138 女子高生も魔術学園七不思議を知りたい
「えーと。私はリガーを食後に食べるのが好きです」
「いい感じね。ノノも大分こっちの文字が分かるようになったんじゃない?」
今日も異世界にやってきてリリのお屋敷にお邪魔させてもらってる。そこでコツコツと異世界の文字の勉強も進めてる。キューちゃんはノイエンさんに補習を受けてるみたいでいないそう。
「この単語帳のおかげだよ~」
前にリリに日常で使う単語を一杯書いてもらって、その翻訳を自分で書いた。これのおかげで1人の時でもある程度勉強できるようになったから大分読めるようになった。文法関係はまだ分からないからこうしてリリアンナ先生に聞かないとダメだけど。
「リリも魔法の勉強で忙しいのにいつもありがとう」
「お礼なんていいよ。これでノノも魔術学園に編入できるわね」
「魔力は全然ないけどね」
最初は覚えるのが大変と思ったけど英単語を覚えるよりはなんでかスラスラ頭に入ったんだよね。やっぱり普段から異世界に来て見聞きしてるし、何より自分で覚えたいっていうやる気が直結してるのかもしれない。
「魔術学園といえばちょっと気になることがあるんだけどいい?」
「いいわよ。なにかしら?」
「魔術学園には七不思議ってあったりする?」
「七不思議?」
「学園長の石像がなくなってた、絵画の人物の目がこっちを見てくる、踊り場の階段が1段なくなってたみたいなの」
もうすぐ夏になるからこの手の話で盛り上がったりする。コルちゃんはこういうのが結構好きだから今年の怪談話に備えてそろそろ新しいのが欲しかったり。去年は熊の話で大滑りしたからね。
「あー、怖い話とかそういう感じ? そうねー、あんまり聞かないわねー」
「そうなの?」
異世界なら魔法があるから現代よりも怖いオカルト話がありそうって思ったんだけど。
「時々噂が走ったりして皆が憶測するんだけどそれを聞いたフェルラ先生が鼻で笑って颯爽と解決しちゃうのよね」
そういえばノイエンさんはオカルトを信じないって言ってたから、この手の噂話が嫌いなのかも。それで怖い話に発展する前に芽を摘んじゃうのかぁ。
「あ、でも1つだけあったかも。怖い話ってわけじゃないんだけど」
「なになに?」
「魔術学園に非常口があるの覚えてる?」
「確か隠し通路みたいになってて外に繋がってるんだっけ」
前にゴロゴロさんが道を塞いだり、キューちゃんが決闘をして騒ぎになったりして行ったことがある。
「そうそう。で、あの非常口は学園に点在してて全部があの大きな通路に繋がってるのよね。その数も多くて私も全部の道を通ったことはないわ」
「ほうほう」
「それはあの学園に通ってる人の大半がそうだと思う。そもそも非常口なんて有事の時にしか利用しないから滅多に行かないし。それでこんな話を聞いたのよ。学園には非常口以外の所に繋がってる隠し部屋があるって」
「それだよ、それ。私が聞きたかったの!」
なさそうに思えてやっぱりあるものだね。それにかなり本格的で聞いててわくわくする。
「この噂が出回った時にもフェルラ先生が動いたわ。でもそんな隠し部屋なんてなくて何事もなく終わったの」
「うん」
「けどあの魔術学園が創立したのって100年以上前でフェルラ先生が学園長になるより前からあるわ。だからフェルラ先生が気付いてないだけで本当は誰も行ったことのない場所が存在するって今でも信じられてるの」
「よし、リリ。それを探しに行こう!」
「え、今から?」
「もちろん!」
~魔術学園~
というわけで学園にやってきた。授業は終わってるみたいで出て行く生徒をちらほら見かけるけど、学園内に残ってる生徒の方が圧倒的に多い。
「皆まだ帰らずにいるんだね」
「そうね。街だと魔法を使用するのも制限があるから魔法の練習をしようと思ったら街の外へ行くか学園の訓練場でするくらいだから」
人が沢山残ってるのはこっちとしても助かる限り。これなら学園の調査をしても不審に思われないと思う。
「でもノノ。本当に探すの? フェルラ先生がかなり調べ尽くしてるから普通に探しても多分無駄に終わると思うわ」
「ということは普通の場所にはないってことだから探す場所も絞れそうじゃない?」
「理屈だとそうなるけど大丈夫かなぁ」
「実はもう目星があるんだよね」
「そうなの?」
「さっきリリが話してた非常口。あそこが怪しいんだよね」
「分かったわ。じゃあ行ってみましょ」
学園の廊下の壁のリリが手を当てると魔法陣が浮かんで光ると壁が横に動いて1人が入れるくらいの幅で下に続く階段が見えた。その長く続く階段を降りて行った先にトンネルのような空洞がある。ここに来るのも3度目だね。
「ここが怪しいって何か理由があるの?」
「うん。ここ、非常口にしてはかなり広いなぁって思って」
隠し階段は1人しか通れないくらい狭いのにここに出るとホールの中みたいですごい広い。
ただの避難経路にしては普通には思えないんだよね。
「確かにここなら生徒もそんなに来ないから隠し部屋の1つがあってもおかしくないけどフェルラ先生はここも調べたそうよ?」
「実はそれについても気になる所があるんだけど、とりあえず調べてみよう?」
「ん、分かった」
壁や地面にはタイルがいくつも並んでてどこかがここに来る時みたいに手を当てたら魔法陣が光って道になってもおかしくはなさそう。私の勘だと外に繋がる側とは反対の道が怪しい。
そっち側に進んでも壁になって先はない。でもトンネルみたいになってるのに反対側まで開通しなくて途中で壁になってるのも少し変な気もする。壁を触っても反応はなし。
そもそも私には魔力がないから何かあっても反応しないだろうね。
「リリ。ここの壁を見てもらってもいい?」
「ここね。見た感じ何もなさそうだけど」
リリが手が届く範囲で端から端まで手を当ててくれたけど反応なし。
「上の方はどうなんだろうね」
「そうねー。地面が浮き上がって階段になったりとかもありえるわ」
リリも段々と乗り気になってくれたみたいで本格的にチェックしてくれる。それで壁の上側が気になってリリが氷の魔法で氷塊を作ってそれに乗って手を伸ばした。
そしたら一瞬だけ壁が光ったような?
