる時点で能無しじゃないような。
「そうだ、2人に聞きたいんだけどここにミコッちゃんの妹さんが来なかった?」
どこに行ってるか分からないし情報収集しないとね。
「そうだよ、ミコッテに言おうと思ってたんだ。実は君達が来る少し前にミコットが来たんだよ」
「本当!?」
ミコッちゃんがフブちゃんに食いついてる。
「それでミコッテが君を探してるよって言ったんだけど何も反応してくれなくてさ。そのまま出て行っちゃったんだよ」
「引き止めるわけにもいかなかったのです。ごめんなさいです」
「ううん、ありがとう。それはかなり有力情報だよ」
まず妹さんが生誕祭に来てるって分かっただけでも収穫だからね。
「ミコッちゃん、希望が見えてきたよ。探しに行こう」
ミコッちゃんがこくりと頷いてくれた。店を出ようと思ったけど瑠璃がおかわりしたそうにしてたから尻尾掴んで出た。




