104 女子高生も西都へ行く(2)
「ここまで来たら大丈夫かな?」
周りは木ばっかりでさっきの人だかりはいなくなってる。人もぽつぽつ歩いてるけどこっちを気にしてる人はいなさそう。
「ありがと~私の天使~」
ミツェさんにお礼を言われちゃった。そんな大層なことしたつもりはないけど。
「それでミツェさんはどこに行くつもり?」
「小鳥は巣に帰るの~親鳥に会わないと~」
なるほど。両親に会いに行くんだね。
「ここからは1人でも羽ばたけるわ~」
「本当かな~」
「本当よ~」
そうみたいだからミツェさんを見送ってあげよう。久し振りに両親と会う感じだろうし、親子水入らずにしてあげないとね。
それでシロちゃんと2人っきりになっちゃった。
「とりあえず街を見て回る?」
「そうです……あっ!」
急にシロちゃんが声を上げたからその視線の先に目を向けて見る。森の奥に白い髪の三つ編みの子の後ろ姿が見えた。
「フブキ! フブキですよね!?」
シロちゃんが大声をあげたけどその子は足を止めずにどこかに走り去っていっちゃう。
会いたかった幼馴染だと思うけど、なんだか向こうはそんな感じじゃなさそう。
「待ってください、フブキ!」
シロちゃんは我先にとその子を追いかけて森の奥の方へと行っちゃった。
「シロちゃん!」
声も聞こえてないみたいで、それに森の中っていうのもあって一瞬で姿が見えなくなっちゃったんだけど。え、どうしよう。
とにかく追いかけないと!
そう意気込んだけど私が走った所で亀さんスピードだからシロちゃんの姿はどこにもなかった。相変わらず周りは木の建物ばっかり。それで丁度木の中で店を構えてるおばあちゃんと目が合ったから声をかけてみよう。
「あの~、ここを白い髪に頭に耳がある子が通りませんでした?」
手でケモミミを表現してそれっぽくしてみる。するとおばあちゃんが優しい顔をしてくれて指を差してくれた。
「ああ。あの子の友達かい? あの子だったらいつも樹塔の上にいるよ」
「樹塔?」
「おや、地元の子じゃないのかい?」
「はい。央都から来ました」
「そうかい。樹塔はここから真っ直ぐ進んだ所にあるよ。ちゃんと木と木の間を真っ直ぐ進むんだよ。1つでもずれると違う所に行くからね」
「教えてくれてありがとうございます。また戻って来たら友達と一緒にここに来ます」
おばあちゃんは多分シロちゃんじゃなくて、その幼馴染の方と勘違いしてるみたい。でもその子を追わないとシロちゃんも見つけられないし急いで行かないと。
言われた通りに木と木の間を歩いて行く。分かりにくいかなって思ったけど、木には目印の文字みたいなのが書いてあって、所々の枝は標識みたいに矢印みたいに表現されてる。
地面だけを見たら道って思えないのに、私が歩いてる所は何故か道って思えるのはきっと木や枝にそういう道の印があるからだね。おかげで特に迷うこともなさそう。
「ここがそうかな?」
見上げても一番上が見えないくらい高い木が生えてた。その木も大樹と同じくらい太い。でも見た感じはただの木にしか見えないけど、どこが塔なんだろう?
そう思って近づいたら急に木の枝が動き出してびっくりした。
「わ! これって階段? それに枝が手摺になってる」
木の根や枝が形を変えて上に登れる形状に変化しちゃった。まるで生きてるみたい。手摺になった枝を触ってみたけど普通にかたい。あんなに柔らかそうに形が変わったのにすごい。
せっかくだから階段を上がって行った。そしたら登っていく先で木は次々って形が変わった。ある時は葉っぱに乗って上まで運んでくれたり、ある時は枝がゴンドラみたいな形に変化して別の場所に運んでくれたり。落ちたら大変だろうなって思って下を見たらずっと葉っぱがクッションみたいになって待機してくれてる。
「本当に生きてるみたい」
東都も文明が進んでるって思ったけど西都も西都でまた違った凄さがあるなぁ。
それでずーっと上まで上がっていってるけどどこまであるんだろう? ジャックと豆の木みたいに雲の上まで行ったりして。
って、違う違う。私はシロちゃんとそれにあのフブキって子を探してるんだった。
それで上り続けてたら何か声が聞こえてきた。
「~♪」
「歌?」
耳を済ませて聞き入ってみる。それに合わせたみたいに木の動きも止まってくれた。
その歌はどこか楽しげで、ちょっと悲しそうで、でもやっぱり楽しそうに歌ってた。
声がすごく綺麗だから素人な感じじゃない。でも何か違和感があるような?
