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119 女子高生も運び屋と東都へ行く

 今日も異世界をふらふらしてたら東の門の方がちょっと賑わってたから、野次馬の如く近くに行ってみる。


 そしたら門の近くで大きな馬車が停まってた。馬が何匹も繫がれてて後ろは積荷みたいなのを引いてる。その近くに丁度大きなリスの尻尾を発見!


「シャムちゃんだ~。こん~」


「ノノムラでやがるですか。こんな所に現れるなんて相変わらず暇人です」


 それは否定できないけど。


「この馬車は何?」


「店長に東都の運び屋が人手不足だからって言って至急頼まれたんです。全く面倒な仕事をさせられたです」


「もしかしてこれから東都で働くの?」


「んなわけねーですよ。今日限りって聞いてるです」


 それを聞いて人安心。前にも遠くに異動させられそうになって断ったから店長さんも無理は言ってこなくなったんだね。


「じゃあこの馬車で東都に行くんだね。シャムちゃんが動かすの?」


 馬車って結構テクニックが必要そうに思えるけど。


「ボクだけが行くわけねーじゃねーですか。他にも行くんです」


 それもそうだった。それでこの人の集まりだったんだね。


「ねぇねぇ、私も付いて行ったらダメ?」


「はぁ。何かそう言う気はしてたですけど。ノノムラ、お前本当に暇人でやがるですね。来ても楽しいことなんてねーですよ」


「そうかなぁ。シャムちゃんと馬車に乗れるだけでも楽しそうだけど」


「なっ! 本当そういう所です!」


 顔真っ赤にして指差してくるけど変なこと言った?


「まぁいいです。別にノノムラ乗せるくらい問題ねーです。ボクが言ってやるです」


「わーい、ありがとー」


「そのかわり余計なことはするんじゃねーです」


 一応は運び屋の仕事で行くんだからね。その辺はちゃんと弁えるつもり。

 それにこういう機会でないと他の都には中々行けないからね。


 それでシャムちゃんが同乗者の人に説明してくれたおかげで快く乗せてくれるようになったみたい。それで出発したけど意外と行く人は私とシャムちゃんと馬車を動かす運転手さん2人だけみたい。それで私とシャムちゃんは積荷の方に乗ることになって、ゆるりとした旅が始まる。


「それにしてもシャムちゃんって職場でも頼りにされてるんだね」


 今回行く人はたったの3人でその中の1人に抜擢されたって考えると中々。


「ちげーです。本当はボクも断ったんです。東都まで行くなんて面倒だって。でも向こうで積荷するのにどうしても圧縮魔法が必要って言われたんですよ。何でも東都にいる圧縮魔法を使える同僚が病欠してるって言ってたです」


「へー。てことはその魔法って結構貴重というか難しい魔法なんだね」


「ようやく気付いたですか。この魔法は度重なる魔法試験を乗り越えてようやく使用を認められる魔法です。ボクはこれしかつかえねーですけど、おかげで好待遇です」


 確かに物を圧縮できるけど時間経過で解けたりするから色々と条件があるんだろうね。


「この魔法を使うにも色々制約があるです。人に使ったりするのは当然ダメですし、魔力が枯渇しそうな時にも使用はダメです」


「うん? この前、私に使った時何も言ってなかったよね。それにシャムちゃんと初めて出会ったときも魔力がなくなって……」


 それを聞いてシャムちゃんが変な汗をダラダラ流してる。


「こ、こまけーことは気にするなです!」


 別に誰かに報告したりするつもりはないけど。


 それから馬車に揺られながら草原の景色を眺めながらのんびり時間が過ぎていった。


「私、馬車はもっと揺れるって思ったんだよね」


 昔なにかの本で読んだ時は乗り心地が悪いみたいに書いてあった気がする。


「それは道が悪い時です。この辺はきちんと道が舗装されてるです。でも山道になったりするとノノムラの言うように最悪です。故郷の村から出る時に馬車を使った時は地獄そのものだったです」


