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109 女子高生も夜の酒場に行く

 夜。


 今日は珍しく部屋で自習。この前のテストでちょっと点数が落ちてたから、これはそろそろ真面目にしないと不味い気がする。異世界にうつつを抜かしてるわけじゃないけど、自分の将来の為にも最低限は頑張っておかないと。将来の夢も何もないんだけど。


「んー、疲れたー」


 何となくスマホを見たらまだ9時を過ぎたくらい。後1時間くらいは頑張ろうかなぁ。

 でもその前にちょっと休憩。庭に出て息抜きしよう。


 それで玄関を開けたら急に視界が少し明るくなった。いつもの異世界。

 こっちはこっちで息抜きになるからいっか。


 丁度街中だったから、門のある外壁を登ってそこにあるベンチで涼んでいこうかな。

 階段を上がったら先客がいた。それも顔見知りが2人。


「ミコッちゃんにフブちゃんだ~。こんばんは~」


「ノラくーん、いらっしゃ~い」


 ミコッちゃんも軽く手をあげてくれて歓迎してくれたから隣まで歩いた。


「2人も涼みに来たの?」


「わたしゃ歌の練習をしててね。で、そこでミコッテが何かカードをペラペラしてるから興味本位で近寄っただけなんだよね~」


 ということは2人は歌と占いの修業みたいな感じかな。ミコッちゃんも同意してるみたいで軽く頷いてる。


「私は勉強の息抜きに来たんだ~」


「それは頑張ってますね~。私から偉い偉いしてあげますよ~」


 なんかフブちゃんが頭を撫でてくる。でもなんか優しい手だ。そんな様子をミコッちゃんがジーって見てる。


「ミコッテも欲しい?」


「いるわけない」


 腕を組んでそっぽ向いてる。相変わらず素っ気ない。


「2人は知り合いなの?」


 確かミコッちゃんはケモミミ社会で地位の高い人らしいけど、フブちゃんは普通にフランクに接してるし。


「こんな変な人と知り合いになった覚えはない」


 ミコッちゃんにばっさり切り捨てられてる。なんという無慈悲。


「ミコッテ連れないね~。それとも照れ隠し?」


「あなたは妹みたいで本心を隠してるように見える。信用できない」


「手厳しいね。君とはこれからも仲良くしたいと思ってるんだけど」


 その一言にもミコッちゃんは反応してない。あんまり同族と仲良くしたくないのかな……。


「そういえば妹さんの手掛かりはないの?」


 首を振ってるからダメそう。


「そういえば西都で見かけたよ。君の妹」


「本当!?」


 血相を変えてフブちゃんに食いついてる。


「私も話をしたわけじゃないし、ただ見ただけ。それも2年くらい前だし」


 それを聞いてミコッちゃんは諦めたように項垂れてる。それだけ大事にしてるんだと思うけど。


「正直、あの子を探すのは諦めた方がいいんじゃない? 私が言うのもあれだけど、あの子は奔放というか自由というか、とにかくどこかに留まるようなタイプじゃないと思う」


「……分かってる。それでもこのまま放ってはおけない」


「君だってこんな所に長くはいられないんじゃない?」


 フブちゃんの言葉に何も反応してない。村の人に黙って出て来たとは思えないけど、それなりの地位ならあんまり自由にさせてもらえないのかな……。


 なんか微妙な空気になってきてるし、ここは何とか取り繕わないと。


「そうだ。2人はお腹空いてない? せっかくだし何か食べにいかない?」


「ノラ君! いいですね!」


「少しくらいなら」


 お金はいつもポケットに少しいれてあるから多少なら出せる。この前に思わぬ稼ぎがあったしね。


 カランカラン


「いらっしゃいませー」


 というわけで異世界の酒場にやってきた。時間が遅いからかセリーちゃんの姿はなくて鴉の店員さんと狼の大将さんだけだった。お客さんも他にぽつぽつ入ってる。


「3人でお願いします」


「3名案内カァ!」


 それでテーブルに付いてお冷を出された。フブちゃんは早速メニューを開いて嬉々として何食べるか迷ってる。


「ミコッちゃん、私が出すから好きなの食べていいよ?」


「大丈夫。食べるくらいの稼ぎはしてるつもり」


 やっぱり借りは作りたくないみたい。徹底してるなぁ。


「ノラくーん。私は驕って欲しいなぁ」


