114 女子高生も都会へ行く
「次は○○~。○○~」
電車の中からアナウンスが聞こえたから目的の場所だ。
「おし。降りるぞ、ノラノラ」
「分かった~」
リンリンと一緒に電車から降りて駅のホームを歩いて行く。田舎の駅と違って改札口まで遠くて、それに人も沢山。リンリンと逸れないようにしないと。
何とか駅から出られたけど辺り一面が高層ビルや高い建物で溢れてる。人の通りも多くて、待ち合わせっぽい人だけでも駅前にすごく集まってる。近くの道路には車の往来も激しくてこれだけで目が回りそう。
「んで、コルコはどこだ?」
「んー、ラインには駅前に来てるってあるけど」
2人でキョロキョロするけどそもそも人が多いし、目立ちそうな白髪のコルちゃんを見つけるのもかなり至難の業。
「ノラさん、リンさん。お待ちしていました」
そしたら後ろから声がして振り返ったらコルちゃんがこっちに来てくれてた。この人混みの中から見つけてくれるなんてすごい。
「コルちゃん、今日はありがとうね」
「いえいえ。まさかノラさんからわたしの家に遊びに来たいと言われるとは思ってもいませんでしたよ」
「そういえばコルちゃんの家に行ったことないなーって思って、それに地元が都会って聞いてたから行きたくなったの」
高校で知り合ってもう1年は経つけど一度も行ってないから気になったんだよね。
いつも私の家にばかり来てもらってたし。だから春休みの期間を利用して遊びに行くしかないと思ったんだよ。
「なぁなぁ、早く行こう。わたしゃ身体がウズウズしてたまらんよ」
リンリンが今にも走り出しそうな勢い。
「では行きましょうか」
というわけで仲良く出発。
都会はとにかく遠くが全然見えない。常に何かしらの建物があるし、歩道には必ず誰かが近くを歩いてる。それで色んな人の話し声がずっと耳に入ってきてて、田舎とは正反対。田舎だったら人とすれ違うだけでもレアなのに。
「しかしノラノラが都会に行きたいって言うのが意外なんだよな。いつも異世界に行ってるからこっちには興味ないって思ってたわ」
「もちろん異世界は大好きだよ。でもこっちの世界も知らないままなのは勿体ないって思って」
「ノラさんも都会デビューですね」
そうなるのかな? たまに買い出しに来たりはするけど。
「もし異世界の人をここに呼んだらすごい反応しそうだよな」
それはありそう。向こうでも東都はかなりハイカラな街だったけど、こっちみたいに車は走ってないし電気もないから電子パネルも全然ない。
「路上ライブなんて見たら驚くんじゃないか?」
リンリンがストリートで派手に演奏してる人達を見て言ってる。周りにはスマホを持った人達が沢山集まってる。
「異世界でもミツェさんがよく広場で歌を披露してるよ」
「有名配信者さんに人が集まってるのを見たら何事だと思いそうですね」
「異世界でもノイエンさんが来るだけで周りの態度が一変するよ」
「ノラノラ。何張り合ってんだ?」
なんかつい熱くなっちゃった。
「ノラさんは本当に異世界が大好きですね」
「違うぞ、コルコ。これは毒され過ぎている。ノラノラを都会デビューさせて毒気を抜いてやらないと不味い」
「具体的に都会デビューって?」
「よし、ここは都会マスターの私に任せておけ」
リンリンが先導して歩いていくから、コルちゃんと一緒にその後ろを付いて行った。
※10分後※
「それでリンさん。どこに行くつもりですか?」
「そうだな。都会っぽい所だな」
「都会っぽいってここは都会ですよ?」
コルちゃんの質問攻めにリンリンが目を泳がせながら言葉に詰まってる。
うん、何となく状況を理解した。
「人生の先輩として1つだけ言わせてくれ。人生ってのは色んな道があって、いくつも枝分かれしてるんだ。正しいと思って進んだ道も後で思い返せば間違ってたりもする。でもな、そういう経験があってこそ、人は成長するんだと思うよ」
腕を組んで真面目な顔をして話してるけど、コルちゃんが呆れた様子で溜息吐いてる。
「つまり迷子ですか」
まだ10分も歩いてないと思う。でもさっきとは景色も変わって知らない店や建物が並んでる。交差点もいくつもあるから、リンリンの言う通り確かに道は枝分かれしてる。
「迷子じゃないぞ! ここにだって面白い店があるはずだ!」
「具体的には?」
「えーっとー、ツタヤとか?」
リンリンも私と一緒で田舎育ちだから正直そっち系には全然詳しくないという。
都会デビューできると思って張り切ってたのはリンリンだったみたい。
「そんなのだと思いましたけど。この辺りでしたら近くにスイーツバイキングの店がありますから、そこに行きます?」
スイーツ! それは興味ある!
