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12 女子高生も幼竜を飼う

 ピピピピピピピ。


 んー、目覚まし鳴ってる。でも眠い。眠たい。

 でも大丈夫、二度寝を想定して目覚ましは早めにセットしてある。だから止めてもう少し寝よ……。


 うーん、何か布団の上が重たい。丁度お腹の辺り。このままでも眠れそうだけど一度気になるとそっちに意識が向いちゃう。仕方ない、今日は目覚まし様に勝ちを譲ろう。


「ふわぁ」


 上体を起こして顔を上げる。眠い瞼を擦りながら目の前の視界に目を向けた。


「ピー!!」


 青色のトカゲみたいな蝙蝠が元気に鳴いてる。うーん、寝起きで異世界?


 頭が寝惚けてて暫く目の前の生物と目を見つめ合ってた。そうだった、昨日ドラゴン助けたんだ。


「おー、元気になったんだねー」


「ピーピー!」


 ドラゴンさんが部屋の中を自由に飛びまわってる。深い傷があったとは思えない回復力だね。


 それからドラゴンさんが学習机に下りて、隣の棚に置いてある水槽に浮かんでるすら吉に興味を奪われる。すら吉は水面の揺れに反芻してなんかクルクル回ってる。後、結構太ってる。


 山の水があれば勝手に育つし手間もかからなくて凄く楽。それに見た目も可愛いし疲れた頭には癒しになる。勉強に飽きたら1時間くらいプニプニできる。


 なんて暢気に考えてたらドラゴンさんがゆっくり顔を近付けてるから慌てて体を抱っこした。


「すら吉は餌じゃないよー。食べたら駄目ー」


「ピー?」


 分かってるのかなぁ。でも首を傾げてる仕草は可愛い。


「ドラゴンって何食べるのかなぁ。とりあえずドッグフードはあるけど」


 机の上にペット用の皿を置いてそこにドッグフードを適当に出した。するとドラゴンさんは目を輝かせて食いかかってる。うーん、万能ご飯。


「そういえば名前考えてなかったなぁ」


 一応は竜だと思うから格好いい名前がいい? 竜之助、みたいな?

 でも、声は可愛いしもしかしたらメスかも? だったら女の子の名前の方がいいかなぁ。


「んー、青いし瑠璃(るり)とかがいいかなぁ」


 小さくて可愛いからリトルとかチビとか付けたいけど大きくなったら違和感あるし。


「うん、悪くないかも。瑠璃、今日から君は瑠璃だよ」


「ピー?」


 やっぱり分かってなさそうな顔をして首を傾げてる。こればっかりは日を重ねるしかないよね。


 せっかく起きたから二度寝の誘惑に抗って、カーテンを広げて窓を開ける。涼しい風が中に入ってお日様が眩しい。早朝出勤の人達が車を出して走らせてるのが見えた。


 瑠璃は外の町に興味があるみたいで顔を出してる。そのままフラフラ飛んでいきそうだったから慌てて尻尾を掴んだ。


「瑠璃、だめー。大人しくしてー」


「ピーピー」


 窓を閉めてから尻尾を離す。瑠璃は反動で飛ばされてベッドの上に転がりまわってる。

 そのまま四足歩行で私の足元まで歩いてきた。


「いい? こっちだとドラゴンを知らない人ばかりだし、瑠璃の見た目は近所の人を驚かせるから勝手に出歩いたら駄目だよ」


「ピー?」


 やっぱり分かってなさそう。首を傾げる仕草は可愛いけど心を鬼にしないと。


「今日は学校に行かないと駄目だから瑠璃は部屋で大人しくしててね」


「ピー?」


 首を傾げてばかりの瑠璃をとりあえずは置いて身支度を済ませていく。顔を洗いに2階にある洗面台で歯を磨いて顔も洗う。


 部屋に戻ったら瑠璃がベッドで遊んでた。


 早起きできた分、髪の毛の手入れに余裕がある。結構癖毛が酷いから直すの大変。

 軽くスプレーを巻いて髪を染めて、前髪に髪留めをする。制服は崩したいけど先生がうるさいから一番上のボタンだけ外す。リボンも伸ばして完璧。


 鞄を持って部屋を出ようとしたら瑠璃が追いかけてくる。


「ピー!」


 ようやく状況を理解して焦ってるみたい。私の足に引っ付いて離れない。


「だめだよー。学校に連れたら皆驚くし先生にも怒られるよー」


「ピーピー!」


 なんかすごく嫌がってるなぁ。でも確かに部屋に一日中閉じ込めるのも可哀想かもしれない。柴助達は庭で遊べるけど、この部屋はちょっと狭いし。でも瑠璃は見た目から目立つしなー。


 それで学習机の横に置いたある鞄が目に入る。肩から下げれる大きな奴。

 チャックを開けて、瑠璃を中に入れてみる。うん、すっぽり入る。


「仕方ないなぁ。でもちゃんと大人しくするんだよ?」


「ピ!」


 これだけはやけに即答してる。言葉を理解してるのかな?


