123 女子高生も占い師を励ましたい
「ノラさんと異世界に来るのは久し振りですね」
「そうだね~」
コルちゃんを誘って異世界にやってきた。本当はリンリンも誘いたかったけど家の用事で来れなくなったから仕方ない。
「今日はコルちゃんにお願いがあるんだよね」
「ノラさんからの頼みとは珍しいですね」
「うん。実は最近こっちの友達でね、ちょっと元気ない子がいるの」
「そうなんですか?」
「妹さんに会いたいけど何も情報がなくてよく溜息吐いてるんだ」
コルちゃんも同じ妹だからもしかしたら気持ちを分かってくれるかもしれないという期待がある。
「わたしに出来ることであれば協力しますよ」
「ありがとー。とりあえず探さないとね」
そういえば普段どこで活動してるか知らない気がする。この機会にちょっと探してみよう。
んー、多分性格的に人の多い通りや店の並んでる所、住宅街はなさそう。かといって旧市街にもいなさそう。
となれば、前に東都で活動してた場所をヒントにすれば……路地裏?
というわけで路地裏を片っ端から探そう。
央都には路地裏が結構多い。建物同士の間隔が離れて造られてるからっていうのもあると思う。だから大通りを歩いてても路地裏を歩けば全く別の所に出られたりする。最近知った央都探索術。
それで昼間なのに暗い路地裏を発見。人気が少なくて寂れた感じの所。そんな場所で小さなテーブルを広げて金髪のケモミミのお姉さんを見つけた。
「ミコッちゃん、見つけた~」
「ノラ。ここで会うのは珍しいね」
手を上げて軽く挨拶を済ませて近くに寄った。それでコルちゃんがいるのにも気付いてくれる。
「今日は私の友達も呼んだんだよ」
「空井琥瑠です。よろしくお願いしますね」
「ミコッテ。まぁよろしく」
そんな感じで2人が軽く頭を下げて自己紹介完了。気まずくなる前に早速本題に入ろう。
「今日も占いしてるんだよね。してもらってもいい?」
「いいよ」
「じゃあコルちゃん、お願い」
「わ、わたしですか?」
せっかく知り合ったんだから親睦を深めないとね。それに私は何度も占ってもらってるから初見の反応を見てみたいし。
それでミコッちゃんがカードを出してそれを置いた。
「運命を混ぜて」
「えーと、切ったらいいんですか?」
ミコッちゃんがコクリって頷いてる。コルちゃんは裏側になってるカードを見て不思議そうな顔をしてた。
「もしかしてタロット占いですか?」
「タロット占い?」
「コルちゃん、ここは異世界だからタロットは知らないと思うよ」
私も始めそう思ったし、実際似てるけど。
「そうでしたね。すみません」
「待って。その話詳しく」
ミコッちゃんが食いついた。やっぱり占いのことになると目がないみたい。
「タロット占いというのは、これと同じようにカードを使って占うやり方です。カードの枚数も多いですがそれぞれに意味があり、また自分から見て上向きか下向きかでも意味が変わるんですよ。カードの出し方にも色々方法がありまして、運勢や将来、恋愛などを占えるんです」
ここぞとばかりのコルちゃんの博識が出たよ。私もタロットは知ってるけどここまで詳しく説明できないから正直助かるかも。ミコッちゃんも相槌のように頷いてる。
「それは興味深い。試して」
「さ、さすがにそこまでは……。それにカードも持ってませんから」
「そう、残念」
口では淡々としてるけど耳と尻尾がシュンとしてるから落ち込んでるのが見て分かっちゃうのが何とも言えない。
「コルちゃんなら色んな占い知ってるんじゃない?」
私何かメジャーな奴しか知らないし。
「占い、ですか。歴史のある占いといえば占星術でしょうか。星の位置や方角、向きなどを見て国の未来を占う意味があったと聞きます。似たようなので風水というのもありまして、こちらはその土地の地形を見てその地の未来を占うんですよ。古代では現代のような発展がありませんでしたから、そうした占いで国家の安全や未来を担っていたとも言えます」
「ちょっと待って。占ってる場合じゃない。その話をもっと聞きたい」
珍しくミコッちゃんがぐいぐい迫ってる。初対面とは思えないほどの積極振りでちょっと妬いちゃうんだけど。
それからコルちゃんの博学モードのおかげで現代の占いに関するあれやこれを丁寧に説明してくれた。そのどれもがミコッちゃんにとって新鮮だったみたいで、いつも以上に耳と尻尾が動いてて可愛かった。
「はぁ、満足。すごくいい話を聞けた」
「それなら幸いです」
「占いも人だけじゃなくて国すらも動かすっていうのがよかった。私もそれくらいになりたい」
これは本気で占星術を学ぶつもり? ミコッちゃんならやりかねないけど。
「そうだ、占うの忘れてた。お礼にあなたの運命を引いてあげる」
