139 女子高生も冒険に興味を持つ
今日、珍しく皆の予定が空いてて久しぶりに全員で異世界にやって来た。ヒカリさんも一緒で嬉しい。
「来たわ! 異世界よ!」
ヒカリさんテンションが高い。
「皆で来るって久しぶりだなー」
「ここに来るのも懐かしく感じますね」
そういえば最近リンリンとコルちゃんともあまりこっちに来れてなかったもんね。
「さぁどこに行く!? 私はいつでも準備万端よ!」
ヒカリさんそんなこと言いながら既にシャッターモードに入って写真撮ってる。それを見てコルちゃんが呆れてる。最早お約束の風景。
「その前に私、朝何も食べてないんだよなー」
「わたしも早く出たのでまだ食べてないですね」
久しぶりだったから張り切ってくれたんだね。かくいう私も何も食べてない。
「じゃあ酒屋にでも行こっか。ヒカリさんもいい?」
「もちろんですとも!」
親指上げての即答。この日を一番楽しみにしてたのはヒカリさんで間違いない。
カランカラン
「いらっしゃいませ! ノリャお姉ちゃん御一行様だ!」
酒屋に入ったらセリーちゃんがペコリって頭を下げてくれる。少し髪が伸びたみたいで緑色の髪が腰辺りまできてる。それに何か大人びてるような気もしなくもない。
「セリーちゃん、背伸びた?」
「えっ? そうかな?」
本人は気付いてなさそうで頭に手を置いてる。まだ幼いから成長期だろうし伸びててもおかしくないんだよね。
「たいしょーが余り物いっぱいくれるからそのおかげかな?」
一杯食べてるなら伸びても不思議じゃないね。
「セリー、接客しろカァ」
「もう! ちょっとくらいいいじゃん!」
この2人は相変わらずそうで安心する。いつもの酒屋だ。というわけで席に案内された。朝早かったからか客は殆ど入ってない。メニューとお冷を烏の店員さんに渡される。
「好きなの頼んでいいよ。私が出すから」
皆はこっちのお金持ってないだろうし。
「いつもノラちゃんに出してもらって悪いのよね」
「だよな。良心が痛むんだわ」
「これくらいで足ります?」
そしたら皆が財布を取り出して現実のお金を渡してくれる。まさかの換金係。
そんなの気にしなくていいのに、って思ったけど私も同じ立場だったらそうするかも。
「分かった。ありがとう」
お金も受けとったからこれで心置きなく食べれる。
「問題は文字が読めないことだわ」
リンリンがメニューとにらめっこしてる。
「それなら任せて。上から順に言ってあげる」
というわけで読み上げていく。あってるか分からないけど大体は間違ってないはず。
「マジで異世界文字読めるようになったんだな」
「ノラさんの異世界への探求心はすごいですね」
「これもリリとの勉強の成果なんだー」
これはドヤってもいいよね。ドヤ。
そんな感じで皆が注文を済ませて、少ししたらセリーちゃんが片手でトレーを持って運んでくれる。前までは両手でパタパタしてたけどこれはもう完全に板前の娘って感じ。
全員の料理が揃ったら手を合わせて早速実食。朝から重いのはきついから骨なし鳥のスープとリガーとクルクルクサのサラダを頼んだ。サラダにはスラースを好みでかけていいみたいでソースを渡してくれた。
「やっぱ異世界の飯はうまいねー」
「味付けから日本とは違いますからね」
「分かるー。お金に余裕があったら毎日通いたいくらいだもん」
初めて食べたけどこのサラダすごく食べやすくて美味しい。切り分けたリガーがいいアクセントになってる。
「この後の予定はどうする?」
ヒカリさんが聞いてくる。
「んー。お店巡りとか?」
皆で行って楽しめるって所は限られてると思う。そしたらヒカリさんが唐突に腕を組んだ。
およよ?