「今光った?」
「光った! あと少し上かも」
「んー。手が届かないー」
リリが爪先立ちして頑張ってる。それで最後にぴょんとジャンプして壁にタッチした。
でも足場が氷ってのもあって着地と同時に足を滑らせたから急いで背中を支えたんだけど、私の非力さだと抑えきれなくて仲良く地面に転んじゃった。
「ノノ、ごめーん」
「大丈夫だよー。あ、見て!」
リリが手を触れた所で魔法陣が光って壁が横に動いた。1人が入れそうなくらいの道。
思わずリリを見合わせてハイタッチしちゃった。
「本当にあったわ! ノノすごい!」
「やったね、リリ! でもどうやって入る?」
わりと高い所にあるし氷の足場だと危ないし。
「んー。そうだわ!」
それでリリがまた新しく氷塊を作った。今度はさっきよりも平で横に広め。
「ノノ、これに乗って」
「分かったー」
リリも一緒に乗ったら、今度は風の魔法を地面から出したみたいで氷塊が少しだけ浮いた。これなら簡単に入れるね。さすがリリアンナ大先生。
「リリの魔法も知らない間にどんどん上達してるねー」
「そんなことないわよー。ちょっと応用しただけだから」
やっぱり魔法は便利だね。そして、隠し通路へ。今度こそ封印された亡霊さんが見つかるかな?
そう思って奥へと進んだけどすぐに部屋みたいな所に繋がった。部屋っていっても一面はタイルになっててちょっと広いくらい。物置小屋くらいのスペース。
ただ1つ変わってるのは一番奥に綺麗な絵画が飾ってあること。見た感じ風景画でどこかの雪山っぽい? 吹雪が荒れてて氷で出来たお城みたいなのが遠くに描かれてるように見える。空は真っ暗である意味幻想的な絵にも見える。
「これだけ?」
リリが呆気なさそうに言ってる。まぁ確かにせっかくの隠し部屋の中が絵画だけっていうのはちょっと味気ないかもしれない。
「これが呪われた絵画だったりしてね」
「ちょっとノノー。そういう怖いのは言わないでよー」
そういえばリリは怖いのそこそこ苦手だったね。
「帰ろっか」
「そうね」
一応噂は本当だったみたいだし、それだけでも収穫はあったと思う。これで今年の夏の怖い話ネタには困らないね。適当に呪われた絵画にしてコルちゃんにでも話そう。
それで部屋から出たら外でノイエンさんが立ってた。
「非常口が開いてたから来てみたけどまさかそこに入ってるとはねぇ」
ノイエンさんが肩をすくめるみたいにして言った。やっぱり。
「ノイエンさんはここを知ってたんですね」
「え、そうなの!?」
隠し部屋があるかないかは分からないにしても、仮にあったとしてもノイエンさんがそれをおおやけにするとは思えない。問題が起こったら裏で1人で解決してるってのは、今までの経験上知ってるから。
「学園長は1日中探しても見つからないってなれば大抵の連中は諦めがつくだろう? おかげで今まで隠し通せてたんだがね」
「あの絵画は何なのですか?」
「話すべきか迷うがねぇ。他言しないって約束できるかい?」
私よりリリの方を見てる。リリは首を何度も縦に振ってた。
「元々この学園は魔術師養成学校として魔王軍との戦いの為の軍事施設だったのさ。この場所も非常時の為の避難場所として作られたって聞く」
なるほど。こんなに広いのは沢山の人を収容する想定だったからなんだね。
「世界が平和になってこの施設も不要になったが学園として再建築しようってなったんだ。それで色んな所が埋め立てられたりもしたが、設計ミスか知らないがあの部屋みたいに当時の施設の部屋が残ってたりする。あそこは多分軍の会議する所か何かだったんだろう。あの絵画は当時の魔王軍の城の1つか何かだったんだろうよ」
色々と合点がいったかもしれない。細かい所はキューちゃんに聞いたら分かりそう。
「なーんだ。じゃあ別に霊的や怖い話でも何でもないんだ」
「だけどねぇ。さっきも言ったがここは軍事施設でもあったんだ。つまりここには当時魔王軍と戦っていた勇敢な戦士がたくさんいたんだ。だから戦死した奴らが今も亡霊となって夜な夜な……」
「ひー! そういうのやめてください!」
リリが怖くなって私の背中に隠れてる。涙目になって震えてる所もかわいいなぁ。
「ったく、そんなのあるわけないだろう。仮に本当だとしたら毎年被害に遭ってる生徒が出てくるもんだよ」
やっぱりノイエンさんはその手の話は徹底的に信じないみたい。
「話は終わりだからさっさと行くよ。くれぐれも今の話は他言無用で頼むよ」
「はーい」
「分かりました」
結局、隠し部屋騒動は呆気ない形で終わっちゃった。もしかして前にキューちゃん達がここで決闘しててすぐに来たのも、ここの隠し部屋を見つけられたら困るからだったからなのかな。
けどさっきのノイエンさんの話が本当ならそこまで必死に隠す必要があるのかな。別にあれくらいなら見つかっても大したことないような。うーん、考え過ぎかな。




