111 女子高生もパンバイキングに行く
今、すごく悩んでる。今日のお昼をどうすべきか。
色々悩んだ結果、異世界にやってきた。のはいいけど余計に選択肢が増えて悩みが増えた感。
王道に酒屋さんに行けばきっとお腹一杯に食べられる。屋台巡りしてお腹を満たすのも悪くないかもしれない。ここは奇をてらって変わった店を探すのもいいかもしれない。
「うーん、悩むなぁ。瑠璃はどこがいいと思う?」
「ぴーぴ」
「瑠璃の行きたい所でいいよ」
敢えて小さなドラゴンさんに道を示してもらおう。意外な展開が待ってるかもしれない。
瑠璃は宙で飛んだまま鼻をくんくんさせてる。グルメな瑠璃ならきっといい店を見つけるはず。
「ぴ!」
何か見つけたみたいで飛んでいってる。これは期待できるかも?
「ぴ~」
瑠璃についていって着いたのは見覚えのある場所。木でできた家の中からパンのいい匂いがする。シロちゃんの店だ。
パンときたか~。悪くないね、よし入ろう。
「キタキタキツネ~」
「いらっしゃいませ!」
お店に入ったらシロちゃんとフブちゃんに出迎えられたよ。あれ、でも何か2人今日はいつもと衣装が違う。なんかウエイトレスみたいな格好してる。
「ノララなのです!」
「ノラ君! いいタイミングで来ましたね!」
何故か拍手されて私だけ置いてけぼり。店内にはいつもよりパンが一杯置いてあって、それに飲食店みたいにテーブルも配置されてるような?
「ふっふっふ、その顔は何事という顔だね。説明しよう! 今日はシロのパン工房でお昼限定のパン食べ放題が開催されるのだー!」
「へ~、そうなんだ~」
だからこんなにもパンが作ってあるんだね。
「1時間金貨1枚という良心設計です! この機会にどうぞ!」
高いか安いかイマイチ分からないけど、フブちゃんが言うなら多分安い……のかな。
まぁいいや。せっかく来たんだし、ここはご案内願おうかな。
「そうだ。それって瑠璃の値段も必要だよね?」
「ぴ?」
「わお! 何これ! ドラゴンの子供じゃん!」
フブちゃんが驚いてる。そういえば見せるの初めてだったね。
「ノララには普段からお世話になってるのでサービスするのです。代金は金貨1枚でいいのです」
お世話した覚えはないけどおまけしてくれたみたい。
「だって、瑠璃。よかったね」
「ぴ~」
というわけで席に案内されたけど、バイキング方式みたいだから自分でパンを取らないとダメみたい。シロちゃんからバケットを渡されてそこにパンを詰めるみたい。
それで店内を見て回るけどバイキングとは思えないくらい種類が豊富。それに量も多い。
「そういえばお昼って魔術学園の方に購買に行くんじゃないの?」
「購買までにはまだ時間があるから大丈夫なのです。それにこの食べ放題で余ったパンも売ろうと考えてるのです」
まさかの食品ロスにまで対応してるなんて無駄がなさすぎる。
「これもフブキの案なのです」
「ほえ~、フブちゃんすごい」
「もっと褒めてくれてもいいんだよ!」
天狗みたいに鼻が伸びてるよ。そんな話をしてる間にバケットの中がいつのまにかパンで溢れてる。瑠璃がトングを使って器用にパンをずっと入れてたみたい。でも持ち方が変でUFOキャッチャーのアームみたいになっててちょっと可愛い。
「瑠璃ー。こんなに食べられるのー?」
「ぴー!」
自信満々に鳴いてるけど大丈夫なの? 確かに瑠璃は大食いだけど。心配だからとりあえず私も一緒に食べよう。席に戻ったらフブちゃんがお冷を出してくれた。
「ありがとう。それにしても可愛い衣装だね」
まるでメイドさんみたいでロングスカートのひらひらがいいと思う。
「でしょう? フラウスに頼んだら1晩でやってくれたよ」
まだ来て間もないのに央都に馴染むのが早過ぎるんだけど。
とりあえずパンを1つ取ってみた。これはパイかな? 生地の中から甘い匂いがしてくる。
「いただきまーす」
サクッ、て音がして口の中に甘いリガーの味がした。リガーのパイかぁ、いいね。
お腹が空いてたからあっさり食べちゃった。大きさも小さいのが地味にうれしい。
バイキングだと色々食べたいから量が多いのは、敬遠しちゃうからね。
バケットに入ってる別のを取ってみると今度はラスクみたいのが出てきた。これまたサクサクで1口で余裕だったよ。
掌サイズの超ミニなドッグ。具は何か分からないけど白い身みたいのが入ってて底には緑のレタスみたいのと、赤いソースがかかってる。これも1口でいけそうだから食べてみる。
辛い!
