13 女子高生もリガーを買い込む
放課後の教室。私とコルちゃん、リンリン、それと瑠璃が残っている。
他の生徒は部活に行ってて外からは野球部のバッティング練習の音が聞こえてくる。
「しかしまぁ、よく学校に連れてきたな」
「家に閉じ込めとくのも窮屈だし、見ていないと何するかも分からないから」
リンリンが鞄の中で寝てる瑠璃を見ながら言う。
朝も野菜畑に飛んで行こうとしたから、ちゃんと躾ないと目を盗んで悪さするかもしれない。
「それにしても先生によく見つかりませんでしたね?」
「うん。そっちの方は結構賢いんだよ? 先生の前だと鞄の中に引っ込んで大人しくするよ」
「数学の小テストの時はさすがに焦りましたよ」
瑠璃は遊び好きなのか先生が通り過ぎると顔を出して、先生が振り返ると顔を引っ込めるという遊びに夢中になっていた。
隣の席の子も気付いていて、後で休憩中にそっちにばかり意識がいったって言われたなぁ。
「でもさ、昼休憩の時も教室飛びまわってたけど、案外皆動じてないというか真面目だよな」
昼になると瑠璃はお腹を空かせて皆の弁当箱を狙ってた。朝貰ったトウモロコシ食べたのにまだ食べたりなかったみたい。
けどクラスの皆は優しくて普通におかず分けてくれたり構ってあげたりしてくれた。
先生にも内緒にしてくれるって言ってくれたのは流石に感動したよ。
「ドラゴンと言っても誰も信じないでしょうね」
コルちゃんがしみじみと話す。一部の男子はそんな風にも言ってたけど、多分本気じゃないと思う。
サウジアラビアに生息するトカゲの亜種って話したら信じてくれたし。
「さてと。そろそろ帰るか」
リンリンが時計を見た。時刻は4時30分前。ずっとお喋りしてた。
「うん、じゃあね」
「また明日な」
「お気をつけて」
2人と別れて帰路に着いた。
丁度校門を出ようとした時、視界がブラックアウトする。
「あ」
声が出た時にはもう視界が変わってる。私も知ってる異世界の街。
田舎町と違って人も多く賑やか。寝ていた瑠璃も鞄から顔を出す。
「ぴー?」
瑠璃は見知らぬ場所に興味を示して首を動かしている。その視線がすぐに出店の果物や野菜に奪われたみたいで今回は逃がさないように頭を抑えてからそっちに向かう。
「おぉ、いらっしゃい!」
「こんばんは」
今日もリガーが沢山仕入れられている鳥頭の店長さんの店に来た。
「今日も夜遅くに買い物か?」
「はい。えっと、少し聞きたいことがあるんですけどいいです?」
「おう、何でも聞いてくれ」
「この子って何か分かります?」
鞄に指差すと鳥頭の店長さんも瑠璃に気付いて目を丸くした。次第に表情が驚きに変わっていく。
「こいつは驚いた。それはリンドヴルムの幼竜じゃねーか」
「リンドヴルム?」
「リンドヴルムの目撃は各地で時々されてる。幸運を報せる竜として有名だからな。リンドヴルムを見たら数日以内に何か良い事が起こるって言われてるぞ」
聞いてるだけで凄そう。縁結び的な何かなのかな。
「この子もそのリンドヴルムです?」
「確証はないが、見た目は似てる」
「飼育ってできると思います?」
「……何となく予感はしてたがまさか見つけたのか?」
「山の中で血だらけで倒れてたから助けたんです。放ってもおけないし、一応は育てるつもりです」
すると鳥頭の店長さんは腕を組んで考えるもすぐに優しい表情になった。
「いいんじゃねーの? 聞いた話ではリンドヴルムが人を襲った報告はないし、地上で目撃されるのも山や湖が殆どで果物や木の実を食べる大人しい生物らしい」
それを聞いて一先ず胸を下ろせそう。それに瑠璃が町の野菜畑に目を輝かせたのにも納得。
瑠璃はいよいよ我慢が出来なくなったのか、顔を出して今にもリガーを食べようとする。
慌てて鞄から巾着の財布を取り出して金貨を一枚鳥さんに渡す。
「えっと、それで買えるだけのリガー売ってもらっていいですか?」
「ははは、やっぱ嬢ちゃんは太っ腹だな。よし、サービスしてやろう」
そう言って鳥頭の店長さんが紙袋を用意してその中にリガーをいくつも入れてくれる。明らかに値段以上の量な気がしたけど、手渡してくれた。
「こんなにもいいんです?」
「嬢ちゃんは常連客だからな。それに俺も良いのを見れたし、その礼って奴だ」
「ありがとう」
リガーを1つ瑠璃に上げると勢いよく食いついた。
牙はないけど、犬歯みたいに歯が尖ってるから難なく食べれてる。柴助と同じで口周りを汚してる。
まだ食べるだろうと思ってもう1つ手に取ったけど意外とお腹一杯になって食いつかない。
「リガーは栄養豊富な食べ物だ。熟練の冒険者もそれ1つで1日を乗り越えるほどだ」
それは豆知識かなぁ。となると暫くは瑠璃の餌はリガーで代用するのが良いかも。
お世話になった鳥頭の店長さんにもう一度お礼を言って頭を下げてから手を振って別れを告げた。