 フブちゃんが上目遣いでキラキラっておねだりしてくる。これが世渡りのコツかぁ。


「後で尻尾もふもふさせてね?」


「今からいいですとも!」


 らしいから隣にくっついてモフらせてもらおう。


 もふもふもふもふもふ。


「お客様ー、他のお客様に誤解を招く行為はおやめ下さいカァー」


 私はもふもふしてただけなのに。至福の時間は一瞬で過ぎたよ。



 ※1時間後※



「うぅ。どうしてミコットは帰って来てくれないの。私があの子を構わなかったから? 私だって好きでそうしてたわけじゃないのに」


「うんうん、ミコッちゃんはよくやってるよ」


「もうずっと会ってないし、絶対嫌われてる。こんなはずじゃなかったのに」


 ミコッちゃんが注文したドリンクを飲んでからずっとこんな調子で泣きながら愚痴を吐いてる。普段寡黙なのに飲むと喋るようになるみたい。


「えっとー、店員さーん。これってお酒じゃないですよね?」


 一応確認して聞いてみる。見た感じは白色の普通のジュースに見えるけど。


「ただのリガーのジュースかぁ。お酒じゃないカァ」


 ということはミコッちゃん、ジュースで酔ってる?


「ミコッテの気持ちはよく分かるよ。私もそういう時期があったから。店員さん、これ追加お願い」


 フブちゃんはずっとポテトみたいなおつまみをずっとモグモグしてる。私も最初は食べてたけどさすがに夜に一杯食べるのは怖いから今は食べてないけど。


「私もおかわりお願いします」


「ミコッちゃん、それ以上飲んだら倒れるんじゃない?」


 ジュース飲んで酔って倒れるという前代未聞のニュースになりそうだけど。


「だってミコットが悪いのよ。私は一目でいいから会いたいのに」


 これはかなり重症だなぁ。


「仕方ない。ここはフブキ・クローニャが人肌脱ぎますか」


「フブちゃん、何か方法があるの?」


「ふっふっふ、これでも声真似をするのは結構得意でね。私が今からミコッテの妹さんを演じてあげよう」


 大丈夫かなぁって思ったけど、本人はやる気満々みたいだし、とりあえず成り行きに任せてみよう。


「姉さん、ごめん。私が悪かった」


 フブちゃんがいつもの綺麗な声から一転してちょっとちょっと格好いい裏声になってる。


「ミコット!? いつの間に来てたの!?」


「ついさっき。まさか姉さんがこんな所で飲んでると思わなかった」


「それはこっちの台詞。いいからそこ座って」


 ダメだ。ミコッちゃん、かなり精神的に参ってるみたい。声真似してるだけのフブちゃんを完全に妹さんだと思い込んでるよ。かなり詰め寄ってて、フブちゃんもちょっと困惑してるし。


「もう勝手に出て行かないって。それを約束して」


「無理だよ」


「なんでよ」


「だって、私……フブキだし」


「そんなはずない! あなたはミコットよ!」


「ちょっ、ちょっと!? ミコッテ落ち着いて!?」


 あんまり騒いでるみたいで周りのお客さんとか鴉さんや狼の大将さんが迷惑そうにこっち見てる。これはさすがに不味い気がする。


「す、すみませーん。お会計お願いします」


 そうっと手を上げて言ってみる。これ以上ここにいたら酒場を出禁にされるかもしれないし。


 それで会計を済ませて酒場を出た。流石に大分遅くなると異世界でもそれなりに暗くなってる。ミコッちゃんはフブちゃんの肩に掴まって歩いてる。本当にジュースで酔ってるんだ。


「……ごめんなさい。私がどうかしてたわ」


 ミコッちゃんは酔いが覚めたのか、それとも正気に戻ったのか、冷静になって言った。


「仕方ないよ。ずっと会ってないんだし」


「ノラ君の言う通りだよ。それにミコッテにそういう一面があったって知れただけでわたしゃ満足ですが?」


 それは私も思ったけど。


「うぅ。ノラはともかく、あなたにだけは知られたくなかった」


「ひっどーい。私は善良な狐ですよ?」


「まぁまぁ。きっと妹さんとはいつか会えるよ。私はそう信じてるから」


「……うん。ありがとう」


 それでお開きになったから私も帰ろうかな。そういえば私は何しに来たんだっけ?

 あれ違ったかな。元の世界で何かしてたんだっけ? 忘れちゃった、まぁいっか。

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