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108 女子高生も巨大スライムと遭遇する

 休日の朝。庭に出たら我が家のもふもふ達が駆け寄ってくる。


「皆もふもふだねー。はい、朝ご飯だよー」


 順番に餌を上げてるけど瑠璃だけは私が持ってる袋の傍まで寄って、早く寄越せと言わんばかりの待機体勢。そんな急かさなくてもちゃんとあげるよー。

 リガーを取り出したら嬉しそうに食いついてる。


 春先になってきたから、猫丸の毛が少しずつ抜けてきてる。これは家の掃除もしっかりしないと。廊下でごろごろするからいつも毛が落ちてるんだよね。


 もう少ししたら柴助にたぬ坊、こん子の毛もそろそろ抜けるだろうなぁ。そういえばミー美は換毛期ってないのかな? 思えば去年も抜けてる様子なかったし。


「ミー?」


 異世界は気候がいいから毛が生え変わらないのかも? でもそれだったら毛がボーボーになりそうだけど。うーん。


「ノラノラー、いるかー」


「リンリンだー。いらっしゃ~い」


「暇だから遊びに来た。お、餌やり中?」


「そうだよ~。それとこれから柴助とミー美の散歩に行く予定」


 そう言ったら瑠璃が私の手を引っ張ってピーピー怒ってる。連れて行くつもりだったんだけど、瑠璃は散歩って言わないでしょー。散飛?


「あと瑠璃も」


「じゃあ私も一緒に行こうかな。どっちで散歩するん?」


「ん~、異世界かなー」


 柴助と瑠璃だけだったらこっちでも問題ないけど、ミー美はそうもいかないからね。

 歩いてるだけで農家さんに声かけられてばっかりだし。


 というわけで皆でレッツ異世界へゴー。


 それで早速異世界の街に到着。大所帯だけど気にしてる人はいない。

 今日は街を歩かないからすぐに街道の方に歩いて行った。


 瑠璃に柴助にミー美を解放してあげたら皆はしゃいで走り回ってる。最近忙しかったらミー美も久し振りで嬉しいんだろうなぁ。


「ノラノラはあれだな。ゲームで例えたら魔物使いになるな」


 前にコルちゃんにも調教師って言われたのを思い出す。ノイエンさんにも似たような感じに思われてるだろうし、私ってそんな風に見えるの?


「魔物使いってどんななの?」


「化物を魔法陣から呼んだり、骸骨を使役したり……あ、すまん。これネクロマンサーだわ」


 一気に闇の住民になった感。


「リンリンは何になる?」


「私か? 私はそうだな。戦士とか遊び人とかそんな感じじゃね?」


 普段遊んでるという自覚はあるみたい。


「んー、リンリンはさっき出てきた骸骨さんじゃない?」


「何でそうなるし!」


「いつも傍にいてくれて、ピンチの時にも守ってくれそうなイメージがあるから」


「そ、そういう奴か。いや、悪くないな。うん、悪くない」


 なんか納得してくれた。これで闇の住民の仲間入りだね。


 それで街道を歩いてたら丁度スライム牧場が見えてきた。それで柵の周りに柴助達が集まってて一点を見つめてる。なになに~?


 気になって近寄って見てみる。


「うおっ! なんじゃありゃ!」


 うん。なんかすごい光景。牧場の中にとんでもなく巨大なスライムがど真ん中で鎮座してる。あの大きさは牧場の小屋を普通に上回ってるんだけど。

 そのスライムの前にはトカゲ頭の人が腕を組んで唸ってる。


「こんにちは~。なんかすごいスライムがいますね」


「おー、あんたか。はっはっは、すごいだろう。すご過ぎて俺も驚いてる」


 トカゲさんもびっくりしてるみたい。でもここってトカゲさんの牧場だよね?


「こういう風に飼育したんじゃないんですか?」


「いいや。スライムを大きくさせるメリットなんてないからな。元々スライムは分裂して個体を増やす生物だが稀に他のスライムを吸収して大きくなる時があるんだ。そういうのは本当に稀で精々1、2体程度なんだがまさか1晩で牧場の奴ほぼ全部吸収してるとは思わなかったよ。はっはっは」


 トカゲさん笑ってるけど目は全然笑ってなくて今にも泣きそうな顔してるんだけど。


「そういえばこのスライムってどこかの工場に連れていくんですか?」


 それを聞いたらトカゲさんが急にがっくり項垂れちゃった。あれ?


「そうしたいんだけど連れていけないんだよ。ここまで大きくなったら運ぶ方法がなくてなぁ。馬車を使って運ぼうとしたが、馬車の角にスライムが当たって傷になると思ってやめたんだ」


