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141 女子高生も誤解が解ける

 治安維持のリーダーっぽい人に連行されて執務室みたいな所に戻ってきた。

 ノイエンさんに鳥の魔物で連絡してくれたみたいですぐに来てくれるそう。


 とはいってもそれまでは気まずい空気が漂ってる。一応木の椅子を出してくれたけど魔法の手錠は外してくれない。でもなんでか瑠璃は拘束してない。

 おかげで瑠璃は部屋は飛び回ってて空気を全然読んでない状態。


 何か話した方がいいかなぁ。でも疑われてる状況で下手に言うと余計怪しまれそうだしなぁ。とか考えてたら扉が開いた。


「あんたが呼び出しするなんて珍しいね、ヴァルハート総指令官」


「ええ。こちらも想定していなかったものですから。フェルラ賢星」


 お互いが帽子を脱いで一礼してる。あ。藍色髪の人、やっぱり頭にケモミミが……。

 ケモミミ? んー、ケモミミというよりドリルみたいな。


「で、あんたのいう容疑者っつーのはどいつだい?」


「この者があなたを呼べと言ったのです」


 私の方を指さしたからノイエンさんと目が合う。そしたら大きく溜息を吐かれたんだけど。

 なんで?


「ノラ。あんたは本当にどこにでも現れるねぇ」


 そんな気は全くないんだけどなぁ。


「まさか本当に知り合いというのですか?」


 明らかに信じてなさそうな声で言われた。


「まぁ少しね。で、一体何があったっていうんだい?」


「えっとー。いつもの転移でここに飛ばされて、それで疑われて捕まった感じです」


「だと思ったよ。ヴァルハート、この子は無害だ。解放してやりな」


 ノイエンさんに言われてようやく納得してくれたみたいで手錠魔法を解除してくれた。やっと手を動かせるー。


「しかしフェルラ賢星。この者は一体なんなのですか。部下が気付かぬ間に侵入し、それでいてあなたとも知り合っている。本人は転移だと言っていますが本当ですか?」


 まだ疑念が晴れてないみたいでこっちを見てくる。


「ああ、本当さ。だが魔法とは少し異なるんだ。だからこの子の意思とは無関係だ。あんたの気持ちも分かるが大目に見てやってくれ」


 そのことに驚いた顔をして、まだ何か言いたそうにしてたけどそれ以上言及するのをやめてくれた。


 と思ったらなんでか私の方に歩いて来て跪いてきたんだけど。何事?


「数々の無礼を申し訳ありませんでした。どうかお許しください」


 威圧的な口調から一変して優しく言ってくれた。


「気にしてないので大丈夫です。それに勝手に侵入したのは私ですから疑うのは当然だと思います」


 警察みたいな仕事なら何でも疑ってかからないとダメだろうしね。


「いえ、私は最初あなたを見た時から絶対に黒だと確信していたのです。賢星と知り合いというのも嘘だと思っていました。私は己の浅はかさに後悔しているのです」


「本当に気にしてませんから。それにちゃんと分かってくれたみたいなので安心してるくらいです」


「そうか。寛大な心に感謝しよう」


 急に口調も戻って立ち上がった。あれー? 分かり合えたと思ったんだけどなぁ。


「和解したならあたしはもう行くよ。こっちも暇じゃないんでね」


「多忙の中、貴重なお時間ありがとうございました」


「構わないよ。それとヴァルハート。お前に頼みがあるがこの子がこの先困ったり何かあったら力になってやってくれ。どこに転移するかも本人も分かってないみたいだから今回みたいに苦労してるんだよ」


「胸に留めておきます」


 全然心がこもってない返事なんだけど。嫌がられてる? 私?


 それでノイエンさんが手を振ってくれたから瑠璃と仲良く振り返して分かれた。

 扉がパタンと閉じたらまた沈黙が流れる。


 それでその人は何事もなかったみたいに椅子に座って事務作業を始めた。完全に空気になった感。どうしよう。


「もう出て行っていいぞ」


 こっちも見ずにぶっきらぼうに言われた。


「それともまだ何か用でも?」


「用ってほどじゃないんですけどここ……北都に来たのは初めてなので右も左も分からないんです」


「まさか私に案内しろとでも?」


「やっぱりダメですか?」


 本音を言うなら何か嫌われたままっていうのが気になって、親睦を深めれたらなぁって思う。


「こっちも忙し……」


 何か言おうとしたら言葉が詰まってる。今度は何?

 と思ったけどそういえばさっきノイエンさんが言ってた。困ったら手を貸してあげてって。


「はぁ。ここで放置してまた後で言われるのも面倒だな。さっさと案内して帰してやる」


 優しいのか優しくないのかまだ分からないけど少なくともノイエンさんには逆らえないみたい。それで椅子から立ち上がって急に私の背中に手を当ててきたと思ったら抱っこされた。え?


 気付いたらその人が窓から飛び降りたんだけどー。風が舞い上がって3階はあった高さが一瞬で縮まっていく。地面に衝突すると思った所で一瞬ふわっとなって普通に着地した。

 衝撃ゼロ。これも魔法?


