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113 女子高生もつっこみを諦める

「ノラちゃん、何も言わずこれを受け取ってくれないかしら」


 春休みのある日。ヒカリさんからラインが来て家に着いたら開口一番にこれ。

 手にはシナモンのぬいぐるみを持ってて渡そうとしてくるんだけど。


 なんか前にもこういうのがあった気がする。


「もしかしてまた大学の論文?」


「そうなのよ~。だからノラちゃんに協力して欲しいのよ」


 ていうことはやっぱり目的は異世界だったんだね。


「あれ、前に異世界の論文は出さないって言ってなかったっけ?」


 こっちの世界で広めたくないからとか言ってたような。


「勿論異世界の論文は提出しないわ。でもね、あっちに行くと私のインスピレーションとモチベーションが100倍くらいあがるのよ。あの日も徹夜だっていうのに我ながらのものを提出したのよ」


 確かに異世界を歩いてるだけで色々と想像力は豊かになりそうだけど。


「そっかー。じゃあまた行こっか。あと、別に物をくれなくても言ってくれたらいつでも連れて行くよ?」


「ノラちゃんなら絶対そう言うって分かってるからそれに甘えたくないのよ。助け合いと相手に依存するのは全然違う意味なのよ」


 こういう所はしっかりしてるように見えるなぁ。そうみたいだからシナモンはありがたくもらっておこう。


 それで準備して早速出発!


 ヒカリさんと2人きりで異世界に来るのはこれで2度目。今日の異世界の街も活気があって賑やか。


「……いい。すばらしい。最高」


 ヒカリさんが完全に語彙力を失ってカメラを構えて撮ってる。こんなにも異世界を気に入ってくれてる人は多分ヒカリさんくらいだろうね。


 それで街を歩いてたら通りに雪色の髪を三つ編みにした狐のケモミミさんを発見。


「フブちゃんだ~。こんこんー」


「ノラ君じゃないか。会えてうれしいよ」


「今は休憩中?」


 確かシロちゃんのお店を手伝ってるはずだったと思う。


「れっきとした仕事中だよ。シロのお店を少しでも多くの人に知って貰うために、日頃から私が宣伝に行ってるってわけ。決してサボりではありません!」


 そこを強調されるとちょっと胡散臭くなるのはなんでだろう?


「運命だわ」


 急にヒカリさんが何か言ってる。


「あなたと出会えたのはきっと前世からの運命に違いない!」


 ちょっと何を言ってるか分からないんだけど。


「思い出してしまったか。私はもう諦めていたというのに」


 フブちゃんも何を言ってるの? ノリがいいからヒカリさんのテンションに簡単に乗ってるよ。


「やっと会えたわ!」


「はじめましてだね!」


 そんな映画があったようななかったような。まだ自己紹介もしてないのに手を合わせて仲良さそうにしてる。ちょっと羨ましい。


「私はフブキ。最高の歌い手を目指してるからよろしく」


「ヒカリよ。ねぇ、フブキちゃん。私の被写体にならない?」


「ひしゃたい? よく分からないけどいいよ」


 それを聞いてはヒカリさんが目を輝かせて興奮しながら写真を撮ってる。


「はぁっはぁっ! いい! ケモミミ最高だわ! ねぇ、今度はポーズをとってくれない?」


「こう?」


「ご馳走様です!」


 ヒカリさん完全に目的を見失ってる気がするけど大丈夫?


