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116 女子高生も異世界湖に行く

 春休みも残り僅か。それでも普段することが殆どないから今日も異世界。

 街をふらふらしてどこに行こうか迷ってたら大きなバケットを片手に持って歩いてるレティちゃんを発見。


「レティちゃんだ。こん~」


「ノラ様じゃないですか。ご無沙汰です」


「採取にお出かけ?」


「はい。調合に必要な材料を集めに行くつもりです」


 この前にヒカリさんと来た時も採取帰りっぽかったから最近よく行ってるのかな?


「私も付いて行っていい?」


 どうせ暇なんだよね。


「もちろんです! でも楽しいことは何もないと思いますよ?」


「レティちゃんと一緒ならどこでも楽しいよ」


「ノラ様ー!!!」


 耳と尻尾をぴょこぴょこさせて抱きついてくれて至福の時間~。


 それで央都を南に出た先の森の中を探索。前に西都に行ったせいか木で溢れてないから歩きやすく感じる。変な鳥の雄叫びは時々聞こえるけどそれ以外は木の枝が風に揺れるくらい。


「そういえば前にここをレティちゃんと一緒に来たんだよね」


「そうですね。あの時はフィルミーとばったりと出会って本当に驚きました」


「今では私の家族だよ~」


 そんな他愛のない話をしながらレティちゃんは周りを見てるけど採取をする様子がない。前は木の根付近とか変な茸みたいのを採ってた気がするけど。


「何か探してる?」


「はい。えーと、確かこっちで。ありましたありました」


 レティちゃんが指差した先には大きな丸い湖があった。綺麗な青色の水で水面に自分の顔が映るくらい澄んでる。


 湖をぼうっと眺めてたら中央の方で小型の生物が泳いでるのが見えた。緑色の毛が生えてリスみたいな顔をしてて、顔だけ水面に出して泳いでる。口には枝みたいなのを咥えてる?


「何か可愛いの泳いでる」


「バービーですね。主に水中で生活をしている魔物です」


「へー、そうなんだ」


 じーっと眺めてたらバービーさんは湖の中央にある枝で囲われた箱みたいのにちょこんと置いてまた陸の方目指して泳いでいった。


「あれはバービーの巣ですね。あの巣は水中にも枝があって、水路みたいになってるんです」


「ほうほう」


 完全にビーバーだね。


「バービーの作る巣には川や湖を安全にする効果もあると言われてます。例えばこの辺りで大きな魔法が暴発して川が塞き止められたとします。そんな時、バービーが作った水路はちゃんと通っていて、そこから徐々に元の形に戻るとも言われてます」


「えーすごーい」


 あんな小さな生物なのにそんな自然に貢献しているなんて。あ、バービーさんが陸にあがってる。四足歩行で猫背みたいな歩き方でちょっと眺めの尻尾の先が尾ヒレみたいになってる。落ちてる枝を口に咥えたらまた泳いで戻ってきてる。これはずっと見てられる。癒しだね。


「そして私の目的もバービーにあります」


 レティちゃんがバケットを置いて指を差してる。ほう?


「バービーの巣は水の循環がよくて水質もいいんです。それでその巣にしかできない水蓮六花(すいれんりっか)という花を採りに来たんです」


 名前からしても綺麗なお花そう。


「あんな湖の真ん中だけど泳いで行くの?」


「少しだけなら普通の魔法も使えますから」


 そういって湖の上にぴょーんってジャンプした。そのまま落ちると思ったけどレティちゃんの足の所だけ凍って足場になってる。え、すご。


 そのままピョンピョン行って簡単にバービーさんの巣の所まで行ってる。それで巣の周りを見て回ってるけど目当てのはなさそうな感じ。


 そしたらレティちゃんが足を揃えてまたジャンプした。ドボーンって音を立てて、今度は水の中にダイブしたんだけど。服着たままなのに勇気あり過ぎる。


 巣は水の中にもあるらしいから多分そっちに生えてると思って探してるんだろうけど。そんな間にバービーさんは気にせず枝を巣に置いてまた陸の方に泳いでる。温厚だなぁ。


「ありましたー!」


 レティちゃんが水面から顔を出して手をあげてた。手には青くて綺麗な蓮の花がある。

 あれが水蓮六花なんだね。


 それでレティちゃんはこっちに泳いで来て陸にあがった。完全に服がぼとぼとだけど本人は満足そう。


「ずっと探してたのですが中々見つからなかったんですよ。今日は運がよかったです!」


 結構レア物なのかな?


「それじゃあ央都にもどろっか。そんなに濡れたら風邪引くよ」


「そ、そうですね。後先考えずに飛んでしまいました」


 それで森を後にしようと思ってバービーさんにお別れしようと思ったんだけど、なんかじーっとこっち見てる気がする。んー?


 それでバービーさんは急に尻尾をクルクル回転させてプロペラみたいになって飛行しだしたんだけど。それで何かこっちに来てるんだけど。


「えーっと。水蓮六花はバービーの主食でもありますから、それを盗んだと勘違いしたのでしょうかー。あははー」


 そっかー。食べ物取られた困るよねー。

 って落ち着いてる場合じゃないよ。急いで逃げないと!