「せっかく異世界に来てるんだからもっと異世界って感じのことがしたいって思わない? ここは異世界なのよ! 異世界! もっと剣と魔法のファンタジーがあってもいいと思うのよ!」
拳を握って熱演してる。なんかスイッチが入ったみたい。
「まぁ確かにやってるのは現実とあまり変わらんていうのはあるな」
「リンちゃん、分かってるわ。そうなのよ、確かにお店巡りは楽しいけれどそれって現実でもできるでしょ? 私が求めるのは手に汗握る冒険なのよ!」
リンリンがヒカリさんに毒されかけてる。
「お姉ちゃん、馬鹿は休み休み言ってください。第一わたし達は何の力もない一般人なのに冒険なんてできるわけないじゃないですか。それにこうして食事をできるのもこの世界が平和であるからです。危険な世界だったらそれこそ今頃魔物の餌ですよ」
さすがコルちゃん、現実主義だ。それでもヒカリさんは納得できなさそうに頬を膨らませてる。最早年上とは思えない素行。
「いやぁ! 私は冒険したいの! 迷宮に行ってお宝を見つけるの!」
「あー、ゲームでよくあるボスっぽい奴がお宝守ってる的なあれか?」
「そうよ。私は今から冒険者よ」
その謎の自信は一体どこから出てくるんだろう。完全に暴走モード。
「さすがに危ない所へ行くのは私もちょっと……。それに魔物って危険なのも一杯いるんだよ」
昔にリリとムツキに付き合って森の方へ行って動く木の魔物と遭遇したけど、そこでも一歩間違えたら大変な目に遭ってた。それにトラっぽい縞々の魔物も狂暴だってフランちゃんが言ってたし。
「むむむ。ノラちゃんに言われたらお終いなのよね。となると、最後の秘策は」
「秘策は?」
「たいしょー!」
ヒカリさんが急に席から立ちあがってカウンターの方に歩いていった。
「なんか宝の地図みたいなのってあったりしません? それとさっき作ってくれた料理美味しかったのでおかわりお願いします」
すごくフランクに話しかけてる。溢れ出る地元の酒屋の常連客。でもヒカリさん、まだここに2回しか来てないよね? メンタルがすごい。
狼さんが少し思案した後でカウンター近くにある棚の引き出しをそっと開けて紙を1枚ヒカリさんに渡した。まさかの?
「昔、遠征でこの国の至る所に行った。だが止む無く調査できなかった所がいくつかあった」
ヒカリさんが紙を持って戻ってくるとそれは国の地図みたいだった。所々に赤い丸がしてある。
「まず深都。今なお調査が続いてる地下への探索。あの巨大な空洞は地下深くに何かあるからと言われてる。それで何十年も掘り続けてるが未だに何も聞かないな」
「ほう」
これに関しては私も興味が出てきた。
「北都。あの地からさらに北東に進んだ先は豪雪地帯の雪山になっている。あまりの吹雪のせいでまともに調査もできずに断念した。あそこも現在未開地となっている。だが俺の勘では何かあるだろう」
北都にはまだ行ったことがないけどその雪山っていうのに聞き覚えというか見覚えがある。前に学園でリリと一緒に見た絵画。この世界だと雪自体が珍しいから多分あの絵画と何か関係があるのかな。
「空都。俺も噂程度にしか聞かないがこの国の遥か上空のどこかに空島が存在すると言われている。だが晴天時でもそんな物は見えず存在も疑われている。だが視界を妨害する魔法などいくらでも存在する。俺は存在してると思っている」
この世界だと空を飛ぶということ自体も大変そうだもんね。ノイエンさんは飛んでたけど。
「そして西都からさらに西に行った海岸沿いにある洞窟。あそこからは異様に禍々しい魔力が放たれている。あまりにも凶悪故に俺も調査を断念した。だが当時の団長が調査したらしい。洞窟の奥には巨大な扉が存在していると言っていたな。鍵が2つ必要だとも」
そしたら狼さんが厨房の方からこっちに向かって何か投げてきたからリンリンがすかさずキャッチしてくれた。金色の鍵だ。
「団長が退任して俺に渡されたものだ」
「海岸、洞窟、扉……」
「ノラさん?」
聞いててすごく覚えのある情報。そうだ、これってキューちゃんが守ってたあの扉の所じゃない? 凶悪な魔力っていうのもキューちゃんがいたからなら納得できるし。
「えっとその洞窟で誰かいたとか聞きました?」
「そこまでは聞いてないな。ただ団長も少し記憶が朦朧としている所はあった」
キューちゃんに記憶を消された感じ? そこまで横暴な子には思えないけど。
それに狼さんがくれた鍵も見覚えがあるんだよね。確かずっと前に深都でミコッちゃんと宝探しに行ってその宝から銀の鍵が出てきてそれと形状が似てる。これの相棒かもしれない。
「あの。この鍵譲ってもらってもいいですか?」
「構わん。今の俺には無用の長物だ」
案外あっさりくれた。
「ノラノラ、まさか調査するとか言うんじゃないだろうな?」
「そこまではしないかな。ただ確認しようと思って」
「えー! ノラちゃん何か知ってるの!?」
ちょっと思わせ振りな言い方だったかなぁ。ヒカリさんが食いついてくる。
「私も冒険いきたい!」
セリーちゃんがトレー抱えてぴょんぴょんしてる。確かに狼さんの話はどれも冒険心をくすぐってわくわくしたかも。
「やめとくカァ。大将ほどの人が諦めてるのにお前なんかが行けるわけないカァ」
「むー、そんなことないもん」
でも鴉さんの言う通り、狼さんが調査できないくらいの所だったんだから一般人が行けるような所ではないのは確か。
「やっぱ宝っつーのは身を削って、誰にも行けないような所に隠されてるんだろうな」
普通の場所に未知が転がってるなら誰かが見つけてるだろうしね。
「そういうことです。お姉ちゃんもこれに懲りてくださいね?」
「だったら今から魔法を勉強すれば問題ないわね」
魔力なしって気づいて挫折するのが目に見えるけど何も言わないでおこう。




