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136 女子高生も博士を励ます

 今日も異世界に迷い込んで街を歩いてる。どこに行こうかなーって悩んでたら前の方から小さなリスの子が頭を抱えながらその場をぐるぐる回ってた。犬が自分の尻尾を追いかけて回転してる奴?


「シャムちゃん、今日も配達大変そうだね」


 とりあえず挨拶気分で話しかけてみる。


「ノノムラ! いい所に来やがったです!」


 シャムちゃんが目を輝かせて食いついてきた。何事?


「何かあったの?」


 そしたら何も言わずに紙を突き出して来た。内容を読んでみる。


「新作、道具、作れない。博士、所詮、肩書。己、無能。シャム、毎日、ごめん。私、帰る」


「なんでそんなにカタコトでやがるです」


 恐ろしいまでの既視感があるけどとりあえず事情は分かった。


「博士がこんなに思い詰めてるって知らなかったです。ボクがもっと早くに気づいていれば……」


「下の方に続きが書いてあるよ。追伸、暫く、東都、過ごす。不調、治る、帰らない。朝食、当分、大丈夫」


「つまり気分転換に東都に帰っただけでやがるです?」


「多分」


 ここもデジャブだけどまぁいいや。


「博士が心配でやがるですがボクも仕事があって行けねーです」


「私が様子を見てくるよ」


「ノノムラわりーです。この借りは今度返すです」


「そんなのいいよ~。じゃあ行ってくるね」


 というわけで街を出よう。と思ったけどミー美がいないから一旦帰らないとダメかな。でも戻ったらまた来れるか分からないしなぁ。そういえばこの前シャムちゃんと東都に行った時に馬車を使ったね。それを利用しよう。



 ~東都~



 馬車に揺られて数時間、ようやく到着。意外と乗って移動する人が多いみたいで結構な人が乗ってた。移動手段が少ないからかな。


「とりあえずアンセスさんを探そう」


 わざわざ東都に帰って来たのなら行く場所も限られてるはず。まずはアンセスさんの自宅に行ってみよう。


 東都の外に出た草原の一角にちょっとだけ焼野原みたいになってる所がある。魔法棒大事件のせいで家が大惨事になったんだよね。地下に家があったはずだけど階段すら見当たらない。爆発で埋もれたから入れそうにもないよね。ここには居なさそう。

 そうなったら後はブリキのいるお店かな。そこに行ってみよう。


「そういえばあのお店ってどのあたりにあるんだっけ?」


 前はノイエンさんに案内されたから付いて行っただけで道まで覚えてない。東都は都会みたいで広くて建物も多いから細かい所までは見てなかったし。


 とりあえず情報収集……の前に近くからいい匂いがする。ここは1つお腹を満たしてから動こう。うん、きっとそれがいい。


「いらっしゃいませー」


 店の外で大きな鉄の棒に赤くて巨大な肉の塊がぶすりと刺さってる。モクモクと燻煙が上がってるから匂いの正体はこれかー。昔こういうのテレビで見たことある。ケバブだったかな?


「東都名物のドラゴンテールですよー。お1ついかがですかー」


 まさかの竜の尻尾。つまりこの巨大な肉の塊はドラゴンの尻尾ってこと? 確かによく見たら尻尾に見えなくもない。でもドラゴンっていうからには高そう。


 そう思ってちらりと値段を見てみる。そしたらなんとお1つたったの300オンスでした。

 これは買いだね。


「1つくださーい」


「ありがとうございまーす」


 お金を渡したら店員さんがナイフで上手に肉の塊を切ってそれを串に刺してくれた。


「マンダース、スラース、ホシオのどれかおかけしますか?」


 多分聞いてるのは調味料だよね。マンダースは辛くてスラースは甘くて、ホシオは何だろう?


「じゃあホシオでお願いします」


 未知への挑戦を試さざるを得ないね。そしたら店員さんが容器から黄色っぽい粉をサーッとまぶしてくれる。ソース系と思ったけどまさかの香辛料とは。それで串を手渡されたから早速実食。


 見た目は柔らかそうに見えたけど結構歯ごたえがある。というより弾力があるって感じ?