これ、マンダースだ! でも美味しい! どこかで食べたことある味な気がするけど、そうだマイコニドの霜降りだ。前にリリが屋台で驕ってくれたんだよね。
「いやー、いい顔して食べますね~」
「本当においしいよ。やっぱりシロちゃんのパンは最高だよ」
「ありがとうなのです! そういってくれるとやった甲斐があるのです!」
瑠璃も手が止まってなくてずっと食べてる。これは楽しいお昼になりそう。
※半時間後※
食べ放題が始まって30分は過ぎたと思う。でもなんでだろう。私が来ただけで誰もお客さんが来ない。
「な、なんで誰も来ないんですかね!?」
「まだパンはこんなにもあるのです! 焼いてる途中のパンもまだまだあるのです!」
2人が慌ててる様子。うーん、これは。
「ねぇ、ちゃんと宣伝した?」
「「あ」」
嫌な感じの声が聞こえたよ。確かシロちゃんのパン屋さんはオーダー製だから客が来てからパンを焼くんだよね。だから常連さんでもいないと来ないだろうし、それを見据えての購買作戦をしてるわけで……。
「フブキ! だから言ったのです! 急にパン食べ放題なんて無謀だと思ったのです!」
「いやいや! シロだってノリノリだったじゃん! 絶対いけるのです~って言ってたじゃん!」
今の言い方結構似てる。
「わ、私は言ってないのです!」
「仕方ない。私が今から街で歌って宣伝してくるよ」
「悪評が立つのでやめてください!」
「ノラ君、今の聞いた!? こんな可愛い狐の歌が悪評ですと!?」
私からしたら2人のやり取りを見てるだけでパンのおかわりが余裕になっちゃう。
でも確かにこのままだと大変そう。全部を購買で売るのも、というかそもそも運べないかな。
「瑠璃。ちょっと手伝ってくれない?」
「ぴー」
やる気のない返事。食べ過ぎて動きたくないって感じかも。
「ただで一杯食べさせてもらったでしょ。少しは協力してあげて」
「ぴーぴ」
そう言ったら渋々動いてくれて窓から外に飛んでいってくれた。
それから少ししたら店のドアが開いた。
「ドラゴンさんに呼ばれて来たけどなになに~?」
「ったく、あたしは忙しいんだがね」
最初に来店してきたのはノイエンさんとセリーちゃん。まるで親子みたい。
「ノラ、またあんたか」
ノイエンさんが私の隣の席に座って帽子を脱いでる。またって言われるほどしてないはずなんだけど。
「モコ! これはライバル店になるね! たいしょーに後で報告するんだから! あ、このパンかわいい!」
セリーちゃんも楽しそうにはしゃいでる。
そうこうしてるうちにまた扉が開いた。
「モコが新しい催しをしてると聞いてやって参りました!」
「もー、何かこんな気がしてたけどね」
「全くモコは本当にダメダメでやがるですね」
レティちゃんとフランちゃん、それにシャムちゃんも来てくれたみたい。
それでまた扉が開いた。
「素敵な声に導かれて~小さな狐さんのお店へ~」
「こんなに人がいるなんて聞いてないんだけど」
ミツェさんにミコッちゃんだ。これまた上客だね。
そしたらまた扉が開いた。
「はぁっはぁっ! ノノがいると聞いてやって来たわ!」
「うまい飯が食えるというのは本当じゃろうな!」
なんか血相変えてリリとキューちゃんがやってきた。その後ろにはムツキもいて手を振ってくれたから返してあげよう。
そんな感じで小さなパン屋さんは一瞬で大賑わいになったよ。
「ぴ~」
瑠璃が疲れたみたいにテーブルの上に座っちゃった。お疲れ様。ご褒美になでなでしてあげる。
「きゅ、急に忙しくなってきたのです!」
「のっ、ノラ君! 君は魔法使いかなぁ!?」
人が一気に増えたから接客で大慌てになってる。
「そうだよ~。人を呼ぶ魔法を使ったんだ~」
なんとなく適当に言ってみる。
「やはりそうか。あんたの周りにはいつも人がいると思ってたんだよ」
ノイエンさんが納得してるんだけど。
「ふごふあ、ふおふおふぉーむごはふ」
キューちゃん、食べながら喋らないで。
それで賑やかな時間はあっという間に過ぎていっちゃった。私は食べ終わったんだけど皆が帰してくれなくて結局最後まで残る感じになっちゃった。
それで皆が帰って店のパンも大分減ったみたい。中にはよく食べる人が結構いたからね。
瑠璃は疲れたみたいで、机の上ですやすや眠ってる。
「ノララ、ありがとうなのです。おかげで捌けたのです」
「私からもお礼を言わせて。自分で提案して肝心な所を忘れるなんて本当馬鹿だったよ。シロ、ごめんね。私、君の役に立ちたかっただけなんだ」
「……そんなの知ってるのです。それにフブキはもう十分してくれてるのです」
やっぱりこの2人は仲良しだね。なんでも本音で言い合える方がきっといいよね。
「ねぇねぇ、これってもうしないの?」
個人的に結構気に入ったから今日限りだとちょっと寂しいかも。
「シロ。彼女はこう言ってますが?」
「定期的に開催するのも悪くないです。今度はきちんと宣伝をして、です」
それを聞けただけで大満足。
「それじゃあ私も帰るね。今日はありがとう」
「こちらこそありがとうなのです。また来て欲しいのです」
「次来てくれたら私の尻尾もふもふする権利をあげちゃおう」
「うん。絶対来る」
「即答!?」
それも嬉しいけど、やっぱりこうして楽しく食事ができるのが何より嬉しいから。