 チャックは開けたままにして瑠璃を中に押し込む。そのまま部屋を出て階段を下りた。

 台所には朝食の準備がされててお父さんが先に食べてる。


「おはよう」


「おはよ」


「野良起きてきたの? 顔は洗った?」


「うん。ハンドクリームなくなりそう。歯磨き粉もストックないよ?」


「今日買出しで足しておくわ」


 椅子に座って手を合わせると味噌汁に手を伸ばす。んー、やっぱりお母さんの味噌汁は味が染みて美味しい。味噌だけじゃなくて昆布や鰹節も使ってるって言ってたなぁ。

 納豆を混ぜてご飯の上に落とす。朝はこれが一番。


 ゴソゴソ、ゴソゴソ。


 足元の鞄がやけに動いてる。でも気にしたら余計に怪しまれそうだから無視。

 昨日は瑠璃も重傷だったからまだ言ってない。


「野良? その鞄動いてないか?」


 お父さんがジッと見てる。うん、確かに動いてる。真っ直ぐ前進してる。

 机の脚にぶつかって止まった。


「何か入ってるのか?」


「んー、実は」


 鞄を持ち上げて中から瑠璃を出して抱っこした。瑠璃を目の前にしてお父さんとお母さんが一緒に固まってる。


 けどすぐに我に返って食事に戻ってる。


「野良。また何か捕まえたの?」


「うん。この子育ててもいい?」


「あなたねぇ。そんなに沢山飼って管理できるの? 高校卒業しても面倒みれるの?」


「育てる。町を出てもペット可のマンション探す」


「口で言うのは簡単です。あなたからも言ってあげてよ」


 んー、言ってるのは至極正論なんだけど思ったより見た目に驚かれてない。

 お父さんは瑠璃を見ると笑顔を見せてくれた。


「まーいいじゃないか。野良だってもう高校生だ。何となくで考える年頃じゃないだろう」


「そうやって甘やかすから。この前も拾ってきたんですよ?」


「けど野良はしっかりと全員の面倒を見てると思うぞ。きっと大丈夫だ」


 お父さんは話が早いね。お母さんは軽く溜息を吐いてから私を見た。


「野良。ちゃんと育てられるのね?」


「最後まで面倒見るよ。私が死ぬまでずっと」


「そこまでの覚悟は求めてないけれど。本当に誰に似たのかしら」


 お母さんがぽつりと呟く。


「野良は間違いなく母似だぞ。良子(りょうこ)さんが柴助と猫丸を助けたのと同じ理屈だな。あれを見て野良もそう育ったんだろう」


 よく覚えてないけど、私が子供の頃に色々動物を助けてたみたい。それを見てた私は自然とそうするのが当たり前だと思うようになってた。


「それが分かっているから困ってるんです。野良は純粋なのよ」


「それがいい所だろう?」


「そうね」


 何か話が180度変わってるし、朝から恥ずかしいんだけど。


「お父さん、時間大丈夫?」


 時計を見たらもう8時前。お父さんは車出勤だから急がないと間に合わない。


「おっと、もうこんな時間か。じゃあ先に行かせてもらう」


 お父さんは慌ててご飯を掻き込んで椅子に掛けてあったスーツを羽織ると早々に出て行った。


「行ってらっしゃーい」


 私もご飯を食べ終えて鞄を2つ持つ。お母さんが玄関まで来てくれた。


「じゃあ気をつけてね」


「行ってきます」


 玄関を出ると柴助やたぬ坊、こん子に囲まれる。珍しく猫丸もいる。

 私は鞄を置いて新しい家族を見せた。瑠璃が鞄から顔だけ出して顔を見合わせてる。


「新しい家族の瑠璃だよー。仲良くねー」


「わふっ!」


「にゃぁ?」


「きゅーん!」


「ぴゃー!」


 柴助、猫丸、たぬ坊、こん子と鳴く。なんか一匹だけやる気ないけど気にしない。

 そんな皆に対して瑠璃も「ぴー!」って元気よく鳴いた。

 これでもう立派な家族だね。


 鞄から餌を出して皆に上げるとそそくさと柵を開けて出る。


「じゃあねー」


 手を振るけど柴助以外ご飯に夢中。仕方ない。


 歩道を歩いてると瑠璃が首をキョロキョロさせて景色に夢中になってる。でも時々走ってくる車にはびっくりして首を引っ込めてる。やっぱり動きが速いのを見ると反射的に防衛本能が起こるのかな。


 静かになるとまた首を出して景色を見てる。そんな中で瑠璃が首を止めて一点を見つめてた。

 視線の先は野菜畑で大きなトウモロコシを作ってる。おばあちゃんとおじいちゃんが朝から収穫作業してる。


 瑠璃が身体を出して飛んでいこうとしたから慌てて尻尾を掴んだ。


「おやおや。野良ちゃんじゃない」


「おはようございます」


「ほほ。可愛いペットを連れてるのう」


「最近の若い子の趣味は不思議ね」


 おばあちゃんとおじいちゃんが笑い合って納得してる。うん、全然驚かないね。


「そうだ。丁度採れた所だから持っていきなさい」


「大丈夫です。これから学校もありますから」


 私が遠慮してても既におじいちゃんがビニール袋一杯にトウモロコシを入れてる。それでおばあちゃんが持って来てくれた。


「ほら。若いんだから一杯お食べ」


「えっと。本当にいいんですか?」


「いいのいいの。野々村さんの所にはお世話になってるから」


 多分、お祖父ちゃんのことかな。お祖父ちゃんは狩猟資格を持ってて罠を作ったり猟銃を使える。それで畑を荒らしに来る猪や猿、昔には熊も退治したって聞いた。

 だから町の人からはかなり頼りにされてるみたい。


「ありがとうございます。大切に食べます」


「行ってらっしゃいね」


 手を振って親切な老夫婦に別れを告げた。帰ったらお母さんにも言わないと。

 でもその前に。


 尻尾を掴んでた瑠璃だけど器用に私の腕周りを飛んで袋を狙ってる。

 もう仕方ないなぁ。


 袋から1つトウモロコシを取ってあげると凄い勢いで食いついた。芯まで残らず食べたのは驚きだけど、お腹一杯になったのか鞄に戻って大人しくなってる。


 朝ごはん上げたけど、もしかして足りなかったのかな? もう少し量を増やさないと駄目?


 色々考えないと駄目だけど、とりあえずは学校に瑠璃を連れて行く問題が先かなぁ。

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