 それで地面に下ろされた。部屋から出たら目隠ししてとか手間があるからその時短のため? 見上げたら瑠璃が慌てて飛んで来た。空を飛べる竜よりも早く動けるとは人間やめてる気がする。


「さっさと行くぞ」


「はい」


 それでその人に付いて歩いていく。街はさっきまでワイバーン騒動があったのが嘘みたいに平和そのものだった。そもそもあれを事件と呼んでいいかも分からないけど。


「そういえば自己紹介まだでしたよね。私、野々村野良と言います。こっちは瑠璃です」


「知ってる」


 そういえば最初疑われたときに名乗ったんだった。これはうっかり。

 それでその人も名乗ってくれると思って待ったけど全然言ってくれない。やっぱり嫌われてる?


「あのー、名前教えて欲しいんですけど」


「私を知らないのか?」


「すみません」


「はぁ。北都に来るのも初めてって言ったし無理もないか。ケルベロス・ヴァルハート。治安維持組織の総指令官を務めている」


 つまりトップってことだよね。なんかすごいってのは伝わった。


「いい名前ですね。ケルちゃんって呼んでもいいですか?」


「舐めてるのか?」


「親しみを込めたつもりなんですけど」


 親睦を深めるなら愛称からってのが私のマイルール。


「そんな威厳の欠片もない呼び方をされてる所を部下に見られたらどう責任を取るつもりだ?」


「えーっとー、部下の人にも同じ呼び方を浸透させてみたり?」


「頭が痛くなってきたぞ」


 愛称作戦は完全に失敗に終わった。これは話題を変えよう。


「あのー、ケルベロロ……ケリュベ……ヴァッ……ヴァルハン……」


「ああもう! ケルちゃんでいいからさっさと話せ!」


「ありがとうございます! ケルちゃんとノイエンさんってどういう関係なんですか?」


「関係も何もただの上司ってだけだ」


「そうなんですか? さっき治安維持の総指令官って聞きましたけど」


「確かに私は組織のトップだ。だけど治安維持組織というのは国の元で動く組織に過ぎない。ならば国の上の立場の者には逆らえないだけだ」


 やっぱり警察みたいな組織なんだね。ちょっと親近感。でもそうなるとノイエンさんって本当何者なの?


「さっきノイエンさんをけんせい? って言ってましたけどそれってなんですか?」


「あの方と知り合いなのに知らないのか?」


「央都の魔術学園の学園長というのは知ってるんですけど」


「賢星というのはこの国で最も優れた魔法使いに送られる称号だ。故にあの方に逆らえるのは国王かそれに近しい者くらいだろう」


 わー。全然知らなかったけど日本で言うなら大臣とかそういうレベルだよね。そんな人に知らず知らずに接してたなんてちょっと無礼があったように思えてきたんだけど。


「寧ろ私からすればフェルラ賢星との関係を聞きたいが?」


「私がその、今回みたいな転移で困ったりしてる所を助けてもらったりしたんです。それが続いたら何か知り合いみたいになって」


「運がいいな、お前。もしもフェルラ賢星を怒らせていたら私以上の手痛い仕打ちを受けていただろうよ」


 それは何となくわかるかもしれない。ノイエンさんって結構誰に対しても当たりが厳しいし。


 そんな話をしてたら石造りの建物が並ぶ通りを過ぎて屋台が続く所に来た。ケルちゃんがその中の店に近づいていくから行ってみる。鉄板の上で丸いホットケーキみたいのを焼いてる。


「1つくれ」


「毎度!」


 ケルちゃんがお金を払って紙で包んだホットケーキみたいなのを私に差し出してくれた。


「お金は……」


「必要ない。さっさと取れ」


 半ば強制的に手に持たされた。かなり熱々。


「ケルちゃんは食べないんですか?」


「仕事中に買い食いをしてると見られたら何を言われるか分からない」


 そっかー。立場が上だと普段過ごすのも大変そう。


「じゃあせっかくなので頂きますね」


「ぴ~」


「分かってるよ~。半分に切るから」


 紙の上から手で千切ろうとしたけど切れない。というか熱くて触るのも大変。

 ここは息を吹いて冷ますしかない。フーフー


「もう1つくれ」


「毎度!」


 あまりにもたもたしてたから、見かねたケルちゃんが瑠璃の為にも買ってくれた。

 なんて優しいんだろう。


「ありがとうございます。ほら、瑠璃もお礼言って」


「ぴ!」


「ここまで計算してやってるのか?」


「なんのことです?」


 ケルちゃんが肩をすくめてるけど何の話かさっぱり。

 それで買ってくれたし早速頂こう。口に頬張ったら熱々の生地が……伸びる!

 それになんかモチモチしてる。切れなかったのはこれのせいかー。


 味は生地を焼いただけって感じだけどこの伸びるのが結構楽しい。噛むとまた伸びてどこまで伸びるか試したくなる。瑠璃が必死に首を伸ばして食べてるのがかわいい。


「それを食べたらもう帰るといい」


「お別れしないとダメです?」


 もう少し一緒にお話ししたい気分。


「また今度だ」


 今度……。次も会ってくれるんだ。すごく嬉しい。


「私、ケルちゃんに嫌われてるって思ってました」


「その通りだよ。今でもお前は苦手だ」


 えー。正直に言われるとショックー。でも言い方は柔らかい気がする。


「だけどそんなに悪い奴じゃないというのは分かった。ただの馬鹿だ」


 会って間もない人に馬鹿呼ばわりされるとは。確かに賢くはないけど。

 でも心から嫌われたわけじゃないって知れて今日は満足して帰れそう。

 また明日もここに来れないかな?

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