 そういえば山の方にあるんだったっけ? 確かに私もおじいちゃんの家に行く時は車に乗ってても大変な目にあった気がする。


「今回は山道を使わねーですから、地獄はねーです」


 それを聞いて安心。今更降りるなんてできないからね。



 ※2時間後※



 長い馬車の旅が終わって東都に到着した。馬車は東都を囲う外壁のトンネルの中に入って街の中に進んだ。街の中に入ればそれはもう人の嵐。ずっと来てなかったけど都会みたいに人が溢れてて、それに魔道具の音か分からないけど、シュポーンとかキラキラとかカラカラカラみたいに変な音があちこちからしてる。


 店の近くには同い年くらいの人が多く集まってて、手には何か持ってて宙に光をカラフルに照らしては笑ってる。箒が1人でにぴょんぴょん跳ねてる。また別の所だと地面が開いて階段になっててそこを降りてる人もいる。なんというか本当に魔法を使った技術的なのを感じる。


 それで馬車が着いたのはどこかの工場っぽい所。街全体の建物が暗い色をしてるけど、ここも例外じゃなくて黒く塗装された工場だった。


「シャムちゃん、着いたよ」


 そういえば東都に着いてから全然声してなかったけど。そう思って目を向けたら何か端っこの方で蹲ってる。


「大丈夫?」


「うぅ。これだから馬車は嫌いでやがるです」


 もしかして酔ったのかな。私としてはほとんど揺れは感じなかったけど、ケモミミさんはバランスもよさそうだし少しの揺れでも敏感になるのかも。


 とりあえず背中をさすってあげよう。


「動けそう?」


 首を振ってるからダメそう。とりあえず運転手の人に報告してあげないと。馬車から降りて言おうと思ったら、何か人が集まって難しい顔をして話し合ってる。


「おいおい、まだ出荷準備ができてないってどういうことだよ」


「央都に届ける魔道具は揃ってるのですが、ローリエル博士の魔道具の搬入が遅れていまして」


「またあの博士かぁ」


「既に何人かが自宅に訪問しましたが出る様子もなく、仕方なく先に別の搬入を済ませていた所です」


「それは困ったな。そもそも今回の搬入の多くはローリエル博士のだろ?」


「ええ。本人からの許諾もありますから自宅にいるはずなのですが……」


 何やらトラブルが起こってるみたい。内容からして荷物がまだ届いてないって感じだけど。


「それで状況は?」


「仕事がかなり滞ってる状態です。まだ配達の半分も終わっておらず、かなり不味いんですよ」


「分かった。央都の方にはこっちから連絡しておく。あっちはまだ急いでないはずだ」


「はい。ですがローリエル博士に会わなければこちらも進まないのですが」


「参ったな。誰か行って確認しなければならないが、こっちの仕事も片付けないとだしな」


 大体の話の流れは分かったかも。


「えっと~、私が行きましょうか?」


 おそるおそる間に入って手をあげてみる。職員さんに一斉に見られて気まずい。


「彼女は?」


「あー、確かシャムの同乗者だったはず」


「そういえばシャムはどこに行った?」


「シャムちゃんならあそこです」


 恐る恐る指を差して皆がそっちを向く。酔って今にも吐きそうなリスの子を見て全員が何も見なかったと言わんばかりに首を振ってる。


「だけど無関係な人に行かせるのはなぁ」


「えっと、その博士って人の家に行って話を聞けばいいんですよね?」


「ああ。荷物の搬入をしたいと話をつけてくれたらいい。だが出てくれないかもしれない」


「とりあえず行って確認してみます。もし出なかったらまた戻ってきます」


「本当にすまない。ローリエル博士の家の地図を渡しておく。この赤丸で囲った所がそうだ」


「分かりました」


 何やら緊急みたいだし少しでもお手伝いしよう。それに、もしその人に何かあったのだとしたら大変だし。


「シャムちゃん、ちょっと急用ができて行かないといけない所があるのー」


「き、聞こえてたです。ほんとう、わりーです。ボクも後で……うっ」


 余程馬車旅で終わったみたい。これは異動を全力拒否する気持ちが分かったかもしれない。

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