「それじゃあ細かく切って運ぶっていうのは?」


 リンリンが隣で言ってる。


「一度切ったスライムは鮮度が落ちるんだ。ここで切って運んでる間にかなり味が落ちるだろう」


「そうだ。圧縮魔法ってあるじゃないですか。あれで運ぶのはどうです?」


 シャムちゃんが運び屋で使ってるあの魔法。私も前にかけられたから多分生物にも効果があるだろうし。


「それも考えたんだが俺の所は無魔法を決めててよ。それに加工前の商品に魔法をかけたら品質も落ちると思うんだよ」


「無農薬的な?」


「なるほどー」


 これは中々大変な事態みたい。


「けどこいつを売らなきゃ俺の生活が死んじまう。どうしたものか」


 トカゲさんが腕を組んだままで本当に困ってるみたい。でもこんなに大きいと人力で運ぶのも難しいだろうしなぁ。うーん。


 そしたらミー美が私の隣にやってきた。


「ミー」


「ミー美? もしかしてこれ運ぶの?」


「ミー!」


 元気良く鳴いてるけどこれは流石のミー美にも無理じゃないかなぁ。体格差がかなりあるし、乗せてもすぐに落ちそう。


「ミー美、気持ちはうれしいけど傷になったら責任は取れないし無理しちゃダメだよ」


「ミー……」


「いや、待て。フィルミーか。もしかしたらいけるかもしれん」


 急にトカゲさんが顔を上げてミー美を見た。


「フィルミーは片足だけでも走れるくらい重心が安定した魔物だと聞いたことがある。うまく乗せれれば運べるかもしれない」


「でも何かあったら大変です」


「はっはっは! どの道他の方法でも結果は同じさ。なら一番可能性のあるやり方に賭けてみるさ」


 トカゲさんも腹を括ったみたいで豪快に笑った。


 そんなわけで牧場の中に入って巨大スライム配達大作戦の始まり。


「でもさ、そもそもミー美の背中に乗せるのが問題じゃね?」


 リンリンが出鼻を挫くみたいに言う。でも確かにそう。こんな大きいとここにいる人だけで持ち上げられないし。


「誰か救援を呼ぶ?」


「問題ない。俺に任せてくれ」


 トカゲさんはまず大きなレジャーシートを広げてその上に巨大スライムを押して移動させた。


「あーそこのチビ助。これを持ってくれないか?」


「ピー」


 瑠璃が何か指示されてレジャーシートの端を持って反対側に移動してる。それを端同士で括って、もう1つあるのも同じように括ってた。少しだけ露出してるけどこれでミー美の背中に乗せる分には問題なさそう。


 それでトカゲさんが板をいくつも小屋から持ってきてそれで何かを作り始めた。それで出来上がったのが板が傾斜になった物だ。なるほど、これなら傾斜の先の下側にミー美を待機させておいたら巨大スライムを押すだけで乗せられるね。


 トカゲさんは板の端っこをビニールみたいので覆って傷にならないように入念にしてる。


「よし。俺はこの下でスライムをフィルミーの背中に乗せるから、悪いが嬢ちゃん達でこっちまで押してくれねーか?」


 というわけで私とリンリンで巨大スライムを押すことになっちゃった。

 でもスライムさんは見た目のわりにそんなに重くなくてびっくり。


「なんか小学生の時の玉転がし思い出すな」


「今日はリンリンとチームだね~」


 ゆっくり巨大スライムを押して板の上に乗せた。


「よしよし、いい感じだ。あと少し」


 トカゲさんに言われてそうっと板の先からスライムさんを落としていく。下で支えてくれてると言ってもちょっと不安になるけど。


 それで巨大スライムが完全に落ちてミー美の背中の上にぽよよんって乗った。息を潜めて見てたけどスライムが落ちてない!


「うおっ、すっご。本当に乗ったんだけど」


 ミー美は首と尻尾を器用に使って巨大スライムさんを固定させてるみたい。

 本当にすごい。


「ミー美、歩ける?」


「ミー」


 ミー美は特に苦しくなさそうにケロッとして歩いてる。


「こいつは驚いたな。本当に乗るとは」


 トカゲさんも自分で提案したけどびっくりしてるみたい。


 牧場を出て街道を歩いて、街の方にも難なく到着した。トカゲさんが先を歩いて街の人に声をかけて道を開けてもらってる。街の人もフィルミーに運ばれる巨大スライムを見てざわざわしてる。


 そのまま街を歩いて行って目的地と思われる工場っぽいところに着いた。木製の建物だから大きな屋敷にも見える。


 それでトカゲさんが工場の人に話をつけてたみたいで沢山の人が集まってきてた。


「スライムはここで下ろすからそこでジッとしててくれ」


 ミー美は言われた通りに足を止めて座った。それで大勢の人がスライムの底を持ってそうっと地面に下ろしてる。


「ありがとう、本当に助かったよ! まさか傷もなく運べるとは思ってもなかった」


 トカゲさんが深々と頭を下げてくれる。


「そんな。ミー美がすごいだけで私は何もしてませんから」


「嬢ちゃんとフィルミーがいなかったら俺は今頃餓死してたよ。だから本当にありがとうよ。手持ちこれだけしかないが受け取ってくれ」


 そう言って小袋を突き出してきた。多分中身はお金だよね?


「本当に悪いですよ。それに見た感じだけでも結構な額ですよね?」


「傷になってたら本来売る価格の半値以下になってたんだ。その差額を考えたらこれくらい安いもんだ。だから受け取ってくれ」


 戸惑ってたらリンリンが突いてくる。


「今回の功労者はミー美だろ? だったらそれでミー美に美味しいもんでもあげたらいいんじゃない?」


「はっはっは。そうしてくれたら俺も助かるな。そのフィルミーにはお腹一杯食べさせてやってくれ」


 もしこれが私の努力だったら断ってたかもしれないけど、今回はミー美が頑張ったんだもんね。そう考えたらミー美の為にも受け取っておこうかな。


「分かりました。ありがとうございます」


「じゃ俺はこれから忙しくなるんでまたな」


 工場の方が忙しそうになったから部外者の私達も出ていこう。それにしてもやっぱりこの額は多い気がする。


「ミー美、何が食べたいー?」


「ミー」


 フィルミーって草食みたいだし木の実とかが好き? うーん、ゆっくり考えよう。


「なぁなぁ、ノラノラ。そんな大金もらったんなら私もちょっと驕って欲しいなぁって」


「ぴーぴ」


「へっへ」


 君達、それが狙いだったね? 柴助に至ってはずっと尻尾振ってただけだよね?


「いいよ~。今日はミー美の頑張り記念で屋台巡りしよう」


「ミー!」

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