「レティちゃん、急ごう!」


「はっ、はいー!」


 それで飛行して突進してくるバービーさんに追いかけられながらも何とか森を抜けられた。さすがに森の外までは追って来ないみたいで戻ってくれたみたい。顔を覚えられてなかったらいいんだけど。


「とりあえずレティちゃんの道具屋まで行こっか」


「はい」


 お店に着いたらレティちゃんはまずその水連六花を瓶の中に保管してた。


「着替えてきますので少しお待ちください」


「いいよー。慌てないでねー」


 それから10分くらいでお店のメイド服みたいな格好になったレティちゃんが戻って来た。頭にはタオルを乗せてて必死に髪を拭いてる。


「バービーに追われたのは誤算ですけどこれでようやく調合ができます」


「そういえばあれは何に使う材料なの?」


「ではでは、こちらに来てください」


 レティちゃんに手招きされて店の奥に案内された。途中に2階へ続く階段があったけど、そこを上らずに真っ直ぐ進む。その先は狭い一室になってて真ん中には大きな釜が置いてあった。周りには棚やテーブルが置いてあって、変わった材料が陳列してある。

 丁度机に開いたままの本があったから見てみると付箋がいくつもあって、中も細かく色々書いてある。


「それは調合の本ですね。色々と試していますので随時書いてるんです」


「これ全部レティちゃんが?」


 見た感じだと棚にも本がいくつもあって、それ全部って考えたら結構な量だと思う。


「お師匠様曰く調合に同じ手順はないそうです。その時の気温や混ぜる時間などが要因して完璧に同じ物を作るのは難しいそうです。ですからどんな手順でどんな方法でしたのか、失敗しても成功しても必ず記述するようにしてます」


 影でこんなに努力してたなんて勤勉ってレベルじゃないんだけど。これはノイエンさんが褒めるのも納得するかも。


「すごいね。これは誰でもできることじゃないよ」


「そ、そうでしょうか」


「うん。少なくとも私にはできない。私が魔法を使えたとしてもきっとレティちゃんみたいにはできないよ」


「ありがとうございます。ノラ様は本当に褒め上手です」


 レティちゃんが少し照れくさそうにして頬を赤くして尻尾を動かしててかわいい。


「ということはあの水蓮六花ていうのも何かを作る材料なんだよね?」


「はい。実は秘薬がなくなったので新しく作っておこうと思っていたのですが、中々材料が手に入らなかったんですよね」


「秘薬?」


「はい。様々な症状を回復させる万能薬です」


「もしかしてこの前ノイエンさんと一緒に来た時に売ってくれたあれ?」


「その通りです!」


 的中みたい。あの時はゴロゴロさんが苦しんでてその薬のおかげで治ったんだよね。


「貯蔵がなくなったので新しく作ろうと思っていました。材料も揃ったのですぐにできます」


 そう言ってレティちゃんが釜の中に大量の水を入れて、そこに緑色の液体を流し込んで大きな棒でかき混ぜてる。なんか魔女みたい。


 そこからは棚から多種多様の薬草を入れてた。そこで初めて釜に火を点けて温めてる。

 それで10分くらい温めると湯気が湧いててき、そこでレティちゃんは火を消してた。


 それでオタマを持ってきて釜の中の水をすくって瓶の中に移してる。最後に瓶の中に水蓮六花を入れてそのまま蓋をしてた。


「これで完成です」


「そうなの? 花入れただけだよね?」


「熱い水に水蓮六花をいれたことで徐々に溶けていくんです。そうすることで中身に浸透しやすくなる……とお師匠様に昔アドバイスをもらいました」


 レティちゃんが苦笑しながら教えてくれた。見てたら確かに綺麗な花びらが萎んでいって水の中に吸い込まれてる。枯れるとはまた違って不思議な光景。


「ではノラ様、受け取ってください」


「どうして? これはお店に置く商品でしょ?」


 さっきも貯蔵がなくなったって言ってたし。


「私、ずっとノラ様に何かお返しをしようと考えていたんです。いつも良くしてくれて気にかけてくれるじゃないですか。私、ノラ様と会えたおかげでこの道具屋経営も少しだけ好きになれたんです」


 その言い方は前まではあまり好きじゃなかったのかな。考えたらレティちゃんは薬を届けて人を幸せにするのは望むけど、経営はあんまりって思ってるのかもしれない。


「別にそんなのいいのに。私はただ思ったようにしてるだけだよ?」


「それでもです。お師匠様に魔法も調合も人を幸せにする為にあるべきと言われました。私はその意味を病気や怪我をした人を助ける為と考えて薬の調合をしてました。でも……ノラ様を見てたらきっとその意味は違ったんじゃないかって思ったんです」


 私には分からないけどレティちゃんなりに思いが変化するきっかけがあったのかな。

 そうして話してくれるのもすごく嬉しい。


「ですからそう考えられるようにしてくれたノラ様に何かお返しをって思ってました。どうか受け取ってくれませんか?」


 澄んだ目でじーっと見られるとこっちが緊張しちゃう。でもそれがレティちゃんの本心なら断る方が失礼だよね。


「ありがとう。そんな風に言ってくれて嬉しいよ。でもね、私はこういうお返しが欲しくてしてるわけじゃないから本当に気を使わないでいいんだよ?」


「ノラ様は本当になんというか、心が広いですよね。お師匠様がノラ様を気にかける理由も少し納得です」


 影でなんて言われてるんだろう?


「この薬ってなんでも効くんだよね」


「はい。人でも魔物でも誰にでも効果があって、どんな症状にも効きます。困った時に飲んでください」


 普通だったらその説明だけだと胡散臭いのにレティちゃんのだからって思うと信頼できるのが不思議。この先、どうなるかなんて分からないしレティちゃんには感謝しかないよ。

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