聞き入ってたけど歌は変な所で途切れた。結構良い所だった気がするけど。
「はぁ。ダメだ、今日は調子が悪い。こんなんじゃまだまだダメ。なのに、どうしてシロがこんな所に……。村から出るって思ってなかったのに」
独り言みたいにぽつぽつ呟いてる。そうしてる間に木の葉っぱに運ばれてその子がいる木の枝の所まで運ばれてた。
雪色の長い髪を後ろで三つ編みにしてて、癖毛か分からないけどケモミミの横に毛がはねてる。おかげで耳が4つあるように見える。服装は白いノースリーブのシャツに黒いホットパンツ。髪と同じ色のケモミミと尻尾はどこかシロちゃんと似てる。白い足がすらっと伸びてて、どこか儚げなその子は木にもたれて座ってた。
それでその子と目が合った。とりあえず笑いかけておこう。
「えーと、こんにちは?」
「ふぎゃあぁぁぁぁぁ!」
その子は大声を出してひっくり返って落ちそうになったけど木の枝が支えになって何とか落ちるのを防いでくれたみたい。
「だ、だ、だ、誰!?」
倒れながら指を差されてめちゃくちゃ動揺されてる。盗み聞きするつもりはなかったんだけどなぁ。
「野々村野良だよ」
「名前なんて聞いてない! 何でここにいるの!」
誰って言われたから名乗っただけなんだけど。
「お店のおばあちゃんにあなたがここにいるって言ってたから来てみたの。シロちゃんの幼馴染だよね?」
「お、お前はシロの何!?」
「ただの友達だよ」
そこまで言ったらその子はようやく少しだけ落ち着いてくれた。その隙に枝に乗り移ってその子の隣に座ってみる。
「こ、ここは私のテリトリーだぞ!」
らしいから少しだけ離れる。それでその子は息を切らしてたけど、少しずつ冷静さが戻ってきたみたいで大きく息を吐いてた。
「はぁ。まさかシロに普通の友達ができたなんてね」
「あなたも友達だよね?」
「友達、だったのかなぁ。今思えばそう思える根拠がない」
シロちゃんは小さい頃は引っ込み思案だったから、多分この子との距離感も分からなかったんだと思う。でもここに来る前に聞いた感じだと嫌とは思ってなかった。
「シロちゃんはあなたに感謝してたよ。ずっとお店に来てくれて嬉しかったって。それであなたが村から急にいなくなって寂しかったって」
そしたらその子は少し俯いた。
「シロには悪いことしたと思ってるよ。でもね、このまま会うわけにはいかない」
「どうして?」
「あなたに話す義理ない」
「歌と関係がある?」
そしたらその子の表情が急に変わった。これは図星。
「な、なんで分かった!?」
1人で歌ってたし、溜息付いてたのも聞こえてたからね。理由までは分からないけど。
「シロちゃんは今もあなたを探してるよ。今日西都に来たのもあなたに会えるかもしれないって言ってたよ」
「あんな村から飛び出してこんな所まで追いかけて来るなんてね。昔のシロとは思えないよ」
「今は央都でパン屋を経営してるよ」
「え、嘘」
「うん、本当だよ」
そしたらその子は益々落ち込んだみたいで今にも地面に顔がつきそうな位になってた。
「これは余計会えないよ。いま会ったら自分が惨めになる。だから会わない」
「それで帰郷祭にも帰らない?」
「あ、あなたには関係ない! これはシロとの約束だし!」
そしたらその子は「あっ」って言って口を塞いでる。喋れば喋るほど墓穴掘ってる気がする。
「1度だけでいいから会ってくれない? 1度だけでいいから。シロちゃんはあなたを心配してるんだよ」
余計なお世話かもしれないけど、きっとこのままだったらさよならも言えないままお別れになっちゃいそうだし。きっと2人にとっても良くない気がする。
「私だって……シロに会いたいよ。でもこんな私じゃダメなの。お願いだから、もう帰って」
その子は覇気のない声で言った。多分これ以上私が何を言ってもこの子の心には届かない気がする。やっぱりシロちゃんじゃないと。でもこの子もシロちゃんに会えない理由があるみたいだし、これは困ったなぁ。
とにかく今はこの子を1人にさせてあげた方がいいのかな。きっと今も何かに悩んでるんだと思う。それが何か分かればよかったけど、部外者の私がこれ以上踏み込むわけにもいかないし……。
「またここに来てもいい?」
その子は何も言わず俯いたままだった。
今はそっとしてあげよう。