コルちゃんがカードを返してそれでミコッちゃんがそのカードを一枚ずつ机に並べてそれで目を瞑って1枚を選んで捲った。そこには鎌を持った黒フードの何かが映ってる。
「死神、か。これは……」
ミコッちゃんが何かいいかけた時、路地の建物の上から誰かが飛び降りてきた。
本物の死神さん、キューちゃんだ。
「ふー、ここなら問題あるまい。む、ノノムラ・ノラではないか。それと友人だったか」
ちゃんとコルちゃんの顔を覚えててくれたみたい。何気に嬉しい奴。
「ミコッちゃん、この子は死神のキューちゃんだよ」
「へー」
この返事は完全に信じてないね。そしたらキューちゃんが腕を組んでのしのし歩いてきた。
小さいせいで全然威厳はないけど。
「ふん、占いか。我が何番目かに嫌うものの1つじゃ」
その発言にミコッちゃんが露骨に不機嫌そうな顔をしてる。
「占いなぞに己の運命を委ねるなど笑止じゃ。己の運命は己で決めるべきじゃ」
「死神の意味は狡猾、傲慢、嫌悪。今のあなたにぴったりね」
なんでかキューちゃんが占われてるようになってるんだけど。それに多分だけど本来の意味よりも悪く言ってそうな気もしなくもない。
「そういえばタロットにも死神のカードがあるんですよ。そこでは破滅や終焉を意味します」
「かっかっか! 破滅じゃと? この我を滅せれるものならやってみるがよい!」
そう言って仁王立ちして調子に乗ってる。でも直後に何か上から物音がしたと思って気付いた時にはキューちゃんの頭にスライムがべっちゃり落ちたんだけど。
「ご、ごめんなさい! 手元が狂って落ちてしまったの!」
路地裏だけに上の階で住んでた人が窓から顔を出して謝ってる。スライムが空から降ってくるのは中々レアだなぁ。
キューちゃんはスライムを被って服もベタベタになってるけど動じてる様子はなさそう。
「ふん、この程度で破滅か? 随分と温い破滅じゃ」
顔面スライム塗れで言われると強がりにしか聞こえないのは何でだろう?
「そうだ。ミコッちゃん、もう1枚引いてキューちゃんのこれからを教えてよ」
何となく追加注文してみる。これで悪い結果になると不味そうだけど。
それでミコッちゃんが裏側のカードを一枚捲った。そこには2本の角が生えた怪物が映ってる。
「魔王ね。支配や絶望を意味するわ」
「我は死神じゃぞ! 絶望なぞしたことないのじゃ!」
スライム塗れのまま笑ってるのがどうやっても占いの結果を受け入れない感がある。
それで少ししたらまた上の方から突風みたいな轟音がしたんだけど。
「ようやく見つけたぞ、ヘイム。てめー授業サボってテストも受けないとはいい度胸じゃないか」
屋根の方に箒に立って見下ろしてるノイエンさんがいた。表情はそれはもう鬼の形相……ううん、魔王の形相だね。
「鬼ババァじゃと!? 我が隠密魔法を見破ったじゃと!?」
「あれで撒いたつもりとは舐められたもんだね。気配がねーなら見つかるまで探す。それがあたし流さ」
「ぐぬぬ、ならばもう一度撒いてやるまでよ!」
「同じ手が何度も通用すると思うなよ」
ノイエンさんが指をクイッてしたらキューちゃんの襟元が引っ張られてあっさりと捕まってる。それでスライム塗れのまま連行されて行ったんだけど。
「……やはり占いは侮れませんね」
「確かに」
仮に信じた所でほぼ対処不可能な気もするけど。
「ノラ。えっと、ごめんなさい」
「あれ、急にどうしたの?」
ミコッちゃんが突然謝って頭を下げたんだけど。
「前に私が妹の事で落ち込んでたから気を使ってくれたのよね。わざわざ占いの知識のある子まで呼んでくれて」
最初の方は合ってるけど、後半は私も知らなかったなんて言えない。
「ううん、ミコッちゃんが落ち込んでると私も辛いから。どうにかして励ましたいなぁって思ってただけだから」
「そう。実際嬉しかった。あなたの世界の占いを知れたから」
「それならよかった」
私は何もしてないけど。
「あなたも、ありがとう」
「いえいえ。わたしも聞きかじっただけの知識ですからもっと専門的となると知りませんので」
それでもミコッちゃんはお礼を言いたそうにしてるけど、ちょっと恥ずかしいみたいで髪をくるくるしてるのが何かかわいい。
「私、思ったの。多分あの子にもやりたいことがあって、それで家を出たんじゃないかって。私が占いがしたかったみたいにきっとあの子もやりたい何かを見つけたんじゃないかって。だからもう必死に探すのはやめようと思う」
そう話してるミコッちゃんは少し吹っ切れてるようにも見えた。
「そっか。でも私もできるだけ探すの手伝うよ」
「あなたは本当にお節介が好きね」
前にも言われたけど、今日のその言葉を言ったミコッちゃんの表情はとても笑顔だった。
きっと、今占ってもらったら結果はすごくいいのが出るって自信を持って言える気がする。