「ヒカリさん……」


「あ、や! 違うの、ノラちゃん! これは必要なことなの!」


 まだ何も言ってないんだけど。余程普段コルちゃんから色々言われてるんだろうね。


「後で私も1枚欲しいなぁ、なんて」


 そしたらヒカリさんが無言で手を差し出してくるから、黙って握手した。意思が通じたみたい。


「それにしても何だか楽しそうだね。私も同行していい?」


「フブちゃん、いいの? 仕事中でしょ?」


「今、休憩に入った所だよ」


 やっぱりサボりだった。でも一緒にいられるのは素直に嬉しい。

 同行者が増えた所で街歩き再会。と思ったけどまたまた顔見知りさんを発見。


「ノノムラ・ノラか。それと知らぬ顔じゃな」


 死神さんことキューちゃん。小さいけど妙に威厳を感じるのは本物だと分かったからかもしれない。


「あー君の噂は聞いてるよ。なんでも死神がどうたらって」


「うむ。その通りじゃ」


「なるほどー、そっち系かー。まぁいいんじゃない?」


 フブちゃんはキューちゃんが死神だと信じてないみたい。まぁ初対面でいきなり信じるのもおかしいかもしれないけど。見た目は幼い子供だし。


「へー? 前世では白の女神と呼ばれたこの私に敵うのかしら?」


 ヒカリさんが髪を翻してモデルポーズを決めてる。何かだか見えないオーラが見えるような見えないような。


「なっ……! まさか勇者を補佐していたと言われるあの伝説の女神じゃと!? 情報ではその肉体は朽ちたはずじゃ!」


「魂は不滅なのよ、死神さん」


「ありえん! 我が千年の歴史においての唯一の誤算じゃ!」


 キューちゃん、それヒカリさんの冗談だよ。確かにモデルだからオーラが見えてそれで勘違いしたのかもしれないけど。


「ふっ、死神君。今宵の星は私達に味方したようだね」


「舐めるなよ、人間。この程度で死神を驕れると思うなかれ!」


 フブちゃんもノリノリで乗りかかってるよ。私だけ置いていかれてる感。


「キューちゃんもサボり?」


 とりあえず現実に戻してあげよう。


「今日はあの鬼ババァがいないみたいでな。おかげで授業に1つ穴ができたのじゃ。学園の者は自習などとつまらぬ勉学に励んでいたが我には必要ない」


 つまりサボりだね。


「あれ、ノラ君。今『も』って言った?」


 だってそうだし。


「皆さんお揃いで何してるのですか?」


 そしたら街の外からレティちゃんが大きな籠を持って歩いてきた。籠の中には沢山の薬草や山菜が入ってて多分調合に使う材料を取って帰って来た所なんだろうね。


「レティちゃん、こんにちは~。ヒカリさんとこっちに来たんだけど、そしたら皆と会って世界の終焉が始まろうとしてたんだよ」


「せっ、世界の終焉!?」


 レティちゃんがオーバーリアクションをしてくれて相変わらずかわいい。


「あー! あなたはいつかの子猫ちゃんね!」


「あなたは確か以前生誕祭にお会いした方ですね!」


「覚えていてくれて嬉しいわ! あーかわいい! このキューティクル最高! レティちゃんが一番好きよ!」


 そう言って本人の許可なくカメラで写真撮ってる。これは完全に論文の方は忘れてそう。


「今の聞き捨てならないね、ヒカリ君? つまり私は2番目ってこと?」


「それは違うわ、フブキちゃん。あなたも一番よ」


「その発言は矛盾してるのじゃ」


 ヒカリさんの言動を問い詰められる。


「コルちゃんは?」


 なんとなく聞いてみる。


「もちろん一番よ!」


 迷いのない屈託の笑み。いっそ清々しい。


「1つ聞きなさい。いつから一番は1人だけじゃないとダメって決められたの? そんな決まりこの世界にはないわ。一番は何人いてもいいのよ。二番三番なんて序列をつけるからこの世界から格差はなくならないのよ。だから女神であるこの私が世界のルールを変えるしかなかったのよ」


 真面目そうな顔で何を言ってるんだろう? というかその女神設定まだ続いてたんだ。


「そんなの横暴じゃ! 神だからといって何でも許されると思うなかれ!」


「そうだそうだ! 私は一番じゃなきゃ嫌だ!」


 キューちゃんとフブちゃんが猛抗議してる。


「ここは穏便に話を解決させましょう! 私は最底辺のどん底でも全然構いませんので!」


「ダメだよ、レウィシア! こんな神様私達でやっつけないと世界が狂ってしまう!」


 私からしたらこの状況が狂ってるんだけど。ていうか私がいるって皆忘れてない?


「残念ね。それが人類の選択というなら私はこの世界を浄化するしかないわ」


 浄化(被写体)だよね。


「そっ、そんな! 私はただ慎ましく道具屋を経営していただけなのに!」


「かつて人間の味方であった女神が人類の敵になるなど前代未聞じゃ!」


「これはもう決定事項よ。誰も私のロックオンからは逃げられないわ」


 今日も空は青いなぁ。温かいお茶の一杯でもあったら気持ちいい風もあってきっと美味しいんだろうね。


「くっ、女神の本性がこんな奴だったなんて! 少しでも心を許した私が馬鹿だった!」


「案ずるな、狐っ子よ。かつて人の敵であった我じゃが今こそ人の為にこの力を揮ってやろう。それがあやつらの報いとなるならば我は迷わぬ!」


 相方のいない漫才師が永遠にボケを続けるっていうのは、きっと世界にとっても残酷なんだと思う。この世界はいつもバランスと調和で成り立ってた。

 ヒカリさんにはコルちゃん、キューちゃんにはリリ。レティちゃんにはフランちゃん。フブちゃんにはシロちゃん。


 そうやって均衡を保っていたから世界は回っていたんだと思う。これにもっと早く気付けていたらこの世界を救えたんだろうなぁ。


「あっ! ノラちゃん、ごめんね! なんか楽しくなってつい!」


「ううん、大丈夫。おかげでこの世界の真理に気付けたから」


「し、真理じゃと!? 我が千年かけても到達できなかった極地にお前さんは行ったのか!」


 そう、そこに行ったんだ。キューちゃんには悪いけど私は1つの悟りを開いたんだよ。


「まさか……真の神というのはノラ君のことだったんじゃない!? 私達の危機に察知して助けてくれようとしてたんだ!」


「そうだったのですか! やはりノラ様は偉大なるお方です!」


 もしも、過去の自分にメモを送れるならこう書くと思う。


『まぜるな、危険』って。

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