表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/221

140 女子高生も誤解される

 電車の旅。特に行く当てはない。だから適当な所で降りてそこでぶらぶらして過ごそうという魂胆。偶にはこういうのも悪くないと思う。瑠璃も行きたそうにしてたからリュックに入れて連れてきた。さすがに中は窮屈だろうから顔だけ出してるけど中々シュール。


 今の所は周囲の人に不審に思われたりしてない。徘徊してる駅員さんが一瞬こっちを見てたけど見逃してもらえた。土曜日だけど電車に乗ってる人は少ない。田舎だから交通手段として利用してる人が多そうに思えるけど、そもそもちょっとスーパーに行くのも遠いから皆車で移動するのが当たり前になってるって前にお父さんが言ってた。


「〇〇駅~〇〇駅~」


 目的の駅だ。降りよう。止まったら降りる人が他にもいるみたいで一緒に並ぶ。こういう田舎には改札がないから止まった時に切符を車掌さんに渡す。この話をコルちゃんにしたら酷く驚かれた記憶がある。


「適当に歩こっか」


「ぴ!」


 瑠璃が元気よく返事してるけどリュックから出てくる気配がない。こやつ楽する気だな。大きくなったせいで重いから出来たら飛んで欲しかったけど目立つのもあれだし、まぁいっか。


 それで駅から出ようとしたら何か視界が歪んでいく。これはまさかここで転移?

 せっかく町を冒険しようと思ったんだけどなぁ。でも異世界を冒険するのも同じだし問題なし。というわけで張り切っていこー。


「貴様、何者だ?」


 転移した瞬間から不穏な声が聞こえた。目を凝らしたら執務室みたいな所に立ってた。石でできた部屋みたいで奥に高価そうな木の机が置いてあってそこに黒い軍服を来た女の人が座ってこっちを睨んでる。藍色の髪をしてて毛先がツンツンしてる。黒い帽子にはケモミミみたいなとんがりがある。


「えーと。野々村野良です。あ、こっちは瑠璃って言います」


「ぴ!」


 何者と聞かれたからには名乗っておこう。でもその人は少しも動じてなくてジッと見てくる。嫌な予感しかしないなー。


「ここが治安維持組織本部と知っての侵入か。何が狙いだ?」


 ものすごく敵意を感じるんだけどどうするのが正解? とりあえず謝らないと。


「すみません、気付いたら転移してここに来ちゃいました」


「転移だと? バカバカしい。もう少しまともな嘘を期待したよ」


 やっぱり普通の人は転移云々を信じてくれないみたい。


「まぁいい。話は後でじっくり聞いてやろう。牢獄の中でな」


 その人が不敵に笑って立った。指をクルクルしたら青い輪っかが飛んできて両腕に捕まった。手錠?


「私、捕まりました?」


「ああ。お前は怪しすぎる」


 完全に誤解を受けてる気がするけど勝手に不法侵入したかもしれないし、どうしよう。そしたら瑠璃が鞄から出てきてその人の前まで飛んでいった。


「ぴー! ぴー!」


「うるさいぞ。強情な態度を取るならば……。いや待て、こいつはリンドブルムの幼体か?」


 そういえば昔に鳥の店長さんに言われた時そんな名前だった気がする。


「竜の従魔だと? ありえない。竜族は孤高の存在。人に使役されるなどあるはずがない。おい、お前はそいつに騙されてる。目を覚ませ!」


「ぴぃぃぃ!」


 そしたら瑠璃が火を噴いて威嚇してる。何か怒ってるような気もする。


「瑠璃、ダメだよ。悪いのはこっちなんだから」


「ぴ~」


 落ち込みながら戻って来てくれた。危害まで加えたらそれこそ誤解が解けなくなるからね。


「竜を手懐けるなど一体どんな手を使った?」


「瀕死の所を介抱してあげたら懐いたんです」


「相変わらず嘘が下手だな。その程度で懐柔できるならば竜が孤高と呼ばれるはずもない」


 そもそも異世界の世間一般の竜の知識がないからどう答えていいかも分からないんだけど。

 これはいくら説明しても納得してもらえなさそうなパターン。もしかして本当に牢屋行き?


 そしたら急に後ろの扉が勢いよく開けられて、黒い軍服を着た女の人が入って来た。


「ヴァルハート様、大変です! 広場でワイバーンが暴走しています!」


「なんだと! 今行こう!」


 パタパタと大慌てで部屋から出て行った。完全に放置された感。

 とりあえずどうしよう。瑠璃と目が合うけど首を傾げてる。状況を分かってなさそう。

 それに手錠されてるからこのままどこかにも行けないし。


 部屋が開いたままだったからそうっと外に出てみる。学校の廊下みたいに横に長く続いてた。所々に扉があって近くに警備員みたいな人が立ってる。

 一体どこに来たんだろう?