 リガーに似てるかも。それにさっきの香辛料がいいスパイスになって後からくるピリッとした感じが癖になりそう。おいしい。


「あれ、あなたは」


 何か声をかけられたから振り返ってみる。そこに先日お会いした茶髪の制服姿のケモミミさんが立ってて私と同じのを食べてた。まさかここまでデジャブするとは。


「あなたはこのまえ会った人だね。こんにちは~」


「どうも」


 ちょっと不愛想にも見えるけど声をかけてくれたなら嫌ってるってわけじゃないよね。


「これ初めて食べたんだけどおいしいね」


「へー、そうなんだ。じゃああなたも旅をしてるの?」


「違うよー。普段は央都にいるからこっちにはあまり来なくて。あなたは旅をしてる?」


「まぁね。といっても美味しい物を食べたいから食べ歩きみたいな感じだけど」


 それは良い趣味をしてますねー。じゃあこの前西都で出会ったのもそういう理由だったんだね。


「んー」


「何? 私の顔を見て」


「やっぱりどこかで会ったような?」


「また口説いてるの? 何度も言うけど私はあなたなんて知らないから」


 それは私もそうなんだけど。うーん。


「そうだ。私ここでブリキが店番してるお店に行きたいんだけどどこか知らない?」


「さぁ? 私は知らない」


 旅をしてるって行ってたし、ああいう隠された店までは普通知らないよね。


「博士のお店ですか? あそこならここの通りをまっすぐすすんで3つ目の十字路を左に進んでスライム専門店の横ある路地を進んだら行けますよー」


 店員さんが知ってたみたいで気前よく教えてくれた。これは助かる。


「教えてくれてありがとうございます」


 これでようやく先に行けるね。それでさっきのケモミミさんの名前を聞こうと思ったけどもういなくなってた。足が速いなぁ。


 仕方ないから私も行こう。教えてもらった通りに歩いてたら見覚えのある路地まで来れた。確か行き止まりの所だったよね。あったあった。

 近づいたら地面が割れて階段が出てきたら下に降りたら真っ黒な扉がある。ここだったね。


 ドアノブを掴んで開けたら白衣を着た赤い髪の人を発見。アンセスさんも私に気づいて振り返ったけどすごく驚いた顔をしてた。寧ろ後ずさってるような。


「ノラ!? どうしてここに……」


「央都に書置きを残してあったってシャムちゃんから聞いて、それで心配になって来たんです」


「そう、だったの」


 そう言って目を伏せた。中にお邪魔させてもらったけど、相変わらずのいいお店。ブリキの人形やラビラビの人形。ヘンテコなおもちゃが一杯ある夢のような場所。


「不調って聞きましたけど」


「その通りなんだ。央都に来たから心機一転で人の役に立つような魔道具を開発しようと思った。けど考えれば考えるほど何も思いつかない。いい物って思ってもそれは大抵先人が既に作ってあるものばかりだ」


 ブリキの人形を見ながら遠い目をしてる。いつもなら饒舌に喋るブリキさんも今は電池が切れたみたいにピクリともしてない。


「私、小さい頃から引きこもりがちだったから。だから両親がくれたこいつが唯一の友達だった」


 ブリキの人形を手にして私に見せてくれる。


「両親は共働きでいつも忙しくしてた。そんな私の為に色んな魔道具を買ってくれた。いつからか私もこういうのを作りたいって思うようになった」


 独り言みたいにぽつぽつと話してくれる。


「いつか見た本の世界を現実でも表現できたらいい。そう思ってた。きっと君と出会って央都に行くようになったのは神の導きだったのだろう。いつまでも夢を見続けるなって。自分でも思ってた。だから子供の夢をここに置いて、大人としての道を歩もうと思ってた。でも皮肉なものだ。長く続けてたやり方を変えるのは簡単ではないらしい。私は道を見失ってしまった」


 そういえば央都にはブリキの人形を連れてないって思ってた。店にも家にもいたのにどうしてだろうって思ったけど、そんな深い理由があったんだ。


 きっとアンセスさんにとってはこういうおもちゃとしての魔道具よりも、生活として役立ってる魔道具の方が価値あるものっていう認識なのかもしれない。

 だから夢を終わらせようとした。


「アンセスさん。これを見て欲しいんですけど」


 それでスマホの写真に入ってる最新のゲーム機器を見せた。前にコルちゃんの家に行った時にあって驚いたから撮ったんだよね。


「なにこの魔道具! ちょっと見せて!」


 写真の向こうよりもまずスマホに驚かれたんだけど。こういう所は研究者って感じがする。

 それでじっくり観察された後でようやく本題に入れそう。


「この画面に映ってるのが、私の国にある魔道具のおもちゃみたいのです」


「この小さいのが?」


 確かに小さくて驚くよね。何も知らなかったからこれで何ができるかなんて想像つかないのかも。本当は実際の画面を見せてあげたいけどそこまで撮ってなかったよ。


「これを作るのに何千何万という大人が知恵を出し合って協力して作ったんですよ。別にこれがなくても生きていくのに困りませんし必要もないです。でもこれ今でも世界的に大人気で子供から大人まで色んな人が遊んでるんです」


「嘘……信じられない」


 アンセスさんは目を丸くして首を振り続けてた。


「アンセスさん。夢を終わらせなくてもいいんじゃないですか? こういう世界もあるんですから」


 もしこの異世界が今も争いの絶えない所だったらこういうのはお門違いだったかもしれない。でも勇者と魔王の戦いも終わって平和になりつつあるなら、娯楽も増えてもいいと思う。リリも魔道具は高価だからほとんど持ってないって言ってたし。


「私の魔道具なんかでそこまで人気を出せるかな……」


 不安そうに聞いてくる。そればっかりは私にも分からないなぁ。もしかしたらこういう場所でお店を開いてたのも自信がなかったから?


「寧ろ今がチャンスじゃないですか? 先人が少ない分野なら自分が一番になれるかもしれませんよ?」


「たしかに……。だけど東都でも娯楽の魔道具は既に結構出てる。私なんかが追い付けるだろうか」


 魔道具制作の腕に関してはノイエンさんも認めてるくらいだからその辺は問題ないんじゃないかな。後は発想力?


「私の世界の偉人にはリガーが地面に落ちて大発見した人もいますし、1万回以上失敗した末にすごい発明した人もいるんです。アンセスさんならきっと大丈夫です」


 そう言ったら吹っ切れたみたいで微笑みながらブリキの人形の頭をたたいてた。


「ありがとう、ノラ。君に言われて目が覚めたよ。私もそちらに進みたいという意思がずっと胸に残ってたらしい。もう迷わないだろう」


「博士、本当馬鹿。おかえり」


 ずっと黙ってたブリキの人形が喋り出した。その言葉に少し涙腺が緩んでて私ももらい泣きしそう。

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