「私行きたーい」
地元だとスイーツの店はあるけどバイキングはないから興味ある。
「おう、私もそこを案内しようとしていた所だったんだ」
リンリンの苦し紛れの言い訳にコルちゃんはもう何も言ってない。こういう所もリンリンのかわいい所だと思うけどね。
「丁度今は有名なアニメとコラボしていますから、メニューも豪華になってると思いますよ」
「ほえー。コルちゃん詳しいなぁ」
「いえいえ。都会で住んでたら自然と目に入ったり耳に聞こえるんです」
これは田舎育ちと都会育ちの差を露骨に見せ付けられたよ。リンリンはもう全部任せるみたいな顔で頷いてるし。
それでコルちゃんに案内されてすっごいカラフルでお洒落なカフェみたいなお店に案内された。コルちゃんが言ってた通り、アニメとコラボしてて店前の看板に大きく宣伝してる。
アニメは詳しくないから分からないけど、可愛い女の子が一杯映ってる。
「あ、この子リリっぽいかも。こっちはレティちゃん? この子はキューちゃんっぽい」
本当に異世界の誰かを連れて来てたら楽しくなったんだろうなぁ。
「ノラノラー、行くぞー」
看板に夢中になってたらリンリンに呼ばれたから行かないと。
というわけでスイーツバイキング! この前にシロちゃんのお店でパンバイキングしたばっかりだけど、これはこれで良し。小さくでおいしそうなケーキやアイス、クレープが沢山置いてある! それにスイーツ以外のメニューも結構あって、これはお値段以上の所に来た感。
「よーし、わたしゃ元を取ってやるぞー」
リンリンが意気込みを見せて行っちゃったけど、私はそこまで食べられる気がしない。
「私はどうしようかなぁ。リンリンみたいに一杯食べられないし」
「バイキングの良さは色んな料理を自由に選んで食べられるというのが利点なんです。それにこの手の料理は基本原材料が安価な場合が多いですから、そもそも元を取れないようになってるんですよ」
コルちゃんの博識モードだ。確かに簡単に元を取られたら経営が成り立たないもんね。
「よし。じゃあ私はコラボメニューを頼もうかな」
頼んだら何かグッズが付いてくるってメニューに書いてあるし、せっかくだから記念に誰かもらっていこう。
「では、わたしも同じのを頼みましょうか」
コルちゃんが乗ってくれた。これは嬉しい奴。
※30分後※
「本当にノラノラって欲がないよな」
「急にどうしたの?」
リンリンがプレートに山盛りのスイーツをちまちま食べながら言ってきた。
「だってさ、毎日異世界に行ってるのにそれを利用しようとしないしさ。もし私がノラノラの立場だったら動画撮ってティックトックにでもアップしてるわ。あんな世界見せたら一瞬でバズりそうじゃん?」
「確かに話題にはなりそう」
「だろ? 我が家のペットとか題して瑠璃やミー美見せたら一瞬で100万くらい再生数稼ぐと思うぞ」
そもそもそういう発想が頭になかったなんて言えない。
「んー、話題になったら色々と面倒そうだし」
ヒカリさんの言葉を借りたらこっちであんまり広めたくないっていうのは少しある。
「リンさん。楽して稼いだ先にはきっと因果応報が待ってますよ」
「おいおい、私は稼ぐなんて言ってないだろー」
「もうすぐ3年生ですから進路を考えるのが面倒と言い出すと思ったので」
「ぐはあぁぁぁぁ、コルコなんで分かったしー」
リンリンが机に突っ伏して倒れちゃった。そういえば春休みが終わったら進級だもんね。
私とコルちゃんは2年生だけど、リンリンは3年生。色々と大変になりそう。
「進路かぁ。そうなったらリンリンと遊ぶ機会も減りそうだね」
「いいや、私は遊ぶぞ」
何かを諦めたような声が聞こえる。
「リンさん、それでダメになったらどうする気ですか」
「その時は異世界に移住するわ」
完全に絶望した人間の思考のような。それに異世界に行っても結局働かないと生活できないだろうけど、そこは言わない方がいいんだろうね。
「リンさんはともかく、ノラさんも気をつけた方がいいですよ。まだ2年生とはいえ最近のノラさんは異世界脳になってるような気がしますから」
コルちゃんに言われたけど、全く反論できる気がしない。かなり染まってるという自覚はちょっとある。
「頭が治らなかったら私も異世界に移住するよ」
「ノラノラー! 一緒に逃亡しよう!」
手を合わせて逃亡準備完了。なんなら今からでも?
「わたしの家に来た暁には楽しい勉強会をしましょうね」
にっこり笑うコルちゃんだけど目が全然笑ってないー。これはヒカリさんが逆らえないのにも納得かも……。
こういうお店って予約制な気がしますが気にしないでください。




