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137 女子高生も自習する

 放課後。梅雨入りしたみたいで外は雨がサーッて降り続けてる。そのせいかさっきまで教室にいた生徒が皆嫌そうにぼやいていた。野球部やサッカー部の人は外で部活できないって口にして、髪を手入れしてる人は普段より気を使わないとって口にする。太陽も隠れるから気が滅入ってそうな人も多い。


 私はそんなに雨が嫌いじゃない。お気に入りの傘が使えるし、耳に響く雨音が心地よくて眼を瞑って聞き入りたくなる。


「コルちゃん、今日暇?」


「特に予定はないですね。異世界ですか?」


 これは完全に異世界脳と思われてる。確かに間違ってないけど。

 ここは名誉挽回といこう。


「ううん。実は勉強しようと思って。付き合ってくれない?」


 1人でも自習はできるけど近くに頭がいい人が居てくれるだけで詰まった時に助かるんだよね。


「それは感心ですね。もちろん構いませんよ。ノラさんの家でするのですか?」


「雨だからさすがに来てもらうのは悪いし学校でもいい?」


「いいですよ。となると図書館でしょうか」


「図書館もいいんだけど今教室に誰もいないしどうかな?」


 静かな所でするのもいいけど程よく雑音があった方が逆に集中しやすいんだよね。雨の音とか、廊下の生徒の話し声とか。こういうのいい。


「分かりました。では席をくっつけましょうか」


「がったーい」


 机を連結させて鞄から教材を並べる。何からしようかな。考えてたら教室の扉が開かれた。目を向けたらリンリンだった。


「うおっ。教室で勉強とか真面目か」


「リンリンも一緒にどう?」


「仕方ねーな。本当お姉さんがいないとダメなんだなー」


 それは間違ってない。リンリンがいてくれるだけでやる気2割増しにはなる。


「リンさんなら断ると思いました」


「私も3年だし少しは真面目にするよ」


「……なんだかノラさんもリンさんも賢く見えます」


 今の私達は絶賛の真面目モードだからね。やる気のある内に早速問題にとりかかろう。



 ~1時間後~



 雨の音とペンの音だけが教室に響き続けてる。いつもならリンリンがすぐに音をあげるけど今日に限ってはずっと問題を解いてる。コルちゃんは1つの教科にしぼらず満遍なくしててすごいなぁ。私なんかやっと物理終わった所なのに。

 時計を見たら1時間過ぎてた。全然気づかなかったよ。


「1時間経ってるみたいだし少し休憩しない?」


「本当じゃん」


「集中してると時間が経つのも早いですね」


 そしたら教室の扉がまた開いた。


「勉強してて偉いねー。先生から差し入れですよー」


 なんか担任の先生が缶ジュース持って来てくれた。もしかして勉強してるのに気付かれたのかな。集中してたから廊下の気配とか全然分からなかったし。


「ありがとー、先生―」


「勉強も大事だけど根詰めないようにね。空井さんもバスの時間があるでしょう?」


 かなり気にかけてくれてるみたい。返事をしたら先生は手を振って出て行った。


「これ飲んだら終わりにする?」


「そうですね」


 2人はもうお終いムードになってる。ジュース飲むまで時間はあるし、ここは1つ私が最後の問題を出してあげよう。席から立ちあがって教壇にあがる。教卓の中に先生が使ってる謎の伊達メガネがあるからそれを拝借。これで完全に野々村教師。


「ノラノラー、何してんだー。勉強疲れかー」


「私のことは野々村先生とお呼びになって。如月さん」


「またノラノラが壊れたわ」


 リンリンが呆れてるけど気にしない。羞恥なんてここにはないもの。


「空井さんもいいですわね?」


「いいですけど、そのエセお嬢様っぽい口調が気になります」


 手厳しい指摘を受けちゃう。急遽教師に昇任したから口調の設定まで考えてなかった。


「威厳のある口調がこれしか思いつかなかったのですわ。ですわって言えばそれっぽいですわ」


「リリルが聞いたら泣くぞ」


 それは効くから言わないで。


「ごほん。これから特別補習を始めますわ。では空井さん。異世界にある冒険者も携帯する最も一般的な野菜はなんですか?」


「えーと、リガーです?」


「正解ですわ!」


 拍手を送ってあげよう。


「では第二問。今度は如月さん。異世界におけるスライムによって作られ……」


「スラースだろ」


「如月さん!」


「な、なんだ?」


「正解ですわ!」


 言い終える前に答えを言うなんてリンリンも異世界知識が増えてて素直に嬉しいですわ。

 っとと頭の中までお嬢様っぽくなってる。


「次の問題ですわ」


 今度は黒板も使って問題を出そう。チョークで異世界の文字を書いていく。アラビア文字の羅列に2人も困った顔をしてる。これは難問。


「これは何て書いてあるでしょう?」


「読めねぇ。コルコ頼むわ」


「えぇ……わたしも読めませんよ」


「仕方ない。ここは勘でいくわ」


 その心意気は評価するよ。


「リリアンナ・リリルだな」


「違いますわ」


「スライムですか?」


「それも違いますわ」


 それで2人が色々と知ってる単語を口にしてくれるけどどれも不正解。


「もう分からんよ。答えはなんなのよ?」


「勉強お疲れ様、ですわ!」


「まさかの言葉かよ。分かるか!」


 さすがに難問過ぎたね。これは少し教師の血が騒いで熱くなったかもしれないね。


「ノラさん、普通の言葉も読み書きできるようになったんですね」


「まだ漠然とだけどねー。でも少しは読めるようになったよー」


「おーい、野々村先生―、素が出てるぞー」


 いけないいけない。つい我に返っちゃった。


「ごほん。それじゃあ今から第17回異世界言語講座を始めます」


「いつの間に16回もやったんだよ」


 皆が知らない間にこっそりとね。


 というわけでこの機会にリンリンとコルちゃんにも異世界の文字を覚えて欲しいから黒板に色々と単語を書いていく。気分は英語教師。


「あのー、入ってもいい?」


 テンション上がって色々書いてたら教室の扉をそうっと開けてる女子生徒の姿が見えた。多分部活終わりの人達かな? やけに気を使ってるのは何かの授業風景に見えたのかも。


「いいよー。どうぞー」


 それでぞろぞろと教室に人が入って来る。完全に終わり時だね。授業はお終い。

 でも何か来た生徒が黒板をまじまじと見てる。んん?


「何これ? アラビア語?」


「野々村さんってアラビア文字読めるの?」


「やばー」


 完全に誤解を受けてるような。ある意味間違ってはないけど。


「そういえば野々村さん、この前学校に変なトカゲ連れてたよね。確かサウジアラビアかどこかで捕まえたって」


 そんなこと言ったような、言ってないような。皆の記憶力のよさに脱帽だよ。


「えー、てことは両親のどっちかがサウジ出身ってこと?」


「違うよー。両親はどっちも日本人だよー」


「じゃあどうやって覚えたの?」


「ん-。趣味?」


 気の利いた返答も思いつかなくて適当に言ったら教室が静まり返ったんだけど。

 それから暫くクラスの女子からサウジアラビア博士みたいに思われちゃって、リンリンとコルちゃんに妙に気を使われた。

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