「あの~、少しいいですか?」


 軍服を着た女性が私の方を見てちょっと怪訝な顔をしてる。


「なにか? というかあなた、ヴァルハート様に封印魔法を受けているじゃないですか。あの方から受けるとは余程悪いことをしたのですね」


 ただ転移で部屋に入っただけなんだけどなぁ。スパイか何かと勘違いされたのかもしれない。


「事情を説明しようと思ったら出ていってしまったんです」


「じきに戻って来るでしょう。大人しくしていなさい」


「あの~、お願いなんですけど私もさっきの人の所に連れてくれませんか? 別に逃げたりしませんから」


 それにこのタイミングで現実に戻ったら今度出会った時に間違いなく誤解が解けなくなるだろうし。

 軍服の人はちょっと考えた仕草をしてからこっちを見た。


「どの道、あなたも監房送りでしょうね。いいでしょう、あの方の手間も減るでしょうしね」


 どんどん誤解が酷くなってる気がするんだけど。でも連れてくれるみたい。


「その前に少し目隠しをさせてもらいます」


 その人がポケットから黒い布を取り出して顔にまかれた。施設の中を見られたら不味いからって感じ? 既にちょっと見たんだけど。

 それでその人に手を引かれながら歩いていく。5分もしない内に布を取り外してくれた。


 そしたら目の前に砂漠にある集落みたいな光景が目に入った。石造りの建物がいくつも並んでて、ヤシの木みたいのが点在してる。遠くを見たら塔みたいに高い石の外壁で囲われてるのが目に入った。央都も外壁で囲まれてるけど、ここはその比じゃないくらい高い設計になってるみたい。


 人の往来は結構ある。あれ、フィルミーがいる。それに壁の上にスライムが乗ってる。あの家の上にいるのはラビラビ? 魔物がたくさん。


 後ろを振り返ったら砦みたいに大きな建物がある。軍服を着た人が一杯いたみたいだし、軍関係の施設? うーん。


「行きますよ?」


 軍服の人に言われたから付いていく。街を歩いていると人以外に沢山の魔物が目に入る。

 あそこの屋台で料理を作ってる人の横で猿のような魔物が材料を渡してる。

 別の所だと壊れた壁の瓦礫をサイの魔物が集めてる。また違うところだとラビラビが洗濯物を干すのを手伝ってる。


「この街は魔物も一緒に住んでるんですね」


 確か魔物を飼いならすのを従魔って呼んでた気がする。


「北都を知らないのですか? 人と魔物が共存しているんですよ」


 北都……前にリリがそんな話を教えてくれたような。まさか五大都市に転移していたなんて。


「とはいえ人と魔物。種族の違い故に問題も多く発生します。ですから我々治安維持組織が日々の安全安心の為に活動しているのです」


 治安維持ってことは警察みたいな感じ? なるほど、だから私がお偉いさんの所に転移したから怪しまれたんだねー。なんという不運。いや幸運かな? 知らない土地に来れたんだし。


 それで人通りの少ない道を歩いてたらすぐに異変に気付いた。遠目でも分かるくらい大きな紫色のトカゲが目に映る。首が長くて翼もある。あれが話してたワイバーンかな。


 近くに行くとそのワイバーンが地上を走ってる。よく見たら背中に子供が何人か乗ってるんだけど。でも子供達は楽しそうにはしゃいでる。遊んでるだけ?


 暴走って聞いたから街を破壊しようと暴れてるのを想像してたんだけど。


「そこのワイバーン今すぐ止まれ!」


 そしたらさっきの藍色髪の軍服の人が大声をあげてる。でもワイバーンさんは聞いてなさそうでずっと走り回ってる。


 するとその人が掌を出して空を向いて魔法陣が浮かぶ。魔法陣から青い弾が空に飛んで爆発した。その爆音にはさすがに気付いたみたいでワイバーンさんの足が止まる。


「止まれと言っている。さもなくば……撃つぞ」


 離れても分かるくらいの威圧感。それでワイバーンさんがその場に蹲って背中に乗ってた子供達も尻尾を滑り台にして降りてきてた。なにあれ楽しそう。


「君達、手綱もなしに竜に乗ってはいけない。もし何かあったら悲しむのは君達の両親だ」


「ごめんなさーい」


「グルルルル……」


 ワイバーンさんと子供達が一緒に頭を下げてる。あの大きな竜も委縮するってもしかしてこの人かなりすごい人? 確かにさっきの魔法からして腕があるのは間違いなさそうだけど。


「特にワイバーンのお前。大方子供達に説得されたのだろうが勝手をするな。人は弱く脆い生物だと忘れたのか」


「グルルル……」


 完全に頭を垂れて謝罪してる。


「今回はまだ被害が出ていなかったから大目に見てやろう。だがお前達の顔は覚えた。もしも次似た過ちをしたならばどうなるか分かっているな?」


 黒い顔を見せて言うからワイバーンさん含めて皆が首をぶんぶん振ってる。


「よろしい。では行きなさい。くれぐれも危ない遊びはするなよ」


 それでその場を後にしてこっちに気づいたみたいで目があった。とりあえず笑いかけておこう。でも向こうは顔が強張ったまま。


「こいつを連れて来たのか?」


 部下の人に聞いてる。


「いえ、本人が行くと言いまして……。監房送りになると思い手間を省こうと思った次第です」


「自分から? どういう了見だ」


 今度は私に聞いてくる。


「手のこれを外して欲しいですし、それに本当に悪気はなかったんです。ごめんなさい」


「あんな場所に入り込んで悪気はなかったは通らないぞ。本当は何が狙いだ? 私の首か?」


 顔を近づけてきて凄んでくるんだけど。完全に疑われててこれは何を言っても分かってくれなさそう。こういう時、誰かいてくれたらぁ。あ、そうだ。


「本当です。ノイエンさんに聞いてもらえば分かってくれると思います」


 ノイエンさんなら私の事情を分かってくれてるし、地位も高いから説得力があると思う。


「フェルラ賢星(けんせい)だと?」


 また私の知らない肩書みたいのが出てる。ノイエンさん、本当何者?


「いいだろう。だがこれで潔白が証明できなければ監房送りは免れないと思え」


「はい」


 何か大変そうなことになったけど大丈夫、だよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