128 女子高生も試作品のアドバイスをする
「んー。あれは?」
異世界の酒場の前で緑色の髪の子が売り子みたいになって何かドリンクを配ってるのが見える。小さいのに大きなトレーを持ってるせいで懸命に見えてほほえましい。
「セリーちゃん?」
何となく近くに行ってみる。
「ノリャお姉ちゃん! いらっしゃいませ!」
元気よくて完璧の営業スマイル。これだけで来た甲斐があったよ。
「何か新しい商品を売ってたり?」
ペットボトルみたいなコップがいくつもトレーの穴に挟まってて取り易いように工夫されてる。飲み物自体は色が多種多様だから一種類って感じじゃなさそうだね。
「今は試作中なんだよ~。ぜんぜん女性客が増えないから頑張ってるの!」
遠まわしに狼さんと鴉さんが怒られてる気がするのは考え過ぎかな。でも飲み物に目をつけるのはいいと思う。
「実はこの前お店にすっごく綺麗なお姉さんがやってきたの! そのお姉さんはリガーのジュースだけ頼んで帰ったからこれは飲み物を増やしたらいけるって思ったの!」
うん。多分それ私がこの前変装して行った時だと思うけど黙っておこう。
「そうなんだね。それで試作中っていうのは?」
「どんな飲み物が人気になるか分からないから色々飲んでもらってるの~」
それでいいか悪いかの意見を聞いて調整する感じか~。セリーちゃんって幼いのに私なんかより余程熱心な気がする。これは人生の先輩として負けてられないかもしれない。
「そうだ! ノリャお姉ちゃんも1つ飲んでみて! お味の感想聞きたい!」
「お金は……」
「試験中だから無料だよ!」
大分昔にバーガーの試食も無料でさせてもらったけど、ここの酒場ってなんというか気前がいいと思う。きっと狼さんの人柄が表れてるんだろうね。
「じゃあこれもらおうかな」
緑色のドリンクを選んで受け取った。
「頂きます」
飲んでみたけどこの絶妙な苦味があるのはポーションだ。予想はしてたけどね。
でも後味に不思議な感覚がやってくる。まるで苦味を洗い流すような甘味のような。
「どうかな?」
セリーちゃんが期待の眼差しで見てきてる。試作中っていうからお世辞じゃなくて本音で言わないと駄目だよね。
「んー。悪くはないと思うけど私としてはこの苦味を消すこの感じは勿体ないかなって思う」
例えるなら抹茶の風味が別の甘味で上書きされる感じに似てる。私は抹茶が好きだからそういうのはちょっとってなる。
「そっかぁ。ポーション味の飲み物って売ったら人気出ると思ったのになぁ」
「ポーション味ならそのままの方がいいと思うよ。あの苦味が好きって人は一杯いると思うよ」
「えーそうなの!? 私は全然ダメ!」
セリーちゃんが首をブンブン振っててかわいい。こういう所の味覚はまだ子供って感じがして嫌いじゃない。
実際、アンセスさんはポーションを好んで飲んでたみたいだし、ああいう味は大人受けしやすい気がする。
「やっぱりノリャお姉ちゃんの意見は参考になるなぁ。ねぇねぇ、ノリャお姉ちゃんだったらどんな飲み物が売れると思う?」
好きじゃなくて売れるかぁ。そういう世間的な人気は疎いんだよね。それに現代人の好みと異世界人の好みとでも差があるし。
「少し前までならこういうのが人気あったんだよ」
スマホの画像を漁って昔に飲んだタピオカミルクティーを見せてみる。一時大ブームになってたけど今だと殆ど話題に聞かない。田舎の地元でさえ取り扱いが増えたくらい人気だったんだよね。その時になんとなく飲んでみた奴。味はわりと普通だった気がする。
「この入れ物かわいい!」
セリーちゃんが目を輝かせて食いついてる。それは私も思ってた。テレビとかの特集で見てたけどどこのお店の容器も凝っててすっごく可愛いんだよね。
多分だけどタピオカって飲み物というよりSNS映えがいいから受けたって気はしてる。
そういう意味だと異世界にはネットもSNSもないからこれは微妙かもしれない。
「こんな黒い粒粒を入れた飲み物もあるんだね」
「この黒いの味は殆どしないんだ」
なのに鬼のようなカロリーでこっちをいじめてくる。
「なるほど、見た目かぁ」
セリーちゃんは首を捻らせながら考えてる。料理っていうのは味もだけど、見て食べるって言うくらいだからそれくらい見映えって大事な気がする。
「他にはこんなのもあるよ」
丁度画像を漁ってたから別のも出てきた。こっちはリンリンと昔にスタバに行った時に飲んだ奴。私が抹茶クリームフラペチーノを頼んで、リンリンがダークモカチップフラペチーノを頼んでた。
「わぁ何これ! これって飲み物なの!?」
確かに見た感じはクリームのインパクトが強くてドリンクって感じはしないよね。
「飲み物だよ~。上に乗ってるのはトッピングみたいなものだから」
「ほえ~。それにこの容器に何か書いてある?」
セリーちゃんが聞いてくる。英語で書いてあるから読めなくて当然だよね。
書いてあるのは『 best friend 』 だね。
「最高の友達って意味だよ。偶にこういうのを書いてくれるんだよ」
イラストだったりメッセージだったり。後でリンリンがこれで友達じゃなかったらどうするんだろうなって言ってたのが妙にツボだったのを覚えてる。
「やっぱりノリャお姉ちゃんの国はすごいなぁ。こんな発想私には出てこないもん」
一応は最先端のお店だから頭のいい人が必死に作って考えてあるだろうからね。
「分かったよ。やっぱり見た目が大事なんだね!」
「正直参考になるかは分からないよ? こういう見映えを意識してるのも私の国だと他の人に見せる意味もあるから」
「大丈夫。どうせ試作だから失敗しても何度も挑戦する!」
この年でその考えに至ってるのはかなり強いような。セリーちゃんが大人になったらとんでもないお店を開いてそう。




